書籍

Must & Never 大腿骨頚部・転子部骨折の治療と管理

  • 新刊

編集 : 安藤謙一
ISBN : 978-4-524-26697-5
発行年月 : 2017年5月
判型 : B5
ページ数 : 192

在庫あり

定価6,480円(本体6,000円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

大腿骨頚部・転子部骨折診療のスタンダードを、生命予後やQOLの観点で重要となる、早期の手術治療・リハビリテーションに焦点を当てて解説。各部位・骨折型・術式ごとに実際の症例を提示し、高齢患者の活動性や基礎疾患を念頭においたケースごとの対応を学べる。Must(行わねばならないこと)とNever(してはならないこと)が一見して分かるよう要所ごとに提示した。

I 高齢者大腿骨頚部・転子部骨折の特徴と基本的対応
 1 加齢変化−骨粗鬆症と脆弱性骨折
 2 統計と疫学
 3 高齢者への手術と周術期管理
 4 血栓症への対応
 5 地域連携・クリニカルパス
 6 退院後の指導と転帰
II 高齢者大腿骨頚部骨折診療の実際
 1 診断−occult fractureの存在
 2 分類(Garden)と治療法の選択
 3 保存的治療
 4 CCS固定
 5 Hansson pin (hook)固定
 6 偽関節・骨頭壊死の発生とその対策
 7 人工骨頭置換術と人工股関節全置換術(セメント,セメントレス)
III 高齢者大腿骨転子部骨折診療の実際
 1 診断
 2 分類(安定型と不安定型)と治療法の選択
 3 保存的治療
 4 Gamma nail固定
 5 CHS法
 6 Ender法
 7 人工骨頭置換術−適応と手技の工夫
IV 高齢者骨折の特異性
 1 緊急手術か?
 2 抗凝固薬服用例
 3 重篤疾患合併例
V 若年者骨折に対して
 1 大腿骨頚部骨折の治療方針
 2 大腿骨転子部骨折の治療方針
VI 症例提示
 1 頚部骨折:不安定型Hansson pin固定
 2 頚部骨折:不安定型人工骨頭置換術
 3 転子部骨折:頚基部CHS固定
 4 転子部骨折:不安定型Ender法
 5 転子部骨折:不安定型CHS固定
 6 転子部骨折:不安定型(粉砕型)Gamma nail固定
 7 転子部骨折:不安定型reverse type Ender法
 8 転子部骨折:不安定型reverse type CHS固定
 9 転子部骨折:不安定型reverse type Gamma nail固定
 10 若年者頚部骨折:CHS固定
 11 若年者頚部骨折:Hansson pin固定
 12 超高齢者のセメント人工骨頭置換術
 13 特殊例:転子部骨折偽関節
 14 特殊例:Hansson pin固定後の転子下骨折に対するEnder法
 15 特殊例:Gamma nail後のカットアウト例に対する人工骨頭置換術
索引

序文

 本邦では、近年の急激な高齢者人口の延びとあいまって骨粗鬆症およびそれに伴う骨折は増加傾向にあり、今後も団塊の世代が80歳を迎える10年後までは増加することが容易に予測される。骨粗鬆症を基盤にした主要4骨折とは脊椎椎体骨折、大腿骨頚部・転子部骨折、橈骨遠位端骨折、上腕骨近位部骨折であり、その中でも大腿骨頚部・転子部骨折は入院治療を余儀なくされ、そのほとんどが手術的治療となり、また高齢者ゆえに術後のリハビリテーションが遅々として進まないことが多く、ADL(activity of daily living)が一段階下がることも覚悟しなければならない。したがって、大腿骨頚部・転子部骨折はそのために発生する機能障害が、他の骨折と比較してはるかに大きい。
 本邦では、大腿骨頚部・転子部骨折の発生数が1987年より5年ごとに推計されており、それによると1987年は53,200人、1992年は76,600人、1997年は92,400人と経年的に増加した。そのため、本骨折が整形外科疾患の最大の課題になることを予測して、鈴木一太氏、徳永純一氏、安田金蔵氏、町田拓也氏などを中心として1998年に「大腿骨頚部骨折を語る会」が開催され、翌年までの2回継続された。しかし、本会は日本骨折治療学会が終了した日に行われたことと、その内容が募集された一般演題であったため、すなわち内容が日本骨折治療学会と同様であったため、演題募集の継続ができず残念ながら終会となってしまった。その後、「大腿骨頚部骨折を語る会」の理念を継続するとともに持続可能な会を模索し、4年の経過の後に2003年1月25日に名前も一新し「大腿骨頚部骨折研究会」として、第1回を名古屋の吹上ホールで開催した。本研究会は演題募集を止め、特別講演3題をその道の専門家に依頼し、日本整形外科学会専門医資格継続単位も取得できるように考慮した。2011年の第9回のときに「大腿骨頚部・転子部骨折研究会」と改め、その後現在まで継続している。ちなみに、筆者が医師になった1970年代では大腿骨頚部骨折は内側骨折と外側骨折とに分かれ、今でいう大腿骨頚部骨折は当時の大腿骨頚部内側骨折のことであり、大腿骨転子部骨折は大腿骨頚部外側骨折と称されていた。以前は大腿骨頚部骨折が大腿骨転子部骨折を包含していたため大腿骨頚部骨折研究会として発足したが、時代の流れとともに大腿骨頚部骨折は内側骨折のみを指すこととなり、「大腿骨頚部・転子部骨折研究会」と称することになった次第である。
 さて、2016年にOsteoporosis Internationalという雑誌にある論文が掲載された(Orimo H,et al:Osteoporos Int 27:1777-1784,2016)。前述した本邦での大腿骨頚部・転子部骨折の発生数を1987年度から5年ごとに推計したデータであるが、最後が2012年の175,700人となっている。ただ、この論文を読んでとてつもなく驚いたことがあった。それは発生率の地域格差である。日本地図の上に描き出された発生率を濃淡で表している(図)が、大きく西日本と東日本に分けると西日本にその発生率が高い。その理由として、以前は納豆を食する地域と食さない地域の差であるとされていた。確かに納豆にはビタミンKが含まれており、骨粗鬆症に関与するものと思われる。しかし、この地図を詳しく見てみると、近畿・中国地方、九州北部に発生率が高いのに対して、四国地方や九州南部はむしろ発生率が低い。これは何を意味しているのであろうか?納豆の食・不食では説明がつきにくい。もっとこの地図をよく見てみると、ふとあることに気がついた。それは日本人の起源に関与することで、古モンゴロイドと新モンゴロイドの相違である。また、それは人類の起源にも関係する。
 ヒトがサル(ボノボやチンパンジー)と分かれたのは600〜700万年前とされるが、現代人の祖先とされるホモ・サピエンスが出現したのは10〜20万年前である。ホモ・サピエンスはアフリカで誕生し、しばらくはアフリカに留まっていたが、約6万年前に移動を始めたとされ、西へ移動したグループは約4万年前にヨーロッパに住み着きコーカソイドの祖先となったが、中近東から東を目指したグループはアジア人の先祖に当たるモンゴロイドとなった。モンゴロイドが東進する過程で、ヒマラヤ山脈が大きな壁になり、北回りと南回りの二手に分かれた。北回りを選択したグループは厳しい環境に曝されることになり、シベリアまで到達したのは3万年前であるのに対して、南回りのグループがスンダランド(フィリピン、インドネシアが大陸と陸続きの半島)に到達したのは5万年前と約2万年早いとされる。この南回りグループが古モンゴロイドと称され、北回りグループが新モンゴロイドと称されている。古モンゴロイドは身長が低く、丸顔で彫りが深く、骨格も頑丈なのに対して、新モンゴロイドは身長が高く、スラリとしていて、面長で眼が細く一重であり、長管骨は細くて長いという特徴がある。日本列島では、最初古モンゴロイドである縄文人が居住しており、縄文時代を形成していた。紀元前2世紀頃(中国の春秋時代)から、日本列島へ渡来する渡来人(そのほとんどが中国大陸)が増加し、縄文人を東の方に追いやっていくことになる。渡来人は主に北九州、中国・近畿地方に居住したと考えられ、現代の遺伝子解析では、大阪は渡来人と縄文人の割合が9対1であるのに対して、東北地方では5対5であるとされており、また南九州や四国南部は渡来人の混血割合は少ないとされている。渡来人は新モンゴロイドの特徴を色濃く持っており、高齢者になって転倒すると骨折しやすいことが想像される。そこで、前述の地図と照合するとまったく一致するのである。
 本書は前述の「大腿骨頚部・転子部骨折研究会」で講演していただいた先生方を中心に得意な分野を執筆していただいた。本書には、大腿骨頚部・転子部骨折の統計と疫学、骨折の分類とその問題点、各種治療法の実際、合併症対策、サルベージ手術などを、また高齢者治療の問題点として、骨粗鬆症と脆弱性骨折を含む加齢変化、高齢者の周術期管理、地域連携とクリニカルパスなどを、さらには若年者骨折についても掲載しており、最後の章では実際の症例を提示し、専門家による考察やpointが書き加えられている。現在、筆者が知りうる限りの最高の布陣ともいえる先生方に執筆していただいたと自負している。本骨折の治療は整形外科医の基本であり、標準的治療の遂行が求められるようになった今日、本骨折に関する必要な知識の習得と手術の手技的向上を目指す若手整形外科医だけでなく指導的立場にある整形外科医も、ぜひ一読していただければ幸いである。

2017年4月
安藤謙一

 骨粗鬆症に起因する大腿骨近位部骨折の年間発生率は2007年の時点で約15万人と報告され、2020年には約25万人、2030年には約30万人に増加することが推計されている。わが国の急速な少子高齢化を考えると、今後の大腿骨近位部骨折の治療が現在以上に大きな位置を占めることになるのは間違いない。そうなることを考えると、すべての整形外科医、特に若手の整形外科医にとって本骨折の病態、標準的な手術的・保存的治療、手術を成功させるためのコツ、周術期の管理、術後のリハビリテーション・地域連携、そして脆弱性骨折の予防も含めた退院後の指導についてまで包括的に理解することは不可欠となるであろう。本書は、その目的達成のために有用な一冊となる。
 本書の内容は、大腿骨近位部骨折についての「特徴と基本的対応」、「診療の実際」、「症例提示とその解説」の大きな三つに加えて、高齢者特有の抗血栓薬服用例や重篤な基礎疾患合併例に対する周術期の対応や注意点が解説された「高齢者骨折の特異性」と、比較的まれな「若年者の大腿骨近位部骨折の治療方針」についての章で構成されている。
 基本的対応の章では疫学と病態、周術期管理、術後の地域連携とクリニカルパスや退院後の指導、そして急性期・回復期・生活期までの各施設の役割分担について解説され、大腿骨近位部骨折診療についての全体像が把握・理解できるようになっている。診療の実際の章は大腿骨頚部骨折と転子部骨折の二つに分けられ、それぞれの骨折に対する診断、分類、保存的治療、種々のインプラントを使っての手術的治療、骨接合がうまくいかなかった時の対策、人工物を用いての置換術について解説されている。そして、症例提示の章では偽関節例、カットアウト例、インプラント周囲骨折などの特殊例を含めた15例が提示されている。それぞれの骨折について代表的なインプラントを用いた骨接合術が紹介され、手術を行う際の注意点や成功させるための秘訣などが「Point」としてまとめられている。
 本書の特徴は、図表やX線像、術中透視画像が豊富に使われわかりやすい内容になっており、その解説を読むだけでも手術時の注意点など、その内容がよく理解できることである。また、それぞれの項で記述された内容のうち、特に注意を要する点が「Must(行うべきこと)」、「Never(行ってはならないこと)」として簡潔にまとめられ、最後に具体的な症例を提示し、各インプラントによる骨接合術を行う際のポイントが記載されていることである。実際の症例を提示しながら根拠に基づいた術前計画、具体的な整復法や骨接合手順を記した手術所見、骨癒合が得られるまでの術後経過が示されていることは、読者にとって担当した患者の治療を実際に行っているような臨場感があり、明日から臨床にすぐに役立つはずである。
 外科系の臨床医師にとって使い勝手がよく、ためになる書の条件として、(1) 読みやすい簡潔な記載、(2) 視覚に訴えたわかりやすい内容、(3) 実際の症例についての具体的な解説が必要と常々思っていたが、本書はまさしくそれに合致した内容である。まだ経験の少ない若手医師にとってはソファーに横になりながら気楽に読めて理解しやすい一冊であり、ある程度経験のある医師にとっては図表と「Must」、「Never」だけを流し読みし、症例提示に示された画像と「Point」に目を通すだけでも大腿骨近位部骨折診療についての要点が学べる一冊となっている。
 多くの専門家によりわかりやすく解説された診療エッセンス満載の本書を、ぜひ一読することをおすすめしたい。

臨床雑誌整形外科68巻12号(2017年11月号)より転載
評者●帝京大学医学部附属病院外傷センター教授/センター長 新藤正輝