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機能性消化管疾患診療ガイドライン2014−過敏性腸症候群(IBS)

こちらの商品は改訂版・新版がございます。

編集 : 日本消化器病学会
ISBN : 978-4-524-26557-2
発行年月 : 2014年4月
判型 : B5
ページ数 : 154

在庫なし

定価3,520円(本体3,200円 + 税)

正誤表

  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

日本消化器病学会編集によるオフィシャルなガイドライン。過敏性腸症候群(IBS)の診療上で問題となるクリニカルクエスチョン(CQ)に対して、膨大な文献を吟味しGRADEシステムの考え方を取り入れたエビデンスレベルと推奨度を提示。疫学、病態、診断、治療、予後・合併症についての現時点における標準的内容がわかる。

第1章 概念・定義・疫学
 CQ1-1 過敏性腸症候群(IBS)とはどのように定義されるか?
 CQ1-2 IBSの有病率は増加しているか?
 CQ1-3 IBSの有病率は性、年齢、居住地、職業により変化するか?
 CQ1-4 IBSの有病率は肥満者で高いか?
 CQ1-5 IBS 全体における感染性腸炎後IBS(post-infectious IBS:PI-IBS)の割合は高いか?
 CQ1-6 IBS 患者のQOLは低下しているか?
 CQ1-7 重症度、心理的異常はIBS 患者の受療行動を決めるか?
第2章 病態
 CQ2-1 IBSの病態にストレスが関与するか?
 CQ2-2 IBSの病態に腸内細菌・粘膜炎症が関与するか?
 CQ2-3 IBSの病態に神経伝達物質と内分泌物質が関与するか?
 CQ2-4 IBSの病態に心理的異常が関与するか?
 CQ2-5 IBSの病態に遺伝が関与するか?
 CQ2-6 分類(C、D、M、U)によって病態が異なるか?
第3章 診断
 CQ3-1 IBSの診断にRomeIII基準は有用か?
 CQ3-2 IBSの鑑別診断に家族歴、アラームサイン(警告徴候)としての血便、睡眠時腹痛は有用か?
 CQ3-3 IBSの診断に検体検査(血液、尿、糞便)は有用か?
 CQ3-4 IBSの診断に大腸内視鏡・大腸X 線検査は有用か?
 CQ3-5 IBSの診断に大腸以外の内視鏡・画像検査(上部消化管内視鏡、腹部X 線写真、超音波検査、腹部CT)は有用か?
 CQ3-6 IBSの診断に病理組織学的検査は必要か?
 CQ3-7 IBSの診断に消化管機能検査(大腸内圧、バロスタット、直腸肛門内圧、消化管通過時間)は有用か?
 CQ3-8 IBSの診断に質問票(消化器症状、心理尺度、QOL)検査は有用か?
 CQ3-9 IBSの診断に重症度分類は有用か?
 CQ3-10 IBSの診断に客観的な診断指標(バイオマーカー)があるか?
第4章 治療
 CQ4-1 IBSの治療目標は症状改善が得られることか?
 CQ4-2 患者.医師関係は治療に有効か?
 CQ4-3 IBSに食事指導・食事療法(高繊維食増加、油脂減少、香辛料減少など)は有効か?
 CQ4-4 IBSに食事以外の生活習慣の改善・変更(禁酒、禁煙、睡眠、休養など)は有効か?
 CQ4-5 IBSにプロバイオティクス・プレバイオティクスは有効か?
 CQ4-6 IBSに抗菌薬は有効か?
 CQ4-7 IBS-Dに5-HT3拮抗薬は有効か?
 CQ4-8 IBS-Cに5-HT4刺激薬は有効か?
 CQ4-9 IBS-Cに粘膜上皮機能変容薬は有効か?
 CQ4-10 IBSに高分子重合体・食物繊維は有効か?
 CQ4-11 IBSに消化管運動機能調節薬は有効か?
 CQ4-12 IBSに抗コリン薬は有効か?
 CQ4-13 IBS-Dに止痢薬は有効か?
 CQ4-14 IBS-Cに下剤は有効か?
 CQ4-15 IBS-Cに浣腸は有効か?
 CQ4-16 IBSに抗うつ薬は有効か?
 CQ4-17 IBSに抗不安薬は有効か?
 CQ4-18 IBSに抗精神病薬・気分安定化薬は有効か?
 CQ4-19 IBSにプラセボは有効か?
 CQ4-20 IBSに心理療法は有効か?
 CQ4-21 IBSに代替医療は有効か?
 CQ4-22 IBSに漢方薬は有効か?
 CQ4-23 IBSに運動療法は有効か?
 CQ4-24 IBSにはIBDの治療が有効か?
 CQ4-25 IBSに抗アレルギー薬は有効か?
 CQ4-26 IBSの腹痛に麻薬およびその類似薬は有効か?
 CQ4-27 IBSの重症度に応じた治療法の有効性は高いか?
 CQ4-28 IBSでは感染性腸炎後か否かで治療反応性は異なるか?
 CQ4-29 IBSでは消化管機能検査が治療効果を左右するか?
 CQ4-30 同一治療でも分類(C、D、M、U)によって治療効果は異なるか?
第5章 予後・合併症
 CQ5-1 IBSの症状は加齢により変化するか?
 CQ5-2 IBSの分類(C、D、M、U)は移行するか?
 CQ5-3 IBSは治療により予後が変わるか?
 CQ5-4 IBSに機能性ディスペプシア(FD)が合併する頻度は高いか?
 CQ5-5 IBSに胃食道逆流症(GERD)が合併する頻度は高いか?
 CQ5-6 IBSとIBDは高率に合併・移行するか?
 CQ5-7 IBSと消化管外の身体疾患は高率に合併するか?
 CQ5-8 IBSと心理的異常は高率に合併するか?
 CQ5-9 IBSにおける合併症はQOLや予後に影響を及ぼすか?
索引

過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)の研究は国際的に長足の進歩を遂げており、新薬の開発も盛んである。IBSならびに機能性ディスペプシア(functional dyspepsia:FD)を代表疾患とする機能性消化管疾患は、国際委員会が定義したRomeIII基準で診断するのが標準化されている。このため、同一基準による疫学調査が世界各国で可能となり、わが国でも一般人口の6.1〜14.2%、消化器内科受診患者のおよそ30%を占める結果が得られ、社会的な関心が高まっている。その病態にはゲノム、脳腸ペプチド、消化管運動異常、内臓知覚過敏、消化管免疫、粘膜透過性、腸内細菌、心理社会的因子などが関与し、これらを総合的に捉える概念として脳腸相関の重要性が明確になっている。
 日本消化器病学会では、菅野健太郎理事長、木下芳一担当理事、渡辺守副担当理事の提唱により、IBSの診療ガイドラインを作成することになり、以下の委員構成で作成作業、評価を行った。すなわち、作成委員会が委員長・福土審、副委員長・金子宏、委員として秋穂裕唯、稲森正彦、遠藤由香、奥村利勝、金澤素、神谷武、佐藤研、千葉俊美、古田賢司、大和滋、評価委員会が委員長・荒川哲男、副委員長・藤山佳秀、委員として東健、藤本一眞、峯徹哉、オブザーバーが三浦総一郎である。類縁疾患のFDのガイドライン委員会との調和を取りつつ、作成を進めた。
 まず、診療を左右する重要なクリニカルクエスチョン(CQ)を定義・疫学・病態、診断、治療、予後・合併症について当初102個設定したが、実地臨床に即して62個にこれをまとめた。おのおののCQについて、3〜10個程度のキーワードを選定して文献を検索した。その結果、1983年から2011年9月までの7,508文献を抽出し、CQ 判定に関与する3,664文献のエビデンスレベルを判定した。その過程で漏れた重要な41文献はハンドサーチで追加した。また、ガイドライン刊行が2014年になることが明らかであったため、2012年以降の文献でCQに重大な影響を及ぼすものも検索期間外文献として追加した。エビデンスレベルはA:システマティックレビュー、メタアナリシス、無作為比較対照試験(RCT)、C:コホート試験、症例対照研究、D:連続症例、症例報告、専門家の意見として当初判定し、エビデンスレベルを上げる要因あるいは下げる要因を点数化し、最終的にA、B、C、Dの4水準に分類した。このなかの最も水準が高い根拠をもとにステートメントを提案し、診断と治療については、GRADE1:行うよう推奨する、GRADE2:行うよう提案する、GRADE2:行わないよう提案する、GRADE1:行わないよう推奨する、のいずれかを付言した。また、これらに伴う解説文と文献を充実させた。
 IBSの概念は臨床的に広い範囲を許容する。診断は国際的に共通性・汎用性があり、RCTやメタアナリシスなど主要なエビデンスのデータのもとになっているRomeIII基準に沿うものとした。治療については、薬物療法と非薬物療法を網羅した。薬物療法については、国内で使用される標準的なものを網羅し、保険適用外でも根拠のあるものについて言及した。さらに、国際的にはIBSの新たな治療薬が着実に登場しつつある。ガイドラインが国内の医療向けであることはもちろんであるが、医療が国境を越えて急激に進歩しているのも事実であり、医療の普遍性を考慮することが必要である。このため、国際的な動向を含めた記述とした。非薬物療法については、脳腸相関の変容を軸に治療法が開発されてきており、また食事療法の新潮流が着目されている。予後・合併症については、データが豊富な領域とほとんどデータがない領域があることが明らかになった。根拠に乏しいCQについては、CQそのものを削除することは簡単であるが、むしろ、臨床的な意味が大きい疑問に対するエビデンスを日本消化器病学会から世界に先駆けて発信するべきテーマを公知にした意義があると考える。
 わが国に適合したIBSの診療ガイドラインの必要度は高く、それが実用に供されることを期待する。関係各位の多大な努力に深く感謝する。また、ガイドライン発刊に際し、日本消化管学会ならびに日本神経消化器病学会の御協力を得た。合わせて厚く御礼申し上げたい。今後、IBSの基礎および臨床の新たな局面を切り開く研究が必要である。特に、IBSの発症機序・病態生理、既存治療の科学的分析、ならびに、新規治療の開発がわが国を中心に活性化し、患者に治癒をもたらすことを待望したい。

2014年4月
日本消化器病学会機能性消化管疾患診療ガイドライン-過敏性腸症候群(IBS)作成委員長
福土審

 2014年4月に過敏性腸症候群(IBS)の診療ガイドラインが日本消化器病学会編集のもとに発刊された。消化器病を専門とする臨床医にとっては、待ちに待った発刊といえる。
 消化器病学会では、これまでにも日常的に遭遇するいわゆるcommon diseaseに関する診療ガイドラインを順次刊行してきている。今までに6疾患が刊行されているが、さらに必要度、重要度の高い疾患を第二次ガイドライン策定の対象として選定した。その一つが機能性消化管疾患であり、過敏性腸症候群(IBS)と機能性ディスペプシア(FD)が別々に作成され、同時期に発刊するにいたっている。IBSのガイドラインはすでに2006年に「心身症診断・治療ガイドライン2006」として日本心身医学会の協力・推薦のもとに策定されている。しかし、心身症としての側面が強く取り入れられ、また策定から長期が経過しており、消化器病としてのガイドラインの策定が待たれていた。そこで日本消化器病学会が編集する第二次ガイドライン策定の対象に選定されたことは、まさに時代の要求ともいえる。本ガイドラインにはGRADE Working Groupが提唱するシステムの考え方が取り入れられている。この考え方は単にエビデンスに基づいて推奨の強さを決めるのではなく、それが患者にとって有益か、費用はどうかなどを加味し、患者のアウトカムを重視する立場に立っている。また、このシステムはガイドライン作成の国際的主流となっており、より実臨床に即したガイドラインを策定することが可能となる。したがって、本ガイドラインは単なる文献資料の寄せ集めではなく、より実臨床に即した患者の利益につながるガイドラインであり、わが国の消化器臨床の規範となるべき内容を有しているといえる。また、英文で発信することにより、国際的にも評価を受けうるガイドラインとして期待される。
 その内容は膨大な文献が吟味されており、臨床上問題となるクリニカルクエスチョンとそれに対する答えがエビデンスレベルと推奨度とともに提示されている。本文にはIBSに関する疫学、病態、診断、治療、予後が詳細に記載されている。巻頭にはIBS診断のフローチャート、診断基準、病型分類、治療のフローチャートが提示されており、これをみるだけでもIBS診療の最新の動向を把握することができる。
 ガイドラインは時代とともに変遷するが、常に時代の先駆けとなるガイドラインとして維持するためには、次の版に向けての改訂作業が不可欠である。本ガイドラインが将来にわたり、わが国のIBS診療の臨床水準の向上に寄与することを望む。

臨床雑誌内科115巻4号(2015年4月号)より転載
評者●鳥居内科クリニック院長 鳥居明

9784524265572