教科書

看護学テキストNiCE

病態・治療論[8] 脳・神経疾患改訂第2版

編集 : 川上徳昭/綿貫成明
ISBN : 978-4-524-21854-7
発行年月 : 2025年11月
判型 : B5判
ページ数 : 352

定価3,300円(本体3,000円 + 税)

  • 近刊

発売予定日:2025年11月13日 全国の書店で予約受付中

  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文

専門基礎分野において疾病の病態・診断・治療を学ぶためのテキストシリーズ(全14冊)の脳・神経疾患編の改訂版.医師と看護師の共同編集により,看護学生に必要な知識を網羅.さまざまな症状を理解できる,診断の進め方・考え方がわかる,臨床看護に結びつく知識が得られる,の3点を重視して構成している.今改訂では各種情報を更新したほか,脳・神経疾患の治療を受ける患者への看護を概説する項目や「頭痛(症)」に関する項目を追加した.

序章 なぜ脳・神経疾患について学ぶのか
  1 医師の立場から
  2 看護師の立場から

第T章 脳・神経の構造・機能と障害・症状
 1 神経細胞と神経伝達
  1 ニューロン(神経細胞)
    コラム ニューロンのイメージ
 2 中枢神経系
  1 脳
   A.大脳
    コラム 前頭葉の成熟は,大人の人間の証?
    コラム 頭がよい人の脳はしわしわ?
    もう少しくわしく 優位半球
    もう少しくわしく 神経線維の「出力」と「入力」
   B.脳幹
    もう少しくわしく 上丘の働き
    もう少しくわしく 眼球運動に働く神経
    もう少しくわしく 三叉神経と咀嚼反射
    もう少しくわしく 輻輳とは?
    臨床で役立つ知識 延髄には「生命中枢」がある
    コラム 脳死と心臓死:見える死と見えない死
    もう少しくわしく 網様体賦活系の働き
   C.小脳
   D.間脳
   E.下垂体
  2 脊髄
    もう少しくわしく 知覚(感覚)解離
    臨床で役立つ知識 脊髄性運動失調とその徴候
    臨床で役立つ知識 腰椎穿刺とヤコビー線
  3 脳室系と髄液循環
    コラム 脳脊髄膜をイメージしてみよう
  4 脳の血管
   A.動脈
    もう少しくわしく 大脳動脈輪があることのメリット
   B.静脈
 3 末梢神経系
  1 脳神経
    コラム ひょっとこ
    コラム 舌咽神経痛
    コラム 複数の脳神経が障害される病態:ガルサン症候群(Garcin's syndrome)
  2 脊髄神経
    コラム 関連痛
  3 自律神経系
   A.自律神経の働き
   B.自律神経の特徴
   C.自律神経の分布
   D.自律神経系の伝達物質

第U章 脳・神経疾患の診断・治療
 1 神経症状からの診断の進め方
  1 脳・神経領域の診察のプロセスと観察のポイント
   A.名前がよばれてから診察室に入ってくるまで
   B.診察室に入ってから椅子に座るまで
   C.問診,診察
   D.診察:順番は自分自身のやりやすいように
   E.患者の主訴からどのように診断を絞るか
  2 意識障害
   A.意識レベル(覚醒度)の障害
    臨床で役立つ知識 意識障害とバイタルサイン(vital signs)
    もう少しくわしく クッシング(Cushing)現象
    もう少しくわしく 脳ヘルニア
   B.認知機能障害
    臨床で役立つ知識 急変を見逃さないための観察ポイント
  3 頭蓋内圧亢進症状
  4 運動機能の障害
   A.運動麻痺
   B.運動失調
   C.不随意運動
   D.歩行障害
  5 知覚障害
    コラム 知覚と感覚
  6 言語障害
   A.構音障害(構語障害)
   B.失語症
    コラム 健忘性失語(失名詞失語)
 2 脳・神経の検査
  1 画像検査
   A.頭部X線検査
   B.頭部CT検査
    臨床で役立つ知識 造影剤使用時の注意点
   C.頭部MRI検査
    臨床で役立つ知識 MRI検査での造影剤使用のリスク
    臨床で役立つ知識 MRIの撮像方法と使い分け
   D.脳血管造影
   E.CT血管造影(CTA)検査
   F.MR血管撮影(MRA)検査
   G.SPECT検査
   H.FDG-PET検査
   I.頸動脈超音波検査
  2 その他の検査
   A.脳脊髄液検査(髄液検査)
   B.遺伝子検査
    コラム オナセムノゲン アベパルボベク(ゾルゲンスマ Ⓡ)
   C.脳波検査
   D.筋電図検査
   E.末梢神経伝導検査
   F.誘発電位検査
 3 脳・神経疾患の治療の考え方
  1 頭蓋内圧に関する考え方
   A.頭蓋内圧の低下
   B.頭蓋内圧亢進
    コラム 頭蓋内圧亢進のイメージ
  2 脳血流に関する考え方
   A.脳血流量低下がもたらす影響
   B.脳・神経領域以外の脳血流量低下をきたす病態とアセスメントのポイント
 4 脳・神経疾患の患者の看護
  1 脳・神経疾患の特徴をふまえた日常生活援助の考え方
   A.急性期患者の日常生活援助
   B.慢性期患者の日常生活援助
  2 神経障害のある患者への看護
   A.患者の特徴と患者が抱える課題
   B.看護のポイント
    コラム 3つのH
  3 高次脳機能障害のある患者への看護
   A.高次脳機能障害の特徴
   B.主な症状と日常生活への影響
   C.看護のポイント
  4 神経難病の患者への看護
   A.神経難病患者の特徴と看護の課題
   B.看護のポイント
  5 てんかんのある患者への看護
   A.発作のリスク管理と生活指導
   B.多職種による包括ケア
   C.患者教育

第V章 脳・神経疾患 各論
 1 頭痛(症)
  1 二次性頭痛
  2 一次性頭痛
   2-1 片頭痛
   2-2 緊張型頭痛
    コラム 片頭痛,緊張型頭痛の非薬物療法
   2-3 群発頭痛
   2-4 薬剤の使用過多による頭痛
 2 脳血管疾患
  1 脳梗塞,一過性脳虚血発作(TIA),慢性脳循環不全症
  2 脳出血
  3 くも膜下出血
    もう少しくわしく 脳動脈瘤
  4 もやもや病
  5 血管奇形
  6 脳静脈・脳静脈洞血栓症
  7 脳動脈解離
  8 静脈性梗塞
 3 脳腫瘍
  1 悪性腫瘍
  2 良性腫瘍
  3 小児脳腫瘍
 4 脊椎・脊髄疾患
  1 頸椎変性疾患(頸椎症),腰椎変性疾患(腰椎症)
  2 脊髄血管障害,脊髄動静脈奇形
  3 脊髄損傷
  4 脊髄腫瘍
  5 その他の脊椎・脊髄疾患:脊髄炎,脊椎炎
 5 神経変性疾患,脱髄疾患
  1 神経変性疾患
   1-1 パーキンソン病(PD)
    もう少しくわしく 大脳基底核の神経回路
   1-2 パーキンソン症候群
   1-3 ハンチントン病(HD)
   1-4 脊髄小脳変性症(SCD)
   1-5 筋萎縮性側索硬化症(ALS)
    もう少しくわしく 運動ニューロンの変性・消失の機序
  2 脱髄疾患
   2-1 多発性硬化症(MS)
   2-2 視神経脊髄炎(NMO)
   2-3 急性散在性脳脊髄炎(ADEM)
 6 筋疾患,神経筋接合部疾患
  筋疾患(ミオパチー)
  1 筋ジストロフィー
   1-1 デュシェンヌ型筋ジストロフィー
   1-2 ベッカー型筋ジストロフィー
   1-3 肢帯型筋ジストロフィー
   1-4 顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー
   1-5 福山型先天性筋ジストロフィー
   1-6 筋強直性ジストロフィー
  2 先天性ミオパチー
  3 筋炎(炎症性筋疾患)
   3-1 多発筋炎,皮膚筋炎
   3-2 封入体筋炎
  4 ミトコンドリア病
  5 周期性四肢麻痺
  神経筋接合部疾患
  6 重症筋無力症(MG)
 7 脳・神経系の感染症
  1 髄膜炎
   1-1 ウイルス性髄膜炎
   1-2 細菌性髄膜炎
   1-3 真菌性髄膜炎
   1-4 結核性髄膜炎
  2 脳炎,脳症
   2-1 ヘルペス脳炎
   2-2 インフルエンザ脳症
  3 脳膿瘍
  4 ポリオ
    もう少しくわしく ポリオ後症候群
  5 HTLV-1 関連ミエロパチー(HAM)
  6 後天性免疫不全症候群(AIDS)に関連する脳障害
   6-1 HIV関連中枢神経日和見感染症
   6-2 HIV関連神経認知障害(HAND)
  7 神経梅毒
  8 破傷風
  9 プリオン病
 8 末梢神経障害(ニューロパチー)
  1 単ニューロパチー(モノニューロパチー)
   1-1 四肢の単ニューロパチー
   1-2 脳神経の単ニューロパチー
  2 多発性単ニューロパチー
  3 ポリニューロパチー
    コラム 血管炎症候群
   3-1 糖尿病性ニューロパチー
   3-2 ギラン-バレー症候群
   3-3 慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(CIDP)
   3-4 シャルコー-マリー-トゥース病(遺伝性運動感覚性ニューロパチー)
  4 機能性疾患
   4-1 片側顔面けいれん
   4-2 神経痛
 9 てんかん
  1 成人のてんかん
    コラム 「てんかん」の歴史と病名の由来
    もう少しくわしく 「てんかん」と「けいれん」
    コラム キンドリング現象と異常神経細胞回路網の形成
    コラム 薬剤の血中濃度測定
    臨床で役立つ知識 患者のてんかん発作に遭遇したら
  2 小児のてんかん
    もう少しくわしく 小児てんかんにおいて,なぜ治療が重要なのか
 10 認知症
  1 アルツハイマー型認知症
    コラム レカネマブ,ドナネマブ
  2 血管性認知症
  3 レビー小体型認知症(DLB)
  4 前頭側頭葉変性症(FTLD)
  5 治療可能な認知症
   5-1 薬剤性
   5-2 特発性正常圧水頭症
  6 認知症と区別すべき病態・疾患
 11 脳脊髄液(髄液)の異常による疾患
  1 水頭症
  2 脳脊髄液減少症
 12 その他の神経内科疾患
  1 中毒
   1-1 急性中毒
   1-2 一酸化炭素中毒
   1-3 アルコール中毒
   1-4 そのほかの中毒
  2 ナルコレプシー
    もう少しくわしく ノンレム睡眠とレム睡眠 278
  3 先天代謝異常
   3-1 アミノ酸代謝異常
   3-2 糖質代謝異常
   3-3 ライソゾーム病
   3-4 ペルオキシソーム病
   3-5 金属代謝異常
   3-6 先天性ポルフィリン症
  4 全身疾患
   4-1 ベーチェット病
   4-2 サルコイドーシス
   4-3 呼吸器疾患に伴う神経障害
   4-4 肝疾患に伴う神経障害
   4-5 内分泌疾患に伴う神経障害
    コラム 「尿」が付く病名とウロスコピスト
   4-6 腎疾患に伴う神経障害
   4-7 膠原病に伴う神経障害
   4-8 ビタミン欠乏に伴う神経障害
   4-9 傍腫瘍性神経症候群
 13 機能的脳神経外科疾患
  1 不随意運動がみられる疾患
    もう少しくわしく 脳深部刺激術(DBS)とは
   1-1 パーキンソン病における不随意運動
   1-2 ジストニア
   1-3 本態性振戦
   1-4 トゥレット症候群
  2 てんかん
  3 慢性疼痛
  4 神経血管圧迫症候群
  5 脳卒中後遺症
 14 頭部外傷
  1 頭蓋骨骨折
  2 急性硬膜外血腫
  3 急性硬膜下血腫
  4 外傷性くも膜下出血
  5 脳挫傷
  6 びまん性軸索損傷
  7 慢性硬膜下血腫
 15 小児脳神経外科疾患
  1 発生異常
   1-1 神経管閉鎖不全
   1-2 脊髄脂肪腫
   1-3 くも膜囊胞
   1-4 頭蓋骨縫合早期癒合症
  2 小児の脳血管疾患
   2-1 小児のもやもや病
  3 小児脳腫瘍
  4 小児期水頭症
  5 小児の頭部外傷
索引

はじめに

 2020年3月の初版から6年目になり,無事に改訂第2版刊行となった.ひとえに執筆担当の先生方のご尽力の賜物であり,感謝申し上げる.最新の医学情報に基づきアップデートし,さらに看護学のエキスパートの先生方にも執筆していただき,パワーアップした改訂となった.

 今回の改訂では,全体的な情報更新のほか以下のような内容を追加した.第T章「脳・神経の構造・機能と障害・症状」では,自律神経系に関する解説を詳述した.第U章「脳・神経疾患の診断・治療」では新たに「脳・神経疾患の患者の看護」を項目として設け,脳・神経疾患の患者への日常生活援助や,神経障害,高次機能障害,神経難病,てんかんを持つ患者に対する看護について解説した.第V章「脳・神経疾患 各論」では,「頭痛(症)」を設け,一次性頭痛・二次性頭痛について解説したほか,アルツハイマー型認知症に対する新薬なども取り上げた.

 「行不由径」「行くに径に由らず」.論語にある言葉だ.人は誰でも,一見すると安易で魅力的な近道を行きたがる.しかし,その小道は結局行き詰まりにあたる.何事も「安易な近道を選ばず,大道を一歩ずつ着実に歩むこと」が肝要である.振り返れば新型コロナウイルスは,科学の発達した現代社会に「公衆衛生の基本に忠実であれ,謙虚であれ」と教えていた気がしてならない.短期間でのワクチンや新薬の開発も現代科学の恩恵であった.その一方で,安全性については,いかなる薬剤も不可避の副反応が一定の割合で発生した.また,臨床現場の感覚として,ワクチン接種で明らかに患者数減少に直結した印象はあまりなかったが,調査した集団の発症率や重症化率(入院率)は下がるなど有効性は報告されている.

 オンライン診療も推奨されるようになった.濃厚接触を避ける必要のあるパンデミック下ではやむを得ない措置であったが,その後も特に慢性疾患の安定期での定期受診等には感染予防や移動の負担軽減の面で有効と思われる.しかし,疾患の急性発症時や急性増悪期は,疾患にもよるが,オンラインの画面だけでは診断精度や緊急処置・対応の面で多くの制約がある.

 病原微生物の撲滅は不可能であるので,体内への侵入門戸となる眼と鼻と口の3ヵ所の粘膜を,唾液,咳やくしゃみの飛沫から守るためのマスク等の着用や,最も感染経路として危険な「自身の手指」の清潔こそが最大の防御である.パンデミック下ではアルコール性消毒剤が品薄になって非常に高価になったりもしたが,アルコール消毒以上に,手指に石けんをつけて十分な時間(15秒以上),流水でよく洗い流し拭き取るという基本的な手洗いが重要である.結局これが公衆衛生の基本(大道)である.

 「学問に王道はない」という古代エジプトのことわざ通り,どのような方法でも良いので,自身にあった学習法で着実に一歩ずつ積み重ね,将来の医療に貢献していただきたいと思う.本書が少しでもその助けになれば,執筆者一同幸甚である.

 第2版刊行に当たり,枝葉末節までしっかりと確認し,編集に多大な労力を惜しまずに協力して下さった,南江堂の鈴木詠子氏,三島穂高氏に深謝する.

2025年9月
川上徳昭・綿貫成明

9784524218547