薬学臨床推論
臨床での考えかた
編集 | : 川口崇/岸田直樹 |
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ISBN | : 978-4-524-40365-3 |
発行年月 | : 2021年3月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 344 |
在庫
定価4,620円(本体4,200円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
「考える薬剤師」になるための、薬学部生を対象とした臨床推論の教科書。「薬の副作用を判断する」、「緊急性のある病態かどうか見極める」、「医師・看護師に的確に情報を提供する」ための思考過程を学べるよう編集。臨床推論の基礎理論に重点をおいた構成が、他書籍にはない特徴。臨床推論を基礎から体系立てて学びたい現役薬剤師にも最適な一冊。
Chapter0 イントロダクション
0-1 薬学における臨床推論の重要性
A 臨床推論ってなんだ?
B 薬学における臨床推論
C 本書で何を学ぶのか?
0-2 薬学臨床推論のスキルをもった薬剤師と医師がつくりあげる新しいチーム医療
A はじめに:臨床の患者のそばで活躍する薬剤師に!
B 臨床推論とは?
C 臨床推論3 つのプロセス
D 薬学臨床推論5つのコンポーネント
Chapter1 病歴と身体所見
1-1 患者ID,主訴,現病歴と既往歴
A ベッドサイド精神を忘れない
B 基本的なマナー
C 患者IDの重要性
D 主訴とは何か?
E 現病歴をまとめる〜問診で最も大切な作業〜
F 既往歴の集め方
1-2 その他の病歴,システムレビュー(ROS)
A 臨床推論を行うために必要な患者情報
B 薬物治療上の問題を判断する視点
1-3 バイタルサインと身体所見
1-3-1 バイタルサインの生理学的解釈法
A バイタルサインの異常値を確認する
B 危険なバイタルサインかどうかを認識する
C 危険なバイタルサインの種類
D 慢性のバイタルサイン異常の評価
1-3-2 身体所見の解釈法
A 危険なバイタルサインとの併読
B 身体所見の意味
Chapter2 医療における意思決定(診断・判断)のプロセス
2-1 臨床推論のモデル
A 臨床推論の流れ〜これまでの章を振り返りながら〜
B なぜ臨床推論モデルを学ぶのか?
C 実際の症例を用いて臨床推論モデルを経験してみよう!
D モデル0:二重プロセスモデル〜System1 vs System2 !?〜
E モデル1:徹底的検討法
F モデル2:演繹的推論
G モデル3:仮説演繹法
H モデル4:ベイズの定理を用いた推論
I モデル5:アルゴリズムを使ってみる
J まとめ
2-2 バイアスと診断エラー
A 診断エラー(diagnostic error)とは何か?
B 診断エラーの背景は複雑である
C 認知バイアスとは何か?
D 診断はチームで行う
E 診断エラー対応において薬剤師の役割は大きい
2-3 検査特性
A 検査の考え方
B 感度と特異度
C 陽性適中度と陰性適中度
D 尤度比
E 診断にいたる可能性の変化をイメージする
2-4 臨床推論の法的側面
A 薬剤師の業務
B 医師法
C 絶対的医行為,相対的医行為
D 臨床推論の注意点
E 薬剤師の業務のための臨床推論
Chapter3 セルフケアの推論
3-1 風邪の推論その1:典型的風邪型
A 風邪とは何か?
B 風邪(急性上気道炎)の定義
C 風邪診療は意外にあなどれない:その現状を把握する
D 「風邪」に対する医療者の役割とは?
E 風邪のイメージからわかる風邪(ウイルス性上気道感染症)の特徴とは?
F 3症状チェックのコツと注意事項
G おわりに〜風邪のQ&A〜
3-2 風邪の推論その2:鼻症状メイン型
A 鼻症状メイン型とは?
B 副鼻腔炎
C アレルギー性鼻炎
D セルフケアのすすめ
E 具体的な症例
3-3 風邪の推論その3:のど症状メイン型
A のどの構造
B ケーススタディ
C おわりに
3-4 風邪の推論その4:咳症状メイン型
A 咳症状メイン型とは?
B 病歴聴取のコツ
C 咳の患者でOPQRSTを実践してみよう
D 咳嗽(咳)の分類と主な原因
E 咳症状メイン型で見逃したくない疾患と病歴聴取のポイント
F 薬局を活用した咳のケア
3-5 痛みの推論
A 「痛みのOPQRST」から腹痛の原因に迫る!
B 危ない頭痛をかぎ分ける!頭痛のレッドフラッグサイン
C その頭痛……本当に風邪ですか?
Chapter4 副作用の推論
4-1 有害事象と副作用
A 副作用は個々の患者にとっても社会にとっても重要な問題
B 副作用とは?
C 副作用の候補としての有害事象
D 簡単ではない因果関係の評価
E 因果関係評価は学習過程
F 有害事象を副作用と判断する2つの基本的な考え方
G 日米欧の規制の違いと動向
H 有害事象が副作用と呼ばれるようになるまでの道のり
I 個別症例のレベルでの因果関係判断基準
J 集積された情報のレベルでの因果関係判断基準
K まとめと今後期待されること
4-2 副作用の臨床推論
A 一筋縄ではいかない副作用の臨床
B 臨床で求められる判断
C 判断のプロセスと臨床推論
D まとめ
Chapter5 薬学領域における臨床推論の活用
5-1 感染症領域での活用
感染症領域の臨床推論
Case1 発熱と体動困難になった原因は?
Case2 足関節の腫れ・痛みの原因は?
Case3 発熱と上半身の間代性痙攣を誘発した原因は?
Case4 尿路感染症の初期治療で改善しない発熱・倦怠感の原因は?
5-2 がん・緩和領域での活用
がん・緩和領域の臨床推論
Case1 倦怠感の原因は?
Case2 倦怠感,ふらつきの原因は?
Case3 意識障害の原因は?
5-3 救急・集中治療領域での活用
救急・集中治療領域の臨床推論
Case1 意識障害の原因は?
Case2 循環不全(ショック)の原因は?
Case3 タゾバクタム・ピペラシリン投与中に解熱しない原因は?
Case4 入院後急激な低リン血症が起きた原因は?
5-4 循環器領域での活用
循環器領域の臨床推論
Case1 心電図変化(T波平低化)を伴う低カリウム血症の原因は?
Case2 徐脈,血圧低下に伴う易疲労感・労作時の呼吸困難の原因は?
Case3 脱水,電解質異常加療中に突如起こった意識消失の原因は?
5-5 副作用を考えるときの活用
副作用の臨床推論
Case1 皮疹の原因は?
Case2 徘徊や見当識障害などの精神神経症状の原因は?
Case3 継続する下痢の原因は?
Case4 甲状腺機能障害の原因は?
5-6 ポリファーマシーを考えるときの活用
ポリファーマシー対策の臨床推論
Case1 腰痛の原因は?
Case2 咳の原因は?
Case3 不眠の原因は?
5-7 処方提案での活用
処方提案における臨床推論
Case1 乳がん化学療法中の便秘への処方提案
Case2 卵巣がん化学療法中の末梢神経障害への処方提案
Case3 膵がん化学療法中の心窩部痛への処方提案
Case4 ワルファリンカリウム内服中の直腸がん化学療法によるPT-INR延長への処方提案
Case5 抗がん薬投与中の血管痛への処方提案
Case6 白金製剤投与中のアナフィラキシー発症時に対する処方提案
索引
序文
概して臨床には、病歴・身体所見・検査値などの患者情報に基づいて病態を考え、鑑別診断を経て診断、そして治療とそのフォローアップ、という一連の過程があり、薬学生は実務実習で初めてそれを目の当たりにすることになります。これだけを聞けば、さほど真新しいことのない、ありふれた日常のように感じるかもしれませんが、実際の場に立ったとき、これがさほど簡単ではないことに気づかされるでしょう。「何年経ってもやはり臨床は簡単ではない」というのが正確な表現かもしれません。臨床はいつだって不確実性にあふれ、一筋縄ではいかないのです。
この簡単ではない実務実習に薬学生が臨むにあたり、どのように立ち向かうべきか。本書は、そんな学生さんたちの道標となることを期待しています。もちろん、大学で行う実務実習前の実習にも役立つでしょう。すでに現場で活躍されている薬剤師の先生方のお役に立てる内容も含まれていると思います。内容は決して簡単ではないかもしれませんが、張り切って学び、臨床で役立てましょう。
さて、本書は理論から実践までを含む内容となっています。構成は前半と後半で異なっています。
前半は、臨床推論の理論的なお話です。Chapter 1の病歴と身体所見は、簡単なようで実際には難しいという最もギャップがある領域かもしれません。薬剤師は患者さんと対峙した際に会話をしますし、実際にその目で診ることができるわけですので、病歴と身体所見は薬剤師にもとれる重要な情報であることは間違いありません。そして、それらの患者情報をもとにどのように考えるのかがChapter 2です。臨床で医療者たちがどのように考えているか、頭の中を覗いて見てみよう、というような内容になっています。こうした思考は診断プロセスにもかかわるため、医師と薬剤師の法的側面にも触れています。Chapter 3では理論から一歩踏み出し、だれしもが経験するであろう「風邪」と「痛み」に関する内容を扱います。学生であっても身の回りで身近にあろうこの症候・症状は、初学者が「考える」という過程を学ぶのに最も適した内容でしょう。そして、薬剤師となる以上、有害事象/副作用の学びは重要です。Chapter 4では有害事象と副作用に対する考え方を示しています。
後半は実際の症例を例示した内容になっています。執筆はすべて薬剤師が担当しており、現場ではこうした症例と対峙することになる、ということがイメージできるでしょう。そして、本書を読む薬学生も、将来はこうした症例の問題解決を担っていくことになります。そんなイメージをもって読んでいただくことを期待しています。各領域の症例を読むたびに、わからないことをたくさん発見できると思います。とくにその中でも薬学部の教科書で振り返れる箇所があれば、教科書を読み直して学びましょう。わからないことを見つけて調べることで得た知識は、教科書を流し読みする以上に身につくでしょう。
本書はこれまで薬学領域の臨床推論で活動をともにしている医師、岸田直樹先生との共同編集のもと、医学教育で活躍されている医師、薬学の教育現場と臨床で活躍されている薬剤師、弁護士、そして製薬企業の多くの先生方の協力のもと作成されました。いつも無理なお願い、無茶振り、コロナ禍をものともせずご執筆いただいた執筆陣の先生方、そして南江堂編集部の皆様に感謝申し上げます。道半ばで、まだまだこれからな部分も多い領域ですが、本書を手にとる薬学生や読者の方々に、この本が役立ちますように。そしてチャレンジは続く……。
2021年2月
編集者を代表して 川口崇