書籍

骨粗鬆症治療薬の選択と使用法改訂第2版

骨折の連鎖を防ぐために

編集 : 萩野浩
ISBN : 978-4-524-23176-8
発行年月 : 2022年9月
判型 : A5
ページ数 : 256

在庫あり

定価4,180円(本体3,800円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

二次性骨折に対する予防的な骨粗鬆症薬物治療について,術後早期薬物療法開始のキーマンとなる整形外科医の視点から簡潔にまとめた書籍の改訂版.初版の内容を再検討・再編し,骨粗鬆症治療薬に関する最新の情報を盛り込んだ.なかでも薬剤選択や逐次投与については現時点での国内外のコンセンサスをまとめており,豊富なケーススタディなど,臨床現場ですぐに役立つ一冊となっている.

T.骨粗鬆症の定義と診断
   骨粗鬆症の定義
   骨粗鬆症の診断を進める上で知っておきたいこと
   原発性骨粗鬆症の診断基準
   診療の進め方
   続発性骨粗鬆症
   「骨折連鎖を断つ」が重要

U.臨床像
   病歴の取り方
   骨粗鬆症を疑わせる身体所見

V.他疾患と間違えないために
   関節リウマチ(RA)
   生活習慣病関連骨粗鬆症
   ステロイド性骨粗鬆症

W.治 療
 A 開始基準
   原発性骨粗鬆症
   生活習慣病
   ステロイド性骨粗鬆症
   がん治療に伴う骨量減少
 B 治療目標と休薬
 C 治療薬の特長
  1.ビスホスホネート製剤
   臨床効果
   多彩な投薬方法
   ビスホスホネート製剤治療の対象
   投与にあたっての注意
   ビスホスホネート製剤の治療効果評価
   長期使用例での休薬
  2.SERM
   骨粗鬆症ガイドラインにおけるSERMの評価
   骨折抑制効果
   FRAX®による骨折リスク評価と骨折抑制効果
   併用療法
   逐次療法
   周術期管理,休薬
   骨折連鎖を防止するポイント
  3.抗RANKLモノクローナル抗体製剤
   適応,禁忌,投与法
  4.テリパラチド
   テリパラチドの骨代謝に対する影響
   テリパラチドの適応患者
   逐次療法
   その他の効果
   新たなテリパラチド製剤
   さらに効果を高めるために
  5.アバロパラチド
   臨床効果
   危険因子と治療効果
   逐次療法
   投与にあたっての注意
  6.抗スクレロスチンモノクローナル抗体製剤
   ロモソズマブの作用機序
   ロモソズマブの適応
   逐次療法
   周術期のロモソズマブ投与
   注意すべき副作用
  7.活性型ビタミンD3製剤
   ビタミンDと活性型ビタミンD3製剤
   活性型ビタミンD3製剤による骨折抑制効果
   活性型ビタミンD3製剤を用いた併用療法の効果
   ビタミンDと整形外科手術
  8.カルシトニン製剤
   カルシトニン製剤の特徴
   骨粗鬆症の疼痛とカルシトニン製剤の鎮痛効果
   QOL・ADL改善効果
   カルシトニン製剤の骨への効果
   カルシトニン製剤の有用性
   カルシトニンの副作用
 D 治療薬の使い分け
   骨粗鬆症治療薬
   骨粗鬆症の病態に基づく薬物選択
   骨量減少機序に基づく薬物選択
   骨量減少部位に基づく薬物選択
   骨折高リスクに基づく薬物選択
 E 逐次療法
   骨粗鬆症治療における逐次療法
   Anabolic first
   骨吸収抑制薬の逐次療法
   骨折ドミノ

X.治療効果判定をどうするか
   治療効果判定の概要
   新規骨折の発生
   骨量評価
   骨代謝マーカー
   疼痛およびQOLの評価

Y.有害事象への対応
 A 薬剤による有害事象
  1.ビスホスホネート製剤,抗RANKLモノクローナル抗体製剤
   両剤共通の有害事象@:顎骨壊死
   両剤共通の有害事象A:非定型大腿骨骨折
   ビスホスホネート製剤の有害事象@:急性期反応
   ビスホスホネート製剤の有害事象A:上部消化管障害
   抗RANKLモノクローナル抗体製剤の有害事象:低カルシウム血症
  2.その他の薬剤
   選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)の有害事象
   テリパラチドの有害事象
   アバロパラチドの有害事象
   ロモゾズマブの有害事象
   活性型ビタミンD3製剤の有害事象
 B 腎障害例に対する骨粗鬆症治療(透析患者も含めて)
   慢性腎臓病(CKD)における骨脆弱性
   CKDの定義
   CKDにおける骨脆弱性と骨質
   CKDにおける骨代謝マーカー測定の意義
   CKDに伴う骨・ミネラル代謝異常(CKD-MBD)
   CKD患者における骨作動薬の使用基準

Z.薬物療法に加える治療
 A 運動療法
   運動療法の目的
   骨密度維持・増加
   背筋強化
   転倒防止
   運動処方の効果と留意点
 B 食事療法
   骨粗鬆症に関わる栄養因子
   カルシウムの重要性
   ビタミンDの重要性
   ビタミンKの重要性とucOC
   栄養に関するガイドライン(2015年度版)の要約紹介
   拒食症

[.ケーススタディ
  1.閉経後早期の骨粗鬆症例
  2.高齢者で骨折を有しない骨粗鬆症例
  3.多数回繰り返す骨粗鬆症性椎体骨折症例
  4.関節リウマチ例
   症例1
   症例2
   反省点
   非定型大腿骨骨幹部骨折の対応ポイント
  5.大腿骨近位部骨折術後の症例
   大腿骨転子部骨折例
   非定型大腿骨転子下骨折例
  6.橈骨遠位端骨折,上腕骨近位端骨折(外科頸骨折)後
   橈骨遠位端骨折例
   上腕骨近位端骨折例
  7.椎体形成術後の症例
  8.人工関節置換術後の症例
   症例1
   症例2
   症例3
  9.妊娠・出産後の骨粗鬆症例
   症例1
   症例2
   ドミノ骨折予防のポイント
  10.ステロイド服用症例
   症例1
   症例2
   ステロイド性骨粗鬆症に対する薬物療法の今後
  11.肝障害例
  12.原発性副甲状腺機能亢進症例
   原発性副甲状腺機能亢進症の発見契機と治療
  13.疼痛のコントロールを要する症例

\.ドミノ骨折を防ぐための薬物治療の地域連携
   ドミノ骨折と二次性骨折予防
   骨折リエゾンサービス(FLS)
   二次性骨折予防での病病連携と病診連携
   地域で行われている連携の実際

付録.骨粗鬆症治療薬一覧

序文

 1980年代後半に二重エネルギーX線吸収法による骨密度測定法が発明され,骨粗鬆症診療での骨折リスクの評価が容易となった.それに伴って治療薬の開発が進み,21世紀に入ってからはその長足の進歩によって脆弱性骨折予防が可能となった.2014年に本書初版が出版された後も,わが国では新しい作用機序を有する治療効果の高い薬剤が登場し,多数の大規模試験結果の解析により,その有効性に関する知見が集積されてきた.そこで本改訂に当たっては,骨粗鬆症治療薬に関する最新の情報を盛り込むように,内容を再検討・再編した.なかでも薬剤選択や逐次投与については,現時点での国内外のコンセンサスをまとめ,ケーススタディでは臨床現場での実際の対応を盛り込んだ.

 本書のテーマである「骨折連鎖の防止」「ドミノ骨折防止」の取り組みは,近年,国内外で大きく進んだ.骨折連鎖予防のためのFracture Liaison Service(FLS)は国際骨粗鬆症財団(IOF)や脆弱性骨折ネットワーク(FFN)が中心となって,世界中で進められている.IOFはCapture the Fracture®プログラムを展開し,各医療機関がFLSの取り組みを申請すれば国際的評価基準によって審査して,「金賞」「銀賞」「銅賞」を認定している.2017年3月にわが国で認定されていたのは「銀賞」1施設のみであったが,2022年4月には「金賞」9施設をはじめ,計47施設がIOFから認定されている.2022年4月の診療報酬改定で二次性骨折予防継続管理料が新設されたことから,「ドミノ骨折防止」がさらに広く普及すると期待されている.

 わが国は2007年に全人口に対して65歳以上の人口が21%を超え,超高齢社会となった.われわれは世界に先駆けて,多くの先人が渇望した長寿を手にしたのである.今後,国民の希望は健康長寿であり,脆弱性骨折の予防はその最も重要な対策のひとつである.そのためには骨粗鬆症治療薬の適切な選択,逐次投与,効果判定が必要である.本書は健康寿命延伸のために奮闘されている臨床現場で役立つと確信している.

2022年8月
萩野 浩

多数の症例をもとに,骨粗鬆症の診療経験がない方でも実践できるエッセンスが満載!

 わが国は未曾有の超高齢社会を迎えており,高齢者の健康寿命延伸は喫緊の課題である.骨粗鬆症の高齢者に生じる脆弱性骨折は要介護の原因となるだけでなく,生命予後も悪化させる.
 しかしながら,骨粗鬆症治療の重要性が臨床現場で十分に認識されているとはいいがたい.自覚症状がなく,診断されないまま経過し,脆弱性骨折を契機に骨粗鬆症と診断されるケースが多い.片側の大腿骨近位部骨折を発症した場合,対側にも発症するリスクが高いため,骨粗鬆症治療を導入してフォローアップを行う必要性が高いが,実際には術後に治療が導入されないケースも多い.
 「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版」は本領域における代表的なガイドラインだが,分量が多く必要な情報を得るのに時間がかかる.その点,本書はコンパクトでエッセンスが詰まっていて,診療の合間にも使いやすい.
 本書の構成として,初めに骨粗鬆症の定義や診断基準,鑑別診断といった基礎的な内容が提示されている.第W章「治療」では,今回の改訂で新規薬剤の情報が追加されて,現在使用可能な薬剤が網羅されている.2019年に販売が開始されたromosozumabの使用例は徐々に増えている.PTHrPアナログであるabaloparatideは2021年3月に承認されたばかりで,まだ使用例は少ないが,今後の動向に注目である.これらについても薬剤のエビデンスや適応,投与する際の注意点などが記載されているので,新規に処方するうえで助けとなる.また,逐次療法についても,薬剤の作用機序を踏まえて解説されていて,どの薬剤をどのような順番で投与すればよいかといった事項についての知見を得ることができる.
 さらに本書の特長として,ケーススタディに多くのページが割かれている点があげられる.骨折の既往がない,脆弱性骨折を多数合併,骨折術後,ステロイド性骨粗鬆症といったさまざまな病態について,患者の年齢や併存疾患,治療歴の異なる多数の症例が提示されている.臨床現場では薬剤選択に苦慮するケースが多いが,本書で類似症例を参考にすることは適切な薬剤選択の一助となるだろう.
 以上のように,本書は骨粗鬆症の診療経験がない方でも実践できるような内容となっている.骨粗鬆症の治療は日進月歩で,知識のアップデートが欠かせない.現状では骨粗鬆症は整形外科医が診ることが多いが,超高齢社会において骨粗鬆症に対する理解の必要性はますます高まっている.専門分野にかかわらず,多数の高齢者を診療する医師にお勧めしたい一冊である.

臨床雑誌内科131巻4号(2023年4月増大号)より転載
評者●東京大学医学部附属病院老年病科 助教 矢可部満隆





 超高齢社会の真っ只中にあるわが国では,健康寿命をいかに延伸するかが課題とされている.骨脆弱性に起因する大腿骨近位部骨折や脊椎椎体骨折は日常生活動作(ADL)の低下に直接的に結びつくだけでなく,医療費や介護費の負担増による経済的損失も大きい.わが国では多彩な骨粗鬆症治療薬が使用可能であるが,それぞれ得意とする守備範囲の違いがあり,どのように対応すればよいのかむずかしいなどの言葉を耳にすることも多い.本書は,ありふれた疾患である骨粗鬆症についての網羅的な情報が整理されており,普段から骨粗鬆症診療をしている医師だけでなく,骨粗鬆症治療を専門としていない医師,メディカルスタッフ,学生にも有用な書籍であると思う.

 骨粗鬆症は骨密度が低い状態と認識されていることが多いが,これがすべてではない.骨粗鬆症は骨折しやすい状態であり,骨密度が低い以外にも,骨質が劣化している状態も含まれる.骨粗鬆症診療の目的は骨密度を上昇させることだけではなく,新たな骨折を予防してADL低下を防ぐことにある.骨粗鬆症の定義と診断からスタートする本書では,原発性骨粗鬆症だけでなく,生活習慣病,ステロイド性骨粗鬆症,がん治療に伴う骨量減少についても解説している.骨粗鬆症診療のメインである薬物治療については,ビスホスホネート製剤,選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM),抗receptor activator of NF-B ligand(RANKL)モノクローナル抗体製剤,テリパラチド,アバロパラチド,抗スクレロスチンモノクローナル抗体製剤,活性型ビタミンD3製剤,カルシトニン製剤に分けて解説している.臨床現場ではこれら多くの製剤のなかから,患者の臨床像に合わせた使い分けを考え,治療した後の効果判定を行い,効果不十分または投与期限を迎えた場合に逐次療法を考えていく.こうした実際の思考過程に沿うように本書は構成されている.また薬物治療以外にも運動療法,食事療法についても触れている.

 有効性の期待値を考慮して薬剤選択をしていくが,有害事象のリスクマネジメントも重要である.ビスホスホネート製剤や抗RANKLモノクローナル抗体製剤など骨吸収抑制剤共通の有害事象である顎骨壊死,非定型大腿骨骨折のほか,薬剤ごとに気を付けるべき有害事象と対策について解説している.世界有数の長寿国であるわが国では,慢性腎臓病(CKD)の患者が多くいる.CKDではカルシウム代謝に異常をきたすため,続発性骨粗鬆症になるリスクがきわめて高い.原発性骨粗鬆症に対する薬物治療はカルシウムと天然型ビタミンD3の補充を前提に組み立てられるが,進行期のCKDではビタミンD3の活性化障害をきたしているためカルシウム補充が十分にできない.活性型ビタミンD3製剤の投与が肝となるが,投与量が多すぎるとかえって高カルシウム血症となって腎臓に過度な負担をかけてしまうことになる.繊細な調整が必要となるCKD患者の骨粗鬆症診療についても,本書は解説している.

 読み進めて一通りの知識を習得すると,最後にはケーススタディが提示される.閉経後早期の症例,高齢者で骨折を有しない症例,多数回繰り返す骨粗鬆症性椎体骨折例,続発性骨粗鬆症の代表格である関節リウマチ例,大腿骨近位部骨折術後例,橈骨遠位端骨折・上腕骨近位端骨折例,椎体形成術例,人工関節置換術後例,妊娠・出産後例,ステロイド服用例,肝障害例,原発性副甲状腺機能亢進症例,疼痛のコントロールを要する症例など多彩なシチュエーションが想定されている.このような実臨床の現場を想定した症例をとおして考えることは,あたかも診療チームでカンファレンスをしているようであり,学生や若手医師に対してスモールグループディスカッションを行う際に利用することもよいかもしれない.最後にドミノ骨折を防ぐための地域医療連携で締めくくる点は,個人的には非常に感慨深く,編者の思い入れを感じずにはいられない.

臨床雑誌整形外科74巻5号(2023年5月号)より転載
評者●埼玉医科大学整形外科教授 門野夕峰

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