書籍

静脈血栓塞栓症予防ガイドブック

エキスパートオピニオン

編集 : 冨士武史/左近賢人
ISBN : 978-4-524-26045-4
発行年月 : 2010年4月
判型 : B5
ページ数 : 252

在庫なし

定価6,480円(本体6,000円 + 税)

  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

近年増加傾向にある術後静脈血栓塞栓症に対し、保険適用となった抗凝固薬の情報をベースに予防対策・疫学・最近の動向・病態・診断を概説。各論では、発症頻度の高い周術期静脈血栓塞栓症に対し、整形外科・一般外科・産婦人科・泌尿器科領域におけるガイドラインに沿った症例ごとの予防法と管理の実際をそれぞれの分野のエキスパートが解説。臨床現場での必携の一冊。

I章 総論
 1.静脈血栓塞栓症の疫学
 2.病態
  A.血栓形成機序
  B.疫学からみた危険因子
  C.臨床像
  D.予後
 3.予防戦略
  A.予防対策の基本と重要性
  B.理学的予防法
  C.薬物的予防法
  D.出血リスクの考え方と対策
 4.検査と診断
  A.血液学的検査法―バイオマーカーの正しい知識
  B.画像診断
   (1)超音波
   (2)CT
   (3)核医学検査
   (4)血管造影
 5.発症した場合の処置・治療戦略
  A.抗凝固療法
  B.血栓溶解療法
  C.IVR
  D.手術療法

II章 周術期管理の実際―ガイドラインに基づくエキスパートオピニオン
 1.整形外科手術
  A.上肢の手術
  B.脊椎・脊髄の手術
  C.骨盤・多発外傷の手術
  D.大腿骨骨折の周術期VTEの予防
  E.人工股関節全置換術(THA)
  F.人工膝関節全置換術(TKA)
  G.膝関節手術
  H.下腿外傷(アキレス腱断裂を含む)
  I.腫瘍手術におけるVTE
 2.外科手術
  A.上部消化管の手術
  B.結腸・直腸の手術
  C.肝胆膵の手術
  D.腹腔鏡下手術
 3.産科の手術
 4.婦人科の手術
 5.泌尿器科の手術
 6.VTEハイリスク患者の手術
 7.抗凝固療法・抗血小板療法実施中の手術
 8.脂肪塞栓症候群の診断と治療

III章 予防・治療のためのチーム医療
 1.麻酔科医からのメッセージ
 2.外科医と産婦人科医からのメッセージ
 3.整形外科医からのメッセージ
 4.看護師からのメッセージ
 5.インフォームドコンセントの重要性
 6.法的側面
 7.予防ガイドラインの活用法

索引

肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症が医療行為に伴って生じた場合、患者にとっては「思いもかけない」合併症である一方、医療従事者にとっても本来の治療成果を台無しにするものとなる。このような合併症を少しでも減少させようという努力が多くの分野においてなされ、2004年に「肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドライン」が刊行されることとなった。また、本書の前身である「整形外科術後肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症マニュアル」が臨床現場での指針となるべく発刊された。その後、エノキサパリンとフォンダパリヌクスが相次いで整形外科領域の一部の術後静脈血栓塞栓症発症予防に保険適用となったため、2008年に「日本整形外科学会静脈血栓塞栓症予防ガイドライン」が刊行された。これらの2つの薬剤は、周術期静脈血栓予防に関して欧米では一般的に用いられており、日本でも腹部外科手術後の静脈血栓予防にも適応が拡大された。
 本来「ガイドライン」は多くのエビデンスに基づいて記載されており、静脈血栓塞栓症の予防を考えるうえで大きな指針となり、尊重すべきものである。しかし、臨床現場では一例一例が異なっており、薬剤開発時の治験症例のような均一な対象ではない。さらに理学的予防は基本的に二重盲検が行えないためにエビデンスレベルが低くなり、ガイドライン上「推奨」の根拠が低くなる。また、エノキサパリンとフォンダパリヌクスに関しては、使用例が増加するに従い、その効果や安全性もさらに明らかになってきた。
 本書は静脈血栓塞栓症の予防に関して精力的に戦いを挑んでいる臨床医を中心に、ガイドラインを尊重しながら「目の前の症例にどう対応するか?」という視点でエキスパートオピニオンを記載してもらった。現在、手術に伴う静脈血栓寒栓症の予防に関しては薬物・器具ともに欧米とほぼ同じ手段が可能であるものの、患者背景はけっして欧米と同じではない。本書が日本での周術期静脈血栓塞栓症の予防に少しでも役立てば望外の喜びである。
2010年4月吉日
冨士武史
左近賢人

肺血栓塞栓症(PTE)は、頻度は少ないものの発症すると時として死にいたらしめる重篤な合併症であり、発症した患者にはもちろんのこと、医師をはじめとした医療関係者にとっても、たいへん負担が大きいものである。PTEを引き起こす基礎となる病態は静脈血栓塞栓症(VTE)であり、その予防は、周術期医療においてもっとも重要なものの一つである。2004年に日本でもガイドラインができたが、その後予防薬剤であるフォンダパリヌクスやエノキサパリンが認可され、一般臨床の現場で使用が広がり始め、状況が変化してきた。このような中、南江堂より最新の知識を満載した本書が上梓された。編者のお二人はVTE予防に関する日本でもっとも高名な医師であり、冨士武史先生は整形外科、左近賢人先生は腹部外科で活躍されている。
 本書は、I章「総論」、II章「周術期管理の実際」、III章「予防・治療のためのチーム医療」の3章に分かれ、基礎から臨床の現場で使えるノウハウ、インフォームド・コンセントの実際、病院内での組織づくりの要点など、およそ考えられる要素を網羅している。I章の「総論」は、疫学から血液凝固のカスケードの解説、臨床像、予防戦略、バイオマーカーと画像診断、発症した場合の治療戦略と基礎知識を得るための十分な記述があり、しかも図が多用されわかりやすい構成となっている。II章は整形外科、腹部外科、産婦人科、泌尿器科の各科の手術それぞれに対する解説があり、さらに抗凝固療法や抗血小板療法実施中の手術時の対応、脂肪塞栓症候群の診断や治療など、きわめて実践的で有用な章となっている。VTEは整形外科の下肢手術において発生頻度が高く、また予防薬剤であるフォンダパリヌクスやエノキサパリンは、発売当初人工股関節全置換術や人工膝関節全置換術などにしか適応がなかったため、整形外科は他科に先んじて多くの経験を積んできた。このためII章は整形外科的な内容がやや多いが、産婦人科や腹部外科の医師も、整形外科で蓄積された経験を一読することは、十分役立つと思われる。
 ユニークなのはIII章で、麻酔科医、外科医、産婦人科医、整形外科医、看護師のそれぞれの立場からのメッセージとインフォームド・コンセントや法的側面などの記述があり、病院内で血栓対策委員会やワーキンググループなどの立ち上げ、メンバーの役割分担について参考になる。この章は、病院組織の中で責任のある人に特に役立つ内容であるが、PTEやVTEは治療において他科との連携が必須となるため、実際に診療に当たる若い医師も、それぞれの立場を理解し連携を深めていくことに役立てていただきたい。III章に心臓外科医・循環器内科医や放射線科医のメッセージもあれば、完全なものとなったであろうが、II章やI章の著者には多くの心臓外科医、循環器内科医、放射線科医が含まれ、熟読すればそのメッセージを読み解くことができる。
 エキスパートオピニオンと謙遜した副題が付いているが、内容はエビデンスに裏打ちされたもので、「安心して使える」、「いろいろな立場から徹底的に使える」、最高のガイドブックとなっている。現在、発売準備中のVTE予防薬もあるとのことなので、改訂版の企画もぜひお願いしたい。
評者● 津村弘
臨床雑誌整形外科61巻11号(2010年10月号)より転載

静脈血栓による肺血栓塞栓症(PTE)は循環器・心臓血管外科領域ではよく知られた疾患であり、診断・治療に関してはこの領域を専門とする医師にとってはさほど別世界のことと感じることはない。しかし深部静脈血栓症(DVT)によるPTEが突然発症して、適切な治療が行われていても致命的になりうるものであるとの認識は、これまで広い臨床医学の分野で共有されていなかったと思う。本書は静脈血栓塞栓症(VTE)/PTEに関して集学的に記述されたものとして秀逸である。
 序文にあるように、「本書は静脈血栓塞栓症の予防に関して精力的に戦いを挑んでいる臨床医を中心に、…(中略)エキスパートオピニオンを記載してもらった。…(中略)本書が日本での周術期静脈血栓塞栓症の予防に少しでも役立てば望外の喜びである」と編者らがその意気込みを述べているが、筆者もこれまでの経験から、VTE/PTEはどの領域の日常臨床でも起こりうるということを知っている。具体例をあげれば、心臓カテーテル検査後の安静仰臥によって引き起こされた例や、精神科入院中にベッド上に拘束され突然のショック状態に陥った例など、自験例でなくとも見聞した症例は枚挙にいとまがない。
 VTE/PTEに対する医療の姿勢としては迅速な診断と適切な治療が強調されてきたが、本書を読めば“予防”と“発症予測”がもっとも重要であることがわかる。第I章の総論では病態、予防戦略、検査と診断、発症した場合の処置・治療戦略が詳しく記載されている。これを読みすすむと、VTE/PTEに関して自分の知識がいかに十分でなかったかを思い知るであろう。そして第II章では整形外科手術、外科手術、産科手術、婦人科手術、泌尿器科手術でのVTE/PTE予防に関する周術期管理の実際が述べられているが、筆者の専門領域ではないこれらの領域で、VTE/PTEがどれほど臨床医と患者に不幸をもたらしてきたかが理解できる。「発症してからでは遅い。予防がすべてなのである」とのメッセージがひしひしと伝わってくる。VTE発症のハイリスク患者をいかにして知るかが重要であることも強調されている。この章では抗凝固療法・抗血小板療法実施中の手術についても詳しく記載されているので、日常的にこれらの薬剤を使用している心臓血管外科医にとっても知識を整理するうえでたいへんありがたい。第III章では各領域の医師からのメッセージというかたちで、予防・治療のためのチーム医療の重要性が述べられ、最後にインフォームド・コンセントの重要性とVTE/PTEに対する医師として負わねばならない法的側面にまで記述が及んでいる。
 「胸部外科医に対する書評」として述べてきたが、本書はすべての臨床医にとって「自分の治療はうまくいったが、予期せぬ合併症でそれが台無しになってしまった」との思いを抱かせぬためのメッセージがふんだんにちりばめられた良書である。
評者● 落雅美
胸部外科64巻2号(2011年2月号)より転載