雑誌

臨床雑誌内科≪月刊≫

“じゃないほう”の消化器症状(Vol.131 No.1)2023年1月号

潜んでいる他領域疾患を見逃さない

発行年月 : 2023年1月
判型 : B5

在庫あり

定価2,970円(本体2,700円 + 税)


  • 主要目次
  • 序文

[特集]
“じゃないほう”の消化器症状―潜んでいる他領域疾患を見逃さない
企画:中野弘康

[Chapter 1]嘔気で受診した患者の……?
 嘔気で受診した患者の診察ポイント 中野弘康
 急性冠症候群 藤森大輔・坂本 壮
 低ナトリウム血症 小山 亮・谷澤雅彦
 副腎不全 松岡大樹・志水英明
 妊娠 須藤 博
 急性閉塞症緑内障発作 森川 暢
[Chapter 2]腹痛で受診した患者の……?
 腹痛で受診した患者の診察ポイント 中野弘康
 肺炎 大槻拓矢・家 研也
 腹部片頭痛 徳田嘉仁
 腎梗塞 宮内隆政
 急性腸間膜虚血―腸間膜動脈塞栓症,腸間膜動脈血栓症,非閉塞性腸間膜虚血,上腸間膜静脈血栓症 山田万里央・北野夕佳
 家族性地中海熱 國松淳和
 Fitz-Hugh-Curtis症候群 長尾知子・小野正博 
 尿路結石 清田雅智
 前皮神経絞扼症候群 土田知也
 正中弓状靱帯圧迫症候群 中野弘康
 中枢性腹痛症候群 大野彰久・矢吹 拓
[Chapter 3]腹部膨満で受診した患者の……?
 腹部膨満で受診した患者の診察ポイント 中野弘康
 尿閉 石井大太
 原発性腹膜がん 勝俣範之
[Chapter 4]便秘で受診した患者の……?
 便秘で受診した患者の診察ポイント 中野弘康
 認知症 尾久守侑
 甲状腺機能低下症 鈴木里彩
[Chapter 5]下痢で受診した患者の……?
 下痢で受診した患者の診察ポイント 中野弘康
 薬剤性下痢 北 和也
 甲状腺機能亢進症 吉村文孝 ほか
[Chapter 6]体重減少で受診した患者の……?
 体重減少で受診した患者の診察ポイント 中野弘康
 結核 久代聖子 ほか
 Parkinson病 宮本翔平・塩尻敏明

[連載]
内科医が精神科のくすりを処方する。
 第1回 プロローグ 國松淳和
イメージで捉える呼吸器疾患
 第4回 気管支拡張症「最近やせてきて血痰が出ました」 皿谷 健
医療用ITツールのイマとミライ
 第6回 高血圧治療補助アプリ 苅尾七臣
Focus On
 不妊治療の保険適用による変化 井 泰

[書評] 
これでわかる認知症診療(改訂第3版)―かかりつけ医と研修医のために 大内尉義
気管支拡張症Up to Date 進藤有一郎
日本肝臓学会肝臓専門医認定試験問題・解答と解説 第6集 佐々木 裕

 消化器症状を訴えて内科外来を受診する患者は多い.腹痛,便秘,下痢,血便,吐血,体重減少,食欲不振……など訴えは多様である.
 各専門診療科を擁する大学病院や総合病院では,往々にして患者が何らかの症状を訴えて受診した場合,症状から適切と思われる診療科に割り振られることが多い.「当院は“内科”という一つの診療科ですべての訴えを診ています」と謳っている病院は少なく,多くの病院では,消化器症状を訴えて受診した患者は,消化器科医が担当する外来に振り分けられると思われる.実は,ここにピットフォールがあるのだ.
 血便や黒色便など,一見して明らかに「消化管出血だ!」とわかるような場合は,次の一手(ストラテジー)として内視鏡検査・治療が素直に予想されるため,消化器科医が初期診療を担当したほうが早く診断・治療につなげられるかもしれない.一方で,嘔気や体重減少,食欲不振はどうであろう.消化器科医にとっては,やや重荷な症候ではないだろうか.
 その理由の一つに,わが国の消化器科医は従来,「形態学」を重視してきたという歴史がある.消化器科医にとって内視鏡は日常診療に必要不可欠な検査手技であることに異を唱える者はいないと思うが,実は内視鏡検査で広がる世界は形態学そのものである.腹部超音波検査しかり,腹部CT 検査しかり,これら画像検査も形態学がベースにあり,“目で見える異常”を扱うことが根底にある.このような背景から,消化器科医にとって目で見える異常を扱うのはお手のものであるが,目に見えない病因・病態を考察し,それを正すべく適切な介入を選択するプロセスが苦手な医師は意外と多い.本特集では,あえてこの点に着目してみた.
 フランスの作家であり飛行士であるサン=テグジュペリ作『星の王子さま』にこのような一節がある.「大切なものは目に見えない」.内視鏡検査が趨勢な消化器領域では,画像で捉えられた異常にばかり注意が払われ,形態的な異常(壊れたパーツ)を治療対象とする傾向にある.このスタンスで診療すると,消化器症状を訴える患者に,ろくに話も聞かず絨毯爆撃的に検査をオーダーし,目で見える異常を見つけ出す作業に終始してしまうことになる.
 大切なことは,“患者が何を心配して来院したか”,すなわち主訴を丁寧に解きほぐす作業である.
患者が病に悩み,あなたの外来を受診するまでに至った経緯が,まるでドキュメンタリー映画のごとく再現されるような,そんな病歴聴取を心がけたい.そうすることで,目に見えない病因・病態があぶり出され,正しい診断・治療が可能となるであろう.
 今回,消化器症状で来院したが実は消化器“じゃない”疾患と診断された症例を紹介していただくという,ずうずうしい企画を試みてしまった.執筆は,いずれも筆者が信頼を置く内科医の先生方にお願いした.本特集を読むことで,明日からの診療現場で,目に見えない患者の異常に気づくためのヒントをたくさん得ていただくことを切望してやまない.

中野弘康
(大船中央病院 内科)

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