書籍

システマティック腎臓栄養学

input・balance・outputで理解する

: 前田益孝
ISBN : 978-4-524-26832-0
発行年月 : 2012年6月
判型 : A5
ページ数 : 118

在庫あり

定価3,240円(本体3,000円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

腎臓病・透析患者に対してどのようなステップで適切な食事を選択していけばよいか、栄養療法を“システム工学”的な枠組みに沿って体系化。排泄(output)を推定・計測し、血液濃度などから生体内バランスでの過不足(balance)を判断し、食事の必要量(input)を決定するというアプローチ法を提案する。刻々と変わる患者の病態に応じた、きめ細かい食事指導の考え方を理解できる。

第1章 Input
I.食事内容
 A.エネルギー
  1)基礎代謝量と安静時代謝量
  2)運動時代謝量
  3)栄養素のエネルギー配分
  4)腎不全での注意点
 B.炭水化物
  1)炭水化物とは
  2)食物繊維
  3)グリコーゲン
  4)腎不全での注意点
 C.脂質
  1)脂質とは
  2)脂肪酸
  3)腎不全での注意点
 D.蛋白質
  1)蛋白質とは
  2)プロテインスコアとアミノ酸スコア
  3)腎不全での注意点
 E.ビタミン、ミネラル
  1)ビタミン
  2)塩分
  3)カリウム
  4)カルシウム
  5)リン
  6)尿酸
II.調理法
III.副食品
 A.水
 B.飲料品
 C.アルコール
 D.サプリメント
IV.食品添加物
V.消化と吸収
 A.炭水化物
 B.蛋白質
 C.脂肪
 D.カルシウム
 E.リン
VI.生体内吸収効率(バイオアベイラビリティ)
 A.バイオアベイラビリティとは
 B.蛋白質の吸収効率
 C.カルシウムの吸収効率
 D.リンの吸収効率
VII.透析の影響

第2章 Human Body Balance―病態と生体内バランス
I.病態
 A.腎不全保存期(透析導入前)と透析期の考え方
 B.腎不全保存期(透析導入前)―蛋白制限の理論的背景
  1)窒素負荷の軽減
  2)酸産生の抑制
  3)糸球体過剰ろ過の改善
 C.腎不全透析期
  1)透析とは
  2)透析食の2つの考え方
II.生体内バランス
 A.自覚症状
 B.身体計測
  1)標準体重とは
  2)バイオインピーダンス法
 C.血液モニタリング
  1)アルブミン
  2)貧血
  3)窒素化合物
  4)ナトリウム
  5)カリウム
  6)クロール(塩素)
  7)重炭酸イオン
  8)カルシウム
  9)リン
  10)尿酸
  11)ビタミンD
  12)副甲状腺ホルモン
 D.透析からの指標

第3章 Output―尿・便への排泄と透析の影響
I.栄養素の排泄経路
 A.炭水化物、脂質
 B.蛋白質
 C.ナトリウム
 D.カリウム
 E.カルシウム
 F.リン
 G.ビタミン
II.Outputのモニタリング
 A.随時尿からわかること
 B.蓄尿からわかること
  1)尿中ナトリウム
  2)尿中クロール
  3)尿中クレアチニン
  4)尿中リン
  5)尿中蛋白
 C.腹膜透析液の排液からわかること
III.透析の影響

第4章 具体的なアプローチ
I.症例
 A.食事療法の進め方
  1)問題点の整理
  2)エネルギー摂取の評価
  3)制限食の指導
 B.実際の症例
  症例1 70歳、女性
  症例2 44歳、男性
II.栄養素

第5章 複合病態への対応
I.複合病態の治療原則
 A.複合病態での食事選択
 B.具体的な対応法
  1)高度肥満合併例
  2)肝不全合併例
  3)心不全合併例
 C.実際の症例
  症例 35歳、女性
  1)問題点はどこか?
  2)脂肪を減らすためには
II.糖尿病腎症
 A.「糖尿病腎症」? 「糖尿病合併腎症」?
 B.2型糖尿病合併腎症における新たなステージ分類
 C.食事療法のポイント

第6章 今後の課題
I.フード・ファディズム
II.砂糖(果糖)は大丈夫か?
III.医療としての栄養学

索引

約3,000年前の中国、周の礼記を記載した前漢の書「周礼(しゅらい)」によると、食事により病を治す食医は医師の中で最高位の階層にありました。次が内科医(疾医)、そして外科医(瘍医)、獣医が続きました。一方、2,000年前、西洋のギリシャではソクラテスが料理術を、医術のふりをし大衆に迎合する卑しき生業であり、政治家に対するソフィスト(詭弁家)にたとえています。「太ったブタよりやせたソクラテス」の言はまさにソクラテスの主張に適っていたようです。
 西洋医学における栄養学の軽視も案外、このソクラテス以来続いているのかもしれません。実際、栄養学をさす英語はdieteticsやnutriologyがありますが、いずれもあまり用いられず、シンプルにnutrition(栄養)やdiet therapy(食事療法)が用いられることが多いようです。学問と呼ぶことに抵抗があったのかもしれません。
 しかし食事療法は治療の脇役ではなく、生活に根ざした最も根源的な医療行為です。具体的な食事の指導は栄養士の責務ですが、患者さんに適切な食事内容を考え、指示するのは医師の仕事です。さらに食事という身近な事柄を扱う栄養学は幅広く深い知識が必要であり、エビデンスも十分ではありません。このためかマスコミをはじめ各方面からの情報にとまどってしまうのは患者さんに限らないようです。医療スタッフの中にも困惑している人が多いのではないでしょうか。このような混乱がフード・ファディズムのような土壌を醸し出しているのかもしれません。
 本書の目的はどういう食事が良いかを勧めることではなく、ガイドラインの紹介でもありません。目の前の患者さんに対して、どのようなステップで適切な食事を選択していくのか、あるいはこのサプリメントは本当に必要なのか、考え方を示す試みです。そのためには具体的なアプローチ法を土台として、日々更新される新たな情報の真偽、価値を吟味し、適切に判断していく力を養わなければなりません。
 輸液の処方ではシステム工学的なbalance studyの発想が取り入れられています。生体からのoutputを推定・計測し、病態・体格の変化、血液濃度などから生体(Human body)内バランス(balance)の過不足を判断し、inputの必要量を算出します。このような発想を取り入れれば、栄養学もより実践的になるのではないか。本書はそのような試み(systematic approach)を示したものです。
 無論、inputにもoutputにも病態は深く関与しており、それぞれを独立した項目として捉えることには無理があり、内容が重複せざるを得ない側面もあります。しかし問題を細分化することで論点を明らかにできるメリットがあり、幅広い分野をカバーしなければならない栄養学では有用なのではと考えました。このような視点は患者さんの栄養(治療)方針を決めるだけでなく、ある栄養素が腎臓病では不足するのか、蓄積するのか、そして補充が必要なのかを見極めるうえでも役立つはずです。
 栄養学ではinputを栄養士が担当し、生体内バランスやoutputの評価を医師が行う分業化のためでしょうか。せっかく得られたbalanceの結果がinputへフィードバックされていないように思えます。本来ならば一度出された栄養指示が数年も変わらないことはありえません。患者さんの病態は刻々と変わるものであり、栄養療法もそれに合わせて変えていくダイナミックさが必要です。このために栄養士は病態やbalance、そしてoutputの評価を、医師はinputへの知識を深めていく必要があります。本書はそのような方々へのガイドブックを目指しました。
 さらに本書は、栄養学に取り組むうえで必ず遭遇する疑問に答えられる本を目指しました。索引には日本語の名称に対応する英語を併記し、海外の報告に抵抗なくアクセスできるように配慮しました。また記述の根拠となった原著・参考書も和洋を問わず、参考文献として網羅し、その真偽を読者自らが判断できるよう心がけました。そしてその際に遭遇するであろういくつかのキーワード、キーポイントを「もっと知りたい?!」の欄で紹介しました。本書が若き医師、栄養師、看護師、学生らに常に傍らに置いていただける本(reference book)となりましたら幸いです。
2012年5月
前田益孝

どんな病態にも対応できる「考え方」がわかる栄養学テキスト
 慢性腎臓病(CKD)の食事指導の大切さはよく知られているが、実際に患者さんに接したときに具体的にどう話をしたものか戸惑う医療従事者は多いであろう。ガイドラインには一般的なことは書いてある。たとえば、目標の摂取カロリーは25〜35kcal/kg体重/dayであり低蛋白食を行う。しかし目の前の患者さんは糖尿病性腎症であり、肥満がある。カロリー制限と低蛋白のどちらを優先するか、どの程度の制限を行うか、曖昧である。仕方がないのでガイドラインの推奨値を指示書に記載し、あとは栄養士さんにお任せとなる。任された栄養士さんのほうでも、肥満で血糖の高い人にカロリーが多目の食事になるので首を傾げる…。そんな状況を救うべく現われたのが本書である。
 著者の前田益孝先生が本書を著したのは必然である。氏は日本のCKDの食事療法を牽引しているJAとりで総合医療センター(旧取手協同病院)において、中心メンバーとして活躍しているからである。おそらく一般的に行われている食事指導が十分に効果的でないことを悉知し、もどかしく思っていると推察される。そこで本書では、体へのインプットとしての食事、アウトプットとしての尿と透析液、そして体でのバランスを評価するという考え方に従って記述されている。輸液療法では当たり前のインアウトバランスの考え方であるが、食事療法では強調されていなかった。翻って栄養学・食事療法は、医学教育では系統立って教えられる機会の少ないものではないだろうか。インプットとして、食事から入るエネルギーや各栄養素について、エッセンスだけが述べられている。これらの知識は本当に必要なことだけというところが有難い。次いで体内でのバランスをどう理解し、どのような指標(たとえば体脂肪)でみるかが述べられ、そしてアウトプットとしての尿・透析液のモニタリングについて述べられている。いずれもある程度は知っている内容であるが、わかりやすくまとめられ、知識を整理し、アップデートすることができる。
 本書の後半部では、以上の基本事項が理解できると、その後の応用が簡単であることを症例を提示しながら示している。栄養指導で何が大切か、何を優先するか、各患者の病態・状況で何が可能かを示している。「緊急性のあるものへの対処を優先し、そしてカロリー摂取を評価し、その後に食生活を把握してから、栄養指導の内容を決める」という著者の明瞭な指針は、わかりやすく説得力がある。また複合病態、たとえば心不全の合併への対処、あるいは糖尿病性腎症に対しての、カロリー制限と蛋白質制限のどちらを優先するかについての考え方も説得力がある。本書のもっとも素晴らしいところであり、類書と一線を画すところである。明日からの臨床現場で役立つ柔軟な考え方が身につくことが本書の狙いと著者は述べているが、その目的は十分に達せられている。筆者も大いに学ぶことが多かった。
 本書を通して伝わってくるのは、著者の食事療法に対する真面目な姿勢であり、豊富な経験に裏打ちされた工夫である。著者は東京医科歯科大学の第二内科(現腎臓内科)で腎臓内科学の研鑽を積まれ、米国 NIH での留学を経て、その後 JA とりで総合医療センターにおいて CKD 診療の最前線に立ち続けている方である。科学的にも優れ、常に最新の研究成果を取り入れ、また発信する診療姿勢は素晴らしいものである。科学の最先端から臨床現場の応用問題までをコンパクトにまとめた本書を、CKD 診療に携わるすべての医療関係者、学生諸君に推薦する。

評者● 佐々木成
内科110巻6号(2012年12月号)より転載