書籍

ベクトル視点でやさしく読み解く呼吸器外科手術解剖イラスト

監修 : 杉尾賢二
執筆・イラスト : 安部美幸
ISBN : 978-4-524-20415-1
発行年月 : 2023年4月
判型 : B5
ページ数 : 128

在庫あり

定価5,940円(本体5,400円 + 税)


正誤表

  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

若手呼吸器外科医が習得しなければいけない胸腔鏡手術における胸腔内の解剖をイラスト化し,「自分が今どの方向から何を見ているか」「対象臓器にどのような力が加わりどう変形しているか」という2種類のベクトル視点で解説.モニターでは視認できない奥に隠れた臓器も描かれており,解剖・手術手技の理解を深めることができる.全編にわたって目を見張るほど美しいカラーイラストが掲載されており,手術室ナースにとってもテキストとなる1冊!

A 呼吸器外科手術の基本
 T.右肺手術
  1.右肺手術の基本解剖
  2.右上葉切除
  3.右中葉切除
  4.右下葉切除
  5.右S6区域切除
  6.右肺底区域切除
  7.右縦隔リンパ節郭清
 U.左肺手術
  1.左肺手術の基本解剖
  2.左上葉切除
  3.左下葉切除
  4.左上区域切除
  5.左舌区域切除
  6.左S6区域切除
  7.左肺底区域切除
  8.左縦隔リンパ節郭清
 V.前縦隔手術
  前縦隔手術の基本解剖
B 今日から使えるデジタルオペレコテクニック
 T.デジタルイラスト作成の下準備
  1.オペレコ作成の下準備
  2.イラスト作成ソフトの設定
 U.デジタルイラスト作成の実際
  1.構想・下絵作成
  2.線画作成
  3.色塗り
  4.微調整に役立つ小技
あとがき
引用文献
索引

監修の序
 呼吸器外科の手術書は数多くありますがほとんどが専門医向けもしくは専門医を目指す医師向けであり,学生・研修医向けの教育としてのイラスト集は基本の解剖を理解するうえで非常に重要です.写真での記録は正確そのものと思いますが,学生や外科修練中の医師にとっては,安易な方法であり記憶に残りにくいものです.手術やその手順を理解するためには,まず自分自身で描いてみて,経験した手術動画を見直しながら修正し仕上げてゆくことです.経験した手術を正確に図示できるようになることが,手術をよく理解したということになり,自身が術者となった時に実感することになります.
 このイラスト集の著者である安部美幸医師は,学生時代から種々のイラストや動物の描写能力に優れていました.呼吸器・乳腺外科学講座に入局後も,実際に肺切除を執刀するようになる前から手術イラスト作成を通じて手術や解剖の理解を深めていました.手術の助手そして執刀医として肺切除を数多く経験し,その手術記録のイラストは解剖学的に正確であるとともに,そのイラスト集は大変わかりやすい教材として,医学生や卒後研修医・専攻医への手術室での教育に非常に役立っています.しかしながら大分大学だけでの教材としてはもったいないと思い,なんとか出版できないかと考えていました.
 今回,南江堂が本企画をとりあげていただき,世に出すことができたことに,心から感謝申し上げます.そして,多くの医学生が呼吸器解剖と手術手順に理解を深め,呼吸器外科医を目指す若い医師の参考の書となれば幸いと思います.

2023年3月
大分大学医学部呼吸器・乳腺外科学講座 教授
杉尾 賢二

序 文
 本書の構想は卒後3年目(入局1年目)の頃に感じた「術野の奥に隠れた肺門部構造を,ビギナーでもわかるように図示した教材が欲しい」という希望が発端となっています.当時は現在ほど多くの呼吸器外科手術書は無く,また3D-CTや解剖学の教材は呼吸器外科特有の術野に直結しているとは感じにくかったため,自己学習しながら作成することにしました.
 2014年にアナログイラストで主要な5種類の葉切除を作成し,主に手術見学の学生用の教材に使用していました.以後,イラストの微修正,区域切除等を追加,2021年には全てのイラストをデジタル化するなど改定を重ねてきました.途中からは「この教材で,学生や研修医に呼吸器外科手術の魅力を宣伝し,新入局員を獲得したい」という密かな野望も教材改良の原動力となりました.残念ながら新入局員獲得には功を奏しませんでしたが,呼吸器外科の後輩医師や手術室の看護師さんから思いのほか好評で,医療スタッフの術前予習にも使ってもらえるようになりました.さらに上級医や杉尾賢二先生からも「学外にも紹介したい」とお声かけいただき,2015年からテキストの一部を当科の同門会誌に載せていただくようになりました.今思うと拙いイラストですが,杉尾先生による紹介文とともに「出版物」となったものを見て,なんともうれしかったことを覚えています.
 そしてこの度,杉尾先生が南江堂の方に私の教材の話をしてくださり,この『ベクトル視点でやさしく読み解く 呼吸器外科手術解剖イラスト』が本になりました.私が呼吸器外科医になって間もなくの頃からずっと育ててきた教材が,ついに本になるのか……と感慨深い気持ちでいっぱいです.
 こんな若手が出版なんておこがましいのではないか?という気持ちもありましたが,臆さずシェアすることでより多くの方のお役に立てられるなら本望です.私が11年かけてようやく得たものを,例えば卒後3年目の医師にそっくり渡すことができるとしたら,その医師は私より8年分早く先のステップに進むことができるかもしれません.
 最初は各術式2ページ程度にまとめた簡単な教材でしたが,出版にあたり解剖や術式の解説を追加し,イラストも全て描き直しました.本書の読み方は最初のセクションで説明しますが,どの術式も決まった形式で作成し,ビギナーが読んだ時に「とにかくわかりやすく」デザインしました.
 今回,出版にあたって尽力くださりました杉尾先生,当科の皆様,南江堂の皆様,アドバイスをくださった方々,そしてこれまで私に手術を見せてくださった全ての方々に感謝いたします.

2023年3月
大分大学医学部呼吸器・乳腺外科学講座
安部 美幸

 先日,医師となって3年目にはじめて肺葉切除を行ったときのイラストを久しぶりにみる機会があった.これまで執刀した手術の中から特に印象深い1例の手術記録のイラストとその思いを記すように原稿を依頼されたためなのであるが,対象ははじめて執刀医として肺癌に対する手術を行った症例で,右上葉肺癌に対して後側方切開,右肺上葉切除と縦隔肺門リンパ節郭清術を施行した際のイラストであった.もう30年も前のものであるが,それをみた瞬間に執刀したときの緊張感や情景がリアルに蘇り,手術記録を含めて何度も読み返してしまった.当時ご指導いただいた先生方の手術に対する思いやこだわりが,別にチェックを受けたわけでもない3年目の医師の手術記録の中に表現されていた.手術記録と合わせてイラストをみることで,当時は思いいたらなかった指導医の先生方の手術に対する思いを感じとることができ,たいへん懐かしかった.特に手術記録における術中所見のイラストは,文字に起こせない景色や思いをイメージするのに適しており,術中写真では伝えきれないものを表現可能にすると思う.
 本書を執筆した安部美幸先生は,学生時代からイラスト作成に優れた才能を表し,術中のイラストを納得するまで何度も描き直すなどのこだわりをもって取り組まれて本書を完成させている.手術の上手な先生は手術記録でたいへんリアルできれいな術中所見をイラストとして記載できているイメージがあるが,それだけ観察力が鋭いことを表しているのだと思う.
 本書は,通常の手術書のイラストとは違って手術中のリアリティを追求し,@肺に加わる力,Aカメラの視線という二つのベクトルと,胸腔鏡モニターに映っている視野を意識して記載されている.手術中の肺組織は解剖書に出てくるものと違って,術野展開をするなど「変形」しているので,当然みえ方も異なってくる.また,本書が術中写真と違う点は,各構造物を半透明にして,たとえば右肺門であれば腹側から上肺静脈,肺動脈,気管支の各位置関係が理解できるように描かれており,V1〜3をテーピングする場合には肺動脈の走行・分岐など近接臓器がどのような位置関係にあって何を留意するべきか,ということを想像しやすいように記載されている.
 また,左右肺の各肺葉切除,S6区域切除,肺底区切除,縦隔リンパ節郭清,および左の上区域切除,舌区域切除について,見開きで左頁に視野,右頁にその手順や使用する手術器具などが記載され,書名のごとく「やさしく読み解く」ことを可能にするために理解しやすいよう工夫されている.これから呼吸器外科手術を学修する医学生,研修医,メディカルスタッフだけではなく指導医にとっても有用であり,指導医が専攻医を指導する場合にポイントを示しやすい書となっている.
 安倍先生は専門書の執筆者としては若手の部類に入ると思われるが,このような成書を完成させる技量にはたいへん驚かされる.もともとは大分大学の教材として好評であったために使用されていたという素地があったうえで,大学内のみの教材ではなく広く一般に利用してもらいたいということで,杉尾賢二教授が本書の出版を推薦されたとのことである.杉尾教授の若い才能を見出す着眼点のすばらしさと,若い先生方の才能とやる気を引き出す卓越した指導力にも驚かされる書である.

臨床雑誌胸部外科76巻12号(2023年11月号)より転載
評者●(東邦大学呼吸器外科教授・伊豫田 明)

肺の3Dでの解剖理解や手術可否の判断に役立つ,内科医にもお勧めの本

 本書の書評執筆の依頼があった際に,「なぜ呼吸器内科医の私に?」と疑問を感じた.しかしながら,実際に手にとってみると,これは「肺の構造,とくに肺門部の構造を3Dで立体的に頭に入れるためのツール」でもあると認識した.第一印象は,術野のイラストであるにもかかわらず,グロテスクさが微塵も感じられず,むしろ可愛いとさえ感じた.色づけやグラデーションの妙だろうか? 本書なら,通勤電車で開いてもドン引きされないと思うし,実際に私自身が通勤時にも読ませていただいた.「呼吸器外科手術の基本」のパートでは,初めに血管系や気管支分岐のバリエーションも含めて基本解剖が概説され,本題の手術イラストをみながらでも基本解剖へと戻れる構成になっている.とくに,リンパ節の位置関係を示す基本解剖のイラストは,オペレーター目線の透視手法を加えたイラストであるためか,どのテキストよりも3Dでの構造を容易に理解でき,ここが本書の大きな特長であると感じた.
 それぞれの術式に従って描かれているイラストとその解説文は,手術で展開していく各場面について透視手法を用い,どこからのviewであるかを示したうえで描写されており,頭のなかでの3D構造の再構成に役立つ.呼吸器内科医としては,放射線画像所見以外では,気管支鏡検査だけが胸郭内からのアプローチであり,胸郭内viewである.ただし,気管支内での気管支鏡や鉗子と病変の位置関係を3Dで瞬時に頭に描けないと病変への到達は難しい.最近ではナビゲーションシステムなどもあるが,手術で実際に3D構造を目に焼き付けていない内科医にとって,3D構造を頭に描けるようになるのは容易ではなく,指導にも苦慮する.私が若手の頃には,手術検体の切り出しを内科医も一緒に行って,CT断でスライスした検体を積み直して,血管・気管支をトレースするような“修行”のなかで少しは把握できたところもあったが,今の時代ではそのような機会もない.そのため,本書を手にとって,解説文をみながらイラストを追っているうちに,「これはうちの若手の先生にも勧めてみよう」と思い,すぐに行動に移した.本書は3Dでの解剖理解だけでなく,手術可否の判断の一助にもなる.当院では,肺がんの診断は呼吸器内科で行ったうえで,外科や放射線科との合同カンファレンスで手術適応を判断しているが,そのなかで「この場所は血管の処理が難しい」「ここのリンパ節郭清はどうかな?」といった意見が外科から出ることがある.本書でイラストとともに血管処理の記載をみていると,「ああ,そういうことか」と思えることがあった.手術適応については,内科医がまず判断して外科に紹介する施設も多いかと思う.本書は,「進展範囲のどこをみて切除可能性を検討するのか」「重要なところはどこか」を知るためのよいテキストになる.自分が術前治療をした患者さんの手術を見に行ったり,術中に「ちょっと見に来て今後の治療方針を検討して」と手術室によばれることもあるが,ぱっと術野をみせられて「ここまで浸潤してたわ」と言われても,それがどこなのか,簡単な説明だけではみえている血管や気管支の位置関係が内科医には瞬時に把握できない(私だけかもしれないが……).見学の前に予習したり,実際によばれたときにざっとイラストを頭に入れて手術室に向かえば心強く,カンファレンスでの議論の際に少し確認したいという内科医にも役に立つ(とくに肺がんを診療する内科医には必携の)テキストである.
 本書には電子版があり,電子版をスマートフォンやタブレット端末に入れることで,院内や電車移動中などにさっと取り出して確認できる便利なツールにもなると思う.ぜひお試しいただきたい.

臨床雑誌内科133巻1号(2024年1月号)より転載
評者●里内美弥子(兵庫県立がんセンター 副院長/ゲノム医療・臨床試験センター長/呼吸器内科部長)

9784524204151