生物薬剤学改訂第3版
こちらの商品は改訂版・新版がございます。
編集 | : 林正弘/谷川原祐介 |
---|---|
ISBN | : 978-4-524-40305-9 |
発行年月 | : 2015年4月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 324 |
在庫
定価5,500円(本体5,000円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
解説内容のレベルはやや高いが、通読性に優れ、わかりやすくかつ詳細にまとめられており、「生物薬剤学」の成書として支持されている。今版では、これまでの編集方針、難易度を踏襲しながら、学部生から卒後、薬剤師までも有用な教科書となるように、解説内容の全体を見直し、新知見の追記と旧い解説内容の圧縮、臨床面の強化を行った。実際の臨床現場で触れる内容と差をなくすためにも実例を多く追記した改訂となっている。
生物薬剤学序論
1 生物薬剤学とは
2 薬物の吸収、分布、代謝、排泄
A 吸収
B 分布
C 薬物代謝
D 排泄
3 薬物速度論
4 ドラッグデリバリーシステム(DDS)
5 新薬開発と生物薬剤学
6 医療と生物薬剤学
第1章 吸収
総論
1 吸収のメカニズム
A 細胞膜の構造と吸収ルート
B 膜透過
C 担体介在性輸送の分類
2 薬物の消化管吸収
A 消化管の構造と機能
B 消化管吸収に影響を及ぼす薬物固有の要因
C 消化管吸収に影響を及ぼす生理学的要因
D 消化管吸収に影響を及ぼすその他の要因
E 吸収の予測
3 非経口剤からの吸収
非経口剤による吸収の概要
A 注射部位からの吸収
B 皮膚からの吸収
C 薬物の直腸吸収
D 薬物の経鼻吸収
E 薬物の口腔粘膜吸収
F 薬物の経肺吸収
G 薬物の眼粘膜吸収
H 薬物の膣粘膜吸収
4 バイオアベイラビリティと生物学的同等性
A バイオアベイラビリティ
B 生物学的同等性
C 代替試験法
D バイオ後続品
第2章 分布
総論
A 体内分布特性の基本的事項
B 組織分布の変動要因
1 薬物の血漿タンパク結合
A 薬物のタンパク結合に関与する血漿タンパク質
B 薬物の血漿中濃度に及ぼす血漿タンパク結合の影響
C 病態時における血漿タンパク結合の変動
D 血漿タンパク結合と組織移行性
E 血漿タンパク結合の解析法
F 血漿タンパク結合の測定法
2 薬物のリンパ系移行性
A リンパ系の機能と循環
B リンパ系の構造と薬物の移行
3 薬物の脳内移行性
A 薬物の中枢神経系への移行経路
B 血液脳関門の構造
C 血液脳脊髄液関門の構造
D 血液脳関門の透過機構
E 血液脳脊髄液関門を介した輸送機構
4 薬物の胎児移行性
A 妊婦に対する薬物療法と薬物の胎児移行性
B 妊娠経過と薬物の胎児移行性
C 薬物の胎児移行性に影響を与える要因
D ヒト満期胎盤の薬物透過性
5 薬物の母乳移行性
A 母乳の産生
B 母乳への薬物移行
第3章 薬物代謝
総論
A 薬物代謝の過程と酵素
B 薬物代謝と薬物動態および薬効・副作用発現との関係
C 薬物代謝の変動要因
1 薬物代謝反応の過程
A 薬物代謝反応の概要
B 代表的な薬物酸化反応
2 薬物代謝反応部位と薬物代謝酵素
A P450
B P450以外の第1相反応に関わる薬物代謝酵素
C 抱合酵素
3 薬物代謝酵素の阻害と誘導
A 薬物代謝酵素(P450)の阻害
B 薬物代謝酵素の誘導
4 薬物代謝能の変動要因
A 発達
B 加齢
C 性差・妊娠
D 疾患(肝疾患)
E 人種差
5 薬理遺伝学
A 薬理遺伝学とは
B 遺伝子多型を示す薬物代謝酵素
C 遺伝子多型を示すトランスポーター(薬物輸送タンパク質)
第4章 排泄
総論
A 薬物処理臓器としての腎臓と肝臓
B 薬物の排泄とトランスポーター
C 薬物の排泄と臓器機能検査
1 腎排泄
A 腎臓の構造と機能
B 薬物の腎排泄
2 胆汁中排泄
A 肝臓の構造と機能
B 胆汁成分
C 胆汁流生成メカニズム
D 薬物胆汁排泄の支配要因
E 薬物の肝取り込み輸送
F 薬物の胆管側膜を介した排泄輸送
G 腸肝循環
3 その他の排泄
A 唾液中排泄
B 呼気への排泄
C 消化管内排泄
第5章 トランスポーター
総論
1 構造的特徴
2 分類
3 薬物動態との関連
4 薬物動態的に重要なトランスポーター
5 トランスポーター分子間の機能的連携
6 薬物トランスポーターの特徴
A ペプチドトランスポーターPEPT(SLC15A)
B 有機アニオントランスポーターOATP(SLCO)
C 有機アニオントランスポーターOAT(SLC22)
D 有機カチオントランスポーターOCTとMATE
E ABC トランスポーター群:P-糖タンパク質(ABCB1)、BCRP(ABCG2)、MRP2(ABCC2)、MRP4(ABCC4)
7 トランスポーターの発現調節
8 薬物トランスポーターと薬物代謝酵素による薬物動態制御
9 生理的トランスポーターを利用した疾患の治療と診断
第6章 薬物相互作用
総論
A 薬物相互作用の臨床的意義
B 薬物相互作用の分類
C 薬物相互作用の高リスク薬物と高リスク患者の同定
D 薬物相互作用の予測と臨床診断
1 薬物動態に基づく薬物相互作用
A 血液中濃度が変動する薬物相互作用
B 局所の薬物濃度が変動する薬物相互作用
C 薬物相互作用を利用した薬物治療
2 薬力学に基づく薬物相互作用
A 相互作用が同一または密接に関連する標的分子で生じる場合
B 相互作用が一見無関係な標的分子を介して生じる場合
第7章 ドラッグデリバリーシステム
総論
A ドラッグデリバリーシステムの概要
B ドラッグデリバリーシステムの基盤技術
C 臨床ニーズから開発されたドラッグデリバリーシステム
D ドラッグデリバリーシステムの今後の展望
1 放出制御型ドラッグデリバリーシステム
A 放出制御製剤の目的と利点
B 徐放性製剤の放出制御法
C 臨床使用されている徐放性製剤
2 プロドラッグとアンテドラッグ
A プロドラッグとアンテドラッグの概念
B プロドラッグとアンテドラッグの血中濃度
C プロドラッグ設計に利用される酵素
D プロドラッグの設計
E プロドラッグの臨床応用例
F アンテドラッグの臨床応用例
3 吸収促進
A 吸収促進剤の例
B 吸収ルートと透過促進機構
C タイトジャンクション開口機構と問題点
D トランスポーターを利用した膜透過性の増大
E 今後の吸収促進の試み
4 標的指向化(ターゲティング)
A 血管の構造と物質透過性
B 薬物キャリアーを利用したターゲティング
C 合成高分子キャリアーの利用
D 微粒子キャリアーの利用
E 生物由来の高分子キャリアーの利用
第8章 薬物動態パラメータ
総論
1 生物学的半減期
2 AUC
3 分布容積
4 クリアランス
5 バイオアベイラビリティ
第9章 薬物速度論
総論
1 コンパートメントモデルの概念
2 線形1-コンパートメントモデル(静脈内投与)
A 血漿中薬物濃度による解析
B 薬物の尿中排泄速度による解析
3 線形1-コンパートメントモデル(1次吸収過程を含む場合)
A 血漿中薬物濃度による解析
B 最高血漿中薬物濃度と到達時間
4 連続投与時の薬物速度論
A 静脈内定速注入
B 繰り返し投与
5 線形2-コンパートメントモデル
6 非線形コンパートメントモデル
第10章 TDMと薬物投与設計
総論
1 薬物投与設計法
2 病態時の薬物動態と薬物投与設計
A 腎障害時の薬物動態と薬物投与設計
B 肝障害時の薬物動態と薬物投与設計
C 心不全時の薬物動態と薬物投与設計
3 薬物各論
A 喘息治療薬テオフィリン
B 強心配糖体ジゴキシン
C 抗菌薬
D 抗てんかん薬フェニトイン
E 免疫抑制薬シクロスポリン
第11章 薬力学
総論
1 薬力学(PD)モデルの特徴
A PDモデルとは
B 基本的なPDモデル
2 PKとPDの統合
A 投与量と薬効の時間推移の関係
B 血中濃度の時間推移と薬効の時間推移にずれを生じないモデルのPK/PD解析
C 血中濃度の時間推移と薬効の時間推移にずれを生じるモデルのPK/PD解析
D AUCを用いるPK/PD解析
E T>MIC(time above MIC)およびCmax/MICを用いるPK/PD解析
第12章 生理学的モデル
総論
1 組織クリアランス
A 肝クリアランス
B 腎クリアランス
C 組織クリアランスの求め方
2 固有クリアランス
A 組織クリアランスと固有クリアランス
B タンパク結合の影響
C 肝固有クリアランスとMichaelis-Mentenの速度式
3 初回通過効果
A 初回通過効果とは
B 初回通過効果の定量的評価
4 組織分布
A 分布容積
B 組織-血液間分配係数
C 分布速度
5 生理学的モデル
6 アニマルスケールアップ
A 身体のサイズとエネルギー消費量
B in vitro-in vivo補外法
C マイクロドーズ臨床試験
第13章 モーメント解析
総論
1 モーメントとは
2 平均滞留時間
3 モーメントの算出法
A 数値積分による方法
B モデルパラメータから求める方法
C 定速静注時の血中濃度-時間曲線
D 尿中排泄データ
4 体内分布の評価
5 製剤からの放出および吸収過程の解析
A 経口投与後の溶出・吸収過程の解析
B in vitro溶出試験のモーメント解析
索引
改訂第3版の序
学問領域にはその体系を記述する教科書が必要である。1970年代に興った「生物薬剤学」は今や医薬品の創製のみならず医薬品を適正に使用する上でも必要不可欠な学問領域となった。本書のルーツとなる「生物薬剤学」(村田敏郎、有田隆一編、南江堂)は、40年前の1975年、初めて生物薬剤学を標ぼうした教科書として出版された。以来、生物薬剤学領域は順調に発展を続け、学問的な深さに加えて扱う範囲も多岐にわたり、薬学における基幹領域のひとつとなった。それゆえ、生物薬剤学の標準知識と体系を初めて学ぶ者にも分かりやすく解説した教科書はより一層重要性を増している。
本書は、近年の最新情報を取り入れるとともに、生物薬剤学の基礎から標準レベルの知識を伝えるという教科書の原点に立ち戻り、8年ぶりとなる全面改訂を経て第3版として上梓するものである。生物薬剤学は、創薬や製剤設計など医薬品を開発する側、臨床で医薬品を使用する側の双方で必須の知識であるため、薬学・医学を学ぶ学生、大学院生、そして医療に携わる薬剤師等が手にする教科書をめざした。
第3版の改訂ポイントは下記の3点である。
第一に、前版までは動物実験の事例が多かったが、今回の改訂では、ほぼすべてをヒトのデータおよび臨床の事例に入れ替えた。そして、薬ではないモデル化合物や未承認の実験段階の事例を極力避けて、実際に臨床使用されている医薬品を題材として種々の生物薬剤学要素の解説に用いた。これは、生物薬剤学は実験室内の学問ではなく、医薬品を開発し適正に臨床使用するための学問であるという信念に基づいている。本改訂により、学生は臨場感をもって医薬品適正使用の学問的背景を学ぶことができ、医療に従事する薬剤師は身近な問題の本質を理解する上で役に立つと期待できる。
第二に、本書の特長であった通読性をさらに高め、生体内での薬物動態、薬物速度論、投与設計、製剤設計、ドラッグデリバリーシステムの関連を有機的なつながりをもって体系的に学べるように配慮した。領域全体を俯瞰した「生物薬剤学序論」、各章の冒頭に配置した「総論」は、それだけを読んでもエッセンスを習得することができる。
そして第三に、近年研究が進み臨床へのインパクトが明らかにされてきたトランスポーターを独立した章として取り上げ、薬物動態を制御する重要な生体内機序として位置づけた。執筆は、現在、生物薬剤学を牽引し第一線で活躍中の教授陣にお願いした。各領域を代表する専門家の執筆による本書は、日本の生物薬剤学の標準教科書と言える内容となった。本書が薬学を学ぶ者の糧となり、創薬および医療薬学の発展に貢献できることを心から願っている。
2015年3月吉日
林正弘
谷川原祐介