書籍

ESDと偶発症

進む勇気と退く勇気

編集 : 小山恒男/小野裕之
ISBN : 978-4-524-26092-8
発行年月 : 2012年10月
判型 : B5
ページ数 : 194

在庫僅少

定価7,560円(本体7,000円 + 税)

  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

治療内視鏡として浸透したESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)における出血や穿孔などの偶発症を防ぐための実践書。具体的なヒヤリ・ハット事例をもとに、ESDにおける「進む勇気」と「退く勇気」を詳しく解説する。ESDに携わるすべての医師に必携の一冊。

第I章 ESDを始める前に知っておく
 1 術前検査
 2 抗凝固薬・抗血小板薬の休薬
 3 麻酔法
 4 術後管理の実際
第II章 部位別偶発症予防対策
 1 咽頭ESD
 2 食道ESD
 3 胃ESD
 4 十二指腸ESD
 5 大腸ESD
第III章 実例から学ぶ
 1 咽頭ESD
  A 術後狭窄をきたした症例
  B 遅発性出血例
 2 食道ESD
  A-1 穿孔例1(途中で断念した症例)
  A-2 術中穿孔をきたした症例
  B 憩室内病変例
  C-1 全周切除後狭窄をきたした症例1(難渋例)
  C-2 全周切除後狭窄をきたした症例2
  D 遅発性穿孔例
  E 気胸をきたした症例
 3 胃ESD
  A-1 穿孔例1(経過良好例)
  A-2 穿孔例2(経過が厳しい例)
  A-3 穿孔例3(手術移行例)
  B-1 高度狭窄例1(幽門(1):狭窄後穿孔例)
  B-2 高度狭窄例2(幽門(2))
  B-3 高度狭窄例3(噴門)
  C-1 術後胃機能低下例1(Wernicke-Korsakoff症候群発症)
  C-2 術後胃機能低下例2(recoverしなかった症例)
  D 止血困難からの手術移行例
  E-1 後出血例1
  E-2 後出血例2
  F 遅発性穿孔による手術例
  G 遅発性穿孔からrecoverできた症例
 4 十二指腸ESD
  A 術中穿孔例
  B-1 遅発性穿孔例1
  B-2 遅発性穿孔例2
  B-3 遅発性穿孔例3
  C-1 遅発性出血例1
  C-2 遅発性出血例2
 5 大腸ESD
  A 後出血例
  B-1 術中穿孔例1
  B-2 術中穿孔例2
  C スネアによる穿孔例
  D-1 遅発性穿孔例1
  D-2 遅発性穿孔例2
  E-1 線維化により断念した症例1
  E-2 線維化により断念した症例2
 6 その他の偶発症
  空気塞栓症

ESDの開発当初はデバイスも手作りで、高周波装置も未熟であり、出血が必発であった。唯一の止血デバイスはクリップであったが、クリップを使用すると後の剥離操作が困難となるのが難点であった。しかし、ホットバイオプシー鉗子を用いて止血する技術が開発されてから、出血のコントロールは急速に改善した。さらには、あらかじめ血管を凝固してから切開するprecut coagulationの確立により、出血させないESDが可能となった。
 次の課題は穿孔対策であった。ESD開発当初、穿孔時には緊急手術が施行されていた。しかし、クリップで穿孔部を閉鎖すると保存的に治療できることが明らかとなり、ESDの安全性は急速に改善した。こうして2002年には先進施設でのESD成績は安定したが、全国では偶発症が多発し、院長や教授からESDが禁止された施設も多々あった。「このままではESDがダメになる。ESDの技術を安全に普及させるためには、編集したビデオの供覧では不十分であり、すべてのプロセスを供覧すべきである」と考えた編者の小山、小野は山本博徳氏、矢作直久氏、後藤田卓志氏とともにライブデモを立ち上げた。ITナイフとHookナイフが市販された2003年の秋のことであった。
 ESD live demonstration seminar中にも偶発症は発生したが、faculty達はみごとに応対した。よい部分だけを編集したビデオからは学び取れないESDのコツが伝授されたと考えている。のべ3,000名を超える聴衆を集めたESD live demonstration seminarは2007年の第10回をもって終了した。こうしてESDの技術は普及したが、予想外の偶発症も多々経験された。
 2007年に小山が、2008年に小野がEMR/ESD研究会の当番世話人を担当した際、偶発症を主題として取り上げ「進む勇気と退く勇気」を持つことの大切さを訴えた。本書はこれらのライブや研究会で検討された偶発症対策をまとめたものである。ESDを安全に施行するためにはデバイスおよび高周波装置の特性を十分に理解し、適材適所で使い分けることが重要である。また、発生しうる偶発症をあらかじめ想定し、どのような状況でも冷静に対処できねばならない。戦いを始める前に敵の状態を冷静に判断し、自らの技量を超える場合は一歩退き、先進施設へ紹介する勇気を持つべきである。
 偶発症を経験することはつらい。まして、偶発症を報告することは大変つらい。できることなら忘れてしまいたいこともある。しかし、先人の失敗から学ぶことができれば、後輩はより安全にESDを施行することができるはずだ。大変つらい執筆依頼にもかかわらず、その経験を貴重な原稿へと執筆くださった各筆者に感謝する。
 普通の人は自分が失敗してはじめて気づく。賢者は先人の失敗から学び、自らは失敗しない。愚かなる者は自らが失敗しても気づかない。本書がESDの安全性向上に貢献することを祈る。

佐久総合病院胃腸科
小山恒男
静岡県立静岡がんセンター
小野裕之

なんとも素晴らしく、かつ凄い本が刊行されたものであろう。編者が序文で述べているように、偶発症を経験し、さらにそれを報告することは大変辛いことであり自尊心が傷付けられることにもなる。しかし、その経験を次のステップに活かせる人が、真のプロフェッショナルといえよう。そして、そのプロフェッショナルたちが執筆したのが本書である。
 本書では、まずESDを安全かつ確実に行うための基本的事項、各部位におけるESDに伴う偶発症予防対策が記載されている。しかしながら本書の最大の特徴は、実に本の4分の3にわたって実際の偶発症例についての豊富な内視鏡像や図表の提示、そして偶発症を起こさないための“症例から学ぶポイント”と、もっとも重要な“退く勇気”について記載されていることである。これらの内視鏡像をみていると、その場に直面したときの先人たちの青ざめた顔、手の震え、動悸、冷や汗などが思い起こされる。そしてこのような内視鏡像などを提示してよいのだろうか、とも一瞬思えるが、この貴重な体験をしっかりと伝え、患者のためにより安心、安全なESDを施行してほしいという編者ならびに執筆者の思いがひしひしと伝わってくる。
 偶発症を起こさないための基本的条件としては、まずは周到な準備をすること、手技や技能を過信しないこと、チームワークを確立すること、そして「まあ大丈夫」、「〜だろう」といった考えを捨てることにある。すなわち、前もっての的確な診断とそれに基づいた治療戦略の構築、その一方で、それから外れた場合の“退く勇気”をもつことにあると編者は述べている。まさに、それが適切な治療と偶発症を予防する王道である。内視鏡的治療の最終目的は、後遺症なく病気を確実に治すことにあり、ESDだけが治療法のすべてではない。手術、放射線治療、化学療法なども治療選択の一つである。常にこのことを考えながらESDを行うことが重要であることも述べている。
 常日頃話していることだが、内視鏡的治療は一種の手術と考えるべきである。とくにESDは独りで行う外科手術といえよう。たとえば、高度進行がんに対する外科手術の場合、この血管を切れば、あるいはこの臓器、この部分を切除した場合はもとに戻れない、手術の遂行がきわめて困難になる、といった分岐点(ターニングポイント)がある。したがって、ESDにおいても、どこまで行ったらうまくいくのか、それとも重篤な偶発症を引き起こしてしまうのか、このポイントを見極めることが重要であり、そのためには日頃の修練、そして先人たちの辛い経験を学ぶことが必要である。その意味で、本書の内容はきわめて貴重なものであり財産でもある。その有難さをぜひとも実感し、日々の臨床で活かしてもらいたい、というのが編者、筆者の熱い思いである。
 したがって、ESDを行う前に必ず本書を開き、確認を行ったうえで治療に臨んでいただきたい。内視鏡的治療を担当する消化器内視鏡専門医のみならず、これからESDの技術を学びたいと思っている若手の消化器内視鏡医にとって本書は必携であり、ここに強く推薦する。また、このような大胆かつ貴重な本を編集、執筆された先生方に、心から敬意を表したいと思う。

臨床雑誌内科111巻6号(2013年6月増大号)より転載
評者●公立昭和病院院長/日本消化器内視鏡学会理事長 上西紀夫