書籍

新病棟必携心臓血管外科ハンドブック

編著 : 末田泰二郎
ISBN : 978-4-524-26955-6
発行年月 : 2012年3月
判型 : 新書
ページ数 : 206

在庫品切れ・重版未定

定価3,300円(本体3,000円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

研修医からコメディカルまで、心臓血管外科の初心者向けに書かれた病棟診療のミニマムエッセンス。日常診療において必須の診療技術と知識に内容を絞り、箇条書で具体的に解説。処置、器具、手技はオリジナルのイラストで系統的に図解。「ワンポイントテクニック」や巻末の使用薬剤一覧(注射薬と内服薬)が、さらなる知識の整理に役立つ。

Chapter 1 心疾患手術患者のルーチンワーク
 A.診療における態度、マナーなど
  1.基本的なマナー
  2.回診時の注意点
  3.手術室やICUでの一般的な注意
  4.その他
 B.入院にあたってのルーチンワーク
  1.入院の時期
  2.入院時のチェック
  3.現病歴、現症のまとめ
 C.術前のルーチンワーク
  1.術前のケア
  2.術前の一般検査、特殊検査
  3.術前自己血貯血
  4.術前中止薬など
  5.手術3日前の準備
  6.術直前準備
 D.手術当日のルーチンワーク
  1.手術室への持参物
  2.手術室での準備
  3.術中ルーチンワーク(外回りの仕事)
 E.ICU入室中のルーチンワーク

Chapter 2 手術前後の検査と評価
 A.胸部X線の読影
 B.安静時心電図の取り方と読み方
  1.安静時心電図の電極の位置
  2.安静時心電図の読み方
 C.負荷心電図
  1.適応・禁忌
  2.検査時の注意点、中止の基準、合併症とその対策
  3.陽性判定基準
 D.心エコー、経食道心エコー法(TEE)
  1.適応・禁忌
  2.検査前のチェック項目
  3.直後の管理
  4.撮り方
  5.所見
 E.心臓カテーテル検査
  1.適応・禁忌
  2.検査前のチェック項目
  3.患者・家族への説明と承諾書
  4.検査前指示(入院・外来)
  5.当日の準備
  6.直後の管理
 F.冠動脈造影法の所見とその評価
  1.American Heart Association(AHA)による左右冠動脈の分枝の名称
  2.正常冠動脈造影像
  3.異常冠動脈造影像の読み方
 G.左心・右心カテーテルの所見とその評価
  1.正常血圧(mmHg)
  2.心不全の評価(Forrester分類)
  3.シャント率
  4.逆流量の評価(Sellers分類)
  5.圧較差
  6.壁運動評価
  7.形態評価
  8.全肺血管抵抗
  9.一側肺動脈閉塞試験
 H.術前プレゼンテーションの手順

Chapter 3 成人心臓大血管外科疾患の概略
 A.冠動脈疾患
  1.解剖
  2.手術適応
  3.冠動脈バイパス術(CABG)
  4.使用グラフト
  5.グラフトデザイン
  6.急性心筋梗塞に伴う機械的合併症
 B.弁膜症
  1.解剖
  2.大動脈弁(二尖弁か三尖弁か)
  3.僧帽弁
  4.手術適応
  5.術式
 C.大動脈基部疾患
  1.解剖
  2.適応
  3.大動脈基部手術
 D.大動脈疾患
  1.診断
  2.胸部大動脈瘤
  3.胸腹部大動脈
  4.急性大動脈解離
  5.腹部大動脈
  6.手術適応
  7.術式
 E.閉塞性動脈硬化症(ASO)
  1.領域
  2.手術適応
  3.術式

Chapter 4 心臓疾患に関連した合併症の診断、治療
 A.心肺停止
  1.原則
  2.一次救命処置(救急蘇生のABCD)
  3.二次救命処置
 B.ショック
  1.原因
  2.血圧のquick assessment
  3.治療
 C.急性呼吸不全
  1.診断
  2.原因
  3.治療
  4.レスピレータ装着基準
 D.腎障害
  1.原因
  2.診断と評価
  3.治療の原則
 E.不整脈(心停止を除く)
  1.種類と原因
  2.治療
  3.心室頻拍
  4.心室細動

Chapter 5 開心術のルーチンワーク
 A.セットアップ
  1.体位
  2.消毒
  3.ドレッシング
 B.皮切から開胸まで
  1.皮膚切開
  2.胸骨正中切開
  3.心膜切開
 C.体外循環まで
  1.大動脈剥離
  2.体外循環セッティング
  3.カニュレーション準備
  4.カニュレーション(送血管)
  5.カニュレーション(脱血管)
  6.体外循環開始、冷却
  7.上大静脈、下大静脈テーピング(上下大静脈脱血の場合)
  8.心筋保護液注入針の設置
  9.左室ベント
  10.大動脈遮断
 D.手術メイン操作
  1.開心術:疾患に応じて心房あるいは大動脈切開
  2.非開心術
 E.体外循環離脱
  1.離脱の準備
  2.上大静脈脱血管抜去(上下大静脈脱血の場合)
  3.体外循環終了
  4.送血管抜去
 F.閉胸
  1.ドレーン挿入
  2.止血操作
  3.ペースメーカリード装着
  4.胸骨縫合
  5.皮膚縫合

Chapter 6 体外循環
 A.人工心肺装置充填液
  1.内容
  2.血液希釈
 B.回路の組立て
  1.人工心肺装置の構成
  2.注意点
  3.心筋保護液回路
  4.ベント回路
 C.灌流温(低体温法)
  1.目的
  2.程度
  3.方法
  4.超低体温下循環停止法
  5.復温
 D.灌流量の決定
  1.灌流量と脱血量の調整
 E.心筋保護法
  1.目的
  2.心筋保護(心停止)液
  3.冷却法
  4.心筋保護液の投与法
 F.体外循環法の種々の形
  1.部分体外循環法と完全体外循環法
  2.大腿静動脈(V-A)バイパス法(補助循環)
  3.大腿静静脈(V-V)バイパス法(補助循環)
  4.左心バイパス法
  5.脳分離体外循環
 G.体外循環に関連した薬物
  1.ヘパリン
  2.プロタミン
  3.プロスタンディン(プロスタグランジンE1)
  4.ハプトグロビン
  5.ソル・メドロール(β-メチルプレドニゾロン)
  6.ミラクリッド(ウリナスタチン)
  7.フサン(メシル酸ナファモスタット)
  8.KCl
 H.体外循環の合併症と対策
  1.中枢神経系合併症
  2.呼吸器系合併症
  3.心不全
  4.急性腎不全
  5.溶血
  6.急性大動脈解離

Chapter 7 術後管理
 A.ICU入室直後の管理
  1.帰室時のセットアップの順序(急激に変化しうる順)
  2.輸液・心血管作動薬
  3.持続吸引器
  4.胸部X線
  5.心電図
 B.管理の実際
  1.圧モニタ
  2.呼吸器系モニタ
  3.腎機能
  4.電解質
  5.体位変換
 C.抜管
  1.抜管の条件
  2.注意点
 D.ドレーンの抜去、ライン類
 E.術後ICU退室以後のルーチンワーク
  1.帰棟時:ICUから病棟への搬送時の注意
  2.創の管理
  3.抗生物質投与の原則
  4.術後リハビリおよび検査
 F.退院前のルーチンワーク

Chapter 8 IABP(intraaortic balloon pumping)
 A.原理
 B.適応病態と適応基準
  1.適応病態
  2.適応基準
 C.運転開始・運転中のモニタ
 D.合併症

Chapter 9 PCPS(percutaneous cardiopulmonary support)
 A.概要
 B.構成および装置
  1.装置構成
  2.装着法
 C.離脱、停止の基準

Chapter 10 腹部大動脈瘤手術
 A.手術手順

Chapter 11 ステントグラフト治療
 A.ステントグラフト治療の基礎
  1.用語
  2.商品(国内で入手可能なもの)
  3.ステントグラフト内挿術の解剖学的適応(IFU=indication for use)
  4.TEVARのzone分類
  5.TEVARのグラフトサイジング法
 B.実際の手技
  1.胸部ステントグラフト
  2.腹部ステントグラフト
  3.術後検査
 C.胸腹部大動脈瘤手術の脊髄保護
  1.脊髄障害発生頻度(Coselliらの成績)
  2.対麻痺対策

Chapter 12 胸部(心血管)外傷
 A.患者到着
  1.バイタルサインの速やかな把握
  2.外傷の程度・範囲の把握
 B.救急処置
  1.呼吸:気道確保と酸素吸入
  2.ショック対策
  3.胸壁開放創の仮閉鎖
 C.検査
  1.胸部X線
  2.心電図
  3.心エコー(経胸壁、経食道)
  4.腹部エコー
  5.CT(全身状態に余裕があれば)
 D.心・大血管損傷
  1.初期治療
  2.急性心タンポナーデ
  3.非穿通性心臓・大血管損傷
  4.穿通性心臓・大血管損傷
  5.医原性心臓・大血管損傷
 E.外科的救急処置
  1.胸腔ドレーン挿入
  2.胸腔ドレーン抜去(挿入後3〜4日後)
  3.呼吸管理

Chapter 13 輸血(自己血輸血・自己血液回収・他家輸血)
 A.自己血輸血
  1.目的
  2.対象
  3.除外基準
  4.患者の同意項目
  5.開始前のチェック項目
  6.採血の実際
 B.術中自己血回収
  1.概念
  2.準備
 C.他家輸血
  1.輸血登録
  2.輸血の準備と実際
  3.輸血当日
  4.返却
  5.緊急時
  6.副作用と診断・対策

Chapter 14 ペースメーカ
 A.ペースメーカの種類
 B.植え込みの適応
  1.ペースメーカの適応
  2.植え込み型除細動器(ICD)の適応
 C.植え込み手術
  1.麻酔
  2.術前日指示
  3.手術室の準備
  4.手術手順
 D.術後の注意点と直後の管理、合併症
  1.術後管理
  2.植え込み後の合併症
 E.長期follow up(ペースメーカクリニック)
  1.初回植え込みの場合
  2.電池交換の場合
  3.チェック項目

Chapter 15 心臓リハビリテーション
 A.目的
 B.時期
 C.運動療法の禁忌
 D.効果
 E.運動療法

Chapter 16 感染対策
 A.目的
 B.術前感染対策
  1.口腔内ケア
  2.鼻腔内ケア
  3.手指ケア
  4.除毛の注意
  5.抗菌薬投与
 C.術中感染対策
  1.麻酔導入後
  2.皮膚消毒
  3.術中抗菌薬
 D.術後感染対策
 E.MRSA対策
  1.MRSAとは
  2.MRSA感染経路
  3.MRSA術前対策
  4.MRSA術中対策
  5.MRSA術後対策
 F.感染性心内膜炎対策
  1.感染性心内膜炎と診断された患者への抗菌薬投与
  2.手術適応と術中の注意
  3.術後抗菌薬

Chapter 17 リスクマネジメント
 A.インフォームドコンセント
  1.インフォームドコンセントの要件
  2.文書保存
 B.医療事故への対処
  1.医療事故が起こったときの手順
 C.医療事故対策システム
 D.医療事故防止の工夫

Chapter 18 使用薬剤一覧
 A.注射薬
  1.昇圧薬
  2.降圧薬
  3.抗不整脈薬
  4.電解質薬
  5.止血薬
  6.血液凝固阻止薬
  7.静脈麻酔薬
  8.急性肺障害改善薬
 B.内服薬
  1.強心薬
  2.利尿薬
  3.降圧薬
  4.高脂血症治療薬(スタチン製剤)
  5.抗不整脈薬
  6.抗血栓薬
  7.狭心症治療薬
 C.局所止血薬(手術用止血剤)
  1.組織接着剤
  2.可吸収性止血剤

Chapter 19 文献

用語集
索引

この本は2002年に南江堂から発行した『病棟必携心臓血管外科ハンドブック』を全面的に見直して新版としたものである。2002年に出版した『病棟必携心臓血管外科ハンドブック』では、学理的な記述を一切はぶき心臓血管外科の日常診療において必須の診療技術や知識について箇条書きに記載して、最低限の知識と技術について確認するためのマニュアルとなることを心がけた。巻末には心臓外科領域における使用薬剤を一覧形式で記載した。
 しかし、従来のハンドブックの記載内容やスタイルに関していくつかのご意見を賜った。その中で、心臓血管外科研修医や心臓血管外科専門医を目指す後期研修医が知っておくべき成人心臓大血管疾患の概略と手術適応、昨今盛んになった大動脈瘤ステントグラフト治療の適応と手技、術後感染対策やリスクマネジメントに関する項目を加えることが望ましいと考え、共同著者の内田先生と改訂を行った。一方、心臓血管外科医が行うことがなくなった電気生理学的検査や静脈造影の記述は削除することにした。また、私達のマニュアルが他施設のマニュアルとしてそのまま役に立つとは限らないので、各々の施設独自の手法を書き込めるように、各章の最後にメモ欄を設けてある。必要に応じて書き込みをしていただきたい。
 心臓血管外科医の実践的なマニュアルとしてまだまだ不足な点も多々あると思われる。厳しく建設的なご意見を読者諸兄から賜ればこのうえない幸せである。
2012年2月
末田泰二郎

本書は、白衣のポケットに入れて携帯できるようにと2002年に新書判で出された心臓血管外科ハンドブックを、“新病棟必携”として改訂されたものである。この10年間に循環器領域では、薬剤溶出ステントや心拍動下冠状動脈バイパス術(OPCAB)の普及、MDCTやステントグラフトなど、診断・治療においてめざましい進歩があった。また卒後臨床研修制度が導入され、大学医局に属さない医師の増加や外科系にすすむ医師の減少など、心臓血管外科を取り巻く環境が大きく変化した。本書は、心臓血管外科専門医取得をめざす医師にとってはもちろんであるが、初期研修中の若手医師の手引きとしてとても有用である。
 Chapter 1では、診療における態度、マナーなどが記述され、最初に出てくるイラストでは、清潔な身なりと丁寧な言葉遣いが重要であると説かれている。他人への責任転嫁や病院への不平不満、前医を謗ることがないようにとの注意も喚起されている。患者家族から信頼され、周囲と上手にコミュニケーションをとれる医師になりなさいとの気持ちが込められている。
 大きな活字で箇条書きされており、イラストが多くて読みやすい。各施設独自の手法の違いを前提に、書き込めるスペースやメモ用のページが設けられている。最近の医学生や研修医が、タッチパネルの画面を指でフリップして理解した気になっている光景をしばしば目にする。カルテやデータベースも電子化されているため、前医の記載をコピー&ペーストすることが可能であるが、それでは指先か手先の単なる作業である。知識は身につきにくいし、誤りがあれば連鎖する危険性がある。自分で考え、書いて覚えるという基本の大切さを、本書が示唆してくれている。
 成書と異なりハンドブックではページ数が制限されるため、成人病棟や手術室で日常経験する内容に絞って章立てされている。そのため先天性心疾患や心臓腫瘍の項はなく、末梢血管疾患についても、閉塞性動脈硬化症(ASO)で1ページ割かれているだけである。一方、開閉胸や体外循環のカニュレーションなど開心術の基本操作や周術期管理は、詳しく記載されている。
 筆者は、著者の末田泰二郎氏と同期であるが、われわれが心臓血管外科研修を始めた30年以上前は、心臓血管外科医が心臓カテーテル検査や人工ペースメーカ植込み術を行い、人工心肺操作も担当していた。いつしか循環器内科医や臨床工学技士が担当するようになり、心臓血管外科医の手を離れてしまった。しかし心臓血管外科医にとって、それらの知識は必要で、たとえばペースメーカのコードの意味や植込み後の合併症について知らないと、トラブルシューティングができない。インターベンション時代になり、弁膜症や動脈瘤の治療を循環器内科医や放射線科医と共同で行うようになりつつあるが、心臓血管外科の手術手技に限定した知識や経験では、ハートチームのリーダーにはなりえない。
 体外循環や心筋保護、術後管理の向上などで、最近は術後低心拍出量症候群(LOS)に苦労することは少なくなったが、高齢者やハイリスク患者が増加した現在、わずかな違いが明暗を分けることがあり、基本的な知識や原理を整理して自分のものにしておかねばならない。本書には術前や手術当日のルーチンワーク、自己血輸血や輸血の副作用、感染対策にも章が設けられており、気管チューブの抜管やドレーン抜去の基準にも触れられている。使用薬剤一覧には、carperitide、olprinone、landiolol、amiodarone、dexmedetomidine、sivelestatなど、比較的最近使われるようになった薬品も網羅されていて便利である。
 本書の執筆には、広島大学同門の気鋭で、講演や著書などで定評がある内田直里氏と渡橋和政氏が加わっておられ、バランスよく整理された構成となっている。心臓血管外科専門医をめざす若手医師はもちろん、ハートチームの一員となられる方々には、またとないハンドブックと考える。
評者● 岡村吉隆
胸部外科65巻13号(2012年12月号)より転載

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