書籍

しこりをみたらどう考える?日常診療で遭遇するしこりへの対応法

日常診療で遭遇するしこりへの対応法

: 生越章
ISBN : 978-4-524-26999-0
発行年月 : 2013年5月
判型 : B5
ページ数 : 166

在庫品切れ・重版未定

定価5,170円(本体4,700円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

日常診療で遭遇することの多い軟部の“しこり”に対する正しい診療知識は浸透しているとは言い難い。放っておいてよい“しこり”なのか、そうでない“しこり”なのか、軟部腫瘍(瘤)を見たときの初診医が注意すべきポイント、見逃さないポイント、良・悪性の鑑別の要点、専門医への紹介の判断など、プライマリケアでの見立ての精度を上げるためのコツが学べ、かつ豊富なカラー写真で軟部腫瘍(瘤)の基本的知識が身につく実際書。

第1章 しこりの大きさ、増大時間、癒着、境界について
腫瘍の大きさと良悪性
 症例1 46歳 女性 左足のしこり
診断のために手術をすべきか
 症例2 48歳 男性 右前腕のしこり
腫瘍の発生年齢、増大速度と良悪性
 症例3 7歳 男性 右膝のしこり
腫瘍のやわらかさ、境界、可動性と良悪性
 症例4 29歳 女性 右大腿のしこり
第2章 MRI診断の基本
第3章 どうすれば良性と悪性を判別できるのか
よくみる腫瘍の特徴を知る
 症例5 55歳 男性 背部のしこり
 症例6 63歳 男性 左大腿のしこり
 症例7 62歳 女性 左下腿の違和感
 症例8 45歳 男性 左手背部のしこり
 症例9 67歳 男性 左膝のしこり
第4章 代表的軟部腫瘍
 症例10 19歳 女性 右前腕のしこり
 症例11 72歳 男性 左下腿のしこり
 症例12 72歳 男性 左上腕のしこり
第5章 痛みと軟部腫瘍
 症例13 32歳 女性 右膝の痛み
 症例14 32歳 女性 左示指痛
 症例15 72歳 女性 右前腕のしこり
 症例16 33歳 女性 左前腕のしこり
 症例17 62歳 男性 左頚部のしこり、頚部〜上肢痛、左手の脱力
 症例18 67歳 男性 左大腿のしこり
 症例19 29歳 男性 後頭部の有痛性のしこり
 症例20 42歳 女性 左股関節部痛
 症例21 9歳 男性 右膝痛
第6章 腫瘍と認識されにくい腫瘍
 症例22 40歳 女性 左大腿後面のつっぱり感
 症例23 39歳 女性 左殿部の繰り返す感染創
 症例24 57歳 男性 殿部の褥瘡からの出血
第7章 石灰化・骨化と軟部腫瘍
 症例25 62歳 男性 左足関節部のしこり
良性腫瘍
腫瘍様病変
悪性腫瘍
第8章 特徴を覚えておくと診断に役立つしこり
 症例26 38歳 女性 右足関節前面のしこり
 症例27 38歳 男性 足部のしこり
 症例28 69歳 女性 背部のしこり
 症例29 16歳 女性 左大腿後面のしこり
 症例30 38歳 女性 右足関節部のしこり
 症例31 62歳 女性 左下腿後面のしこり
 症例32 76歳 男性 左下腹部のしこり
 症例33 24歳 女性 左腋窩のしこり
 症例34 54歳 男性 背部のしこり
付録
 1.私のすすめるしこり診断の手順
 2.MRI診断で覚えておくと便利なポイント
 3.しこりをみたときの注意点
 4.痛みを伴う主な軟部腫瘍
 5.石灰化や骨化をきたしやすい軟部腫瘍
文献
あとがき
索引

体のどこかに自分で触れることのできるしこりをもつ人は少なくありません。かくいう筆者自身も、29歳のときに右膝窩部に1cmほどのしこりを自覚し、そのしこりはわずかに大きくなって50歳の現在も存在しています。そのしこりが何なのかは本書を読んでいただけばわかりますが、手術をせず放っております。
 このように、小さなしこりをもっているが放っている方が実際どれくらいいらっしゃるかは見当もつきません。全人口の数割といったら、いい過ぎでしょうか。そのほとんどが放っておいても問題になることのない粉瘤といった良性腫瘍や、ガングリオンのような腫瘍様病変であることは皆さんご存じのとおりです。
 ところで、知り合いの女性や女性の患者さんから「乳房にしこりがあるのだけれど…」と相談されたとき、皆さんはどうされますか?私なら「乳腺を専門にしている先生の診察を受けては?」とお答えします。乳癌は今や日本人女性の悪性腫瘍で最も多い疾患ですが、触診だけで乳癌かそうでないかを見極めるのはとても難しいとされています。「どれどれ、私がみてあげます」と自信をもっていうことは、乳腺専門家以外ではなかなか難しいのではないでしょうか。
 筆者は21年間、骨軟部腫瘍を専門としてきましたが、軟部のしこりは、実は触診だけで良性か悪性かを判断するのはとても難しいと感じています。「良性だから放っておいていいよ」と前医にいわれたため、ずいぶん進行してから専門医を受診する患者さんは決して少なくありません。軟部肉腫は、乳癌に比べたら圧倒的に少ないものです。ほとんどの軟部のしこりは放っておいてよい良性のものですが、なかには一見良性のように思える悪性腫瘍が存在します。圧倒的に良性のしこりが多いので、「良性でしょう」といえば多くは正しいのですが、本当に「そのしこりは良性だ」といい切る根拠があるのか、いま一度考えてみませんか?
 本書では、整形外科医だけでなく、プライマリケアにあたるすべての医師が日常診療でしばしば遭遇する「放っておいてもよいしこり」を、自信をもって診断するにはどうしたらよいかを実例をあげて解説しています。また、めったにみることはない悪性軟部腫瘍の一部についても実例をあげています。どうしたら「放っておいてはいけないしこり」を見出せるか、というのは、確実に「放っておいてもよいしこりだ」といい切ることのできる知識を身につけることにほかならないと筆者は考えています。
 また、Q&Aの形式をとって腫瘍の診断を読者に考えていただき、そこから診断の思考過程を学びとっていただく形式をとっています。多少専門的にはなりますが、腫瘍の遺伝子異常についてもできるだけわかりやすく紹介しました。診断のみならず、治療にも遺伝子異常が深くかかわる時代になっているからです。
 軟部のしこりをみることのある整形外科医、プライマリケア医、皮膚科医、形成外科医、一般外科医、小児科医など、広い範囲の医師に本書が役立ち、結果的に軟部腫瘍の患者さんに福音がもたらされれば筆者にとってこの上もない喜びです。

2013年5月
生越章

本書は、著者の20年以上にわたる診療経験をもとに書かれた軟部腫瘍の手引書である。腫瘍の肉眼所見、画像所見、病理組織所見、図などが鮮明なカラー印刷で数多く提示されており、読者が視覚的に理解しやすいよう工夫されている。記載されている症例は、すべて著者あるいは著者の所属教室である新潟大学整形外科の関連病院の症例であり、実際の臨床経験をもとに書かれたことを物語っている。解説文は通常の教科書の記載ではなく、本書のタイトルが示すように、「どう考える?」という視点に基づいた記載となっている。すなわち、腫瘍の大きさ、増大時間、癒着の有無、境界の性状といった臨床情報からどう考えるのか? どうすれば良悪性を鑑別できるのか? 痛みとの関係はどうなのか? といった臨床医の疑問に答えるように章立てされ、読者が基本的な考え方を学びやすい構成となっている。また、臨床医にとってのピットフォールである腫瘍と認識されにくい腫瘍や、特徴を覚えておくと診断に役立つ腫瘍についての記載など、診療の現場で役立つ情報が豊富に含まれている。付録として、著者のすすめる診断の手順や、MRI診断のポイント、軟部腫瘍をみたときの注意点などがわかりやすく、かつみやすいように表としてまとめられているのが嬉しい。
 提示されている腫瘍はいずれも普遍的であり、軟部腫瘍のプライマリケアにあたる医師が必ず知っておくべきものばかりである。加えて、各腫瘍について著者の経験に基づく奥深い考察がなされているので、骨・軟部腫瘍の専門家にとってもたいへん勉強になる書である。MEMO欄には、あたかもコーヒーブレークのように、歴代の新潟大学整形外科教授や留学先の恩師のエピソード、著者の社会活動などが記載されている。著者の暖かい人柄が偲ばれ、ホッとした気分にさせられた。プライマリケア医だけでなく、骨・軟部腫瘍の専門家にも本書を推薦したい。

臨床雑誌整形外科64巻10号(2013年9月号)より転載
評者●九州大学整形外科教授 岩本幸英

9784524269990