書籍

臨床診断ホップステップジャンプ

53症候へのアプローチ

編集 : 大田健/箕輪良行/鄭東孝
ISBN : 978-4-524-25366-1
発行年月 : 2011年9月
判型 : A5
ページ数 : 508

在庫あり

定価5,832円(本体5,400円 + 税)

  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

最初の患者情報である臨床症状への適切な考察と対応が、的確な診断と治療への第一歩となる。本書では53の臨床症状(症候)に焦点を当て、症状が発現する病態生理、医療面接のポイント、身体所見のとり方、確定診断に到達するための検査と手順を、重篤な疾患を見逃さないよう注意しながら「ホップ・ステップ・ジャンプ」の3段階にまとめた。一般内科医、救急医、当直医必携。

0 臨床症状(症候)を診断するポイント
1 全身倦怠感
2 浮腫(四肢)
3 リンパ節腫脹
4 発熱(急性感染症)
5 貧血様症状(顔色が悪い)
6 発汗異常
7 チアノーゼ
8 嗄声
9 食欲不振
10 体重減少
11 体重増加・肥満
12 黄疸
13 嘔気・嘔吐
14 胸やけ(消化不良)
15 腹痛(急性腹症)
16 下痢
17 便秘
18 吐血・下血(急性消化管出血)
19 胸痛(急性冠症候群)
20 動悸(息切れ)
21 呼吸困難
22 咳
23 咽頭痛
24 睡眠時無呼吸
25 瑞鴫
26 血尿
27 排尿障害(尿失禁、排尿困難、尿閉)
28 多尿
29 無尿・乏尿
30 頻尿
31 頭痛(脳血管障害)
32 めまい
33 失神
34 けいれん
35 視力障害・視野狭窄
36 嚥下障害
37 歩行障害
38 四肢のしびれ
39 項部硬直
40 嗅覚障害
41 突然倒れる(drop attack)
42 振戦
43 不眠
44 不安・抑うつ
45 健忘
46 失語・構音障害
47 腰痛・背部痛
48 関節痛
49 紫斑(皮内および皮下出血)
50 発疹
51 結膜の発赤
52 耳鳴・難聴
53 鼻出血

索引

初診の患者に医師がまず投げかける言葉は、「今日はどうされましたか?」というオープンクエスチョンである。そのときどのような返事が返ってきても、その返事の内容をもとに、効率よく問診(医療面接)を展開し、検査も含めた診断計画と、緊急性を考慮した治療計画とを素早く適切に立てる技量が医師には求められる。すなわち、臨床の場においてまず飛び込んでくる患者情報は、臨床症状であり、臨床症状への適切な考察と対応が、的確な診断と治療への第一歩となるのである。
 現代の医療では、検査機器の発達の恩恵を受け、検査結果を通じて診断に到達するという経路が医学生のときから刷り込まれている。一方、患者の病歴聴取や診察は定型化あるいは標準化が進んでおり、眼前の患者に対して柔軟に考察することが不足しがちである。極端な状況は、患者とは話をするが診察はしないで網羅的な検査により診断を試みるというものである。本年3月の東日本大震災の際の状況を例に引くまでもなく、最新の検査機器により得られる十分な検査結果から診断をつけ治療するという医療環境で常に診療できるとは限らない。種々の検査に依存する医療のみでは検査機器のない状況ではお手上げになってしまう。また医療経済から考えても、常に網羅的に検査をすることは好ましいことではない。病歴聴取と身体診察、そしてそこから得られる情報の解釈が、昔も今も診断に到達する原点であることに変わりはないのである。
 本書は患者の臨床症状(症候)に焦点を当て、どのようなステップで診断に近づくかの流れを、「ホップ・ステップ・ジャンプ」の3段階で示している。「ホップ」では、患者背景をもとに病態生理の基本をふまえ、症状の分類、発生機序を示す。「ステップ」では診断に有用な情報、医療面接、身体所見、検査の情報からアプローチする。「ジャンプ」においては得られた情報から、より診断への近道(診断の推定、操作特性)のデータを示し、診断へのダイナミックな過程を提示する。これらの後に「エクササイズケース」を盛り込んで診断アプローチのレッスンもできるようにし、どのような患者に対しても対応できる診断力を養うことを目的にしている。そして末尾に、診断がつかない場合などの「治療のヒント」を設けた。
 以上のように、本書ではこれまでの診断学の本とは趣を変えて、各分野のエキスパートの頭脳の中の回路が、こうしたプロセスを通じて読者に共有されるように工夫を加えている。その結果として診断に到達する原点が、実用的かつ特色ある形で表現できていることを期待している。
2011年8月
大田健
箕輪良行
鄭東孝

医療の高度化に伴い、臨床診断が特殊な検査機器や診療ガイドラインに依存する傾向が強まっている。こうした医療は標準化や普及を図るうえで重要であり、医学が科学的であるためにも欠かせない。確かに医学は科学に基づかなければならない。しかし科学は普遍的な法則を追求し、個別の問題を軽視する。これに対して、個々の患者に最適の医療を行う臨床医学は、通常の科学が関心を払わない部分も守備範囲としている。実際、現場の臨床は患者の訴えや病歴をよく聞くことに始まる。そこにはさまざまな物語が存在し、二つと同じ話はない。さらに患者が病気をどのように捉えているか、何を大切に考えているかを知り、その後の診療に生かそうとする。しかし得られた臨床情報をどのように統合して治療に生かすかには、注意が必要である。診断の特異度と感度は時と場所によるからである。また、症候に基づくだけでなく、検査による診断も組み合わせていかなければならない。こうした実践に即した診断の手引書が求められているが、今回刊行された大田健、箕輪良行、鄭東孝の3氏の編集による本書は、文字通り、現実の問題に直面している臨床医のための指導書として注目される。
 全体はとくに章立てされているわけではない。最初に「臨床症状(症候)を診断するポイント」がまとめられているだけである。しかし、ここに要約された「診断の考え方」や「情報の使い方」は臨床医学の考え方を理解するよい機会になるだろう。続いて、日常臨床でしばしば遭遇する53の症候、すなわち全身倦怠感、発熱、胸痛などについて、ホップ(基本事項)、ステップ(情報収集)、ジャンプ(情報の解釈)の3段階で診断の進め方が指導される。「ホップ」は症候の分類や発生機序、「ステップ」は、医療面接、身体所見、検査のポイントを、「ジャンプ」は、情報の統合、病態・診断の推定、仮説の補強を解説する。さらに、具体的な症例がエクササイズケースとして提示され、最後に治療のヒントが述べられている。本書では記述だけではなく、いくつかの症候については、診断の感度と特異度、陽性尤度比も表にまとめられており、定量診断の参考となるように配慮されている。
 本書は単なる鑑別診断の教科書ではない。雑多な情報から診断や病態を推論するための指南書である。偶然に左右される人の営みや、確率的な生老病死を対象とする推測科学は、日本の科学の苦手とするところである。その意味で、本書は医学教育の新たな試みといえる。研修医から経験豊かな臨床医にまで推薦できる一冊である。
評者● 永井良三
臨床雑誌内科109巻4号(2012年4月号)より転載