書籍

不整脈学

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編集 : 井上博/村川裕二
ISBN : 978-4-524-26936-5
発行年月 : 2012年9月
判型 : B5
ページ数 : 626

在庫あり

定価16,200円(本体15,000円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

不整脈診療の解釈方法や思想を肌で感じる記述を意識した、一流の執筆陣による新しい不整脈学の教科書。心筋の電気生理から不整脈発生のメカニズム、実験モデル、検査、治療法と、基礎から臨床全般で集積されている最新の知見を網羅。とくに「不整脈学への道」では、若手医師の道標となる貴重な経験を紹介した。不整脈学の臨床的な発想と研究のヒントとなる知識が満載の一冊。

第1章 心筋の電気生理
 1 静止膜電位はなぜ[K+]o/[K+]iで決まるのか
 2 イオンチャネル、トランスポーター
 3 パッチクランプの黎明といま
 4 膜電流系の受容体と細胞内情報伝達
 5 Na+電流
 6 K+電流
 7 Ca2+電流
 8 過分極誘発陽イオンチャネル/HCN
 9 stretch-activated-channels
 10 Na+-K+ATPaseとNa+-Ca2+交換系
 11 Na+-H+交換系
 12 心筋細胞を繋ぐもの―ギャップ結合蛋白(Cx43)と不整脈発生
 13 心房筋と心室筋の活動電位
 14 心室の活動電位の不均一性
 15 洞結節の自動能
 16 房室結節とその周辺構造について
 17 脚とPurkinje線維
 18 心筋のanisotropyとリエントリー
 19 自律神経活動と心筋電気生理
 20 予後規定因子としての心拍数
 21 QT間隔
第2章 不整脈発生のメカニズム
 1 異常自動能
 2 Ca2+制御機構の異常―triggered activity、リアノジン受容体、SERCA
 3 リエントリー、post-pacing interval、エントレインメント
 4 spiral wave
 5 心不全/レニン-アンジオテンシン系と不整脈
 6 体位性頻脈症候群(POTS)
 7 性差からみた不整脈
 8 cardiac memoryとは何か
 9 高血圧と不整脈
 10 血清カリウム異常と不整脈
第3章 不整脈の実験モデル
 1 心房細動のモデル
 2 torsades de pointes(TdP)のモデル
 3 不整脈のシミュレーション
 4 光学的膜電位計測とその応用
 5 心筋Ca2+transientと不整脈発生
 6 不整脈と突然死のモデルマウス
 7 重粒子線照射による不整脈治療法の研究
 8 iPS細胞由来心筋細胞の電気生理学
第4章 不整脈の検査法
 1 新しいホルター心電図
 2 加算平均心電図
 3 T-wave alternans(TWA)
 4 心拍変動解析
 5 head-up tilt test(ティルト試験)と神経調節性失神
 6 123I-MIBG心筋シンチグラフィ
 7 不整脈と運動負荷試験
 8 心磁計および多チャンネル心電計
 9 電気生理学的検査の考え方
 10 ヒトの単相性活動電位記録
 11 不整脈の遺伝子異常
 12 植込み型ループレコーダー
第5章 薬物治療
 1 抗不整脈薬とは何か
 2 T群抗不整脈薬の薬理
 3 Ta群抗不整脈薬
 4 Tb群抗不整脈薬
 5 Tc群抗不整脈薬
 6 抗不整脈薬としてのβ遮断薬の使い方
 7 V群抗不整脈薬/アミオダロン
 8 V群抗不整脈薬/ニフェカラントとd,l-ソタロール
 9 W群抗不整脈薬
 10 ジギタリス
 11 ATPとアデノシン
 12 不整脈とスタチン
 13 If current inhibitor/イバブラジン
第6章 非薬物治療の概要
 1 ペースメーカーの歴史と進歩
 2 カテーテルアブレーション(経皮的心筋焼灼術)の展望
 3 植込み型除細動器/CRT-D
 4 生物学的心臓ペースメーカー
第7章 徐脈性不整脈
 1 洞不全症候群の病態と臨床
 2 房室ブロックの病態と臨床
第8章 期外収縮
 1 心室期外収縮はなぜ流出路に現れるのか
 2 器質的心疾患における非持続性心室頻拍
 3 期外収縮は予後予測因子か
第9章 心房粗動
 1 心房粗動の機序
 2 心房粗動のカテーテルアブレーション
第10章 心房細動
 1 心房細動の疫学
 2 Ca2+制御機構からみた心房細動
 3 心房細動の起源
 4 電気的リモデリング
 5 自律神経と心房細動
 6 心不全、甲状腺機能亢進症、急性心筋梗塞における心房細動
 7 レートコントロールとリズムコントロール
 8 洞調律維持のための薬物療法
 9 レートコントロール
 10 抗凝固療法の展望
 11 ACE阻害薬とARB
 12 心房細動のカテーテルアブレーション
 13 maze手術とその後
 14 遺伝子疾患としての心房細動
第11章 心房頻拍と房室結節リエントリー頻拍
 1 上室頻脈性不整脈の分類
 2 狭義の心房頻拍
 3 洞結節リエントリー頻拍とinappropriate sinus tachycardia
 4 房室結節リエントリー頻拍
第12章 WPW症候群とその関連疾患
 1 早期興奮症候群とは何か
 2 遺伝子疾患としてのWPW症候群
 3 12誘導心電図でみる早期興奮症候群
 4 WPW症候群の電気生理学的検査とカテーテルアブレーション
 5 非定型的副伝導路の電気生理学的検査とカテーテルアブレーション
第13章 特発性心室頻拍と遺伝性の致死性心室頻拍
 1 Purkinje不整脈という考え方
 2 左室起源の特発性心室頻拍
 3 流出路起源心室頻拍
 4 遺伝子とチャネルからみた先天性QT延長症候群
 5 臨床像からみた先天性QT延長症候群
 6 二次性QT延長症候群
 7 遺伝子疾患としてのBrugada症候群
 8 Brugada症候群の診断と治療
 9 カテコラミン誘発多形性心室頻拍(CPVT)
 10 早期再分極症候群
 11 QT短縮症候群
第14章 器質的心疾患と心室不整脈
 1 急性心筋梗塞の心室不整脈
 2 陳旧性心筋梗塞の単形性心室頻拍
 3 メガトライアルからみた心不全と梗塞後の心室不整脈
 4 CASTとは何か
 5 アミオダロンとICD
 6 不整脈源性右室心筋症
 7 拡張型心筋症と心室頻拍
第15章 失神と心臓突然死の背景
 1 突然死の疫学
 2 心臓突然死の病理
 3 心臓突然死と自律神経
 4 失神の疫学
第16章 不整脈学への道
 1 パッチクランプでみえたもの
 2 不整脈外科:目にみえない病気を手術で治す魅力に惹かれて
 3 臨床心臓電気生理学的検査とカテーテルアブレーションへの道
 4 臨床試験を進めるということ
索引

基礎医学として心筋電気生理を学ぶ者には、臨床の進歩に追随することは容易ではない。臨床医は分子生物学的視点で心筋の生理を学びなおす機会は少ない。いずれの立場であれ、偏りなく、広範な領域に通じてこそ、堅固な研究や医療が成し遂げられるはずである。あるいはまた、慣れ親しんだ分野であっても、感性の異なる視点を知れば、新たな着想が生まれるかもしれない。この所以により、病態の基礎から先進的治療まで、不整脈の全貌を俯瞰すベく、ここに「不整脈学」を上梓することになった。
 さかのぼれば1992年、旧「不整脈学」が杉本恒明東京大学教授を編者として南江堂より世に問われている。折りしも、カテーテルアブレーションや植込み型除細動器などの治療手段が目覚ましい成長を遂げ、かたや遺伝子病としての不整脈も脚光を浴びた。これらの情報の集積と変遷を追って、2003年には後継の「新不整脈学」が出版された。そしてさらに10年。とどまることなく、舞台は拡大し、海淵は深まった。この「不整脈学」は先の不整脈学と新不整脈学の志を継ぐものであり、旧版同様「不整脈学」と題することにした。
 取り扱う事柄に欠落がないように心がけた。また、文献を渉猟すれば多くの情報を得られる今日であればこそ、執筆者の所懐や興味が反映されることを期待した。編集の意図を明快にすべく、「第16章不整脈学への道」は、個人的な経験を語ることを依頼した。知識の網羅にとどまらず、その学び方をも披露することにより、不整脈学を志す人のモチベーションを刺激したいと考えた。また、静止膜電位はなぜ[K+]o/[K+]i、予後規定因子としての心拍数、光学的膜電位測定とその応用、ペースメーカーの歴史と進歩という具合に、テーマの入り口が初学者の疑問、疫学的な知見、研究の技術、臨床医学と技術工学の進歩など多彩な角度や色合いになるようにした。難解でも窮屈でもなく、楽しんで読める一書であればと願う。諸事多忙の中、渾身の稿をお送りいただいた執筆者各位に深謝するものである。
 本書が不整脈学の発展と不整脈診療の進歩に寄与することを祈る。

2012年9月
井上博
村川裕二

「不整脈学」と題された本書を送られて、内容をみた。内容は、基礎的な心筋の電気生理から始まり、不整脈のメカニズム、不整脈の実験モデルとすすむ。さらに基本である薬物療法、非薬物療法が詳述され、さらに個別の不整脈についての説明がなされている。最後に今後の不整脈学のすすむべき道と、それに非常に役立つ先達の思いが述べられ、将来への希望を感じさせる。序文に述べられているがごとく、基礎医学を学ぶ者は臨床の進歩に追随することがむずかしく、臨床医は逆に分子生物学的視点で心筋の生理を学び直す機会が少なく、いずれの立場の者にとっても偏りなく広範な領域に通じてこそ、堅固な研究や医療が成し遂げられるはずである。そのため本書は偏ることなく、基礎から先進的治療まで不整脈の全貌を俯瞰した内容となっている。また、本邦における不整脈領域で活躍されているほとんどすべての傑出した専門家たちが各々の専門分野を分担執筆されており、本書の価値は既存の有名な他言語での成書を凌駕する意義がある。さらに日本人にとって、日本語で書かれた本書は不整脈を理解するうえで、格段の容易さ、早さをもたらすものであろう。内容もさることながら、本書の記述はわかりやすく多くの図表を用いており、理解を容易にしてくれている。
 筆者は、不整脈に興味を抱く外科医である。浅学非才であるが、心臓血管外科の研鑽をしつつ、独学で不整脈について学び、その治療に邁進してきた。振り返ってその当時に、本書のような初心者に必要な知識が網羅された成書があったら、どれほど役に立ったかと感じるばかりである。不整脈治療に興味を示す外科医が減少している中、手引き書として本書は基礎的知識から最新の知見までの情報獲得を容易にしてくれ、不整脈への理解が深まることで、多くの若い心臓外科医が不整脈非薬物治療の領域に邁進してくれるのではと期待される。今後の外科治療においても有益な資料となるものと確信する。
 過去には不整脈治療の牽引役を外科医が果たしてきたことに間違いはないが、現在は不整脈治療の主体は循環器内科医に移っている。従来不整脈のプロフェッショナルにしか行えなかった不整脈非薬物治療を、機器の格段の進歩から容易に行えるようになり、カテーテルアブレーションを行う施設が飛躍的に増加している。特に最近では、心房細動のアブレーションを行う施設が増加しているが、これを行うには当然基礎となる不整脈学の知識を有する者が行うべきであるものの、近年、十分な知識や経験もなく安易に行われ、問題が多数発生しているとの声も聞かれる。このようなことがないように本書を一読され、最低限の知識を獲得した後に日々の臨床に邁進されることをおすすめしたい。
 本書は、不整脈を専門とする研究者や内科・外科の臨床医だけでなく、卒前の医学生にとっても理解が得やすく、またすべての初期および後期研修医、さらに循環器治療を専門としようとする若い医師にとっても、手放せない座右の書となるであろう。不整脈学研究のヒントとなる内容や先人たちの苦労話も満載されていることから、今後の不整脈研究の道標として闇夜の灯台の役目も果たしてくれるのではと期待させる。
 最後に新しい試みとして、どこでも本書の内容に触れることができるようにとの考えから、コンピュータでのアクセス権の提供は、日常の臨床や研究の現場に役立つ新企画であろう。

胸部外科66巻5号(2013年5月号)より転載
評者●愛知医科大学心臓外科教授 磯部文隆

心筋細胞は単離した単一細胞においてもリズミカルに興奮し、収縮する。細胞が集まり、その集合体が大きくなると、リズムはいっそう規則的となっていく。こうして心臓は胎生期から死にいたるまで、規則的に興奮、収縮を繰り返す。生涯の経過の中で、そのリズムはときには乱れて期外収縮となり、あるいは頻拍、細動となり、ついには停止して生命を終わる。このリズムの生成と乱れ、その生体への影響を学問するのが不整脈学である。
 筆者は以前に「不整脈学」と題する本を編集・上梓した。20年も昔のことであった。当時、健在でいらした恩師、村尾覺先生によいタイトルだとお褒めをいただいた。今回、新しい本に「不整脈学」のタイトルを復活させたいという意向があって、筆者は嬉しかった。編者の井上博、村川裕二の両教授は、筆者が東京大学に在任していたときに近い存在だったということもあった。本書の共同執筆者の方々にはこのことゆえにも親しみをもち、本書が優れた内容であることが期待されたのであった。
 本書の各章の内容、項目立てには表現に工夫があって、教科書的ないしは画一的ではない。「パッチクランプの黎明といま」の項目の1982年のNeher & Sakmann研究室の写真に、倉智嘉久教授の若い姿があった。彼の実験を傍にみて筆者自身にエキサイティングな日々のあった時代を懐かしく思った。本書では膜電流系、イオン交換系等の電気生理学の著しい進歩が紹介されている一方、不整脈を成立させる興奮伝導系の形態学的背景、異常検出のための臨床検査の方法も詳しい。また、予後規定因子としての心拍数が取り上げられ、心拍数管理に留意した診療が求められている。不整脈が遺伝子異常として把握され、薬剤性QT延長における遺伝子異常の関与も知られている。心房細動もまた遺伝子疾患の側面をもつという。負荷試験には満腹試験、温熱刺激試験等も試みられていて、運動負荷時の不整脈は予後不良という。治療はアブレーションが中心の時代となって、ますますの展開があり、神経叢もまた、アブレーションの対象となった。診療面で必要な新しいエビデンスには日本のみならず、米国、ヨーロッパ等、海外のガイドラインや国際的な研究班が策定する基準が紹介されている。「CASTとは何か」という項目はエビデンス準拠の嚆矢としてのみならず、治療行為の功罪が問われる今、見直してみる意味は大きいであろう。失神にもよくページを割いている。最終章「不整脈学への道」は異なる立場の4人の研究者が研究の取り組みの経緯を語っていて興味深い。
 過日、日本心臓病学会総会があったとき、学会会場に出店した書店で本書が何列かに平積みになっていた。多くの人達が手にとってみていた。人に案内されてみにくる人があり、なんのためか、カメラで写していく人もあった。翌日、平積みの山がどれほど低くなったか期待してみにいったら、山は前日よりさらに高くなっていた。
 不整脈の基礎から臨床までの最新の知識を疑問に答える形で盛り込んだ好著である。まずは通読して不整脈診療の最前線の現状を知ってみることが望ましいと思う。そして、そのうえで、座右において時折開くという利用法をお勧めしたい。

評者■杉本恒明
内科111巻2号(2013年2月号)より転載