書籍

各領域専門医にきく 乳癌薬物療法ケースファイル

編集 : 佐伯俊昭
ISBN : 978-4-524-26698-2
発行年月 : 2014年12月
判型 : B5
ページ数 : 280

在庫あり

定価6,696円(本体6,200円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

乳癌の薬物療法(ホルモン療法、化学療法、分子標的治療)では、サブタイプや患者背景を踏まえた治療方針の立案が求められる。さまざまな背景や合併症を有する患者に対し、第一線の専門医がどのような判断で薬物療法を行っているかを解説。多様な症例を取り上げ、注意すべき問題点とその対策に必要な判断・思考過程を産婦人科や内分泌、精神科など、乳腺以外のさまざまな領域の専門医とのケースカンファランス形式で読み解く。

I 初期乳癌の薬物療法
 A 初期乳癌に対する薬物療法の基本
 B 患者背景別の乳癌薬物療法
  1 閉経前/後/閉経期
   基本的な考え方と問題点
   CASEFILE 症例1:閉経前乳癌症例
    Q1 LVEFが低下したらトラスツズマブは中止すべき?
    Q2 タモキシフェン投与中の注意点は?
   CASEFILE 症例2:閉経後乳癌症例
    Q1 タキサン系抗癌薬による末梢神経障害への漢方薬予防投与以外の対策は?
    Q2 アロマターゼ阻害薬による骨粗鬆症のスクリーニングは骨密度測定で十分?
   CASEFILE 症例3:閉経期乳癌症例
    Q1 閉経の判断基準は?
    Q2 アロマターゼ阻害薬による関節痛や関節のこわばりに対して有効な薬物療法は?
    Q3 アロマターゼ阻害薬による婦人科系の副作用の注意点は?
  2 非高齢者/高齢者/超高齢者
   基本的な考え方と問題点
   CASEFILE 症例1:非高齢者初期乳癌症例
   CASEFILE 症例2:高齢者初期乳癌症例
    Q1 高齢者の臓器予備能はどの程度?
   CASEFILE 症例3:超高齢者初期乳癌症例
    Q1 超高齢者の臓器予備能はどの程度?
  3 挙児希望その他の患者ニーズ
   基本的な考え方と問題点
   CASEFILE 症例1:挙児希望のある乳癌症例
    Q1 温存乳房局所への放射線照射が卵子に影響を及ぼす可能性は?
    Q2 卵子・受精卵凍結保存療法、卵巣凍結保存療法の特徴は?
   CASEFILE 症例2:その他の患者ニーズ(脱毛拒否)のある乳癌症例
    Q1 化学療法の副作用で生じる脱毛に対する有効な治療法、対処法は?
  4 妊娠期
   基本的な考え方と問題点
   CASEFILE 症例1:妊娠前期に診断された乳癌症例
   CASEFILE 症例2:妊娠中期に診断された局所進行乳癌症例
    Q1 化学療法施行時の胎児のモニタリングの方法や観察時期は?
    Q2 妊娠中の化学療法施行時の注意点は?
    Q3 化学療法を中止すべき胎児の状態は?
    Q4 出産後の化学療法およびホルモン療法の開始時期は?
    Q5 化学療法・ホルモン療法が母乳や新生児に及ぼす影響は?
 C 合併症を有する患者に対する乳癌薬物療法
  1 循環器疾患
   基本的な考え方と問題点
   CASEFILE 症例:HER2陽性転移性乳癌症例
    Q1 化学療法中の心機能検査の間隔やフォローアップ期間の基準は?
    Q2 ワルファリン投与中の抗癌薬治療における他科連携の注意点は?
    Q3 本症例へのコメントをお願いします
  2 呼吸器疾患
   基本的な考え方と問題点
   CASEFILE 症例:術後補助化学療法(CEF)による間質性肺炎発症例
    Q1 薬剤性間質性肺炎治療後の胸壁照射の肺炎リスクは?
  3 糖尿病
   基本的な考え方と問題点
   CASEFILE 症例1:糖尿病合併乳癌症例(インスリン使用中)
    Q1 治療中に注意しなければならない糖尿病の病態は?
    Q2 内分泌代謝専門医とのコミュニケーションは?
   CASEFILE 症例2:糖尿病合併乳癌症例(高浸透圧高血糖症候群)
    Q1 高浸透圧高血糖症候群治療での注意点は?
    Q2 糖尿病患者への高浸透圧高血糖症候群治療における注意点は?
  4 肝炎
   基本的な考え方と問題点
   CASEFILE 症例1:B型肝炎既感染乳癌症例
   CASEFILE 症例2:HBV キャリアに発生した乳癌症例
    Q1 HBV キャリア患者への化学療法ではいつ肝臓内科にコンサルトする?
    Q2 化学療法中のHBV再活性化時の対応は?
    Q3 B型肝炎既感染患者への化学療法での適切なHBV DNA モニタリング間隔は?
    Q4 本症例へのコメントをお願いします
  5 腎機能低下
   基本的な考え方と問題点
   CASEFILE 症例1:中等度腎機能低下(非透析)のある乳癌症例
    Q1 腎機能低下が高度な場合の薬剤投与量の考え方は?
    Q2 腎機能障害患者では補助化学療法と再発乳癌に対する化学療法は異なる?
   CASEFILE 症例2:慢性透析施行中の乳癌症例
    Q1 慢性透析患者の病態の特徴は?
    Q2 慢性透析患者の化学療法の適応は?
    Q3 治療中にとくに気をつけることは?
    Q4 本症例へのコメントをお願いします
  6 骨粗鬆症
   基本的な考え方と問題点
   CASEFILE 症例:術後アロマターゼ阻害薬投与により骨密度低下が進行した症例
    Q1 骨粗鬆症の指標がわが国と欧米で異なるのはなぜ?
    Q2 骨粗鬆症と骨転移椎体骨折の見分け方は?
    Q3 骨粗鬆症治療薬を休止するタイミングは?
    Q4 薬剤性に顎骨壊死への対策は投与目的によって異なる?
  7 うつ病
   基本的な考え方と問題点
   CASEFILE 症例:うつ病を合併した早期乳癌症例
    Q1 精神科専門医へうつ病の乳癌患者を紹介するタイミングは?
    Q2 精神疾患と乳癌、それぞれの治療開始のタイミングは?
    Q3 乳癌手術後のホルモン療法によるうつ病患者への対処は?
    Q4 本症例へのコメントをお願いします
  8 感染症(易感染性)
   基本的な考え方と問題点
   CASEFILE 症例:術前補助化学療法中の発熱性好中球減少症症例
II 進行再発・転移乳癌の薬物療法
 A 進行再発・転移乳癌に対する薬物療法の基本
 B 随伴症状を有する患者に対する乳癌薬物療法
  1 癌性疼痛
   基本的な考え方と問題点
   CASEFILE 症例:多様な疼痛、苦痛症状を呈した多発転移性乳癌症例
    Q1 骨転移の疼痛緩和に対して放射線照射を行うタイミングや適応は?
    Q2 ストロンチウム製剤の適応や副作用は?
  2 胸水・心.水・腹水
   基本的な考え方と問題点
   CASEFILE 症例1:ホルモン受容体陽性、HER2陽性の再発乳癌症例
    Q1 その他の苦痛緩和の方法は?
   CASEFILE 症例2:再発乳癌治療中に腹水が発生した症例
    Q1 癌性腹膜炎に対する抗癌薬腹腔内投与の最近の動向は?
  3 感染症:呼吸器系
   基本的な考え方と問題点
   CASEFILE 症例:stage IV乳癌治療中の繰り返す肺炎発症例
    Q1 本症例へのコメントをお願いします
    Q2 抗癌薬投与時の肺炎起炎菌同定に肺胞洗浄などの積極的な検査は必要?
  4 感染症:尿路系
   基本的な考え方と問題点
   CASEFILE 症例:再発乳癌治療中に後腹膜転移と尿管狭窄を合併した症例
    Q1 尿管ステントの長期コンプライアンスは?
    Q2 乳癌患者におけるDJとSJ カテーテルの使い分け方は?
    Q3 長期導尿患者への化学療法時の感染予防対策は?
    Q4 本症例へのコメントをお願いします
  5 精神症状(うつ・不眠)
   基本的な考え方と問題点
   CASEFILE 症例:乳癌再発・転移の経過中にうつ病を認めた症例
  6 膠原病
   基本的な考え方と問題点
   CASEFILE 症例:乳癌治療とγグロブリン療法により軽快した皮膚筋炎症例
    Q1 化学療法は膠原病の悪化につながる?
    Q2 悪性腫瘍合併時の膠原病治療薬の使い方は?
    Q3 膠原病患者に分子標的治療薬は投与してもよい?
  7 循環器疾患
   基本的な考え方と問題点
   CASEFILE 症例:高齢の転移性乳癌に対するアントラサイクリン奏効例
    Q1 化学療法が許容できる心機能の下限(検査値あるいはNYHA分類)は?
    Q2 化学療法中止、再開の基準についての意見は?
    Q3 心不全に対する薬物療法はいつから開始すべき?
    Q4 心機能回復後のACE阻害薬、ARB、β遮断薬などの投与期間は?
    Q5 本症例へのコメントをお願いします
 C 有害事象と乳癌薬物療法
  1 末梢神経症状
   基本的な考え方と問題点
   CASEFILE 症例:多臓器転移における化学療法と末梢神経障害
    Q1 糖尿病患者への化学療法中に発生した末梢神経障害の見分け方は?
  2 悪心
   基本的な考え方と問題点
   CASEFILE 症例:糖尿病合併の乳癌術後症例
    Q1 糖尿病患者へのデキサメタゾン投与量の考え方は?
    Q2 糖尿病患者の術後補助化学療法実施において留意すべきことは?
    Q3 一般的に糖尿病合併患者の乳癌手術において留意すべきことは?
    Q4 本症例へのコメントをお願いします
  3 皮膚症状
   基本的な考え方と問題点
   CASEFILE 症例:局所進行乳癌の領域リンパ節転移症例
    Q1 難治性の爪囲炎の場合の処置方法は?
    Q2 ステロイド軟膏の選択基準は?
    Q3 ステロイド内服のタイミングは?
  4 下痢症状
   基本的な考え方と問題点
   CASEFILE 症例1:分子標的治療薬と化学療法薬併用療法中の下痢発症例
    Q1 感染性腸炎と薬剤誘発性腸炎とを鑑別する方法は?
    Q2 下痢の治療における整腸薬(ミヤBMRやラックビーRなど)の使用方法は?
    Q3 治療中とくに気をつけることは?
   CASEFILE 症例2:S−1治療中の下痢発症例
  5 アレルギー症状
   基本的な考え方と問題点
   CASEFILE 症例1:ドセタキセル治療中の過敏反応
   CASEFILE 症例2:トラスツズマブ治療中のインフュージョン・リアクション
    Q1 乳癌患者の薬物アレルギー症状にステロイド投与は即効性がない?
    Q2 アレルギー発症後に抗癌薬再投与を検討してもよい場合はある?
索引

序文

 乳癌薬物療法の進歩は目覚ましく,癌個別化治療の最前線にあると考える.近年発見された非小細胞性肺癌におけるドライバー遺伝子と,その新規の治療薬の開発などを挙げれば,他の臓器癌治療に後れを取っているところもあるが,薬物治療対象患者を少なくとも4つのサブタイプに分類し,抗癌薬,ホルモン剤,分子標的治療薬をグループごとに組み合わせながら治療戦略を立てることが標準化されている臓器はほかにないと思う.
 ところで,サブタイプはすべて治療の標的である腫瘍側の因子であり,治療を受ける患者側の因子としての個別化はどこまで進歩しているのだろうか.患者側の因子とは,年齢,既往症,合併症,偶発症,周産期などであり,ケースファイルとはまさに患者側の因子を中心として治療戦略を立てるための羅針盤と考える.確かにある程度の治療は腫瘍側の条件で決められる.しかし,実際の治療を行う場合は,患者の背景を考慮した治療選択が重要であり,治療開始前には患者側の因子を多職種で検討し,さらに専門領域を越えて集学的な診療を行うことが重要と考える.言い換えれば,腫瘍側の因子のみを個別化するのではなく,予測される治療効果と患者の背景,ニーズを慎重に検討し,その結果選択された治療法が真の個別化医療ということではないだろうか.
 さて,このような乳癌の診療体系の構築のために,リーダーとして活躍する医師をはじめ,チームメンバーである看護師,薬剤師に役立つ書籍が必要であり,本書はそのために編纂された.私は編集者の大役を仰せつかったが,本書の読後の感想は,臨床経験30年以上の乳腺専門医である私自身も,まさに目から鱗,これほど多くの診療のヒントを提供してくれる書籍は今までにないと思う.当初,南江堂出版部の方々がこの企画を持ち込まれたとき,確かに必要な書籍だと思ったが,目的を果たすためには多くの領域の専門家の協力がなければできないと不安に思ったのも事実である.しかし,本書の一つ一つのケースを読んでいくと,患者さんに十分に提供しきれていなかった多くの情報が詰めこまれたケースファイルが完成したことに安心し,多くの皆さまに使用していただける素晴らしい書籍となったことに満足している.
 とくに,乳腺以外の領域の専門家からのコメントとして,循環器,呼吸器,肝臓,腎臓,内分泌,感染,皮膚科,精神科,婦人科,緩和医療,整形外科,放射線科,腫瘍内科など,さまざまな領域からの貴重なコメントは実に興味深い.この場を借りて,執筆者の先生方,コメントをお寄せいただいた各専門領域の専門医の方々,そして南江堂出版部の皆さまに感謝申し上げる.
 最後に,症例として取り上げた乳癌患者さんに心より御礼申し上げ,患者さんのために日夜診療している医療者の一人として,私自身も本書の内容を十分理解し,より良い乳癌診療の実践に励みたい.

2014年11月
埼玉医科大学国際医療センター 乳腺腫瘍科
佐伯俊昭

 乳癌診療に携わる医師、看護師、薬剤師、その他のメディカルスタッフにとって待望の1冊が誕生した。「乳癌だけをみていませんか?」という本書の言葉に、編集と執筆にかかわられた先生方の思いが込められていると考える。本書作成に携わられた編集の佐伯俊昭先生をはじめ、執筆者の先生方に心より敬意と感謝を述べさせていただきたい。
 われわれが行っている医療は、evidence based medicine、すなわちevidenceに基づいて治療方針を検討し、患者のdecision makingをサポートすることになる。しかし、実際の臨床現場においては、多数の症例を対象とした臨床試験がぴったり当てはまることはなく、方程式のように答えが簡単に導かれることや、治療法の決定から完遂まで、平坦でまっすぐな一本道を歩いていくことはまずありえないであろう。なぜその治療を選択するのか、ほかの治療法はないのか、あらかじめ注意しておくべき点は何か、副作用が発現したらどのように対応するか、治療継続のために工夫すべき点は何か、治療中止をどのように判断するか、治療効果をどのように評価するかなど、治療経過の中で日々悩むことが現れてくる。さらに、身体的な副作用や心理的障害、妊孕性など他領域の専門家に尋ねないとわからないことも決して少なくない。
 われわれにとって何よりも大切なことは、「考える」ことである。本書はケースファイルという形態をとることで、上記のような臨床上の疑問に丁寧に答えてくれている。しかも方程式的な答えではなく、「われわれが自分で考える」うえでの羅針盤の役割をはたしていることが何よりも素晴らしいと思われる。「考える」ことを教えてくれ、知識や工夫、そして知恵を共有することを、本書がわれわれに与えてくれている。
 乳癌診療は、悪性腫瘍だけでなくあらゆる疾患の中でも特にチーム医療が必要とされる領域である。生物学的特性だけでなく、社会的・心理的・経済的・倫理的側面にも配慮した診療が求められている。「乳癌だけをみるのではなく、乳癌と診断された人をみる」ことを教えてくれる本書を通じて、わが国の乳癌医療の質がさらに向上することを期待してやまない。

臨床雑誌外科77巻6号(2015年6月号)より転載
評者●がん研有明病院乳腺センター長 大野真司

 「こんな本が欲しかった。」まさにそう思わせる今日からの臨床に役立つ1冊である。乳癌の薬物療法を実施していくうえで必要な知識がcase fileとして実例に即した形で提示されている。たとえば挙児希望のある場合の対応方法、B型肝炎キャリアに対する薬物治療時に留意しなければならないこと、タキサン投与時にアレルギー反応が起こったとき、アンスラサイクリンが投与できる心機能の下限はどこまでなのか、など実際の臨床の場面では悩んだり、知らなかったでは済まされない知識が詰まっている。それぞれの項目について「基本的な考え方と問題点」で導入した後、実際の「症例提示」、「質疑応答」の形で細かなポイントの確認があり、最後はその分野の専門医のコメント・質疑応答と続く。いながらにしてcancer boardが経験できる仕組みとなっている。各項目の分量も長すぎず短すぎず必要十分な分量で読みやすい。外来に置いて合併症を有する乳癌患者の薬物療法実施前に参照するもよし、知識の整理として通読してもよい。「小医は病を癒し、中医は人を癒し、大医は国を癒す」というが、乳癌という病だけでなく、さまざまな合併症やニーズをもった乳癌患者を1個人として診られる医者となるために最低限必要な知識がまとまっている。これから薬物治療を本格的に勉強しようという医師のみならず、看護師、薬剤師などにも幅広く役立つと思われる。ちょっとしたポイントも丁寧に示されており、かゆいところに手の届く実践書として大変おすすめの本である。

臨床雑誌内科116巻5号(2015年11月号)より転載
評者●昭和大学乳腺外科准教授 明石定子