書籍

がん看護BOOKS

がん患者のメンタルケア

: 川名典子
ISBN : 978-4-524-26828-3
発行年月 : 2014年12月
判型 : A5
ページ数 : 240

在庫あり

定価3,240円(本体3,000円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文

がん患者が自分らしく病気とつきあい、苦境を乗り越える力を発揮できるような看護を考える一冊。筆者が長年がん患者に寄り添ってきた臨床活動のうえに、理論的考察を重ねて導きだされた理論「ストレス・バランス・モデル」を提案している。臨床例を多く挙げた解説で、精神看護実践能力を高めるロールプレイを用いたコミュニケーション・スキル・トレーニングの方法を紹介。いきいきとした看護を目指す看護師必読。

【内容目次】
第I章 総合病院のなかの精神看護
 1.精神看護を知る
  A.精神看護とは何か
  B.精神看護を必要としている患者
 2.がん患者に寄り添う
  A.“がん”という疾患とその患者
  B.看護師は自分の感情や思考を大切に
 3.精神看護の現状と実践のための方法論の確立に向けて
第II章 看護師にとって対応のむずかしいがん患者とは
 1.語られてこなかった対応のむずかしい患者
 2.対応のむずかしいがん患者
  A.神経質すぎるAさん
  B.怒りっぽいBさん
  C.子どもっぽい行動に看護師が違和感をもったCさん
  D.自分の病状を認めようとしないDさん
  E.理由のわからないナースコールをくりかえすEさん
  F.死が近いことを自ら語るFさん
 3.対応のむずかしい患者の反応と防衛機制
 4.むずかしい患者に対する看護師の一般的な対応
  A.看護師がとりがちな対応とその実情
  B.患者の無意識下の防衛機制と看護師の無力感
 5.精神看護のスイッチ
 6.看護師の心は鏡
  A.患者自身にわからないことを看護師がわかるはずがない
  B.テストではなく看護師の心ではかる
  C.自分自身の気持ちや考えを感じ,みつめる
  D.感じる心から何を読み取るか
 7.看護に役立つ心理学−精神分析的自我心理学(精神力動論)
  A.力動論的観点
  B.局所論的観点
  C.構造論的観点
  D.経済論的観点
  E.適応論的観点
第III章 ストレス・バランス・モデルに基づく精神看護
 1.がん患者をケアする看護師のための精神看護モデル
  A.精神的健康とは
  B.ストレスの心理的影響(正常反応)
  C.ストレス・バランス・モデル
  D.ストレス・バランス・モデルを用いた精神看護
  E.ストレス・バランス・モデル活用のカギ−ストレスの認識
 2.適応障害とストレス・バランス・モデル
 3.ストレス・バランス・モデルで対応が困難な場合−精神科への相談
  A.精神医療の専門家に相談すべきとき
  B.精神科医の診察の勧め方
第IV章 がん患者が抱えるストレス
 1.がんによるストレスとそうでないストレス
  A.人にかかるストレスは千差万別
  B.がん患者によくみられるストレス
 2.再発・転移の不安によるストレス
  A.再発・転移の意味
  B.不確実性の不安とのつきあい
  C.再発・転移の不安や不確実性への不安に対する看護師の対応
 3.身体苦痛とストレス
  A.疼痛・そのほかの身体症状
  B.不眠
  C.身体感覚の剥奪
 4.人間関係の悩み
  A.医療者との人間関係
  B.家族との人間関係
  C.職場の人間関係
 5.日常生活の変化
 6.拘禁環境としての病院
  A.拘禁環境とは
  B.がん患者と拘禁環境
 7.経済的問題
 8.代替療法とのつきあい
 9.死の不安
 10.がん患者とストレスについて語ることの重要性
第V章 がん患者のストレス対処の力とその支援
 1.知識・情報
  A.病院・医療とのつきあい方
  B.利用できる資源の情報
  C.がんという病気の養生法−能動的ながんとのつきあい
  D.がん患者の苦悩とストレス対処法
  E.がん患者に多くみられるうつ状態
 2.経済力
 3.家族・友人の支援
 4.他者からの共感(わかってもらえたと思うこと)
 5.患者固有の力
第VI章 ストレス・バランス・モデルを用いた精神看護の実際
 1.事例で考える精神看護の展開
 2.そばにいて話をするという支援
第VII章 治療的・発達促進的環境としての看護
 1.看護に備わった潜在的な精神看護
  A.看護と環境
  B.治療的・発達促進的環境とは
 2.看護の果たす環境としての役割
  A.患者との対人関係と看護
  B.治療的・発達促進的環境としての看護の特徴
 3.環境を活用した安心感の保証
  A.患者の孤独とナースコール
  B.理由不明のナースコールをくりかえす患者に安心感を保証するための看護方法
  C.万能ではない安心感の保証−限界も知っておくこと
 4.コミュニケーションの重要性
第VIII章 看護師とがん患者のコミュニケーション
 1.精神看護はコミュニケーションに始まりコミュニケーションに終わる
 2.なぜ心理療法的アプローチが臨床看護ではうまくいかないか
 3.看護師のコミュニケーションとカウンセリングの相違
  A.カウンセリングとは
  B.看護師のコミュニケーション
 4.看護師のコミュニケーションの意義
  A.治療的・発達促進的環境
  B.ナラティヴ・アプローチとは
  C.ナラティヴ・アプローチの特徴
 5.看護師のコミュニケーションを考える
  A.コミュニケーションとは
  B.看護師のコミュニケーションの特徴
  C.看護師が陥りやすいコミュニケーションの落とし穴
  D.自然なコミュニケーションの治療的因子
 6.がん患者とのよりよいコミュニケーションのために
  A.コミュニケーションは言葉のキャッチボールから
  B.がん患者とのコミュニケーションで留意すべきこと
  C.がん患者と死を話題にする際の看護師の不安
  D.会話によって豊かになる看護
第IX章 がん患者とのコミュニケーション・スキル・トレーニング
 1.なぜコミュニケーショントレーニングが必要か
 2.ロールプレイを用いたコミュニケーション・スキル・トレーニング
  A.ロールプレイとは
  B.ロールプレイの構造
  C.ウォーミングアップ
  D.主要ロールプレイ部分
  E.終結とシェアリング
 3.第1段階のロールプレイ
  A.それぞれの役割での感想を述べ合う
  B.会話がキャッチボールになっているかどうかを検討する
 4.第2段階のロールプレイ
第X章 がん患者のためのサポートグループ
 1.がん患者への心理・社会的援助の方法
  A.個人心理療法(カウンセリング)
  B.情報提供(教育)
  C.集団精神療法
  D.セルフヘルプグループ
 2.サポートグループとは
 3.サポートグループによるがん患者支援の歴史
 4.サポートグループ運営のための基礎知識−集団精神療法
  A.集団精神療法の治療的因子
 5.グループ運営のために−構造と種類
  A.グループの参加者の人数
  B.場所の設定
  C.閉鎖型か,開放型か
  D.病期別か,病期混合型か
  E.がんの部位別グループか,混合グループか
  F.サポートグループ運営上のルール
 6.ファシリテーター
  A.ファシリテーターの役割
  B.ファシリテーターとしてすべきではないこと
  C.サブファシリテーターの役割
 7.ファシリテーター以外の医療者側参加者
  A.グループメンバーの役割
  B.オブザーバーの役割
 8.サポートグループの実際例
  A.聖路加国際病院方式
  B.杏林大学病院方式
 9.グループ継続の重要性−全体会
第XI章 もう1つのストレスマネジメント
 1.ストレスと身体症状
 2.ストレスと自律神経
 3.リラクセーション技術
 4.漸進的筋弛緩法
  A.漸進的筋弛緩法の効果
  B.漸進的筋弛緩法の適用
  C.漸進的筋弛緩法適用上の注意点
 5.漸進的筋弛緩法の実際
  A.漸進的筋弛緩法導入に必要な環境
  B.漸進的筋弛緩法の進め方
 6.そのほかのリラクセーション技術
 7.リラックスに活用できる体位
付録1 ロールプレイ(第2段階)のシナリオとヒント
付録2 漸進的筋弛緩法:ナレーションの例
おわりに
索引

はじめに

 この本は,がん患者に対する精神看護の本である.
 読者の方々は精神看護というと,精神科疾患患者に対する看護と思われるかもしれない.あるいはがん患者の不安や抑うつなど精神症状に対応する看護と思われるかもしれない.しかし,精神看護とは,がんという身体疾患をもった患者さんが通院・入院する総合病院のなかで,患者さんが自分らしく病気とつきあい,時には死に向かっていくための力を発揮できるように支援することと考えている.そして,精神症状への対応だけが精神看護でないことをわかりやすく表現するために,あえて表題にはメンタルケアという言葉を用いることにした.心のケア,精神的ケア,心理的ケアなどの用語はどれも本書で述べるメンタルケアと同義であると考えていただきたい.本書は筆者自身ががん患者の悩む姿を目の前に見て,悩み,考え,そして実践して確かめるという長年の臨床活動に,理論的考察を重ねて到達した1つの考え方を書かせていただいものである.
 過去には,がん患者に病名告知しない時代があった.その時代には真実を知らされずに不安なまま,貴重な残りの人生を病床で過ごすがん患者を前に,看護師はどのように接するべきか悩んだものである,そして病名告知さえすれば,多くの患者さんは自分でその後の過ごし方を自分で決められるのではないかと,期待したのだった.
 現在では,病名告知は一般的になり,がんの治療は進歩し,根治しないまでも,かなり長期間生活することができるようになってきた.しかし,再発・転移した進行がん患者の予後は依然として厳しく,がんはいまだ死を想起させる病である.では,病名告知をしなかった時代と比較して,現在の看護師はがん患者の気持ちを支え,寄り添うことができるようになったといえるだろうか.病名告知が普及したことで,看護師ががん患者と対峙するときに感じる苦悩・つらさは,かえって増したのではないだろうか.病名告知をしない時代に推奨されていた仮面の笑顔とあたりさわりのない励ましは,看護師ががん患者に向き合うことなく,マニュアル的な対応で患者とのかかわりを済ますことにつながり,看護師自身の苦悩から身を守る防衛,すなわち一種の鎧の役割も果たしていたとも考えられる.正直な病名・病状告知によって,がん患者は「うそで塗り固められる」ことは少なくなったが,がんと診断されること,転移・再発が確認されること,治療法が尽きてきていることなど,わるいニュースに直面しなくてはならなくなったのである.その結果,気持ちが揺らいだり,死や慣れ親しんだ生活との別れの悲しみ,死にいたるまでの苦痛を想像した不安や恐怖とともに過ごすがん患者は少なくなく,結果的にさまざまな精神症状をきたすことにもつながる.苦悩を抱えるがん患者に対して看護師の側も直面しなくてはならなくなっているのである.看護師対象の研修会や講習会でがん患者への心理ケアとかコミュニケーション技術への要望が高まっているのは,病名告知をしなかった時代よりも,看護師の“患者さんとつきあう困難感”が増していることを示しているのではないのだろうか.
 長年の看護師経験から,筆者は,人には苦境を乗り越える力が潜在的に備わっていると信じられるようになってきた.このことを教えてくれたのはがんになった人々であった.しかし,潜在力を発揮できなかったがん患者も多数見てきた.また,患者の潜在的な力を発揮できるように援助できる力が看護師にはあるのだが,看護師自身がもてる力に気づかず,力を発揮させていないのを残念に思うこともしばしばある.看護師がその力を発揮できるような理論枠組みと技法が求められていることを痛感してきたのである.
 そこで,本書では,看護師にとってむずかしく感じられるがん患者の理解のために精神力動論を用い,簡潔な看護モデルとしてストレス・バランス・モデルを提案する.また,患者に寄り添う看護師らしい方法として,環境としての看護の重要性とコミュニケーションについて述べ,そのトレーニング方法を紹介する.良質なコミュニケーションは看護師と患者の双方にとって心地よく,かつ実り多いものになるはずである.そして,看護師が臨床でできるサポートグループやリラクセーションも紹介する.
 本書の中では,ほかの学問分野からの理論や技法を看護に適用しているが,臨床の看護師が専門領域の深みにはまったり学術用語の多用によって混乱したり,看護の視点を見失うことがないように,引用や文献の紹介は必要最低限にし,言葉もできるだけ日常語にするように努めた.
 もし最後まで本書をお読みいただけたら,今度はぜひ批判的な目でみていただきたいと願っている.臨床でがん患者に日々ケアを提供している看護師の方々の自分の体験と,本書の内容を照らし合わせ,一致する点,不一致な点について論議し,生きた看護学を作り上げるたたき台として本書が役立てば,本望である.

2014年11月
川名典子