教科書

老年看護学概論改訂第4版

「老いを生きる」を支えることとは

編集 : 正木治恵/真田弘美
ISBN : 978-4-524-23378-6
発行年月 : 2023年3月
判型 : B5
ページ数 : 420

在庫あり

定価3,080円(本体2,800円 + 税)

正誤表

  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文

初版より高齢者が生かし生かされる地域づくりをみすえた先駆的な老年看護学のテキストの最新版.看護の対象としての高齢者の特徴や,高齢者の多面的なとらえ方など,対象理解に重点を置いている。老年看護に活用できる理論・アプローチは,具体的な事例を通してわかりやすく解説.今改訂では,人生100年時代の社会の変化をふまえ,構成・内容を全面的に見直した.

第T章 老年看護学を理解するための基盤
 1.人間の一生と発達
  A.ライフサイクルにおける老年期
  B.看護の対象としての高齢者
 2.人間発達論における老年期 
  A.老年期とは
 3.老いを生きることの意味
  A.老いを生きることの意味
  B.老いの発見と死期の受容
 4.加齢と健康
  A.老性変化
  B.加齢と疾病
  C.平均余命と健康寿命
 5.高齢者をとりまく社会状況
  A.人口構成と政策
  B.社会的課題
  C.社会制度
  D.地域活動
 6.高齢者と家族
  A.高齢者のいる家族の形態と機能 
  B.高齢者を介護する家族の理解
 7.高齢者の労働 
  A.高齢者の労働
 8.高齢者の暮らしの場 
  A.多様な生活の場と生活様式
  B.生活の場の移転

第U章 老年看護の理念と目標
 1.老年看護の理念 
  A.老年看護の理念
 2.老年看護の目標 
  A.豊かな生の創出・支援
  B.生かし生かされる地域づくり
 3.老年看護の倫理 
  A.高齢者の尊厳を支える看護師の倫理的態度
  B.高齢者看護において生じやすい倫理的課題
  事例 身体拘束により新たな苦痛が生じたAさん
  C.倫理的判断の手がかり

第V章 老年看護に活用できる理論・概念
 1.健康の概念
  A.老年看護に活用できる健康の概念
  B.健康の概念の活用事例
  事例 リハビリテーションに意欲的に取り組むことができない高齢者
 2.セルフケア 
  A.老年看護に活用できるセルフケア
  B.セルフケアの活用事例
  事例 血糖コントロール不良を生じた高齢者へのセルフケア支援
 3.サクセスフルエイジング 
  A.老年看護に活用できるサクセスフルエイジング
  B.サクセスフルエイジングの活用事例
  事例 今までの人生に納得し加齢変化にうまく適応している高齢者(1)
  事例 今までの人生に納得し加齢変化にうまく適応している高齢者(2)
 4.ウェルネスアプローチ 
  A.老年看護に活用できるウェルネスアプローチ
  B.ウェルネスアプローチの活用事例
  事例 転倒恐怖から生活機能の再獲得が進まない高齢者
 5.コンフォート 
  A.老年看護に活用できるコンフォート理論
  B.コンフォート理論の活用事例
  事例 食事に対する満足感が得られていない高齢者へのコンフォートケア
 6.ライフストーリー 
  A.老年看護に活用できるライフストーリー
  B.ライフストーリーの活用事例
 7.レジリエンス
  A.老年看護に活用できるレジリエンス
  B.レジリエンスの活用事例
  事例  高齢になって病気で健康の喪失による逆境に陥ったが,レジリエンスを高めADLを取り戻した高齢者
 8.ストレングス 
  A.老年看護に活用できるストレングス
  B.ストレングスの活用事例
  事例 顕在化したストレングスにより自宅退院となった高齢者
 9.エンパワメント 
  A.老年看護に活用できるエンパワメント
  B.エンパワメントの活用事例
  事例 介護予防教室の参加により自分らしさを取り戻し生活を再構築した高齢者
  C.個人のエンパワメントを集団や地域社会のエンパワメントに生かす
 10.スピリチュアリティ
  A.「こころを支えるスピリチュアリティ理論」ができた背景
  B.こころを支えるスピリチュアリティ理論
  C.こころを支える看護:スピリチュアル・ケア

第W章 老年看護の対象理解
 1.対象特性  
  A. 5つの側面(からだ,こころ,かかわり,暮らし,生きがい)が相互に関連し合う
  B.個別性があり,多様である
  C.他者との関係性の中にある
  D.自分の再吟味・再方向づけの模索
  E.文化を継承する存在である
 2.対象理解のための5つの側面
  A.からだ 
  B.こころ
  C.かかわり
  D.暮らし 
  E.生きがい
 3.歳月の積み重ね
  A.生活史
  B.高齢者にとっての健康歴
  C.高齢者のもつ文化と価値観
 4.対象理解の深まりと広がり
  A.相互作用を通して高齢者を理解する方法 
  B.高齢者理解の発展  谷本真理子
  事例 認知症の高齢者をはじめて受けもった看護学生Bの高齢者理解の発展(1)
  事例 認知症の高齢者をはじめて受けもった看護学生Bの高齢者理解の発展(2)
  事例 認知症の高齢者をはじめて受けもった看護学生Bの高齢者理解の発展(3)

第X章 対象把握のためのアセスメント
 1.対象理解のための5つの側面の把握
  A.からだの把握
  B.こころの把握 
  C.かかわりの把握 
  D.暮らしの把握
  E.生きがいの把握 
 2.高齢者の機能評価と指標 
  A.国際生活機能分類(ICF)
  B.高齢者総合機能評価(CGA
 3.高齢者の症状と検査・治療に伴う影響のアセスメント 
  A.高齢者の症状の特徴とアセスメント
  B.侵襲的検査の影響とアセスメント
  C.治療に伴う影響とアセスメント
 4.介護を必要とする高齢者の家族のアセスメント 
  A.家族による高齢者介護の動向
  B.高齢者を介護する家族の二面性
  事例 人工呼吸器を装着して自宅退院した高齢者
  C.高齢者を介護する家族への支援の必要性のアセスメントの視点
  事例  訪問看護師の問いかけにより,介護負担を訴えていた家族が高齢者のリハビリテーション継続の意味を理解した事例

第Y章 高齢者の健康の維持・回復への支援5
 1.豊かな生の創出・支援 
  A.高齢者の「豊かな生」
  B.高齢者の健康の特質に着目した支援
 2.ADL機能の維持・回復への支援 
  A.ADL機能の考え方
  B.高齢者のADL機能の維持・回復への支援の必要性
  C.高齢者のADL機能の維持・回復への支援
 3.セルフケア能力の維持・向上への支援
  A.高齢者のセルフケア能力の維持・向上への支援とは
  B.セルフケア能力の維持・向上への支援の要点
 4.健康問題の予測と予防への支援 
  A.加齢とともに変化する環境
  B.環境変化に伴うダメージ
  C.生活環境の変化と高齢者への影響
  D.環境適応の支援方法

第Z章 高齢者の療養生活の支援
 1.外来を受診する高齢者の看護
  A.外来を受診する高齢者の看護
  B.外来における診察時の援助
  C.外来における疾病・治療の理解と通院継続(治療継続)への援助
  事例  外来通院による抗がん薬治療を受けるAさんへの援助:病棟看護師と外来看護師の連携
  D.安全・安楽な検査の実施
  E.薬物治療を受ける高齢者の看護:高齢者の服薬行動の特徴
 2.医療施設に入院する高齢者の看護
  A.医療施設の種類と特徴 
  B.入院する高齢者の生活の特徴と看護の役割 
  事例 Bさんの療養場所移行の意思決定支援
  C.急性期の高齢者の看護 
  D.手術療法を受ける高齢者の看護 
  事例 ストーマ造設術を受けるCさん
  E.化学療法を受ける高齢がん患者の看護 
  F.慢性期の高齢者の看護
  事例 慢性心不全で再入院したDさん
  G.終末期の高齢者の看護 
  事例 終末期で苦痛の強いEさんへの援助
 3.医療施設から退院する高齢者の看護
  A.医療施設の入退院の現状
  B.医療施設退院時の看護の実際
  事例 認知機能低下のあるFさんの退院支援
 4.高齢者のリハビリテーション看護 
  A.リハビリテーションの概念の変遷とリハビリテーション看護
  B.高齢者へのリハビリテーション看護
  事例  リハビリテーションを目的に回復期リハビリテーション病棟へ入院したが,なかなか体調が整わず難渋したGさん
  C.さまざまなリハビリテーションの場と多職種協働
  事例 Hさん本人の希望を尊重した多職種による介入
 5.介護保険施設に入居している高齢者の看護
  A.介護保険施設の種類と特徴
  B.介護職員と看護師の協働
  C.介護保険施設における看護の役割
  事例 介護老人保健施設へ入居するIさんへの援助
 6.居宅サービスを利用している高齢者と家族の暮らしと看護
  A.居宅サービスを利用している高齢者と家族の暮らしの特徴と看護の役割
  B.居宅サービス利用開始時の援助
  C.福祉用具・介護用品の活用の支援
  事例 在宅看取りを希望する独居高齢のJさん

第[章 認知症の高齢者の支援
 1.認知症の高齢者の理解と看護の基本 
  A.認知症とは
  B.認知症の一般的な経過と看護
  C.認知機能の評価と看護
  D.認知症の原因疾患と看護
  E.認知症の高齢者の心理を理解した看護
 2.認知症の高齢者の家族介護者の理解と支援  
  A.家族の介護負担の理解と対応
  B.家族介護者による虐待の予防
  C.代理意思決定支援
  D.認知症の高齢者を介護する家族に対するサポートシステム
 3.認知症の高齢者が地域で安全に安心して暮らすための支援  
  A.認知症の「予防」
  B.認知症との「共生」
  C.認知症フレンドリーな社会
 4.急性期治療を行う病院での認知症高齢者への看護 
  A.急性期治療を受ける認知症高齢者の特徴
  B.急性期治療を受ける認知症高齢者の課題
  C.急性期治療を行う病院での認知症高齢者の看護
  D.急性期治療を行う病院におけるチームアプローチ

第\章 高齢者のエンドオブライフケア
 1.高齢者のエンドオブライフケアに求められること
  A.エンドオブライフケアと関係する言葉の概念
  B.人生の最晩年の生を支えるエンドオブライフケア
  C.高齢者のエンドオブライフケアにおいて看護師が果たすべき役割
  D.質の高いエンドオブライフケアを目指して:多職種連携
 2.意思決定支援とアドバンスケアプランニング 
  A.人生の最終段階における高齢者の状況
  B. 意思決定支援とアドバンスケアプランニングと事前指示や生命維持治療に関する医療指示
  C.高齢患者の看護に関する意思決定についての課題
  D.意思決定支援における看護師の役割
  事例 母親の胃ろう造設に迷いがある家族の意思決定支援
 3.高齢者の尊厳を支える看取り
  A.臨死期とは
  B.臨死期の症状
  C.臨死期の高齢者に対する看護師の役割
  D.看取りケアを振り返る
 4.終末期の家族支援
  A.なぜ終末期に家族への支援が必要なのか
  B.終末期の家族支援の具体的な方法
  事例 ケアに関する家族の希望の確認と実施

第]章 生かし生かされる地域づくり
 1.安全に安心して希望をもって暮らせる地域づくり 
  A.高齢者が安全で安心して希望をもって暮らせる地域とは
  B.高齢者の暮らしにおける物的環境:住環境と交通環境
  事例  自分でつくったまちに住む:大東に住み,働き,楽しむ,ココロとカラダが健康になれるまち
  C. 高齢者の暮らしにおける人的環境:人がともに暮らし(コミュニティ),人が人を見守ることを学ぶ
  事例  「通いの場」づくりの実践と,地域活動への思い:住民・高齢者が主役のまち
 2.よりよい地域づくりのための多職種協働
  A.多職種協働とは
  B.予防のための多職種協働
  事例 多職種協働によって支えられる介護予防の自主活動
  C.診断・治療のための多職種協働
  D.療養生活のための多職種協働
  事例 高齢者の診断・治療・療養生活を支える多職種協働
  E.高齢者に多い事故を予防するための多職種協働
  F.地域包括ケアシステムにおける協働連携
  事例 本人の希望する在宅死を実現した高齢者
 3.高齢者の地域づくりへの参画
  A.日本の目指す地域共生社会
  B.高齢者の強みを生かした地域づくりへの参画
  事例 島に伝わる古謡を伝承する住民活動への参画
3   事例 特技の三線で療養者を癒すケアへの参画
  事例 自らのケア環境づくりへの参画
 4.災害に備える
  A.高齢者の防災活動(個人,家族,地域)
  B.高齢者の避難・誘導方法
  C.高齢者の避難所での生活と健康の維持
  D.高齢者の福祉避難所における援助
  E.災害における高齢者の心理的支援
  F.地域におけるパンデミックへの備え・対応

第Ⅺ章 老年看護学の課題
 1.米国のCNS・NPからみる今後の日本の看護師像 
  A.米国の高度実践看護師
  B.日本の高度実践看護師
  C.今後の日本の看護師像
 2.老年看護学の教育・研究の発展 
  A.老年看護学の教育
  B.老年看護領域における臨床研究

 本書は2011年に初版が発行されて11年近くが経過したが,その間にも日本の高齢化は進展し,少子高齢化社会に対応すべく様々な政策が打ち出されている.老年学や老年医学の研究も進み,特に老化や健康問題の予防に関する研究成果が次々に発表されている.人生50年時代から100年時代に変わった現代に生きる高齢者の心身の能力は,一昔前とは格段に違いが出ているのである.近年,65歳以上を高齢者とする定義を75歳以上へ見直す必要性が謳われている.そのような社会状況や高齢者の心身の変化を踏まえ,今改訂では「老いを生きる」に焦点を当てて全体的に見直し・更新を行い,およそ半分が新たな項目となった.また,要所要所に具体事例を盛り込み,初学者が理解しやすい構成とした.
 急速な高齢化がもたらす社会変化は大きく,高齢者にとっては生き方の転換が迫られており,同時に高齢者ケアを担う者にも考え方の転換が求められている.高齢化に加え人口減少が始まっている日本では,地域づくりに関する発想の転換も必要になっている.本書が初版より提示してきた「生かし生かされる地域づくり」という目標は,看護基礎教育課程が地域包括ケアシステムを前提とした看護へと方向性を転換しようとしている今,その先駆けにもなったといえよう.
 専門領域の一部であった老年看護学の知識も,今後は社会一般の常識として確立される必要があろう.死で閉じられる人生の最終ステージを生きる人々に対し,個別性を尊重し,老いに内在する人間存在の非合理性を捨象せずに解釈していく人間理解の力量が問われてくる.人間は,年齢を重ねていくにつれ衰え,いずれは他者のケアを受ける状態になる.それは正常な心身の変化であり,自然の摂理ともいえる.ただ,老年看護学を学ぶ若い人たちにとって,高齢者の主観に着目して理解することは,年齢の差が大きいだけに困難なことであるように思われる.しかし躊躇する必要はないように思う.何故なら,ケアしケアされる関係性において,経験を積み重ねてきた人々がもつ寛容性に助けられながら,援助者として成長していくであろうから.
 “老い”を生きる意味は,老いた本人のみでなく,周りの者が,さらに社会が付与するものでもある.ここに老年看護の醍醐味がある.生命の尊厳を保持しつつ,最後まで豊かに生きることのできる社会が築かれることを願ってやまない.

2022年12月
正木 治恵
真田 弘美

9784524233786