書籍

下肢EVTトラブルシューティング55

監修 : 横井宏佳
編著 : 飯田修/鈴木健之/曽我芳光/平野敬典
ISBN : 978-4-524-26764-4
発行年月 : 2013年7月
判型 : B5
ページ数 : 254

在庫あり

定価7,560円(本体7,000円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

多くの症例を経験しないとわからない下肢EVTの合併症・トラブルへの対策、コツやノウハウを新進気鋭の執筆陣が実践的にまとめた。エキスパートが難渋した症例について、症例写真と術中の様子(術者の考え)を詳細に解説し、臨床知と基礎的な知識を関連づけながら臨場感溢れる学習ができる。これから下肢EVTを始めようとしている医師、すでに取り組んでいるが悩みも多い医師必読。エキスパートの秘技の解説コラムも収載!

第1章 大動脈腸骨動脈
 1.ステント留置後に解離が…
 2.高度石灰化を合併した腸骨動脈閉塞病変〜ホントに拡がるの?
 3.ステント内閉塞症例をどう攻めるか〜こんな方法もあります
 4.ステント留置部に仮性動脈瘤が…
 5.遠位塞栓を捕まえろ
 6.腸骨動脈TASC-D病変に対するEVT…でも腹部大動脈瘤を合併!
 7.ステントが変形してワイヤーが通過しない…トラブル続きの症例
 8.腸骨動脈完全閉塞治療後に、distal emboliが生じた…
 9.Perforation! 殿筋跛行患者に対して内腸骨動脈完全閉塞の治療中…
 10.subintimal angioplasty後に自己拡張型ステントを留置したが、拡張不全あり…
 11.外腸骨動脈穿孔!カバードステントを留置して止血したけれど…
 12.シースワイヤーで腸骨回旋動脈が破れた!
 13.EVTの最中にシースが抜けた!
 14.血栓たっぷりの腸骨動脈閉塞は二重ステントでおさえる!
 15.秘技!OTW体外循環止血法
第2章 大腿膝窩動脈
 1.止血デバイス血止めすぎ!
 2.両方向性アプローチ+両方向性アプローチ(大腿動脈-足背動脈閉塞への3点突き)
 3.DES使用に伴うステント血栓症は末梢血管においても問題となるのか?
 4.バイパスグラフト閉塞に血栓吸引後も、血栓が大量に残った…
 5.popliteal arteryの完全閉塞病変に対してEVT中、perforationを生じた…
 6.長区間ステント再閉塞の治療.大量の血栓でどうしようもない…
 7.(クロスオーバーシースを用いて)クロスオーバーしたが、DFA perforationが生じた…
 8.SFA-CTOであらゆるワイヤーが通過しない…
 9.バルーン拡張後SFAが破れた!
 10.繰り返す再狭窄の果てに…
 11.シンプル病変のEVTと思ったけれど…(1)
 12.どこを治療するかプレッシャーワイヤーで決める
 13.CFAの閉塞病変をbi-directionalで治療する
 14.SFAステントのストラット越しに新しいステントを入れる
 15.focalな膝窩動脈閉塞と思ってEVTをしたけれど…
 16.Fall Into a Little TRAP
 17.高度石灰化病変のためにステントが持ち込めない!
 18.バルーンがデフレートできない!(汗)
 19.ステント血栓症に対して「平野どめ」を駆使して挑む
 20.浅大腿動脈内に残されたバルーンカテーテルの断端をワニ鉗子で回収!
 21.シンプル病変のEVTと思ったけれど…(2)
 22.浅大腿動脈と大腿深動脈の分岐部病変へのステント留置はどのようにすればよいのか?
 23.造影剤を1滴も使わずSFAのCTOをEVTで治療する
第3章 膝下動脈
 1.trans-collateral approachは膝下動脈で輝きを増す
 2.ほったらかしにしていた傷が感染を伴い急速に悪化して慌てて受診…
 3.腓骨動脈に対しEVTを行うも、十分なSPP上昇がない…
 4.BKインターベンションにて、ガイドワイヤー先端がトラップされた…
 5.BK-CTOにてガイドワイヤーの通過には成功したものの、バルーン拡張の際に解離が生じた…
 6.antegrade punctureにてBK治療に成功したものの血圧低下、患者さんが急変した…
 7.TPTの拡張を行ったら、下肢の色調が悪化、患者さんは足の痛みを訴えだした…
 8.繰り返すグラフト再閉塞をEVTで治療する
 9.3Frガイディングシースにマイクロカテーテルがスタックした!
 10.pedal arch angioplastyに挑む
 11.EVTの難所:distal Popを攻略する
第4章 複雑病変
 1.表パンで挿入したマイクロカテーテルを術後引き抜いたところ断裂した…
 2.心不全とCLIを同時に治す
 3.TASC-DDD(トリプルディー)をEVTで治す
 4.antegrade approachでSFA-CTOにワイヤー通過せず、膝窩、足背、後脛骨動脈も穿刺できない…
 5.透析患者さんの血圧が低くて十分除水できず心不全を繰り返している
 6.バイパスグラフト内の巨大血栓にTURBO吸引で挑む
索引

2005年、私が循環器科の仕事に加えて病院の安全管理部長を務め始めた頃に、畑村洋太郎先生が書かれた『失敗学のすすめ』という本に遭遇した。「昔から伝わる言葉に失敗は成功の母という名言があります。失敗してもそれを反省して欠点を改めていけば、必ずや成功に導くことができるという深遠な意味を含んだ教訓です。」から始まるプロローグは私を惹き付けるには十分であった。
 「大事なことは、ひとつには学ぶ人間が自分自身で実際に痛い目にあうこと、もうひとつは自分で体験しないまでも、人が痛い目にあった体験を正しい知識とともに伝えることです。痛い話というのは人が成功した話よりもずっとよく聞き手の頭にも入るものなのです。」「このように、失敗経験を伝えることは、教育上大いに意義のあることですが、残念なことに失敗そのものには、回り道、不必要なもの、人から忌み嫌われるもの、隠すべきものなどといった負のイメージが常につきまとっています。そのせいか今の日本には、失敗体験が情報として積極的に伝達されることがほとんどありません。」という内容は、医療の現場にもあてはまるものであると強い感銘を受け、その後の私の臨床医としての仕事に大きな影響を与えた。臨床医は目の前にいる患者すべてを救いたいと願っているが、現実は100点満点にはなりえない。そのギャップを失敗学という方法でフィードバックすることにより、よりよい医療に近づけるのではないかと考えた。
 下肢動脈に対する血管内治療(EVT)は、ライブや書物を通じて、こうすればうまくいくという陽の世界の知識伝達により、広く普及した。今は、次のステージとして、よりよいEVTを求めて、陰の世界の知識伝達が必要なときではないかと感じていた。本書は、臨床最前線で、患者治療に向き合っている若手医師より、隠したいような失敗例を含めて、予期せぬ出来事が生じたときに、何を考え、何を行い、何を学んだか、トラブルシューティング事例を55例にまとめたものである。本邦のEVTの現状を考えると、タイムリーな企画であると考える。各症例とも、どう切り抜けたかだけではなく、こうやるとまずくなる点が書かれている。まずくなる必然性を知って治療にあたることによって、同じ失敗をする時間と手間を省き、著者よりも一ランク上の次元から治療を開始することができる。本書はそのように活用されることを推奨する。
 本書は若手医師の経験に基づき作成されたものであるが、先達はより多くの失敗の経験を有している。自分で体験する前に、陰の世界の知識伝達を先達より学ぶ謙虚さを忘れてはいけない。臨床現場における最適な医療を追究するためにEvidence Based MedicineとExperience BasedMedicineの二つのEBMが重要である。先達の多くの成功と失敗から導きだされたEvidenceを基礎に、患者の治療から学ぶExperienceにより、新たな気付きが生まれ、より良質な医療に近づいていく。先達は循環器医のみならず、PAD 診療に関わる血管外科医、放射線科医であり、診療科の枠を超えた連携も重要である。教科書に書いてあることは10年後には半分が実臨床に合わなくなる。変わり続けることは普遍的なものという理念に基づき臨床は進化していくが、これに携わる臨床医は真摯さこそが不可欠であることを忘れてはならない。
 本書を通じて、皆さんの臨床における失敗そのものの見方、扱い方に一石を投じ、より安全で効果的なEVT治療に役立つことを切に願います。

横井宏佳

近年、高齢化社会の到来に加えて、生活様式の欧米化により生活習慣病が増加している。それに伴い動脈硬化性疾患が増え、日常臨床において虚血性心疾患とともに末梢動脈疾患(peripheral artery disease:PAD)に遭遇する機会も増えている。PADの治療には運動療法、薬物療法、血管内治療、バイパス手術といった多様なアプローチが必要である。そのなかでも血管内治療(下肢EVT)は、デバイスの進歩とともにその果たす役割がますます大きくなっている。
 下肢EVTにおいて成功率の高い初期成績を得るには、外科的手技と同じように多くの症例の経験が必要である。合併症やトラブルなども一度経験すれば、次回からは事前に回避することが可能であるし、もし再発しても速やかに対処が可能である。ただし、合併症やトラブルに関してEVTに携わる多くの術者がすべての事象を経験することは困難である。また、手技中にはただちに対応することが求められる。医局に帰って本を読んでよく考えて、明日対処するというような一般内科的な対応は許されない。つまり、術中の難局を“今”切り抜けることが要求されるのである。そのためには、術者にあっては、起こりうるすべてのトラブルに関する対処法を理解し、発生時にただちに対応することが求められる。
 チェズレイ・サレンバーガー三世は、乗客乗員155人が乗ったUSエアウェイズ旅客機が両エンジン停止状態に陥った際、冷静な判断でハドソン川への不時着水を成功させた機長として知られている。彼が事後のインタービューで“訓練してきたことをやっただけ、自慢も感動もない”と言ったとされているが、まさに、術者もトラブル解消後にもつべき心境であろう。さらに、“急いでやらなくてはならないことの一つは、妻に電話して今日は夕飯はいらないと断ることだ”と追加したのは、まことにウイットに富んだコメントだが、本著者たちは、彼に負けず劣らずウイットに富んだ講演をされるので、ぜひ彼らの講演も聴衆されることをお勧めする。
 本書においては、本邦における多数のEVTを経験されたエキスパートが遭遇された合併症やトラブル症例のなかから55症例を厳選して掲載されている。トラブルの回避方法のみならず、EVT困難症例における高度なカテーテル技術やさまざまなTips &Tricks、臨床試験の紹介、基礎実験など、多種の貴重な情報も網羅されている。読まれるときには、各自、頭のなかでいわゆるEVTのvirtual simulationをしていただくと、頭のなかの引き出しに整理しやすいと考える。ぜひ、何回も読破して先生方の引き出しに整理していただき、いざ必要になった場合には、速やかに引き出しから取り出して、トラブルに対して冷静かつ確実に対処していただけることを祈念している。

臨床雑誌内科113巻3号(2014年3月号)より転載
評者●大阪大学大学院医学系研究科先進心血管治療学寄附講座教授 南都伸介