書籍

日本整形外科学会診療ガイドライン

腰痛診療ガイドライン2012

文献アブストラクトCD-ROM付

監修 : 日本整形外科学会/日本腰痛学会
編集 : 日本整形外科学会診療ガイドライン委員会/腰痛診療ガイドライン策定委員会
ISBN : 978-4-524-26942-6
発行年月 : 2012年11月
判型 : B5
ページ数 : 86

在庫あり

定価2,376円(本体2,200円 + 税)

  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

腰痛のプライマリケアに焦点を絞り、腰痛に苦しむ患者に対して的確なトリアージを行うために必要な知識を網羅。腰痛の定義・疫学・診断・治療・予防に関して17のクリニカルクエスチョンを設け、最新のエビデンスに基づいて推奨・要約と解説を示した。腰痛診療に携わるすべての医療者、腰痛患者にとって有益な指針となる一冊。付録のCD-ROMに文献アブストラクトを収載。

前文
 1 はじめに
 2 診療ガイドラインの作成手順
  2.1.作成のための基本理念
  2.2.章立てとクリニカルクエスチョン
  2.3.文献の検索と選択、内容の記載
  2.4.エビデンスレベルと推奨度の決定
 3 おわりに
第1章 定義
 CQ1.腰痛はどのように定義されるか
第2章 疫学
 CQ2.腰痛と職業との間に関係はあるか
 CQ3.腰痛は生活習慣と関係があるか
 CQ4.腰痛は心理社会的因子と関係があるか
 CQ5.腰痛の自然経過はどのようであるか
第3章 診断
 CQ6.腰痛患者が初診した場合に必要とされる診断の手順は
 CQ7.腰痛診断において有用な画像検査は何か、またはその他に有用な検査はあるか
第4章 治療
 CQ8.腰痛の治療に安静は必要か
 CQ9.腰痛に薬物療法は有効か
 CQ10.腰痛に物理・装具療法は有効か
 CQ11.腰痛に運動療法は有効か
 CQ12.腰痛に患者教育と心理行動的アプローチ(認知行動療法)は有効か
 CQ13.腰痛に神経ブロック・注射療法は有効か
 CQ14.腰痛に手術療法(脊椎固定術)は有効か
 CQ15.腰痛に代替療法は有効か
 CQ16.腰痛の治療評価法で有用なものは何か
第5章 予防
 CQ17.腰痛は予防可能か、可能であるならば有効な予防法は
用語解説
索引

腰痛は一つの疾患単位ではなく症状の名称である。しかし、これが最も代表的なcommon disease(誰でもなり得るありふれた病気、頻度の高い疾患)の一つであることは疑いの余地がない。事実、厚生労働省国民生活基礎調査でも、常に上位に名を連ねる。Common diseaseであるが故に、その具体的な詳細に関する研究、文献、書籍は膨大な数に上る。一般大衆向けの雑誌、テレビなどのマスメディアでも腰痛に関わる記事、番組の特集は枚挙に遑がない。医療者、非医療者が腰痛という「国民病」に関心を持ち、時に正しい行動を取り、時に誤った情報を流す。しかし我々整形外科医は、骨・軟骨・関節・脊椎・脊髄・神経・筋肉という運動器のエキスパートである。腰痛の研究、治療に携わって100年以上という確固たる歴史を有する。我々が腰痛治療の王道を行かずして、誰がその道を行こうか?
 腰痛診療ガイドラインは係る状況を鑑み、日本整形外科学会が企画し、日本腰痛学会が主体となり作成された。その理念は、腰痛治療のプライマリケアに焦点を絞り、腰痛に苦しむ患者に対して正しく、的確なトリアージを可能せしめることである。腰痛に最も豊富な治療経験を有する整形外科医はもちろん、内科を始めとする各専門医家にとって、EBMに則った適切な情報を提供することを目的とした。その理念・目的を基に、平成20年冬、第一回腰痛診療ガイドライン策定委員会が開催された。爾来4年の歳月が流れ、ここに日本版腰痛診療ガイドラインが上梓された。読者諸氏が、委員会メンバーの真意と労苦を汲み取り、本ガイドラインを有効活用して下さることを心よりお願い申し上げたい。
 本ガイドライン作成に際しては、数多くの方々の御協力を得た。特に、腰痛診療ガイドライン策定委員会委員とアドバイザーの諸先生方には、計20回に及ぶ委員会でお世話になった。彼らとは時に激論を交わし、時に腰痛診療に対するシンパシーを共有した。今では、「戦友」のような感慨を抱く。深甚なる感謝の意を表したい。日本整形外科学会理事長岩本幸英先生、同診療ガイドライン委員会担当理事久保俊一先生、同委員長金谷文則先生の御支援・御配慮が無ければ、もとより本ガイドラインは日の目を見るに至らなかった。作製の過程においては、日本整形外科学会、日本脊椎脊髄病学会、日本腰痛学会の代議員、評議員の先生方から、多数の貴重な御意見を頂戴した。
 この場を借りて、心からの御礼を申し上げたい。文献検索、構造化抄録作成等の実務面では、国際医学情報センター逸見麻理子氏に無理難題を常に快くお引き受け戴いた。併せて御礼を申し上げる。
 本ガイドラインが腰痛診療に携わる全ての医師、腰痛に苦しむ全ての患者さんの福音となることを祈念して、本書の序に代える。
2012年10月
日本整形外科学会
腰痛診療ガイドライン策定委員会
委員長
白土修

本書がいよいよ上梓された。腰痛という症状は、男性国民の有訴率の第1位、女性の第2位を占める普遍的なものである。ありふれた症状であるからこそ、治療方法は百花繚乱であり、医学的な立場で書かれたものから民間療法まで枚挙に遑がないほど多くの書籍が出版されている。その多くは著者個人の経験、知識に基づいており、その一部は科学的な研究に準じているとしても、全体にわたって科学的根拠が明示されているものはきわめて少ない。
 本書は、吟味されたクリニカルクエスチョン(CQ)とその回答を記述する方法をもって作成されている。ガイドライン策定委員会のメンバーは、委員長をはじめ当代の腰痛研究の第一人者である。結論の根拠となる文献も数多く掲載されており、本書が腰痛診療のバイブルであることは論をまたない。特筆すべきは本書に賭ける委員長の意気込みであり、序文にある「われわれが腰痛治療の王道を行かずして、誰がその道を行こうか?」という強いことばは注目に値する。
 いくつかの注目すべきCQがある。腰痛の職業との関連性に関しては、有訴率が職業によって差があるのは当然としても、作業による腰痛の発生には遺伝的背景よりも身体的負荷の程度が重要とする文献が紹介されている。すでに重要な腰痛発症要因として常識となっている心理社会的因子として、仕事への満足度の低さやうつ状態に加えて、社交性の低さや痛みに対する恐怖回避信念が予後不良にかかわるという文献も採用された。また、腰痛発症の危険因子として喫煙が関与していることとbody mass index(BMI)が無関係なことが、ともにgrade C(行うことを考慮してもよい。弱い根拠に基づいている)ではあるが取り上げられた。診断手順としてもっとも注目されるのは、腰痛患者全例にルーチンでX線検査を行う必要がないことがgrade A(行うよう強く推奨する。強い根拠に基づいている)とされている点である。ただし、神経症状を有する場合にはMRIの利用がgrade B(行うよう推奨する。中等度の根拠に基づいている)とされている。
 治療に関しては、急性腰痛においても安静がgrade D(推奨しない。否定する根拠がある)とされたと同時に、職業性腰痛であっても活動性を維持することが早期の除痛と休業期間短縮につながり、再発予防にも有効とされている。薬物治療では最近わが国でも利用できるようになったオピオイドについて、有効性に関して高いエビデンスを示す論文があることを指摘する一方、長期投与における有害事象や乱用・依存に注意すべきとのコメントが記されている。理学療法のうち、温熱療法は急性および亜急性腰痛に短期間は有効(grade B)としているが、牽引はいまだエビデンス不足(grade I:委員会の診断基準を満たすエビデンスがない。あるいは複数のエビデンスがあるが結論は一様ではない)となっている。慢性腰痛に対しては運動療法がgrade Aで推奨されている。その予防的効果はgrade Bとされており、今後運動療法の重要性はさらに増大するであろう。
 非特異的腰痛に対する手術的治療については、適応を慎重に行うべきとされ、脊椎固定術による疼痛軽減は可能性があるとしているにすぎない。また、脊椎固定術と集中的リハビリテーションの有効性にも差がないことを指摘している(grade B)。さらに、本書では代替治療に関しても踏み込んで記述しており、わが国と海外での資格の相違に言及したうえで、徒手療法、マッサージや鍼治療がほかの治療より効果が高いとはいえない(grade BまたはI)と述べている。
 それぞれの回答の根拠となった論文の要約が、付属のCDでみられるようになっているのも親切である。本書が市販されるということは、数多くの患者も本書を手にして知識を得ることを意味する。腰痛を扱うすべての医療者は、本書に盛られた系統的な科学的知識に依拠して診療をすすめることが求められる。その意味において、本書は腰痛診療において座右におくべき必読書といえる。

評者■大川淳
整形外科64巻4号(2013年4月号)より転載