教科書

ワインバーグ がんの生物学

: 武藤誠/青木正博
ISBN : 978-4-524-24307-5
発行年月 : 2008年10月
判型 : A4変
ページ数 : 874

在庫僅少

定価12,960円(本体12,000円 + 税)

正誤表

  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

がん研究の第一人者として世界的に著名なロバート A。ワインバーグ「The Biology of Cancer」日本語版。がんの生物学の歴史、分子生物学を駆使した最先端の基礎研究から臨床研究、治療についてまで包括的にまとめられたテキスト。ストーリー性のある、理解しやすい解説とビジュアル的にも特に優れた多くの図・写真が本書の特徴である。がんの発生・浸潤・転移のメカニズム、さらには免疫抗体療法、薬物療法がどのようにがんを征圧してゆくのか、がんの正体をひも解き、基礎から臨床への橋渡しとなる一冊。

the bioligy of CANCER
Robert A. Weinberg

第1章 細胞および個体の生物学と遺伝学
第2章 がんの本性
第3章 腫瘍ウイルス
第4章 細胞性がん遺伝子
第5章 増殖因子、増殖因子受容体とがん
第6章 細胞質でのシグナル伝達回路が、がんの形質の多くを決定している
第7章 がん抑制遺伝子
第8章 レチノブラストーマ・タンパク(pRb)と細胞周期時計の制御
第9章 p53とアポトーシス:護衛隊長、兼死刑執行人
第10章 永遠の生命:細胞の不死化と腫瘍形成
第11章 多段階腫瘍形成
第12章 ゲノムの完全性の維持とがんの発達
第13章 対話が独り言に取って代わる:異種細胞間相互作用、そして血管新生の生物学
第14章 外へ:浸潤と転移
第15章 群衆整理:腫瘍免疫学と免疫療法
第16章 がんの合理的な治療
略語集
用語解説
索引

歴史的に見た現代のがん研究の第1期は1975年の原がん遺伝子の発見とともに始まり、主としてヒトのがんの起源、すなわちこの病気を起こす分子と細胞とに焦点が当てられました。その第2期は今(2008年)まさに始まりつつあり、これらの諸発見を、この病気の治癒を含めた真に効果的な臨床治療法へと転換してゆくことに、かつてない多くの努力が注ぎ込まれています。
 第1期にわくわくするような多くの発見がなされたにも関わらず、それらは専門化した学術雑誌やとさどき出版される総説にしか載らなかったので、この進歩の多くはがんの生物学を研究する初学の学生諸君には手の届かない所に留まっていました、このことは医学生物学の分野の将来にとって重要な問題を表しています。すなわち、これらの若い人々こそが、まさに現代のがん研究の第2期の進歩を推進して行くべき人々だからです。
 この教科書はこの問題に対処しようとする1つの試みなのです。この本は、上級の学部学生や、初年の大学院生諸君のために書かれており、また研究をすでに人生の仕事として選択した人たちや、腫瘍学を専攻する医師になろうとする人々を含めて読者の対象としています。過去30年間にわたって、この分野の研究者たちは豊富な、見た目にも美しい多くのデータを発表してきたので、読者の精神のみならず視覚をも刺激できるようにと、こういった映像の多くをここに含めました。
 日本語版の読者は2人の素晴らしい翻訳者、すなわち京都大学大学院医学研究科の武藤 誠(Makoto Mark Taketo)教授と青木正博(Masahiro Aoki)准教授の恩恵を安ける幸運に浴しています。お2人は協力して、この翻訳プロジェクトに3つの非凡な力を与えてくれました。すなわち、英語の慣用句や微妙な差異に対する洗練された感覚と、分子腫瘍学における広汎でかつ深い知識、そして個々の語句が正しく理解され翻訳されるために注がれた粘り強い努力の3つです。私はこの本が他のどんな教科書よりも入念に翻訳されたということに確信を持っています!
 この本の全体を通して、がんの生物学という科学ができるだけ簡単で近づきやすいように、そして延々と続く複雑さや恐ろしくなるような実験上の細部のせいで、重要な諸原理が霞んでしまうことのないように多くの努力をしたつもりです。その動機はきわめて単純で、この分野が今やいかに豊富で際限なく魅力的な科学の分野になったかを示して、次世代を担う研究者達をがん研究へ勧誘することにあるのです。
著者
米国、マサチューセッツ州、ケンブリッジにて
2008年4月10日

本書はRas遺伝子変異やRb遺伝子の発見で有名なRobert A Weinberg博士による「The Biology of CANCER」の日本語訳である。おそらくこれまでに、がんの生物学について書かれたもっとも包括的かつ教育的な書物の一つであろう。がん研究は、前世紀後半から、遺伝学、ウイルス学、分子生物学、免疫学、疫学を含む、生物学・遺伝学の広大な分野を巻き込みつつ、急速に発展を遂げた学問分野である。本書では、これらの発展の歴史と現在の到達点が、著者の透徹した知性によって整理され、また、確固とした論理構成によって語られており、それは、読者にある種の感銘を与えるものである。このような広大な分野にわたるがん研究の発展と現状が、ただ1人の著者によってかくも整然と詳細に執筆されていることは、多くの読者にとって驚嘆に値するだろう。
 本書では、メンデルの遺伝学やがんの基本的な概念の説明からはじまり、近年のがん研究の発展の突破口となった、がんウイルスと細胞性がん遺伝子に関する画期的な研究と遺伝子変異やがん抑制遺伝子の概念の解説に続いて、細胞周期の制御や細胞死のメカニズムなど、発がんに関わるさまざまな細胞機能の各論、詳細が述べられた後、転移のメカニズムを含む環境相互作用、血管新生や、免疫システムとの相互作用、治療学論など、がんに関する生物学、遺伝学、免疫学が広く網羅されている。本書を通読すると、がんを遺伝子レベル・分子レベルで論理的に理解すべく過去30年以上にわたって営まれた科学研究が達成した成果に対する強固な信頼と、今後人類がよりよくがんを理解するであろう可能性に対する筆者の確信を感ずることができる。
 記述は概して、大変おもしろく、つい時間がたつのを忘れて読み進んでしまう。学生を含む初学者から、さまざまな領域の第一線でがん研究に従事している研究者にいたるまで、それぞれの世代にとって、本書は飽くことのない興味と興奮をかき立ててくれるだろう。日本語訳も大変読みやすい。がんを専門とするしないにかかわらず、生物学・遺伝学に興味のある諸兄にとって一読の価値のある著作だと思う。
評者● 小川誠司
臨床雑誌内科104巻4号(2009年10月号)より転載