書籍

整容性に優れた新しい乳癌手術

Moving Window法

: 野口昌邦
ISBN : 978-4-524-26287-8
発行年月 : 2010年10月
判型 : B5
ページ数 : 164

在庫なし

定価7,776円(本体7,200円 + 税)

  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

安全で根治的、かつ整容性に優れた乳癌手術を解説した一冊。患者のQOLを重要視し、低侵襲化の傾向にある近年では、生存率や局所制御を損なうことなく、整容性の高い乳房温存や再建手術が求められている。本書では筆者が開発した、小さな皮膚切開創から直視下で乳癌組織の切除や腋窩リンパ節郭清を行える「Moving window法」を紹介。カラー写真・図を多用し、実用性を意識した実際書となっている。

はじめに
第I章 乳癌手術に用いる機器、材料と薬剤
1 手術機器
  1 凸型離被架
  2 ガンマプローブ
  3 近赤外線カメラ
  4 バイポーラシザーズ
  5 ヘッドライト
  6 単鉤鉗子
  7 筋鉤
  8 アリス鉗子
2 材料
  1 ウーンドリトラクター
  2 ストッキーネット
  3 SBバックとドレーンチューブ
  4 ティシュ・エクスパンダー
  5 インプラント
  6 粘着性弾力包帯
  7 穴あきガーゼ
  8 腹帯
  9 合成吸収糸
  10 マーキングセット
  11 テトロンテープ
  12 血管テープ
  13 ステリストリップテープ
  14 皮膚ペン
3 薬剤
  1 キシロカインゼリー
  2 エピネフリン含有1%キシロカイン注射液
  3 パテントブルー
  4 インドシアニングリーン
  5 ピオクタニン
   memo1 皮弁作製時の用いる鉗子
   memo2 ウーンドリトラクターとラッププロテクター
   memo3 乳癌手術に用いる色素

第II章 乳房温存術
1 概要
2 適応
3 Moving Window法の概要と適応
4 実際
 A 乳房内側腫瘍占拠例
  1 乳輪皮内の色素注入
  2 皮膚切開とセンチネルリンパ節生検
  3 乳腺組織の切除
 B 乳房外側上部腫瘍占拠例
  1 腋窩切開
  2 センチネルリンパ節生検
  3 乳腺組織の切除
 C 乳房下部腫瘍占拠例
  1 乳輪皮内の色素注入
  2 皮膚切開とセンチネルリンパ節生検
  3 乳腺組織の切除
 D 切除断端の検索と乳腺組織切除後の手順
  1 切除断端の検索
  2 術野の洗浄と止血
  3 乳腺組織の縫合
  4 ドレーンの留置と皮膚縫合
  5 温存乳房の形態
   memo4 乳腺組織の切除範囲
   memo5 乳房温存術の皮膚切開
   memo6 乳輪周囲切開
   memo7 乳輪下の血管網(subareolar vascular plexus)
   memo8 乳腺組織の切除
   memo9 乳房温存術における皮膚切除
   memo10 バイポーラシイザーズと鋏
   memo11 皮弁の厚さ
   memo12 乳癌の広がり診断
   memo13 乳房温存術における乳房下溝線(inframammary line)の保持
   memo14 乳腺組織の切除断端(surgical margin)
   memo15 乳腺組織の授動
   memo16 腫瘍占拠部位と乳房の変形
   memo17 乳腺組織の縫合と死腔
   memo18 latissimus dorsi miniflap
   memo19 Moving Window法による乳房温存術の成績
   memo20 乳房温存術:内視鏡補助下手術 vs. Moving Window法
   memo21 乳癌手術と診療報酬

第III章 nipple-sparing mastectomy
1 概要
2 適応
3 実際
  1 センチネルリンパ節生検とエピネフリン含有生理食塩水の皮下注入
  2 nipple-sparing mastectomyの皮膚切開
  3 skin-sparing mastectomyの皮膚切開
  4 ウーンドリトラクターの装着と皮弁作製
  5 乳腺組織の遊離
  6 乳腺組織の切除
  7 術野の洗浄と止血
  8 ドレーンの留置と皮膚縫合
  9 術後の形態
   memo22 乳頭・乳房の温存
   memo23 腋窩切開創
   memo24 バイポーラシザーズと熱メス
   memo25 一期的乳房再建術における乳房下溝部(inframammary fold)の保持
   memo26 大胸筋筋膜
   memo27 nipple-sparing mastectomy:内視鏡補助下手術 vs. Moving Window法

第IV章 乳房再建術
1 概要
  1 一期的乳房再建
  2 二期的乳房再建
  3 人工乳房を用いる方法
  4 自家組織を用いる方法
2 適応
3 人工乳房による乳房再建術の実際
  1 nipple-sparing mastectomyとセンチネルリンパ節生検
  2 大胸筋起始部の切離
  3 ティシュ・エクスパンダーの挿入
  4 術野の洗浄と止血
  5 ドレーンの留置と皮膚縫合
  6 再建乳房の形態
4 広背筋皮弁による乳房再建術の実際
  1 nipple-sparing mastectomyあるいはskin-sparing mastectomy
  2 皮膚切開と皮下脂肪の剥離
  3 広背筋の剥離と広背筋皮弁の移動
  4 乳房再建
  5 背部の皮膚縫合
  6 再建乳房の形態
5 有茎腹直筋皮弁による乳房再建術の実際
  1 下腹部の皮膚切開線
  2 腹直筋皮弁の作製
  3 血管茎の作製
  4 皮下トンネルの作製と腹直筋皮弁の移動
  5 乳房再建
  6 腹直筋欠損部の補強および皮膚縫合
6 遊離腹直筋皮弁による乳房再建術の実際
  1 下腹部の皮膚切開線
  2 皮膚切開
  3 穿通枝の同定
  4 穿通枝の剥離
  5 遊離腹直筋皮弁の作製
  6 血管吻合
  7 皮弁固定と縫合閉鎖
  8 再建乳房の形態
   memo28 被膜拘縮(capsular contracture)
   memo29 テイシュ・エクスパンダーとインプラント
   memo30 marionette法
   memo31 reconstructive tissue matrix
   memo32 広背筋の解剖
   memo33 皮弁表皮の剥離(de-epithelozation)
   memo34 腹直筋の解剖
   memo35 弓状線(arcuate line)と腹壁の再建
   memo36 muscle splitting technique
   memo37 腹直筋皮弁のvascular zone
   memo38 下腹部腹壁の血行

第V章 センチネルリンパ節生検
1 概要
2 適応
3 実際
  1 色素およびアイソトープの注入部位
  2 リンフォシンチグラフィ
  3 乳輪皮内の色素注入
  4 皮膚切開線
  5 皮膚切開
  6 センチネルリンパ節の同定
  7 センチネルリンパ節の摘出
  8 センチネルリンパ節の確認
  9 止血確認
  10 腋窩の皮膚縫合
  11 術後の形態
4 センチネルリンパ節の病理組織学的検索
5 腋窩リンパ節郭清の適応
   memo39 腫瘍周囲注入と乳輪下注入
   memo40 センチネルリンパ節生検に用いるアイソトープトレサー
   memo41 センチネルリンパ節生検に用いる色素
   memo42 センチネルリンパ節とARMリンパ節
   memo43 大型転移と微小転移
   memo44 センチネルリンパ節転移と腋窩リンパ節郭清

第VI章 腋窩リンパ節郭清術
1 概要
2 適応
3 実際
  1 皮膚切開
  2 皮下脂肪の切開と深胸筋膜の露出
  3 ウーンドリトラクターの装着
  4 深胸筋膜の切開と肋間上腕神経の同定
  5 腋窩静脈下縁の剥離
  6 肋間上腕神経の遊離
  7 レベルIIの腋窩リンパ節郭清
  8 レベルIの腋窩リンパ節郭清
  9 レベルIIIのリンパ節摘出
  10 腋窩の洗浄と止血
  11 ドレーンの留置と皮膚縫合
  12 術後の形態
   memo45 腋窩リンパ節のレベル分類
   memo46 深胸筋膜(deep pectoral fascia)と腋窩リンパ節郭清
   memo47 axillary reverse mapping(ARM)法
   memo48 近赤外線カメラによるARM法
   memo49 皮下脂肪と腋窩脂肪組織
   memo50 胸筋神経(pectoral nerves)
   memo51 腋窩脂肪組織の鈍的剥離
   memo52 肋間上腕神経(intercostobrachial nerve)の温存
   memo53 胸腹壁静脈(thoracoepigastric vein)
   memo54 レベルIIIの腋窩リンパ節郭清
   memo55 セローマ(seroma)の防止

参考文献
あとがき
索引

乳癌手術は近年、縮小化・低侵襲化の傾向にあり、乳房温存術やセンチネルリンパ節生検が標準的手術となっている。このような乳癌手術の縮小化は、生存率や局所制御を損なうことなく乳房の整容性や患者のQOL(quality of life)を重要視する流れであり、画像診断の進歩によって早期発見が可能になったこと、また乳癌に関する数多くの臨床試験の結果から大きな手術を行っても生存率は向上せず、全身療法が大きく寄与することが明らかとなったことに基づいている。
 乳癌の手術はその治癒と同時に、乳房をもとの状態に戻すことを理想とする。欧米では乳腺外科と形成外科が合体した癌形成外科(oncoplastic surgery)が新しい分野として注目されており、乳癌手術において乳房の整容性(cosmesis)は極めて重要である。現在、乳癌の局所制御を損なわずに乳房を温存あるいは再建する手術として、乳房温存術やnipple-sparing mastectomy・一期的乳房再建がある。筆者は、乳輪周囲や腋窩などの目立たない小さな皮膚切開創から内視鏡機器を用いずにウーンドリトラクターを装着し(window)、それを移動しながら(moving)術野を展開する方法を開発し、これを「Moving Window法」と称している。このMoving Window法は熟練が必要であるが、習熟すれば乳房温存術だけでなく、乳腺組織全体を切除するnipple-sparing mastectomyやskin-sparing mastectomyも直視下に行える。また、これらの手術により乳頭・乳輪や乳房の輪郭(contour)が温存されれば、比較的容易に整容性の高い乳房を再建できる。一方、センチネルリンパ節生検や腋窩リンパ節郭清は、傷の目立たない腋窩の小さな皮膚切開創から行うだけでなく、腋窩の陥没や上肢の浮腫、知覚障害をきたさないことが求められる。
 本書では、これらの手術法について写真やイラストを多用して手術の実際を解説している。従来行ってきた乳癌手術から様変わりしていることがおわかりいただけるのではと思う。本書が乳癌外科の専門医だけでなく、乳癌手術に携わる一般外科医や研修医にも役立ち、ひいては乳癌の治癒だけでなく整容性に優れた乳癌手術を望む患者さんに福音となることを願っている。
2010年10月吉日
野口昌邦

本書は多くの書籍を編集あるいは執筆している著者の最新刊である。著者の仕事は多岐にわたるが、その中でも手術、非切除ラジオ波乳癌治療、センチネル生検など乳癌局所療法にかかわる多くの業績は海外にも知られている。
 海外でも本邦と同様に、乳癌根治と整容性の両立を図る多くの努力がなされている。Oncoplastic breast surgery(OBS:腫瘍形成外科と訳せるが本邦でもオンコプラスティックブレストサージェリーと呼称されることが多い)は欧州から始まり急速に南米、米国、アジアに広がりつつあるが、それらの努力を包含し、定義、分類するのがOBSである。温存術後の左右乳房のバランスをいかに得るかはOBSの主たるテーマである。著者は欧米でmini flapとして知られる“広背筋弁による温存後欠損部充_法”の開発者であるが、同法はOBSの重要な手法の一つとなっている。一方、よりよい整容性を得るため、整容的に目立たない部位あるいは可及的に小さな皮切より手術を行う多くの工夫がなされている。たとえば皮下乳腺全摘と再建もOBSの重要な手技である。われわれが行っている小皮切からの内視鏡下手術は、従来法と同等の癌根治とよりよい整容性をめざしたOBSの一手技である。
 本書の著者が開発した新しい手術手技、moving window法は、切開創として高い整容性が期待できる内視鏡手術でも用いる腋窩切開と傍乳輪切開の2切開創からの手術手技である。内視鏡手術と同様に、同法では乳房温存術、皮下乳腺全摘術、センチネル生検、腋窩郭清、再建を行うなど、乳癌手術にかかわるすべての手技を網羅する。本書ではそのすべてについての手術手技、用いる器具、さらには皮膚ペンなどの実際手技に役立つものまで詳述している。
 Moving window法は大腸癌手術などでも行われている手技である。しかし、腹腔や胸腔と異なり乳房は密な結合織で構成され、もともと腔の存在しない臓器である。Moving window法という名称は同じであるが、組織を_離し_離腔を作成するというまったく異なる操作が必要となる。確実な癌手術を行うためにはワーキングスペースを確保したうえで、乳房における膜構造、解剖学的指標の露出が必要となる。限られた皮切から癌手術としての必要条件を満たすためには、ワーキングスペースの作成から始まる手術手順が重要である。本書では手術手順について特に詳しく述べられている。Mini flapと同様、moving window法は海外でも知られるようになると思われる。整容性と癌根治をめざす乳腺外科医におすすめしたい一書である。
評者● 福間英祐
臨床雑誌外科73巻6号(2011年6月号)より転載