書籍

デュシェンヌ型筋ジストロフィー診療ガイドライン2014

監修 : 日本神経学会,日本小児神経学会,国立精神・神経医療研究センター
ISBN : 978-4-524-26647-0
発行年月 : 2014年5月
判型 : B5
ページ数 : 216

在庫あり

定価4,644円(本体4,300円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文

日本神経学会監修による、エビデンスに基づいたオフィシャルな診療ガイドライン。疾患概念・疫学・病態から、診断基準・鑑別診断、合併症、治療法の詳細までを網羅。臨床上重要となるクリニカルクエスチョン(CQ)について、その回答・推奨グレード、背景・目的、解説をエビデンスに基づいて詳述。臨床医の日常診療を支援する必携の一冊。

1.総論
 ■デュシェンヌ型筋ジストロフィーとは
 CQ1-1 DMDの生命予後は改善しているか
2.診断・告知・遺伝
 CQ2-1 確定診断にはどのような意義があり、どの時期にどのような方法で行うか
 CQ2-2 患者の家族、患者に告知する際の注意点は何か
 CQ2-3 遺伝に関する相談にどのように対応するか
 CQ2-4 出生前診断はどのような倫理的・精神的配慮のもとにどのように行うか
 CQ2-5 保因者の発症率はどの程度で、どのような症状を呈すか、どのようなフォローアップが必要か
 CQ2-6 保因者が妊娠・出産、育児・介護をするにはどのようなリスクがあるか
3.検査・機能評価
 CQ3-1 DMDの運動機能評価はどのように行うか
 CQ3-2 定期的な(血液)検査はどのような項目を検索するか
 CQ3-3 診断や経過観察にどのような画像検査を行うか
4.リハビリテーション
 CQ4-1 適切な運動量はどのようにして決めるか
 CQ4-2 どのようなリハビリテーションを行うか
 CQ4-3 どのような装具・福祉用具・環境整備が有効か
 CQ4-4 QOL 改善に必要な要素・資源・アプローチは何か
5.ステロイド治療
 CQ5-1 ステロイド治療で、筋力、歩行機能が改善するか(短期効果)
 CQ5-2 歩行不能後もステロイドを継続使用すべきか(長期効果)
 CQ5-3 どのような副作用と対策があるか
 CQ5-4 いつからどのように投与すべきか
 CQ5-5 ステロイド服薬中にワクチン接種してもよいか
6.呼吸ケア
 CQ6-1 呼吸不全はどのように生じるのか
 CQ6-2 呼吸機能評価はいつからどのように行うか
 CQ6-3 呼吸理学療法はいつからどのように行うか
 CQ6-4 DMDでは呼吸筋トレーニングは有効か
 CQ6-5 呼吸器感染治療などで注意すべき点はあるか
 CQ6-6 人工呼吸管理の適応はどのように判断するか
 CQ6-7 酸素投与における注意点は何か
 CQ6-8 NPPVを成功させるにはどのような工夫が必要か
 CQ6-9 気管切開下人工呼吸の適応、管理上の留意点は何か
 CQ6-10 呼吸管理患者の生活範囲を広げるうえでの工夫、外出・旅行での注意点は何か
 CQ6-11 在宅人工呼吸療法(HMV)導入・在宅健康観察の指導はどのように行うか
 CQ6-12 在宅人工呼吸療法(HMV)実施にはどのような環境整備が必要か
 CQ6-13 災害に備えてどのような準備をしておくべきか
7.心筋障害治療
 CQ7-1-1 心機能評価はいつからどのように行うか−総論
 CQ7-1-2 心機能評価はいつからどのように行うか−12誘導心電図・ホルター心電図
 CQ7-1-3 心機能評価はいつからどのように行うか−心エコー
 CQ7-1-4 心機能評価はいつからどのように行うか−心臓核医学検査
 CQ7-1-5 心機能評価はいつからどのように行うか−心臓MRI
 CQ7-1-6 心機能評価はいつからどのように行うか−脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)
 CQ7-2-1 心筋障害治療はどのように行うか−食事・生活指導
 CQ7-2-2 心筋障害治療はどのように行うか−アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬
 CQ7-2-3 心筋障害治療はどのように行うか−b 遮断薬
 CQ7-2-4 心筋障害治療はどのように行うか−利尿薬・強心薬
 CQ7-3 不整脈治療はどのように行うか
 CQ7-4 非薬物療法はあるか
8.整形外科的治療
 CQ8-1 側弯症の発生率や自然経過、生命予後・心肺機能・QOL・ADLへの影響はどのようなものか
 CQ8-2 側弯症の矯正固定術でどのような効果が期待できるか
 CQ8-3 側弯症の矯正固定術の適応やリスクはどのようなものか
 CQ8-4 下肢拘縮手術の適応や効果は何か
 CQ8-5 骨折の予防はどのようにしたらよいか
 CQ8-6 骨折治療における注意点は何か
9.麻酔・鎮静
 CQ9-1 全身麻酔や鎮静を行ううえで全身管理や呼吸管理上注意すべき点は何か
 CQ9-2 局所麻酔を行ううえで注意すべき点は何か
10.食にかかわるケア
 CQ10-1 栄養管理で注意する点は何か
 CQ10-2 理想的な体重コントロールのための食事はどのようなものか
 CQ10-3 どのような歯科学的な問題があり、治療上留意すべき点は何か
 CQ10-4 嚥下機能評価はいつからどのように行うか
 CQ10-5 食物形態の工夫はいつからどのように行うか
 CQ10-6 経管栄養管理上の注意点はあるか
 CQ10-7 胃瘻造設の適切な時期や注意点はあるか
 CQ10-8 便秘の治療はどのように行うか
 CQ10-9 上腸間膜動脈症候群・急性胃拡張・イレウスの予防法はあるか
11.心理社会的ケア
 CQ11-1 精神遅滞、発達障害は合併するか
 CQ11-2 子育て、教育上で配慮すべきことは何か
 CQ11-3 DMDではどのような補助制度・サービスが利用できるか
検索式

筋ジストロフィーの医療の歴史は、「治らない・治せない病気」にどのように取り組むかという課題に常に向き合ってきた歴史である。筋ジストロフィーの医療は多くの小児遺伝性疾患と同じように、病を持って生まれ、幼児期より障がいをかかえるひとの人生全体を対象とし、患者本人のみならず家族全体を支えること、教育・心理・福祉の領域との連携が求められることに特徴がある。また、患者の年齢が小児から成人にまたがるので小児神経科医と神経内科医の協力が不可欠であるが、さらに心不全、脊柱変形をはじめとして全身の臓器に問題が生ずるので、多方面の専門家の関与が求められる。そのなかで絶対に忘れてはならないのは、それぞれが専門性を持ちながらも全体を見わたす視点を持つことである。
 そのような取り組みのなかで、代表的な筋ジストロフィーであるデュシェンヌ型の平均寿命が1980年代の10歳代後半から大幅に延長し、現在では30歳代半ばに到達した。ここであえていわなければならないのは、この延長は現在発展めざましい遺伝子治療やiPS 細胞を用いた最新治療によるものではなく、呼吸管理や心不全治療などその時その時で用いうる技術を総動員した、いわゆる「最善の支持療法」の結果であるという歴然たる事実である。現在は発症機転のなかで原因に近いところを標的とする治療の開発が急ピッチで進み、近い将来は病気の進行そのものを抑制できるようになることは間違いないが、そうなってもすべてが解決できるわけではなく、この基本的な医療の姿勢は変わらないだろう。
 わが国の筋ジストロフィー医療の進歩は、40年を超える歴史を持つ筋ジストロフィー臨床研究班によって支えられてきた。筋疾患の専門学会が存在しないわが国において、公的研究費による研究班会議組織は基礎から臨床まで多方面の専門家が参集する唯一の全国組織であり、数々の重要な研究が行われてきただけでなく、診療実績の進歩も直ちに共有されてきた。筋ジストロフィー臨床研究班は1968年に冲中重雄東京大学教授によって組織された筋ジストロフィー研究班体制のなかで、1971年から分離して臨床研究を担当した山田班が源流である。祖父江班(1978年.)、西谷班(1984年.)、高橋班(1990年.)、石原班(1996年.)、川井班(2002年.)と伝えられ、現在の小牧班(2011年.)に至っている。
 このガイドラインの編集はその小牧班すなわち「筋ジストロフィーの治験拠点整備、包括的診療ガイドラインの研究」班が2011年4月にスタートするにあたって、筋ジストロフィー診療ガイドライン作成を課題として取り上げたのがきっかけである。まさに時宜を得た企画といえよう。直ちに日本神経学会と日本小児神経学会が、学会として実施するガイドライン作成として認めてくださり、2学会と研究班が共同して進めるガイドライン作成事業という理想的な形態が整うことになった。
 このガイドラインが、数ある筋ジストロフィーのなかであえてデュシェンヌ型筋ジストロフィーを取り上げた理由は、
(1)代表的な筋ジストロフィーで患者数が最も多い
(2)比較的エビデンスが集積されている
(3)医療介入の効果が顕著であった
 の3つである。しかし、もともと文献になったエビデンスが多い領域ではなく、デュシェンヌ型筋ジストロフィー以外の関連疾患や病型が明記されていない筋疾患からの知見も援用しなければならない部分も少なからずあった。同時に、このガイドラインの記載は他の筋ジストロフィーに応用できる部分も少なくない。読者諸氏はぜひその点を批判的に活用していただきたいと考える。
 このガイドラインの作成は小牧宏文班長のもとで、ガイドライン作成プロジェクトのリーダーを務めた松村剛博士の強い指導力のもとに実施された。このガイドラインは日本神経学会と日本小児神経学会のガイドラインであるので、当然ながら作成委員会は両学会に所属する専門医を中心に構成されているが、筋ジストロフィーの医療はすでに述べたように極めて集学的色彩が強く、循環器科、整形外科、臨床遺伝科など両学会に属していないメンバーも少なからず委員に選定されている。さらに、広範な領域は委員だけではとてもカバーできるものではなく、委員以外にも多くの先生のお力を得ることになった。このまえがきの最後にその氏名をあげて、深甚なる感謝を捧げる。また、精神・神経疾患研究開発費「筋ジストロフィーの治験拠点整備、包括的診療ガイドラインの研究」班事務局の重盛美貴子氏の献身的努力なしでは膨大な事務作業を伴うこの事業は成し遂げられなかった。Mindsの吉田雅博先生には随所にご指導をいただいた。あわせて感謝の意を表するものである。本ガイドラインは一般財団法人国際医学情報センターの文献検索・文献管理システムを利用した。パブリックコメントにゆだねる前に、日本神経学会と日本小児神経学会のガイドライン統括委員会の評価・調整委員と当ガイドライン作成委員会の評価・調整委員の先生方に原稿全体の評価をいただき、貴重なご意見をいただいたことをここに記す。
 筋ジストロフィーのような希少疾病の医療は現在も標準化の過程にあるものと考えられる。その内容は昨日と今日と明日では異なるし、地域の医療資源によっても大きく異なる。このガイドラインが推奨するとおりに医療を行えない環境も存在するし、そうだったからといって間違いとはいえない。専門医が著しく少なく、地域的にも偏在している現実のなかで、一般医家が身近にいる患者をどのように診療したらよいかについて、このガイドラインがひとつの指針になればと願うものである。さらに、医学生や研修途上の医師がこのガイドラインを読み物として読み、先人たちが「治らない・治せない病気」に対してどのように取り組んできたかに関心を持っていただければありがたいと思っている。
 最後に、本ガイドライン作成には、委員、研究協力者のほかに、下記の先生方に献身的な協力をいただいた。ここに深甚なる感謝を捧げる。
 討議と原稿執筆に加わっていただいた方:酒井直子、田和子、鷹羽智子、竹内芙実、竹下絵里、福本裕、前野崇、三浦利彦、向田壮一
 討議に加わっていただいた方:斎藤崇、佐藤孝俊、鈴木理恵、村上てるみ

2014年4月
「デュシェンヌ型筋ジストロフィー診療ガイドライン」作成委員会委員長
川井充