教科書

栄養・スポーツ系の運動生理学

監修 : 樋口満
編集 : 湊久美子/寺田新
ISBN : 978-4-524-23797-5
発行年月 : 2018年10月
判型 : B5
ページ数 : 206

在庫あり

定価3,080円(本体2,800円 + 税)

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  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文

“ヒトを対象としたアセスメント→指導”をイメージできる「運動生理学」のテキスト。エネルギー代謝や運動指導に分量を割き、「健康づくりのための身体活動基準2013」、「日本人の食事摂取基準(2015年版)」に準拠。長文は避け、図表を多く入れるなどの工夫をし、初学者でも苦手意識を持たずに読み進めることができる一冊。

はじめに
基礎編
 1 安静時と運動時のエネルギー代謝
  A エネルギー代謝
   1.エネルギー代謝とは
   2.エネルギー代謝時の燃焼基質
  B 1日のエネルギー消費量
   1.基礎代謝量
   2.食事誘発性熱産生
   3.活動時代謝量
  C 臓器別のエネルギー代謝
  D エネルギー代謝の測定法
   1.メタボリックチャンバー法
   2.二重標識水(DLW)法
   3.ダグラスバッグ法
   4.心拍数法
   5.加速度計法
   6.要因加算法
  E エネルギーバランスの評価と現場応用
  練習問題
 2 運動と身体組成
  A 肥満とやせの判定
   1.国民健康・栄養調査からみる国民の身体的特性
   2.身体組成の内訳と身体組成測定の意義
  B 身体組成の測定法
   1.二重エネルギーX線吸収法
   2.空気置換法
   3.皮下脂肪厚法
   4.生体電気インピーダンス法
   5.磁気共鳴画像法
  C ウエイトコントロールと運動・栄養
   1.国民健康・栄養調査からみる国民の運動習慣の現状
   2.脂肪細胞の新たな可能性
   3.脂肪分解・動員と運動強度
   4.運動と食事の併用による身体組成変化への効果
  練習問題
 3 運動と呼吸・循環器系の機能
  A 呼吸・循環器系機能の仕組み
   1.呼吸系機能の仕組み
   2.循環器系機能の仕組み
  B 運動時の呼吸・循環器系調節
   1.換気量の調節
   2.心拍出量の調節
   3.血流再分配
  C 呼吸・循環器系機能の指標
   1.最大酸素摂取量
   2.最大酸素摂取量を決める因子
   3.測定法による最大酸素摂取量の違い
  D 酸素借と酸素負債
  練習問題
 4 運動と骨格筋の機能
  A 骨格筋の構造と収縮の仕組み
   1.筋の種類
   2.骨格筋の構造
   3.運動単位
   4.筋収縮の仕組み
  B エネルギー供給系
   1.ATP-PCr系
   2.解糖系
   3.有酸素系
   4.運動時における3つのエネルギー供給システムのかかわり方
  C 筋線維タイプとその特性
  D 筋力の心理的限界と生理的限界
  E 筋疲労
   1.運動神経および神経筋接合部
   2.水素イオン
   3.無機リン酸
  F トレーニングと骨格筋の適応
  練習問題
 5 運動と中間代謝・内分泌の機能
  A 運動と糖代謝
   1.無酸素系エネルギー代謝過程(乳酸性代謝機構)〜解糖系〜
   2.有酸素系エネルギー代謝過程〜TCA回路・電子伝達系〜
  B 運動と脂質代謝
   1.骨格筋線維(細胞)中のトリグリセライドによるエネルギー供給
   2.脂肪組織(細胞)のトリグリセライドによるエネルギー供給
   3.運動強度と脂肪動員
   4.運動終了後のケトン体生成
  C 糖・脂質代謝のホルモンによる調節
   1.運動時の糖・脂質代謝のホルモンによる調節
   2.安静時(食後)の糖・脂質代謝と内分泌機能
  D 運動とアミノ酸代謝
   1.身体づくりとたんぱく質・アミノ酸
   2.運動のエネルギー源としてのアミノ酸
  練習問題
 6 環境と運動・栄養
  A 運動とストレス
   1.ストレスと内分泌系・自律神経系
   2.ストレスによる症候群(全身性汎適応症候群)
   3.休養
  B 温度環境と運動
   1.高温環境と運動
   2.低温環境と運動
  C 気圧環境と運動
   1.高圧環境における身体
   2.低圧(高地・低酸素)環境における身体
  D 無重力(宇宙)環境と運動
   1.無重力環境による生理的変化
   2.無重力環境と栄養
  E 災害時の運動と栄養
   1.避難生活と運動
   2.災害時の栄養
  練習問題
 7 体力・運動能力に及ぼす栄養摂取の影響I
  A 糖質(炭水化物)
   1.糖質の種類
   2.運動と糖質
  B たんぱく質
   1.アミノ酸の種類
   2.身体づくりのためのたんぱく質摂取
   3.たんぱく質の過剰摂取の悪影響
  C 脂質
   1.脂質の種類
   2.運動時のエネルギー源としての脂質
   3.シグナル分子としての脂質
  練習問題
 8 体力・運動能力に及ぼす栄養摂取の影響II
  A 運動とビタミン
   1.ビタミンの種類と働き
   2.脂溶性ビタミン
   3.水溶性ビタミン
   4.エネルギー代謝とビタミン
  B 運動とミネラル
   1.ミネラルの種類と働き
   2.カルシウム
   3.鉄
  C 運動とサプリメント,栄養補助食品
  D 運動と水分
   1.体水分の分布
   2.水の出納
   3.水の機能
   4.運動中の水分摂取
  E 運動前・中・後の食事内容と摂取のタイミング
   1.試合前の食事
   2.試合中の栄養補給
   3.運動後の食事
  F 運動時の食事摂取基準の活用
  練習問題
 9 体力・運動能力の性差
  A 体力・運動能力の性差
   1.体格・身体組成の性差
   2.筋力・筋パワーの性差
   3.全身持久力の性差
   4.柔軟性の性差
   5.成人女性のやせと健康
  B 体力・運動能力調査からみた性差
  C 女性の運動・トレーニングの留意点と効果
  練習問題
 10 体力・運動能力の加齢変化
  A 成長・発達に伴う身体的変化と運動機能の変化(出生から成人における変化)
   1.身長・体重の発育曲線
   2.スキャモンの発育曲線
   3.運動(身体)機能の変化と運動トレーニングの至適時期
  B 加齢に伴う身体的変化と運動機能の変化(成人期以降の変化)
   1.身長・体重の加齢変化
   2.身体組成(体脂肪量・筋量)の加齢変化
   3.身体機能の加齢変化
  C 体力・運動能力調査からわかる体力の変化(年齢別体力と年次推移の比較)
   1.年齢別の体力
   2.青少年期の体力の年次推移の傾向
   3.成年期・高齢期の体力の年次推移の傾向
  練習問題
 11 健康関連体力・運動能力に及ぼす運動トレーニングの影響と遺伝
  A トレーニング効果
   1.骨格筋へのトレーニング効果
   2.呼吸・循環器系へのトレーニング効果
   3.運動・トレーニングによる生活習慣病予防
  B 健康関連体力・運動能力の遺伝率
   1.運動能力の遺伝率
   2.筋力の遺伝率
   3.持久力の遺伝率
  C 運動能力・健康関連体力のトレーニング効果に関連する遺伝子多型
   1.遺伝子多型とは
   2.筋力に関連する遺伝子多型
   3.持久力に関連する遺伝子多型
  D 生活習慣病に関連する遺伝子多型とトレーニング効果に及ぼす影響
   1.肥満関連遺伝子多型
   2.糖尿病関連遺伝子多型
  E おわりに
  練習問題
実践編
 12 健康の保持・増進のための身体活動・運動指導I
  A 日本における身体活動・運動の現状
  B 健康づくりのための身体活動基準2013
  C 健康づくりのための身体活動・運動の疫学
  D 身体活動・運動指導の実際
  E メディカルチェックとリスクの層別化
  F 有疾患者に対する身体活動・運動指導
   1.メタボリックシンドローム
   2.肥満
   3.高血圧
   4.脂質異常症
   5.糖尿病
  練習問題
 13 健康の保持・増進のための身体活動・運動指導II
  A 日本における高齢化社会の現状
  B 加齢に伴う健康問題
  C フレイル予防と身体活動・運動
  D 骨粗鬆症予防と身体活動・運動
  E 認知症予防と身体活動・運動
  F 高齢者における運動支援・指導時の注意
  練習問題
おわりに
付録
練習問題解答
索引

はじめに

 世界保健機関(WHO、1946年)は、“健康とは、単に病気あるいは虚弱でないというだけではなく、肉体的、精神的、社会的に完全に良好な状態である”と定義している。また、人はいきなり健康な状態から病気の状態に移行するものではなく、半健康や半病気といった段階を経て病気にいたるのであり、また逆もありうる。病気や半病気の状態の人々には医学的な治療が必要であり、半健康、あるいは健康な人々にとっては、健康増進(ヘルスプロモーション)という行為・実践が求められている。オタワ憲章(1986年)はヘルスプロモーションを、“人々が自らの健康をコントロールし、改善することができるようにするプロセスである”と定義している。そして、ヘルスプロモーションは個人の努力(栄養や運動など健康的なライフスタイル)と社会環境の整備の両方が重要な実践ポイントであることを強調している。
 わが国においては、近年の食生活の欧米化、身体活動量の減少、そして社会生活の多様化などの社会情勢の変化を背景として、栄養やスポーツの専門家には、健康の保持・増進、疾病の一次予防、二次予防、三次予防のための栄養指導を行う能力が求められている。栄養とは、生活活動を営むために必要な物質を外界から食事として取り入れ、それを利用することであり、その取り入れる物質が栄養素である。人間に限らず、あらゆる動物は空腹になると本能的に食事をとるが、それは生命を維持し、生活活動に必要なさまざまな栄養素を補給するためである。しかし、現代のわれわれの身の回りにはさまざまな食品があふれており、食事をとること自体があまりに日常的なことになっているので、自らの健康に無頓着な人々にとっては、ついつい栄養管理が疎かになりがちである。さらに、若い女性を中心として痩身志向からダイエット(極端な食事制限を含む)に駆り立てられて、食生活が乱れている人々も多くみられる。不適切な食生活を長期にわたって送っていると、さまざまな疾病を誘引しやすくなる。管理栄養士は、栄養の専門家として、そのような人々の健康管理に責任を負っているが、保健指導においては、食事摂取という側面にのみ注目した指導では不十分である。
 人はこれまで、食物を入手するために狩猟・採集などを行い、厳しい肉体労働を日々強いられてきたが、それから解放された今日では、座りすぎの生活を含む、著しい身体活動量の減少による運動不足の状態に陥っていることにも、保健指導者は目を向ける必要がある。健康運動指導士とは、“保健医療関係者と連携しつつ安全で効果的な運動プログラム作成および実践指導計画の調整などの役割を担う者”であるが、これからの栄養士・管理栄養士にも、健康の保持増進、生活習慣病予防における運動、身体活動の重要性についての理解は必須と考えられる。健康の保持増進、生活習慣病予防においては、栄養と運動は車の両輪であり、運動の健康効果、運動による代謝的応答に関して知識を得ることは、栄養指導をする専門家にとっても有意義であると考えられる。
 本書は、栄養・スポーツを学ぶ学生や、すでに現場で保健指導やスポーツ栄養指導を行っている方々を対象として、知っておくべき古典的なエビデンスと最新の知見を織り交ぜて構成され、執筆された「運動生理学」のテキストであり、一般的な運動生理学のテキストとはやや構成が異なっている。本書では、はじめに基礎編として、第1、2章でエネルギー代謝、身体組成をとりあげ、運動と関連して、第3、4章で呼吸・循環器系、骨格筋の機能、第5章で内分泌の機能の理解を促し、第6章では環境適応について記述されている。そして、応用編として、体力・運動能力との関連で、第7、8章では栄養摂取の影響を、第9、10章では性差と加齢の影響について述べられ、さらに第11章では体力・運動能力、また健康に及ぼす遺伝の影響について最新の知見が記述されている。そして、実践編として第12、13章では健康の保持・増進のための運動指導について述べられている。このように、本書は栄養と運動生理の関係が学習しやすい構成になっている。
 本書は、管理栄養士養成課程を有する大学やスポーツ科学を専門とする大学、あるいは健康栄養学研究機関に所属し、国際的なレベルで活躍されている執筆メンバーで構成されており、その中には管理栄養士の資格をもちながら運動生理学的視点から健康増進やスポーツ栄養の分野で研究や実践指導に携わっている研究者も多く含まれている。したがって、本書はこれまでにない「栄養系の運動生理学」として、自信をもってお勧めできる内容となっている。本書で運動生理学の古典的知識を確認するとともに、最新の知見を学んでいただき、これからの保健指導やスポーツ栄養指導に生かしていただくことを編著者一同大いに期待している。

2018年9月
樋口満