教科書

薬学人のための事例で学ぶ倫理学

編集 : 有田悦子/足立智孝
ISBN : 978-4-524-40364-6
発行年月 : 2020年4月
判型 : B5
ページ数 : 274

在庫あり

定価4,290円(本体3,900円 + 税)

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  • 主要目次
  • 序文

薬学を学ぶすべての人のための倫理学のテキスト。生命倫理の基礎から先進医療、医療倫理や研究倫理まで、薬学生に身近な事例を用いてわかりやすく解説。また、様々な場面で薬剤師が直面する倫理的課題をシナリオとして掲載。スモールグループディスカッション形式の学習にも活用可能。「薬学教育モデル・コアカリキュラム(平成25年度改訂版)」対応。

第I部 生命の倫理
 第1章 生命・医療倫理学の基礎
  1 伝統的医の倫理から新しい生命・医療倫理へ
   A 伝統的医の倫理とは
    1.医の倫理文書
    2.ヒポクラテスの誓い
   B 新しい生命・医療倫理
    1.非倫理的な医学研究の曝露
    2.新しい医療技術の登場
    3.生命・医療倫理の四原則
    4.新しい生命・医療倫理の特徴
  2 「倫理」の基礎
   A 倫理とは
    1.人間社会の秩序としての倫理
    2.道徳と倫理
    3.倫理と法
    4.倫理と文化
   B ルールに着目する倫理学の理論
    1.功利主義
    2.義務論
    3.討議倫理学
   C ルール以外の要素に着目する倫理学の理論
    1.徳倫理
    2.ケアの倫理
    3.物語倫理
    4.秩序を作るために
 第2章 生命の始期をめぐる倫理
  1 生殖補助医療
   1.生殖補助医療とは
   2.生殖補助医療をめぐるさまざまな問題
  2 強制不妊手術,出生前検査と着床前診断
   1.子どもを持つ権利−リプロダクティブ・ライツ
   2.優生思想に関連する各国の法の歴史
   3.日本における優生思想と法
   4.強制不妊手術と優生保護法
   5.出生前検査と優生思想
   6.着床前診断(受精卵診断)
   7.障碍が受容されにくい社会
 第3章 臓器移植の倫理
  1 臓器移植とは
   1.臓器移植の現状と課題
   2.臓器移植法制定後の枠組み
  2 臓器移植の実際と倫理的問題
   1.亡くなられた人からの臓器移植
   2.生きている人からの臓器移植−生体臓器移植
   3.臓器移植をめぐる課題
 第4章 生命の終期をめぐる倫理
  1 安楽死と尊厳死,治療の中止,差し控え
   1.人生の終期とは
   2.終末期ケアと緩和ケア
   3.安楽死をめぐる概念の整理
   4.生命の終期をめぐるその他の倫理的問題
  2 意思決定プロセスに関する取り組み
   1.意思決定の基本原則
   2.厚生労働省プロセスガイドライン
第II部 医療の進歩と倫理
 第5章 研究倫理の基礎
  1 研究倫理の基本的な考え方
   A 医療における研究倫理
    1.薬学人にとっての研究倫理
    2.研究倫理の歴史
   B 研究倫理の原則
    1.インフォームド・コンセント
    2.リスク・ベネフィット評価
    3.研究対象者の公正な選択
    4.薬学人の使命
  2 医療と研究の違い
   1.薬学人は活動の場によって役割も異なる
   2.医療と研究の目的の違い
   3.臨床研究において生じる誤解とその倫理的問題
   4.医療と研究のインフォームド・コンセント
   5.意思決定に影響を与える医療者-患者関係
   6.患者の意思決定支援に役立つコミュニケーション
   7.EvidenceとNarrativeの両立を目指す
 第6章 臨床研究のルールと手続き
  1 臨床研究に関するルールの全体像
   1.臨床研究とは
   2.臨床研究に関する法律や指針の全体像
  2 人を対象とする研究を始めるにあたって知らなければならないこと
   1.「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」が適用される研究
   2.研究を実施する前に行わなければならないこと
   3.研究の内容に応じたインフォームド・コンセントの手続き
  3 臨床研究に関わる法令
   1.省令GCPの概要
   2.臨床研究法の概要
 第7章 先端医療,革新的な医療と倫理
  1 先端医療の概要,ゲノム医療
   1.先端医療の概要
   2.ゲノム医療とはなにか
   3.遺伝医療〜生殖細胞のゲノムを利用した医療
   4.がんゲノム医療〜体細胞のゲノムを利用した医療
  2 遺伝子治療
   1.遺伝子治療の歴史と課題
   2.遺伝子治療臨床研究の規制
   3.遺伝子治療や再生医療の医薬品に対する条件および期限付き承認の仕組み
  3 再生医療
   1.使用する細胞をめぐる倫理的課題
   2.iPS細胞を用いる臨床試験と再生医療ビジネスのギャップ
第III部 薬学人としての倫理
 第8章 医療者の倫理
  1 薬剤師に求められる倫理
   1.薬剤師に求められる役割の変化
   2.医療倫理の歴史
   3.医療におけるインフォームド・コンセント
   4.薬剤師として医療倫理を学ぶ必要性
   5.医療現場で直面する倫理的問題
   6.倫理観を醸成するための教育
  2 薬剤師の専門職倫理
   A 専門職とは
    1.医療専門職
    2.専門職の特質
   B 薬剤師に関する倫理文書
    1.専門職としての倫理文書
    2.薬剤師綱領と薬剤師行動規範
 第9章 研究者の倫理
  1 研究の不正とは井上悠輔
   1.科学研究における「不正」の射程
   2.日本のガイドライン
   3.「薬学」に関連した研究不正の事例
   4.「不正」の考え方と限界
  2 研究不正を防ぐために
   1.研究不正はなぜいけないのか
   2.なぜ起きる?〜不正が起きるリスク
   3.どう防ぐ?〜対策を講ずる
第IV部 臨床現場で直面する倫理的問題
 I 事例の分析方法
  1.倫理事例を検討するための基本的なルール
  2.具体的な分析方法
 II 事例集
  Case1 緩和ケアの鎮静
  Case2 対応の優先順位
  Case3 在宅医療の問題
  Case4 患者尊重の意味
  Case5 患者安全の配慮
  Case6 疑義照会の義務
  Case7 研究参加の勧誘
  Case8 臨床研究の目的
本書における薬学教育モデル・コアカリキュラム(平成25年度改訂版)対応一覧
索引

序文
ーなぜ「薬学人のための倫理学」なのかー

 「薬」は、薬となる候補物質発見の段階から、非臨床試験、臨床試験を経て、申請、審査、承認と、実に長い年月と多くの人々のエネルギーが注がれて世に出、エンドユーザーである患者のもとに届きます。そして、基礎から臨床に至るその過程のすべてに、薬学を学んだ人が関わっています。関わる対象も、薬という“物質”から、患者やその家族などの“人間”、そして地域社会に至るまでと幅広く、薬学を学んだ人を一義的に“研究者”であるとか“薬剤師”であるなど、一つの枠にはめて語ることが適切とは言えなくなっています。そこで、本書では、薬学を学んで世の中で活躍している方々を『薬学人』と総称することにしました。
 『薬学人』の活躍の場の広がりに応じて、薬学教育で履修する内容も幅広くなってきました。一昔前は基礎科学中心だった薬学教育も、1992年に薬剤師が「医療の担い手」として医療法に明記され、1996年の薬剤師法改正で患者や介護者への情報提供が義務づけられ、2006年にはそれまでの4年制から6年制教育課程がスタートしました。6年制教育課程は文部科学省より出された「薬学教育モデル・コアカリキュラム」に基づいて行われていますが、平成25年度改訂版では、「薬剤師として求められる基本的な資質」として「豊かな人間性と医療人としての高い使命感を有し、生命の尊さを深く認識し、生涯にわたって薬の専門家としての責任を持ち、人の命と健康な生活を守ることを通して社会に貢献する」ことを掲げ、卒業時に必要とされる10の資質を明示し、それぞれが6年間の学習内容と連動しながら醸成されていくことが期待されています。
 この10の資質の中で特に倫理観については、最初に挙げられている「薬剤師としての心構え」において「医療の担い手として、豊かな人間性と、生命の尊厳についての深い認識をもち、薬剤師の義務及び法令を遵守するとともに、人の命と健康な生活を守る使命感、責任感及び倫理観を有する」と明記されています。ここで述べられている倫理観は医療現場だけでなく、近年は社会的な問題としても報じられる臨床研究の場で守るべき研究倫理や研究公正の問題にもつながってきます。つまり、薬学を履修した後にどのような分野で活躍するにせよ「守るべき倫理」があることから、薬学教育における倫理教育は、『薬学人』としての土台づくりと言えます。
 一方で、平成25年度に日本薬学会が全国の薬系大学を対象として実施した改訂薬学教育モデル・コアカリキュラムの実施状況調査では、倫理に関連する項目のうち、「生命倫理」は1年次で、「医療倫理」「研究倫理」は4年次に多く開講され、1年次と4年次では教育担当者も異なっている現状が明らかになりました。一般教養科目としての倫理学と薬学人として求められる倫理観の醸成に関する科目の間に連続性が乏しいことにより、学習者にとっては倫理学の基本的な考え方が現場でどのように活用できるのかイメージを形成するのが難しくなる状況が懸念されます。また教育する側も薬学の専門家、倫理学の専門家、専任、非常勤など各大学でバックグラウンドが異なり、薬学人として倫理観が必要なことを学習者に認識してもらうための具体例を示すことが難しいとの声もありました。
 このような状況を踏まえ、基礎科学から臨床現場、そして地域社会までをも守備範囲とする『薬学人』の倫理観の醸成に役立てていただけるような書籍を企画しました。生命倫理の基礎から先進医療、医療倫理や研究倫理まで幅広く網羅した目次構成とし、かつ具体的に思考できるような事例を多く盛り込んだ紙面構成という、かなり欲張りな、薬学らしく守備範囲の広い編集方針としています。
 「現場で役立つ倫理教育」実現のために、各分野の第一人者が『薬学人』を念頭に置いて執筆してくださいました。何より、この本の製作過程において、基礎と臨床の融合、倫理学の専門家と薬学の専門家の融合などのさまざまな化学反応が起きた結果、これまでにない美しい調和が生まれた内容になっていると自負しております。編集者として、その化学反応を促進する“触媒”の役割を少しでも果たせたのならば、心から幸せに思います。

2020年3月
編集者を代表して
有田悦子