書籍

インスリンポンプ療法マニュアル改訂第3版

CSII療法・CGM・SAP療法導入・管理の手引き

編集 : 小林哲郎/難波光義
ISBN : 978-4-524-24878-0
発行年月 : 2020年3月
判型 : B5
ページ数 : 286

在庫あり

定価5,500円(本体5,000円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

インスリンポンプ療法の実際書として広く活用されているマニュアルの改訂第3版。改訂第2版以降の進歩(インスリンポンプ新機種の導入、CGMの普及、SAP療法の普及、日本糖尿病学会によるカーボカウント新基準の発表など)を盛り込んだ。糖尿病治療に関するデバイスの発展を反映し、糖尿病診療に携わるすべての医師・医療スタッフ必携の一冊。

1 インスリンポンプ療法(CSII療法)の有用性,EBM
 A.CSII療法の変遷
 B.CSII療法の原理と有用性
 C.CSII療法の適応
 D.CSII療法のEBM
2 インスリンポンプミニメド640Gの機器と設定
 A.ポンプの機能
 B.注入回路
 C.ミニメド640Gの特徴と使用方法
 D.トラブルシューティング
3 パッチ式インスリンポンプメディセーフウィズの機器と設定
 A.ポンプの機能
 B.注入回路
 C.メディセーフウィズの特徴と使用方法
 D.トラブルシューティング
4 インスリンポンプミニメド620Gの機器と設定
 A.ポンプの機能
 B.注入回路
 C.ミニメド620Gの特徴と使用方法
 D.トラブルシューティング
5 インスリンポンプパラダイム712,722の機器と設定
 A.ポンプの機能
 B.注入回路と交換方法
 C.パラダイム712,722の特徴と使用方法
 D.トラブルシューティング
6 導入時のインスリンの種類,基礎インスリン注入量,追加インスリン注入量の決定法
 6-1 基礎インスリン注入量の決定法
  A.体重をもとにした決定法
  B.CGMと短時間絶食試験を応用する方法
 6-2 追加インスリン注入量の決定法
  A.追加インスリン注入量の決定法の原則
  B.糖質摂取量をもとにした決定法
 6-3 補正インスリン注入量の決定法
  A.補正インスリン
  B.インスリン効果値(ISF)の設定
 6-4 小児における決定法
  A.どんな小児に始めるか
  B.CSII療法実施への注意点
  C.使用インスリンの種類:速効型と超速効型,希釈インスリン
  D.基礎インスリン注入量(暁現象,薄暮現象,運動時減量)
  E.食事追加インスリン量の設定
  F.補正追加注入量の設定
  G.CSII療法の中断もしくは中止
  H.CSII療法時の継続チェックポイント
7 インスリンポンプ療法での血糖コントロール目標と評価法
 A.血糖コントロールの目的
 B.血糖コントロール目標:HbA1c
 C.その他の血糖コントロール目標:beyond HbA1c
8 SAP療法の実際
 A.SAP療法とは
 B.SAP療法におけるCGMとインスリン注入の連動について
 C.SAP療法の導入適応例
 D.SAP療法の導入の実際
 E.SAP療法のメリットと外来診療での活用
 F.SAP療法の問題点・注意点と患者への指導
 G.SAP療法の今後
9 インスリンポンプ療法における食事療法
 A.追加インスリン注入法の種類
 B.食品交換表に基づく食事を摂取する際のインスリンポンプの使用法
 C.ボーラスウィザードの設定
 D.糖質以外の栄養素の血糖値への影響
 E.脂質による血糖上昇への実践的な対応方法
 F.経験則に則った食事での具体的な調整方法
 G.リアルタイムCGMに基づく食後血糖管理の重要性
10 インスリンポンプ療法における運動療法
 A.運動の生理
 B.1型糖尿病における運動
 C.自験例での運動中および運動後のポンプの調整
11 CGMおよびインスリンポンプ療法における日常生活の注意点
 A.入浴,シャワー,サウナ,日光浴
 B.睡眠:眠前に接続と血糖値の確認
 C.食事(外食),残業
 D.服装の工夫
 E.旅行時の注意点
 F.検査時のポンプおよびCGMの取り外し
12 シックデイへの対応
 A.シックデイの病態
 B.インスリンポンプ療法施行例のためのシックデイ・ルール
 C.トラブルでインスリンポンプが一時的に使用できなくなったとき
13 低血糖への対応
 A.低血糖の病態生理と症状
 B.糖尿病患者における低血糖
 C.重症低血糖と認知症・心血管リスク
 D.無自覚性低血糖
 E.低血糖の予防
 F.低血糖への対処
 G.インスリンポンプ療法と低血糖
14 重症低血糖調査委員会報告に学ぶポンプ治療者の注意点
 A.日本糖尿病学会の重症低血糖調査委員会報告に学ぶ
 B.無自覚性低血糖にかかわる重症低血糖
 C.新世代のインスリンポンプによる低血糖の回避
 D.インスリンポンプ療法における重症低血糖の原因とその対応
15 ケトーシス・ケトアシドーシスへの対応
 A.まずするべきこと
 B.診断および治療
 C.その他
16 特殊な状況におけるインスリンポンプ療法
 16-1 妊娠とインスリンポンプ療法
  A.妊娠時の病態とインスリンポンプ療法の意義
  B.妊娠合併例におけるインスリンポンプ療法の実際
 16-2 外科治療とインスリンポンプ療法
  A.手術に伴う代謝状態・血糖コントロールへの影響
  B.血糖管理の目標値
  C.血糖管理の実際
 16-3 糖尿病慢性合併症とインスリンポンプ療法
  A.血糖コントロールと糖尿病慢性合併症
  B.糖尿病細小血管障害とCSII療法
  C.大血管障害とCSII療法
  D.糖尿病胃弛緩症とCSII療法
  E.副腎皮質ホルモン投与とCSII療法
  F.インスリン抵抗性の強い2型糖尿病へのCSII療法
  G.インスリンアレルギーとCSII療法
17 小児におけるインスリンポンプ療法
 A.小児におけるインスリンポンプ療法
 B.小児におけるインスリンポンプの選択と操作
 C.小児におけるインスリンポンプ療法の導入
 D.基礎インスリン量(ベーサル量)の設定
 E.追加インスリン量(ボーラス量)の調整
18 インスリンポンプ療法におけるトラブルシューティング
 A.インスリンポンプに関連したトラブル
 B.持続的グルコースモニタリング機能に関連したトラブル
 C.医療施設の対応
19 インスリンポンプ療法の指導におけるチーム作り
 A.インスリンポンプ療法の指導におけるチームアプローチの必要性
 B.国内および海外での現状
 C.チームを作るために必要なトレーニング
 D.実際の診療での役割分担
 E.チームリーダーが注意すべき点
20 インスリンポンプ療法の今後
 A.インスリンポンプ療法の優位性
 B.インスリンポンプ療法の汎用性
 C.インスリンポンプ療法から人工膵への試み
 D.日常生活におけるインスリンポンプ療法
21 インスリンポンプ療法の医療経済
 A.インスリンポンプ療法にかかわる診療報酬加算の変遷
 B.インスリンポンプ療法の医療費概算(1型糖尿病の場合)
 C.MDIに対するCSIIの費用対効果
 D.CSIIに対する低血糖自動停止機能付きSAP(SAP+LGS)の費用対効果
索引

改訂第3版の刊行にあたって

 「糖尿病の合併症は減っているか?」と聞かれたら私は自信をもって「減っています。」と答えることができます。私が医師になった40数年前、糖尿病網膜症による失明、切断を要する糖尿病足病変、自律神経障害による下痢、糖尿病による腎障害は日常的な治療の対象でした。このような糖尿病による合併症がなくても糖尿病患者のインスリン療法は極めて繁雑な手技と手順を必要としました。たとえば、インスリン注射をする際には、インスリン注射器や針の煮沸消毒を行い、冷蔵庫からインスリン液を出して、溶液の泡ぬきをしてはじめて、皮下注射することができます。また、単回インスリン注射による重症な低血糖が起き、日常生活に支障をきたすこともたびたび起きていました。そして血糖コントロールという概念も十分なものではありませんでした。ジョスリン糖尿病センターのDr.George Cahillは血糖コントロールと合併症の発症とは無関係であるという意見(commentary)を当時のN Engl J Medに出していたことも記憶にあります。
 これに疑問を持った医師らが1型糖尿病患者を対象にDCCT研究を開始し、1993年に「血糖コントロールは糖尿病性細小血管障害を予防する」というエビデンスが確立されました。この研究で、1型糖尿病の血糖コントロールをある程度のレベルまで改善させることができるようになったのは、この頃黎明期を迎えた強化インスリン療法であり、なかでもインスリンポンプ療法(CSII)でした。インスリンポンプ療法は、血糖値を安定化することができますが、DCCT研究の結果を機としてインスリンの注入パターン、装置の小型化そして食事、運動など時々の状況に合わせた調節ができる注入器が開発され、患者さんのQOLが格段に向上することとなりました。一方、「どのような治療目標が患者にとって一番よいのか?」「人工膵島などclose-loopコントロールは有用なのか?」「経済負担を軽減できないか?」を日々考える状況も増大してきました。日本先進糖尿病研究会のメンバーは、これらの疑問を共有し「インスリンポンプ療法マニュアル」改訂第3版には、ポンプ治療の普及だけでなく、患者の側に立った内容のいっそうの充実がはかられています。
 本書には最新の治療が具体的な手順として書かれており、インスリンポンプ療法に携わる多くのスタッフにより日々の実践に活用され、医療の質の向上に貢献することが期待できます。
 最後に、本書の発行にあたっては、南江堂編集部および制作部の達紙優司および一條尚人両氏に大変お世話になったことを記して感謝したいと思います。

2020年2月
金沢での「第54回糖尿病学の進歩」を前に
小林哲郎、難波光義

 近年、糖尿病の治療は目覚ましい進歩を遂げている。発見から間もなく100年を迎えるインスリンも多くの製剤が市販され、持効型インスリンに加え、新規の超速効型インスリンの登場により、病態に応じたきめ細かな治療が可能になると期待されている。しかし、それでもなお、1型糖尿病やインスリン分泌が著しく低下した2型糖尿病においては、血糖コントロールに難渋する症例が多く存在する。そうしたなか、可能な限り生理的なインスリン分泌に近づけ、緻密な血糖管理を行うという点でインスリンポンプ療法は大きな力を発揮する。インスリンポンプを用いた持続皮下インスリン療法(continuous subcutaneous insulin infusion:CSII)に持続血糖モニター(continuous glucose monitoring:CGM)機能が付いたSAP(sensor augmented pump)やスマートガード(低血糖防止機能)の登場は、患者QOLの向上に大きく貢献しており、インスリンポンプ療法に大きなパラダイムシフトをもたらした。さらに最近では、国産のパッチ式インスリンポンプが発売され、チューブがなくコンパクトであるため服装面などの制約がないことから、機種選択の幅が広がっている。
 インスリンポンプ療法は非常に奥が深い。そのため、糖尿病専門医のなかでもエキスパートだけが使用するものであるというイメージをおもちの方も少なくないはずである。そして機器が進歩すればするほど、さらに敷居が高くなったと感じるのではないだろうか。本書『インスリンポンプ療法マニュアル(改訂第3版)』は、それらの懸念を一気に払拭してくれるであろう。インスリンポンプ療法に習熟するためには、ちょっとした疑問に答えてくれる先輩の存在がきわめて重要である。この“先輩”の役割を果たしてくれるのが本書である。わが国におけるインスリンポンプ療法を牽引してきた日本先進糖尿病治療研究会のメンバーが中心となって執筆されており、インスリンポンプ療法に必要なエッセンスと応用的な知識、トラブルシューティングにいたるまでが余すことなく盛り込まれている。
 実臨床においては理論やエビデンスだけではなく、その場の問題にすぐ答えを出してくれる本書のような実践的なマニュアルが必要である。手に取って最初に気づくことは、図解が多く取り入れられていることである。この工夫によって、読者にとって非常に親しみやすい紙面構成となっており、自然とインスリンポンプ療法に対する意欲が掻き立てられるようになっている。かゆいところに手が届くとはまさにこのことで、「ここが知りたかった」という細かなことが具体例をあげて明快に解説されている。そして、肩肘張らずに通読できるのが本書の特徴である。難解な言葉は何一つ出てこない。序文に患者側に立った内容であるとの言葉を見つけ、大いに納得した次第である。読み終えたときには「自分にもできそうだ」と全ての読者がお感じになるのではないだろうか。
 初心者、経験者を問わず、インスリンポンプ療法に関わる全ての医療者に必携の一冊としてお薦めしたい。私も座右の書として日常診療に役立てている。

臨床雑誌内科126巻4号(2020年10月号)より転載
評者●福岡大学医学部内分泌・糖尿病内科学 教授 川浪大治

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