テキスト健康科学
こちらの商品は改訂版・新版がございます。
編集 | : 佐藤祐造/竹内康浩/田中豊穂 |
---|---|
ISBN | : 978-4-524-24052-4 |
発行年月 | : 2005年9月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 292 |
在庫
定価2,750円(本体2,500円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
大学における健康教育の教科書。本書では、自分自身の健康に目を向けるだけでなく、健康は様々な人々の職業活動のうえに成り立っているという視点を育てることを重視した。また、現代人の健康に果たす科学の役割や科学が引き起こした健康問題についても豊富な事例やコラムを用いて、わかりやすく解説した。二色刷。
第1章 現代の健康問題概観
1. 統計にみる健康
2. 健康問題の特徴
3. 社会的な仕組みの上に成り立つ健康
第2章 人の心身と健康を知る
1. 身体と健康
2. 心と健康
3. 遺伝と健康
4. 適応と健康
第3章 健康の基礎
1. 環境と健康
2. 栄養と健康
3. 運動と健康-運動の効果
4. 運動と健康-運動による障害
5. 生活習慣と健康
第4章 社会と健康
1. 社会と健康
2. 仕事と健康
3. 経済と健康
4. 法と健康
第5章 科学技術と健康
1. 化学物質と健康
2. 情報技術の革新と健康
3. 交通・輸送の革新と健康
4. 住宅と健康
第6章 健康観と健康に関する社会の仕組み
1. 健康観と生命倫理
2. 健康と市民参加
3. 保健・医療制度と健康政策
本書は大学における健康教育の教科書として編集した。
戦後の大学教育は4年間の前半を教養教育、後半を専門教育とする制度が長らく維持されてきた。それが1980年代から1990年代にかけての大学改革のなかで雪崩を打つように崩壊した。多くの大学で教養部が姿を消し、教養教育の科目や単位数が削減された。この変化にはそれなりの理由があったことは確かである。しかし、編者の経験を振り返ると、教養部の講義は、科目名は高校と同じであっても内容的には多くのものが新鮮で、思考や興味の世界を広げてくれたように思う。当時に比べ、学問、とりわけ科学の進展と細分化は目覚ましい。それらを俯瞰したり、それらの関係を考えたりする教養的教育の必要性はむしろ高くなっている。
編集にあたっては2つの点を重視した。1つは現代においては「多くの人が職業を通して他者の健康に関わりを持つ」という視点であり、もう1つは現代の人々の健康に科学の果たしている役割である。
現在の大学教育は職業教育の側面が強く、その傾向は今後も続くと思われる。したがって、教養教育も職業人としての教養という視点を持つべきであろう。最近の大学における健康教育(保健体育)の中心は「生涯スポーツによる健康づくり」である。スポーツによる健康づくりという側面を軽視する訳ではないが、それはどちらかと言えば「自分自身の健康に目を向ける」という側面の強い教育になりがちである。大学教育を受ける多くの人が、将来、職業を通して他者の健康と関わりを持つ。すなわち、現在、私たちの健康は様々な人の職業活動の上に成り立っている。この認識を育てることが大学における健康教育では重要と思われる。
現代の健康に科学が寄与していることは言うまでもない。しかし、今、私たちが直面している多くの健康問題もまた科学の所産である。社会のあらゆる場面において科学の役割は今後ますます重要になると思われる。科学と健康の複雑な関係を様々な事例をとおして考えることは、大学における健康教育として不可欠な視点と考えられる。
全体をとおして用語などはできるかぎり統一したが、内容および表現に関しては分担執筆者の意志を尊重するように心掛けた。章・節の構成はある程度の脈絡を考えて配列したが、各々の執筆者の担当章・節は独立した内容となっている。したがって、教科書として利用していただく場合には、講義の構成や時間にあわせて取捨選択することも十分に可能である。
力不足で意図した内容を十分には伝えきれていない感は否めないが、本書が学生諸君の健康に関する認識を広げることに少しでもお役に立てれば幸いである。また、是非ご批評をお寄せいただきたい。
2005年7月
編者
(一部改変)
一言でいうと、良質な教養書である。序によると「大学における健康教育の教科書」として作成されたということであるが、インテリジェンスをもった一般の方が読んでも十分によい本である。
内容は実に広範で、遺伝子の働きから生活習慣や環境、さらに法律や経済、生命倫理の問題まで扱っている。基本的な病態生理はもちろんのこと、疫学研究に基づく知見など、読み応えのある記述である。挿絵や図表も豊富で、大いに理解を助けている。
もちろん個々の説明の深さに限界はあるが、ここで関心をもったことは多数掲載されている参考図書に当たればよい。嫌気がささないところで筆を止めているのも、大学生用の教科書としての工夫かもしれない。
「心と健康」の項には種々の精神障害の症例が掲載されていて、実際の症例から入っていくのがよいだろう。「環境と健康」の項では社会的に問題になった公害事件がいくつも載っていて、今読んでもいろいろと考えさせられる。
「仕事と健康」の項では過労死の危険因子に、「社会と健康」の項ではBSEに代表される食品の安全性に、また「科学技術と健康」の章ではアルデヒドによるシックハウスや携帯電話による交通事故、クルマの中で発生するエコノミークラス症候群、コンピュータ社会におけるテクノストレスなどに言及されていて、現代の問題にも対応している。健康問題を考えるうえで重要な健康観や医療制度についてもページを割いており、医療者と一般市民あるいは社会とのつながりについて双方の立場から考えてみることも必要であろう。
法律は医療者には疎いものかもしれない。しかし本書で書かれているように、損害賠償の問題は医療について回るものであり、薬剤や医療機器には製造物責任法も及ぶ。法律の背景にある考え方を学ぶことも、これからは欠かせない課題であろう。
本書を読んでいて面白い点は、エピソードが随所に織り込まれていることである。絶対音感は遺伝因子だけでなく訓練が必要、発汗には民族差があって2歳までの環境で汗腺の能動化が決まる、遺伝子組み換え大豆にはブラジル豆のアレルゲンが入り込んでいる、といった具合で、「へえ〜、そうだったのか」と感心することも多い。
一般の人々は、「有害か無害か、有効か無効か」という1か0かの見方をしがちである。したがって欲をいえば、今のところ確率でしか表現できない「リスク」というものの考え方を説明する項があってもよかった。
これだけの内容をもちながら価格を2,500円に抑えており、学生にも無理なく購入できる点も評価したい。私自身、このテキストで知識の整理と補強をさせていただいた。健康をその周辺とともに考えることのできる好著である。
評者● 川村 孝(京都大学保健管理センター教授)
臨床雑誌内科97巻2号(2006年2月号)より転載