書籍

変貌する心不全診療

編集 : 伊藤浩
編集協力 : 佐藤直樹/坂田泰史/中村一文
ISBN : 978-4-524-26842-9
発行年月 : 2013年3月
判型 : B5
ページ数 : 310

在庫あり

定価7,776円(本体7,200円 + 税)


正誤表

  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

大きく変貌している“心不全診療のいま”を読み解く一冊。激増する拡張不全・バイオマーカーによる病態の評価・薬物治療の進歩・非薬物治療の適応の拡がりなど、最新の内容と現時点のスタンダードに加え、実地臨床でのフィロソフィを気鋭の執筆陣が詳細に解説した、メッセージ性の高い出版。循環器医はもちろん、心不全診療に携わる内科系関連医も一読の価値あり。

I. 大きく変貌する心不全の概念
 1. 収縮不全と拡張不全
 2. 心不全の裏にある本質
 3. 心不全の早期診断と早期治療介入
 4. 大きく変貌した急性心不全の治療戦略
 5. 心不全に対する非薬物療法
II. 心不全の疫学−激増する心不全
 1. 21世紀循環器医療の課題としての心不全
 2. 欧米で示された心不全患者の増加傾向
 3. わが国における心不全患者の動向
 4. 欧米における疾病管理とその成果:最近の話題
III. 変貌する心不全の原因
 1. どのような心筋梗塞に心不全が多い?
 2. 激増する拡張不全─加齢、高血圧、メタボリックシンドロームの影響
 3. 不滅の心臓弁膜症─僧帽弁閉鎖不全症、大動脈弁狭窄症、三尖弁逆流症
 4. 対策を急がれる成人先天性心疾患
 5. 忘れてはならない肺高血圧症
 6. 解明されてきた遺伝性心疾患
 7. 不整脈でも心不全
 8. 見逃してはならない慢性心筋炎
 9. 薬剤により引き起こされる心筋障害とは?
IV. ここまで解明された心不全の機序
 1. 不全心筋と心筋細胞死
 2. 心筋細胞の機能不全(収縮・弛緩障害)
 3. 酸化ストレスとβ遮断薬
V. 心不全の病態評価−バイオマーカーで評価し、予後を予測する
 1. カテコラミン、レニン、アルドステロン
 2. ナトリウム利尿ペプチド
 3. バソプレッシン
 4. サイトカイン、hsCRP
 5. 心筋トロポニン
●ワンポイントメモ 尿酸値は心不全のバイオマーカーになりうるか?
VI. 心不全の原因・病態に迫る検査
 1. 心エコー─ガイドラインにおける役割
 2. SPECTはどのような症例に行うべきか?
 3. MRIはどのような症例に行うべきか?
 4. PETはどのような症例に行うべきか?
 5. 運動負荷試験をどう活用するか?
 6. 右心カテーテル検査の適応と解釈
 7. 心筋生検はどのような症例に行うべきか?
 8. 遺伝子診断はどのような症例に行うべきか?
VII. 合併症と心不全への影響
 1. 機能性僧帽弁逆流、虚血性僧帽弁逆流
 2. 貧血
 3. 腎障害(AKI、CKD)
 4. 右心不全
 5. 糖尿病、インスリン抵抗性
 6. 睡眠呼吸障害
 7. 甲状腺機能障害
 8. 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
●ワンポイントメモ うつ気質にはどう対応するか?
VIII. 変貌する急性心不全治療
 1. 病態生理解明の足跡
 2. 病態把握の変遷
 3. 病態把握をシンプルに捉え治療方針を決定する
 4. 心不全治療薬の歴史を知る
 5. 薬剤特性を活かし病態に応じた薬剤選択をする
 6. 慢性期への橋渡し
●ワンポイントメモ 急性心不全時に無尿になる理由は?
IX. 変貌する慢性心不全治療:薬物療法
 1. β遮断薬─正義の味方の力を最大限に引き出すには?
 2. レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系阻害薬─正義の味方でも渋い役回り
 3. 利尿薬─悪役だが、なくてはならない?
 4. 経口強心薬─悪役界の大ヒーロー
●ワンポイントメモ フロセミドで腎機能が悪くなる理由は?
X. 変貌する慢性心不全治療:非薬物療法
 1. どのような症例に血行再建術を行うのか?
 2. ICD/CRT─変貌する適応
 3. CPAP、ASV─陽圧呼吸療法
 4. 和温療法─心不全に対する全人的治療
 5. Structural Heart Diseaseに対するカテーテル治療
 6. 変貌する僧帽弁形成術
 7. 左室形成手術はどのような症例に行うべきか?
 8. 新しい適応基準となった心臓移植の今
XI. 心臓リハビリテーションを慢性心不全治療に活かす
 1. 慢性心不全治療戦略のパラダイムシフト─QOL改善と疾病管理
 2. 慢性心不全の病態についての考え方─運動耐容能低下の機序
 3. 慢性心不全に対する運動療法の有効性のエビデンス
 4. 慢性心不全に対する運動療法の実際
 5. 慢性心不全の疾病管理プログラムとしての心臓リハビリテーション
 6. わが国における現状と今後の課題
XII. 新しい心不全治療
 1. 心不全発症前に診断する─遠隔モニターの試み
 2. 心筋再生療法
 3. 新しい心不全治療薬剤
 4. 非薬物治療としての心不全に対する自律神経アプローチ
   (腎動脈周囲交感神経アブレーション、頸動脈洞刺激、脊髄刺激)
 5. Destination治療
索引

日本人の死因の第2位は心臓疾患であり、その中でも冠動脈疾患を抜いて死因の1位となったのが心不全である。現在、心不全患者数は推定約160万〜250万人とも言われているが、その数は年々増加の一途を辿っている。以前はCCU入院患者の多くは急性心筋梗塞患者であったが、心不全患者が多くを占めるようになっているのが現状である。その原因として急性期の血行再建により心筋梗塞患者の予後が改善したこと、薬物療法の進歩により収縮不全患者の予後が改善したこと、そして高齢化に伴う拡張不全の増加が挙げられる。今や、心不全は循環器医のみならず一般内科医も遭遇する機会の最も多い循環器疾患であるといえる。それとともに、心不全の診療も大きく変わりつつあるが、我々の知識はその変化に追い付いているのであろうか。
 心不全の概念が大きく変貌しつつある。ともすれば心臓のポンプ機能に注目が集まっていたが、今では心拍出量の低下に伴う神経体液性因子(レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系、バソプレッシン、交感神経活性)の亢進が心不全の病態に関与することが明らかになってきた。また、心不全の進行における炎症性サイトカインや酸化ストレスの役割も解明されつつある。さらに、頻脈それ自体が心機能低下に寄与することもわかり、新たな治療ターゲットとして認識されつつある。
 心不全の診断も大きく変貌している。収縮能に加え、拡張能の評価、そして核医学やCMRなど画像診断を駆使して心筋に生じている病的変化を捉える努力がなされている。また、血液検査でもBNPはもとより、微量なトロポニンTやIの遊出動態が心不全の診断や治療効果の判定において重要な役割を果たしつつある。多面的な診断が重要となっている。
 そして、心不全の治療も大きく変貌しつつある。心不全の機序が解明されるにつれ薬物療法の考え方が進歩するとともに非薬物療法の適応も拡がってきている。また、急性期の緊急対応から、慢性期における治療・管理・リハビリテーションまでカバーする範囲は幅広く、必要とされる知識も飛躍的に増大している。
 本書では、このように変貌しつつある心不全診療における最新の内容を、第一線で活躍する医師により解説していただくのはもちろんのこと、現時点におけるスタンダードを明確にしながら各著者の主張も盛り込み、心不全診療の新たな指針となることを目的とした。特に、心不全の機序、急性心不全の治療、慢性心不全の治療の3章に関しては、それぞれ一人のスペシャリストにお任せし、一本筋の通った実践的な内容を述べていただくこととした。本書が今後の心不全診療におけるスタンダードになることを筆者一同祈念するものである。

2013年2月
伊藤浩

心不全の概要が大きく変貌しつつある。
 心不全は確実に増加している。
 心不全の治療は大きく変化している。
これは、いずれも事実である。なぜか…その理由は本書を読めば明解な回答がある。もっともわれわれの疑問がすべて明らかになっているわけではないが、up−to−dateな知見と考え方がわかりやすく提供されている。日ごろ、明確な考えがもてず、モヤモヤしている頭が整理され、「あー、そうだったのか」とうなずいてもらえる書物である。
 心不全は、心機能障害(ポンプ不全)による全身的な代償・適応不全状態を示し、予後不良の疾患である。やっかいなことに、心ポンプ不全は、全身の循環不全を惹起し、多彩な症候を呈することとなる。まず、肺うっ血はもっとも顕著な心不全症状の源となり、呼吸困難の原因となる。肺胞浮腫は、肺での血液ガス交換の障害を招き血液酸・塩基平衡にも影響を与えるのみならず、意識障害にもつながる。従来は利尿薬による除水のみに重点が置かれていた急性心不全の治療に陽圧呼吸が導入され、第一選択の治療となっている。治療の進歩により病態生理に関する理解も進み、治療選択からみた病態診断が行われるようになってきた。急性心不全は、全身的血管収縮反応を伴うが、とくに腎血流の低下は、尿量減少を招く。利尿薬の反応性は? 腎障害の発症メカニズムは? これらの疑問にもかなり答えられるようになってきた。
 一方、心筋障害の原因も、心筋虚血以外に炎症やサイトカイン・体液性因子による心筋障害メカニズムが分子生物学的研究により明らかになりつつあり、心不全も内分泌疾患の様相を呈している。交感神経のみならず、レニン−アンジオテンシン−アルドステロン、エンドセリン、バゾプレシンなど体液因子の関与も大きく、心筋リモデリングのみならず、体液調節、血管収縮にも重要な役割を果たしていることが、明らかになってきた。これは、各因子の選択的阻害薬が開発されたためであり、内分泌異常と捉える見方とサイトカイン・酸化ストレスの関与などから慢性炎症として病態を捉える見方がある。
 これらの病態形成のプレイヤーは、いずれも心筋特異的な因子でなく、全身制御因子であり、全身臓器の機能に大きな影響を与える。とくに腎は、そのエフェクターとして重要で心腎連関を形成する。本書では、腎機能と貧血の問題も取り上げられている。
 心不全の治療は、近年非薬物療法が急速に進んだ。ICD/CRT、CPAP、ASV、僧帽弁形成術、LVAD、心移植のほか、和温療法などの非薬物療法についても、その適応や効果などが注目されている。リハビリテーションも心不全の重要な治療法としての地位を確立した。
 本書は、問題提起型のキャッチが見出しになっており、問題が一目でよくわかる。図表をふんだんに使用してわかりやすく解説されており最新の知見と文献が引用されている。実地臨床にすぐに役立つのみならず、通読して心不全の全般を把握するのにすぐれた書物といえる。ぜひ活用されることをお奨めしたい。

臨床雑誌内科112巻6号(2013年12月増大号)より転載
評者●大阪府立成人病センター総長 堀正二

日本人の死因の第1位は悪性新生物で、心疾患は第2位である。どちらも戦後からずっと増え続けている。しかし1995年に死亡診断書において、「死亡の原因欄には、疾患の終末期の状態としての心不全、呼吸不全などは書かないでください」という注意書きが加えられ、同年の心疾患の死亡率は低下した。しかしその後は増え続けている。統計をみると心不全の死亡率が増加しているのは事実であるが、一般の臨床家は心不全をどれだけ理解しているのであろうかと疑問に思う。心不全という言葉を安易に使っていたのも事実のようである。
 死因が心疾患の内訳をみると心不全がもっとも多く、次が急性心筋梗塞である。急性心筋梗塞は、癌、脳卒中と並んで日本人の命を脅かす代表的な疾患であったし今もそうである。しかし、近年の経皮的冠状動脈形成術(PCI)や冠状動脈バイパス術(CABG)に代表される冠血行再建術が進歩し、急性心筋梗塞の治療成績は大きく向上した。その結果として今は、心不全に陥った虚血性心筋症の患者をいかに長生きさせるかを考える時代になってきている。逆にいえば、心不全は心臓のポンプ機能の低下が原因であるため、心筋の障害によりいったん低下したポンプ機能を改善させることは容易ではない。心不全の原因は虚血性心疾患だけではないが、このような循環器診療の進歩の陰で、心不全患者が増加してきている。また心不全は原因や病態がさまざまであるため、心不全の診療の際にはこれらすべての理解が必要である。しかしあまりに多岐にわたり全体像を見渡すのは困難であるともいえる。そういった意味で本書は、心不全診療のバイブル的書籍であるといえる。
 本書の題名となる「変貌する心不全診療」は、心不全患者の増加とともに心不全の概念の変化、心不全に対しての新しい知見、診断法、治療薬、治療法などが数多く出てきたために、まさに変貌しつつある時代であることを示している。今後も変貌し続けるであろうが、現時点の理解は必須である。本書は、各分野のエキスパートが限られた頁の中で簡潔に最大限要点を表現しているため理解しやすい。全体を読み通すことが望ましいが、項目ごとにまとまりがあるため自分の興味がある項目から読みすすめるのにも適している。本書の内容を知ることで、今後の心不全診療の方向性や展開もみえてくる。読み応えがある。
 本書にも述べられているが、心不全に対しての最近の外科治療の進歩はめざましいものがある。特に虚血性心筋症、拡張型心筋症が原因の僧帽弁閉鎖不全症を合併した心不全に対しての手術手技の工夫、さらに左室機能の回復を図る左室形成術など。一方で補助人工心臓や心臓移植といった末期心不全に対しての治療など、外科医が関与する心不全の外科治療は今後さらに重要となってくる。しかし心不全における外科治療は、患者にとっては治療の一部である。診断、内科的な治療を経て外科適応の有無、治療後の管理、リハビリテーションなど、治療の流れの中で行われ外科治療により完結するわけではない。
 本書を読みすすめていくと、心不全の診療は内科的治療と外科的治療が両輪として、また融合して機能しなければならないことが理解される。今後心不全診療を行っていくうえで、内科と外科が協働で治療にあたることができるようなチーム医療の推進が、さらに望まれる。これは心不全診療に限った話ではなく、循環器疾患全般についていえることである。心不全はその概念から治療法にいたるまで変貌しているのと同様に、このような診療体制の変貌も起こりつつあると考えるし、本書を手にされた読者にこそ、変貌を起こしてほしいと考える。

胸部外科66巻12号(2013年11月号)より転載
評者●愛媛大学心臓血管・呼吸器外科教授 泉谷裕則