書籍

エビデンスで解決!緩和医療ケースファイル

編集 : 森田達也/木澤義之/新城拓也
ISBN : 978-4-524-26394-3
発行年月 : 2011年10月
判型 : B5
ページ数 : 196

在庫あり

定価3,740円(本体3,400円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

緩和医療の現場が直面する難問を、エビデンスを挙げながら解決していく。特に重要な4つのシチュエーション、「疼痛」「疼痛以外の身体症状」「精神的サポートとコミュニケーション」「終末期」における治療やケア方法について、その根拠を明確にしながら実際のアプローチを解説する。Q&A方式で自己採点でき、楽しんで読める工夫が満載。緩和医療に携わるスタッフ必携の一冊。

CHAPTER1 疼痛
 CASE 1 とりあえずモルヒネ増量……?
 CASE 2 レスキューの使用回数が多いから、ベースアップでOK?
 CASE 3 初回のオピオイド、何を使う?
 CASE 4 オピオイドを処方するときに制吐薬は必要?
 CASE 5 レスキューは必ず1日量の1/6?
 CASE 6 痛みが取りきれない……その(1)
 CASE 7 痛みが取りきれない……その(2)
 CASE 8 制吐薬を服用しても、嘔気・嘔吐が治まらない!?
 CASE 9 オピオイド投与中にせん妄が出たら?
 CASE 10 オピオイド投与中に眠気が出たら?
 CASE 11 オピオイドは嫌だ、と拒絶されたら?
 CASE 12 「オピオイド鎮痛薬で寿命は縮まらない」を正しく解釈する
 CASE 13 オピオイドを処方した後、次どうする?
 CASE 14 しびれる痛みに対応する
CHAPTER2 疼痛以外の身体症状
 CASE 15 呼吸困難にモルヒネ?
 CASE 16 腹水の処置、どうしよう?
 CASE 17 消化管閉塞のようだ……どの治療法にする?
 CASE 18 口の渇き(口渇)に有効なのは?
 CASE 19 輸液の量をどうしよう?
 CASE 20 外来化学療法患者の緩和ケアのニーズとは?
CHAPTER3 精神的サポートとコミュニケーション
 CASE 21 抗がん剤治療の中止をどう伝えるか?
 CASE 22 緩和ケア病棟をどう紹介するか?
 CASE 23 希望を支えながら心の準備をするために
 CASE 24 患者の希望するスピリチュアルケアとは?
 CASE 25 「迷惑をかけてつらい」と言われたら……?
 CASE 26 予後を伝えるとき
 CASE 27 座って話すか立って話すか?それが問題だ……
 CASE 28 スピリチュアルケアとしての短期回想法
 CASE 29 起こりうる将来のことについて話し合う
CHAPTER4 終末期ケア
 CASE 30 予後をどうやって予測するか?
 CASE 31 看取りの時期に入ったら?
 CASE 32 良い看取りの仕方とは?
 CASE 33 食べられなくなってきたときの家族ケアは?
 CASE 34 終末期せん妄をどうするか?
 CASE 35 死前喘鳴に補液と吸引?
 CASE 36 苦痛緩和のために鎮静はしてもいいのか?
 CASE 37 「鎮静」を家族にどう説明する?

索引

「エビデンス」と「緩和ケア」……おおよそイメージが一致しない読者も多いと思う。「緩和ケアはエビデンスでは解決しないだろう」……とそういう声があちこちから寄せられそうだ。その通りである。
 実際、「エビデンス」を知っていたからといって、臨床家が「悩まなくなる」ことはどの医学領域でもあり得ない。抗がん治療において、レジメンAとレジメンBの複数の比較試験で結論が出たとしても、さて「目の前の『この』患者にとって」もっとも良い治療は何なのだろうか、悩まない医師はいないだろう。治療効果のみではなく、個々の患者がとくに避けたいと思う副作用、経済的負担、入院や通院にかかる負担……これらのことを総合的に考えて臨床家は治療を相談するだろう。救急医学において、帰宅させても「問題ない」とされる条件が複数のコホー卜研究から作成されて反復して精度が上げられていったとしても、「目の前の『この』患者にとって」、今日帰宅させることはいいのだろうか、患者は誰かと暮らしているのだろうか、もし何かあったときに病院に通院するのにどれくらいの時聞がかかるのだろうか、今年の冬はとりわけ急に寒くなり周辺でインフルエンザも拡大している……良き臨床家は患者を取り巻く多くのことを考えたうえで、帰宅させるかどうかを決めるに違いない。
 臨床家は常に悩む。しかし、「エビデンス」を知っていることで、少なくとも「判断する材料・行動する材料」をより多く手に入れることができる。まったくエビデンスを知らずに臨床場面で患者に対応しようとすることは、「懐中電灯なしに夜の校庭で財布を探す」ごとく、「積分記号の意昧を教えられずに数学を解こうとする」ごとしである。
 すでに10年以上前から、エビデンスという点では、「緩和医学(palliative medicine、苦痛を対象とした学問体系)」は「特殊」ではない。ごくごく普通に研究され、知見が蓄積されていく学問領域のひとつにすぎない。痛い、息苦しい、吐き気がする、眠れない、生きていることに意昧が感じられない、というさまざまな苦痛のひとつひとつに対して、「どうすれば和らげられるのか」についての研究が次々に行われ、蓄積されていく。今や緩和ケアについての研究報告は、New England Journal of MedicineやLancetを初め、Journal of Clinical OncologyやAnnals of Oncologyに頻繁に掲載される。緩和ケアの専門雑誌も多く出版され、老舗のJournal of Pain and Symptom Managementだけでも年間の掲載論文数は100編を超える。これらの中には、日本からの研究論文も決して少なくない。Cochrane reviewにもPaPaSカテゴリーが作られ、緩和ケアに関する無作為化比較試験をプールして定期的にup-to-dateされたものを誰もが見ることができる。
 にもかかわらず、編者の知るかぎり、国内で出版されている「緩和ケアの本」は、依然として経験的な、または教科書的な記述が主体の「マニュアル」が中心であり、「どこかで見たことのある感じ」を否めない。本書で紹介したかったのは、「エビデンス」(というにはまだまだ未熟なものも多いが……)という目を通してみたときの、臨床場面での実践である。本書は教科書やガイドラインという類のものではなく、「正解」を示すものではない。「エビデンス」は、数年後には覆されることが少なくない。本書で意図したものはあくまでも、「あるひとつのエビデンス」から見た場合の、臨床家がよく出会うであろう、よく迷うであろう状況への解釈である。
 本書では、読者が「楽しんで」読めるように、「0点」や「80点」などといった点数付けをしているが、これは必ずしも「専門医試験」のように正解・不正解を意昧しているのではない。「遊び心」としてご理解いただければ幸いである
 「緩和ケア」を専門と志した10ン年前、緩和ケアに関する情報は国内にはほとんどなかった。臨床で出会う患者さんごとに「本当にこれは正しいのだろうか」と迷うことを繰り返した。MedLine(当時はPubMedがなく図書室のCD-ROMで運用されていた)で検索してみたところ、なんと疑問に答える「研究論文」が国際的に数多く出版されていることを知ったときの驚きといったらなかった。緩和ケアがエビデンスだけで解決しないのは当たり前である。しかし、それは緩和ケアのみならずどの医学領域でもそうである。どうか、本書が「迷う臨床家」にとって、自分は「持っているべき情報を持って」迷っているのか、「持っているべき情報を知らないために」迷っているのか、それを見極めるきっかけになればと思う。
 最後に、本書は、わが国の緩和ケアの臨床研究を担ってくれている比較的若手の諸君にお願いして執筆いただいた。あるものは研究経験のない臨床医であるために研究論文の理解が十分でなく、あるものは臨床経験のない研究者であるために臨床場面での実践例の表現に難がみられる項もあると思う。しかし、わが国において類を見ない最初の書籍であり、また、わが国の緩和ケアはいまだ成人に到達していないという点で、どうぞ読者氏においては寛大に見ていただきたいと思う。
2011年秋
森田達也

本書の編者3人は、わが国の緩和医療の臨床・教育・研究に携わる若手・中堅を代表する医師たちである。森田達也氏は国内より国際的な知名度が高く、多数の論文が国際的な雑誌に掲載されており、わが国を代表する緩和医療の臨床研究の第一人者である。木澤義之氏は緩和医療の教育のパイオニアであり、厚生労働省が推進している「がん診療に携わる医師に対する緩和ケアの基本教育プログラム(PEACE)」の作成を中心になって担い、緩和医療の教育研修の第一人者といえる。新城拓也氏は優れた臨床家であると同時に、緩和医療学会が編集した「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン」、「がん患者の消化器症状の緩和に関するガイドライン」の中心的な執筆者である。
 本書の狙いは、森田氏によれば「『あるひとつのエビデンス』から見た場合の、臨床家がよく出会うであろう、よく迷うであろう状況への解釈である」というところにある。ガイドラインの作成過程では、さまざまなエビデンスを収集して整理して、レベル分けをするという作業がある。その過程でエビデンスをどう評価するのか、一つのエビデンスが実際の臨床上の意思決定や治療法の決定にどのように結びつくのか、何度も疑問にぶつかる。また、マニュアルやガイドブックの作成過程で書かれている事項が経験的なものか、エビデンスに裏付けられているか、それが臨床上の意思決定にどのように影響するか、疑問に思うことも多い。おそらく3人の編者は、そのような問題意識を共有しながら本書を作成したのであろう。
 本書では、まず症例提示がなされ、当面する臨床上の問題への選択肢が3つ示される。それに続いて臨床的に関連するエビデンスが紹介され、次にエビデンスを踏まえてどう考えるか、思考の道筋が示される。そして、選択肢に関する評価(何と100点満点で点数がつけられている)が提示される。最後に提示された症例に即して解説が加えられている。
 目次を見ると、「疼痛」、「疼痛以外の身体症状」に加えて、「精神的サポートとコミュニケーション」、「終末期ケア」という項目立てがされている。すなわち、緩和医療のエビデンスは痛みなどの症状の緩和だけでなく、コミュニケーションや臨床倫理に関わる事柄にも存在し、積み重ねられてきているのである。たとえば、「良い看取りの仕方とは?」と題された項目では、症例が提示されたあと、エビデンスとして2010年に『Journal of Clinical Oncology』誌に掲載された新城論文が示されて、臨終前後のケアにおける「苦痛の緩和」、「患者や家族へのコミュニケーション」の2つの要素の重要性が明らかにされている。そして、臨終前後の家族へのコミュニケーションに重要な4つの要素、「患者への接し方やケアの仕方をコーチする」、「家族が十分悲嘆できる時間を確保する」、「もし患者に意識があったらどうするか」、「予測する経過や時間を説明する」を提示している。
 これらのエビデンスを、実際の症例を用いて考えていく。その意味では、緩和医療を実践し始めた若手・中堅医師のための入門書でもあり、診療の傍らに折に触れて目を通してよい教材ともいえる。
 最後に、30名に上る本書の執筆グループに触れておきたい。編者らも断っているようにほとんどが40歳代以下の若手の医師、看護師であり、論文の読み方、解釈に足りない点があるかもしれない。しかし、この若い執筆者たちが目指すところは質の高い緩和ケアを実現し、いつでもどこでも提供するところにある。さらに、本書が改訂されて版を重ねることを願うものである。
評者● 志真泰夫
臨床雑誌内科109巻5号(2012年5月号)より転載

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