教科書

人体解剖学改訂第42版

: 藤田恒太郎
ISBN : 978-4-524-22246-9
発行年月 : 2003年9月
判型 : B5
ページ数 : 626

在庫あり

定価10,260円(本体9,500円 + 税)

  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

著者自身の体験と学者としての信念に基づいて記述された本書を、旧版の主旨は変えずに学問的に進歩したところを改訂。図はほとんどカラー化し、組織写真をはじめ、脈管系、神経系を中心に理解しやすい新図を多数追加した。医学部の学生には解剖学のminimum requirementがわかり、コメディカルの学生には基礎的な知識を学べる好適な教科書。

緒論
  解剖学
  細胞と組織
  器官と器官系
  形態発生
  形態の意味づけ
  解剖学用語
  人体の外形と部位
  からだの方向用語
  体部の形態に関する名称
  
骨格系
 総論
  骨格の構成
  骨の構造
  自然の骨と晒した骨
  骨の建築学的構造
  骨の顕微鏡的構造
  骨の発生と成長
  骨の連結
  関節の構造
  関節の種類
  骨の血管と神経
 各論
  頭蓋
  脊柱
  胸郭
  上肢の骨格
  下肢の骨格
  
筋系
 総論
  筋の顕微鏡的構造
  筋の形態
  腱と筋膜
  筋の付属器
  筋の起始と停止
  筋の作用
  対抗筋と協力筋
  筋の神経
 各論
  頭部の筋
  頚部の筋
  背部の筋
  胸部の筋
  腹部の筋
  上肢の筋
  下肢の筋
  
内臓学
 総論
  器官の構造
  腺
  漿膜
 各論
  1.消化呼吸器系(または腸系)
  消化器
  呼吸器
  2.泌尿生殖器系
  泌尿器
  生殖器
  会陰と会陰筋
  3.腹膜
  4.内分泌腺
  
脈管系
 総論
  血管系の構成
  血管壁の構造
  リンパ管系の構成
  血管とリンパ
  血球
  造血と血球の分化
  リンパ球の分化
  リンパ性器官
  リンパ節
 各論
  心臓
  肺循環の血管系
  体循環の血管系
  胎生期の循環系
  脾臓
  胸腺
  リンパ管系
  
神経系
 総論
  神経の構成
  神経系の素材
  神経系の微細構造
  神経の変性と再生
 各論
  1.中枢神経系
  脊髄
  脳
  脳室系・髄膜・髄液
  中枢神経系の脈管
  2.末梢神経系
  脳神経
  脊髄神経
  自律神経
  神経系の伝導路
  
感覚器
  外皮
  視覚器
  平衡聴覚器

『人体解剖学』の初版が出たのは敗戦後まもない1947年2月で、すでに五十余年の歳月が流れた。いま赤い表紙の初版本をひもとくと、物資も技術も極度に不足していた当時の世情を反映して、紙も印刷も じつにみすぼらしい。もちろんカラーの図は一葉もないし、それより悲しくも懐かしいのは、一部の図のタカリ(引出線で示す図中の名称)が活字でなく手書きの字になっている。そして著者である父が、食卓の一隅で引出線やタカリをていねいに手書きしている姿を、学生だった私が眺めていた記憶が鮮やかに蘇ってくる。
 戦後の復興とその後の経済成長に伴って、紙や印刷の質が向上し、なにより読者諸子の温かい支持を受けて、本書の内容は充実・発展することができたが、改訂増補第12版の出版(1964年)後まもなく、父は世を去った。
 その後は、父と同じ解剖学の領域を歩むことになった私が、この本の改訂に努めてきた。とくに1993年、解剖学と関連諸分野の進歩を取り込んで、記述をかなり大幅に改め、またCTやMRIの画像を掲載し、カラーの図を増やした。これが改訂第41版であった。
 今回の改訂は、それをさらに上回る大規模なもので、今日の学問の発展に合わなくなった記述を改め、医学の諸分野における新しい概念や知見を取り入れた。図は新たに約40葉を作製したが、これによって読者の理解がいっそう助けられることを期待している。
 緒論の中の「形態の意味づけ」の項は、現代の医学と生物学の展開の中では、古典的な「形態学」の素朴な考え方はほとんど無意味であるとの視点から、完全に書き改めた。畏友 長野敬氏に この項の原稿を批判的に読んでもらい、貴重な情報と示唆をいただいたことを感謝する。
 免疫学、および胸腺をはじめとするリンパ性組縮の記述を大きく改訂したが、この領域については、新潟大学 安保徹教授から有益なご示唆をいただいた。
 脳脊髄液の循環については、橋本一成先生のご教示をいただいて、新しい学説に基づく改訂を行なうことができた。
 自律神経の系統発生学的理解と血管との関係に関しては、薬理学者 重井達朗先生に温かいご教示をいただいた。重井先生は亡父が本書の初版を作りつつあった時期に、医学生として(後に父の教室に入室された同級生 寺田春水先生とともに)父の教授室に足繁く出入りしておられ、初版の索引作りや校正にも協力しておられたことを思い出すと、ありがたいご縁を思わずにいられない。
 学術の進歩とともに長年改訂を重ねてきた本書は、記述も図も かなりの部分が変わったが、からだの構造の基本的な理解をめざす姿勢は、初版の頃から いささかも変わらない。この本を通じて亡父が医学生に伝えようとしたメッセージは、今も変わらず伝えられ受けいれられるものと信じている。この改訂版が読者諸子の勉学に、今までにも増して役立つことがあれば、改訂者の大きな喜びとするところである。学生諸君、教師諸氏、さらに解剖学に限らずさまざまな領域の方々から、本書の内容の不備や あやまりについて、忌憚ないご叱正、ご教示を頂ければ幸いである。

 この改訂では、上に挙げさせて頂いたほかにも、多くの方々の温かいご協力を頂いた。走査電顛写真をご提供下さった村上宅郎、大谷修教授をはじめ、貴重な標本・写真等の作製ないし提供にご協力下さった方々に感謝申し上げる。
 新しい図の作製は、主として鈴木佳恵さんの労作である。従来の版と同様に、校正を本間渓子さんに見て頂いた。
2003年7月7日
藤田恒夫
(一部改変)

私がこの教科書を使って解剖学を学んだのは、30年ほどまえになる。手元にある数冊の『人体解剖学』を手にとって、奥付と序文を眺めてみる。この教科書が刻んできた歴史の長さと、数多くの学生がこれを通して解剖学を学んできたという事実が、ひときわ重たく感じられる。

 本書の初版は、1947年という戦後まもない時期に出版された。私の手元にあるもっとも古い版は、1953年の改訂第5版で、本文は409頁で、現在の3分の2ほど、ただし目次の構成と図版は、現在のものとほぼ共通している。藤田恒太郎 先生がご存命中の最後の改訂版は、1964年の改訂増補第12版、その後、ご子息の藤田恒夫 先生が改訂に努められ、私の使ったのは、1972年の改訂第19版である。しかし1993年の改訂第41版、そして今回の改訂第42版については、藤田恒夫 先生が大幅な改訂をなされ、その趣旨が序文に明記されている。

 この教科書が、どれほど大きな影響を、日本の医学に与えてきたか、それは私自身の経験を通してもよくわかる。解剖学を教えて25年以上になるが、その知識のベースは、学生時代に学んだ『人体解剖学』である。こんな細かいことまで、学生に教えなくてもよいのだが、と思いながら、なぜかしらよく覚えていることといったら、『人体解剖学』で覚えたことだったりする。たとえば、側頭骨の筋耳管管という管は、薄い骨板によって、耳管半管と鼓膜張筋半管とに分かれる、といったこと。それに対して、理解の浅いところは、なぜかしら『人体解剖学』でも簡潔に書かれている。

 医学生に教える人体解剖は、人体解剖実習が中心であり、これは人体を部位別に分ける局所解剖学の扱いである。しかしその一方で、講義や教科書の機軸は、人体の諸器官を機能系統別に分類する系統解剖学であるべきだと、私は日頃から考えている。実際、コアカリキュラムにおいても、機能系統別のまとまりを重視する。最近では、臨床解剖学というアプローチもあるが、この扱いは局所解剖学的である。系統解剖学の教科書として、藤田恒太郎 先生の『人体解剖学』は、わが国でもっとも成功した、いわばスタンダードの教科書である。外国の例でいえば、『Gray's Anatomy』や『Benninghoff Anatomie』に相当するものである。

 このスタンダードの解剖学教科書が、時代の進歩に合わせて新たな意匠をまとって登場した。新しい改訂版を手にとって眺めてみると、装幀や編集など、新しさを感じさせる工夫が随所にある。解剖図は30年前のものを基本的に引き継いでいるが、新たに加えられたいくつかの図があり、また古くからの図も、色遣いを加えて、わかりやすさを増している。日本の解剖学のよき伝統を引き継ぎながら、それを現代的な意匠に模様替えすることに、見事に成功している。この改訂版の登場を、解剖学教育を担当する全国の解剖学者たちとともに、祝いかつ喜びたいと思う。

(坂井建雄)
臨床雑誌内科93巻2号(2004年2月号)より転載