教科書

精神医学テキスト改訂第5版

精神障害の理解と治療のために

編集 : 上島国利/立山萬里/三村將
ISBN : 978-4-524-22866-9
発行年月 : 2023年3月
判型 : B5
ページ数 : 406

在庫あり

定価4,620円(本体4,200円 + 税)

  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文

理学療法士・作業療法士養成過程を中心とした学生向けテキスト.現場で扱う精神疾患の解説を詳しくし,記述に軽重をつけ,また主要な疾患・症候は簡潔な「症例(ケース)」にて典型例を紹介することで具体的な理解を容易にしている.今改訂では,好評の「症例」を充実させたほか,「心理検査と統計」「ゲーム障害」「漢方薬」の項目を追加し,採用者の要望に応えて全体を充実させた.

I 精神医学の基礎知識
 A. 精神医学の歴史
  1 精神医学の源流
  2 現代精神医学のはじまり
  3 最近の精神医学
  4 日本の精神医学の歴史
 B. 精神医学の多元的な診断と治療
  1 精神障害の力動的なモデル
  2 DSM診断基準(III〜IV TR版)の「多軸評定法」
  3 マイヤーの「精神生物学」
  4 クレッチマーの「多元診断」
  5 ビルンバウムの「構造分析」
  6 最近の病因論と「構造分析」
 C. 精神医学の基礎となる知識
  1 脳の形態と機能
  2 脳・神経の検査法
  3 こころの発達理論と防衛機制
  4 ‌心理検査の種類
 D. 精神科患者への接し方
  1 治療者─患者関係のとり方
  2 治療契約と構造の重要性
  3 インフォームド・コンセントの実際─精神医療領域で
 E. 精神症状のとらえ方
  1 精神科的面接の方法
  2 精神症状のとらえ方
  3 精神症状評価尺度の使い方
 F. よくみられる精神症状と状態像
  1 ‌基本的な精神状態─意識・知能・性格の問題
  2 知覚・思考・感情の異常
  3 記憶・意欲・行動・自我意識の異常
 G. 精神科に必要な脳・神経症状の知識
  1 巣症状
  2 脳局在症候群
  3 大脳辺縁系,間脳,大脳基底核,脳幹部の局所損傷による精神・神経症状
  4 その他(意識障害に似た脳機能障害)
  5 高次脳機能障害
II 精神障害の理解のための知識
 A. 身体因性の精神障害
  1 症状性および器質性精神障害
  2 認知症性疾患
  3 精神作用物質による精神と行動の障害
  4 てんかん 岩波 明
  5 ゲーム障害
 B. 内因性の精神障害
  1 統合失調症
  2 統合失調型障害と妄想性障害
  3 気分(感情)障害
 C. 心因性の精神障害
  1 神経症性障害とストレス関連障害
  2 各  論
  3 詐病と虚偽性障害
 D. 摂食障害,睡眠障害
  1 摂食障害 西園マーハ文
  2 睡眠障害
 E. 成人のパーソナリティおよび行動障害
  1 概  念
  2 症状と診断
  3 治  療
 F. 知的障害と心理的発達の障害
  1 発達障害のとらえ方と特徴
  2 知的障害
  3 学習障害
  4 小児自閉症
  5 アスペルガー症候群
  6 注意欠陥多動性障害
 G. 児童・青年期の行動と情緒障害
  1 児童・青年期の行動と情緒障害の分類
  2 児童・青年期の行動と情緒障害の一般的な特性
  3 児童・青年期の行動と情緒障害の症状・診断・治療
  4 児童・青年期に発症する統合失調症
  5 児童・青年期に発症する気分障害
  6 児童・青年期に発症する強迫性障害
  7 児童・青年期に発症する不安障害
  8 児童・青年期に発症する身体表現性障害
  9 児童・青年期に発症するストレス障害
  10 チック障害
  11 その他の児童・青年期の行動と情緒の障害
 H. 女性のライフサイクルと心身医学
  1 女性のライフサイクル
  2 女性の心身医学
III 精神科における治療法
 A. 薬物療法 松倉素子
  1 抗精神病薬
  2 抗うつ薬
  3 気分安定薬
  4 抗不安薬
  5 睡眠薬
  6 抗てんかん薬
  7 精神刺激薬
  8 アルコール依存症治療薬
  9 抗認知症薬
  10 注意欠如多動症治療薬
  11 遅発性ジスキネジア治療薬
 B. 精神療法とカウンセリング
  1 カウンセリング
  2 精神療法(心理療法)
 C. 社会療法と家族療法
  1 社会療法
  2 家族療法
 D. 精神科作業療法
  1 作業療法とは
  2 作業療法の歴史
  3 作業療法プロセス
  4 治療・支援構造
  5 回復過程と作業療法
 E. 精神科救急治療法
  1 精神科救急とは
  2 精神科救急の受診形態
  3 精神科救急面接法
  b.同伴者からの情報
  4 精神科救急の診断手順
  5 精神科救急の各病態と治療法
  6 精神保健福祉法とインフォームド・コンセント
 F. 電気けいれん療法
  1 治療の適応となる疾患
  2 治療の副作用
  3 治療の流れ
IV 精神医学に関連した知識
 A. 他科とのリエゾン精神医学での注意点
  1 コンサルテーション・リエゾン精神医学の定義と歴史
  2 医療スタッフとリエゾン精神医学
  3 他科とのリエゾン精神医学での注意点
 B. 精神鑑定と精神医療関連の法制度
  1 精神鑑定の定義と種類
  2 精神医療法制度の変遷
 C. 産業精神医学
  1 産業精神医学とは
  2 労働安全衛生法
  3 業務上のストレッサー
  4 職域におけるストレスモデル
  5 メンタルヘルスの保持・増進(一次予防活動)
  6 職域における精神障害の早期発見・早期介入(二次予防活動)
  7 職場復帰支援(三次予防活動)
 D. 自  殺
  1 概  念
  2 疫  学
  3 自殺問題の背景
  4 自殺予防の対象
  5 自殺予防対策
  6 自殺予防対策の事例
  7 遺族対策
 E. 向精神薬一覧
  1 抗精神病薬
  2 抗うつ薬
  3 抗不安薬
  4 睡眠薬
  5 気分安定薬
  6 精神刺激薬
  7 漢方薬
●索  引

改訂第 5 版の序文

 前版の『精神医学テキスト』改訂第4版が刊行されてから,早いものでもう6年になる.この6年間は文字通り激動の年月であった.何といっても,2019年末に中国の武漢で最初の患者が報告されてから,あっという間に世界中に蔓延した新型コロナウイルス感染症の大流行である.足かけ5年になる2023年1月の現在でもまだ収束にはいたっていない.未曽有の新型コロナウイルス感染症は医療・医学のみならず,社会,経済,文化を含め,あらゆる面で人々の生活に甚大な影響を及ぼしてきた.もちろん精神医学も例外ではない.感染への恐怖,対人交流の制限と社会的孤立,経済的困窮など,さまざまな要因があいまって,人々の精神的健康が大きく損なわれている.うつ病をはじめ,精神疾患に罹患する人が増加し,もともと疾患を有していた人も症状が増悪するケースが後を絶たない.ずっと減少を続けてきた日本の自殺者数も横ばい,女性や若年者ではむしろ増加傾向にある.
 さらに2022年2月にはロシアによるウクライナ侵攻が始まり,世界中に衝撃を与えた.欧米の経済制裁とも関連して,世界的な経済不安が続き,世の中全体に不穏な空気が漂うこととなった.あわせて日本では線状降水帯による水害といった天災や,元首相の暗殺といったショッキングなニュースも人々のこころに深刻な打撃を与えている.
 はたしてこのような中でわれわれはどのように自分たちのこころの平和を保っていけるのであろうか.私はこのようなときこそ,精神疾患を有する人たちへの対応はもちろん,そうではない人たちのレジリエンスの向上を含めて,精神医学とその関連領域の人たちが力をあわせ,対話と連携によって,社会全体のウェルビーイングの増進に努めるべきであると考える.改訂第4版の序文でも述べたが,本書は医師や医学生のみならず,看護師,臨床心理士,作業療法士,言語聴覚士,理学療法士など,医療に携わる多職種の人々が精神医学について広く学んでいただくプラットフォームであると自負している.基本的重要事項を重んじ,できるだけ平易な表記を心がけているところは前版と同様であるが,とくにこの6年の間に大きく変わった精神医学の最新情報を可能な限り取り入れることを試みた.2021年の東京オリンピック・パラリンピックでは「多様性 diversity」が声高く謳われたが,精神科的問題も多様性と個性が大きくクローズアップされてきている.各章の著者には,そのような時代の流れに対応するべく,無理を申し上げて改訂をしていただいた.第4版の改訂に引き続き,精神医学の王道であり,不動の財産とも呼ぶべき「精神医学の基本問題」を重んじながら,最先端の知識・情報を集約できたものと考えている.さまざまな立場の読者が本書を通じて精神医学を学び,脳とこころのあり方を理解する道しるべとなることを願っている.

2023年1月編著者を代表して 三村  將

9784524228669