書籍

運動器の痛みプライマリケア

肘・手の痛み

編集 : 菊地臣一
ISBN : 978-4-524-26057-7
発行年月 : 2011年7月
判型 : B5
ページ数 : 290

在庫あり

定価5,400円(本体5,000円 + 税)

  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

局所の痛みにとどまらない難解な運動器の痛みを、トータルペイン・パーソナルアプローチの観点からやさしく解説。“野球肘”“腱鞘炎”など肘・手の痛み診療における必須の知識を、重篤な疾患の鑑別診断から治療、さらには日常生活やリハビリテーション指導、心理的・社会的側面からのアプローチ、エビデンスを超えた独自の治療上のコツまで余すところなく解説。

I 痛みについて
 1 運動器のプライマリケア−careを重視した全人的アプローチの新たな流れ
 2 運動器の疼痛をどう捉えるか−局所の痛みからtotal painへ、痛みの治療から機能障害の克服へ
 3 疼痛−診察のポイントと評価の仕方
 4 治療にあたってのインフォームド・コンセント−必要性と重要性
 5 各種治療手技の概要と適応
  a.薬物療法
   1)医師の立場から−薬効からみた処方のポイント
   2)薬剤師の立場から−処方箋のチェックポイント
  b.ペインクリニックのアプローチ
  c.東洋医学的アプローチ
  d.理学療法
  e.運動療法
  f.精神医学(リエゾン)アプローチ
  g.集学的アプローチ
 6 運動器不安定症−概念と治療体系
 7 作業関連筋骨格系障害による痛み

II 肘・手の痛みについて
 1 診療に必要な基礎知識−解剖と生理
  a.肘
  b.手
 2 診察手順とポイント−重篤な疾患や外傷を見逃さないために、他部位の痛みを誤診しないために
 3 画像診断・その他の補助診断―価値と限界
  a.肘
  b.手
 4 手術−勧める時期と症状/所見
  a.肘
  b.手
 5 各種治療手技の実際と注意点
  a.薬物療法
  b.理学・運動療法
  c.ペインクリニックのアプローチ
  d.徒手療法
   1)AKA-博田法
   2)カイロプラクティック
   3)オステオパシー
  e.東洋医学的アプローチ

III 肘の主な疾患や病態の治療とポイント−私はこうしている
 1 野球肘(内側型、外側型)
 2 変形性肘関節症
 3 上腕骨外側上顆炎(テニス肘を含む橈骨神経管障害)
 4 上腕骨内側上顆炎(ゴルフ肘)
 5 肘頭滑液包炎
 6 肘部管症候群

IV 手の主な疾患や病態の治療とポイント−私はこうしている
 1 手根管症候群
 2 ガングリオン
 3 de Quervain病
 4 屈筋腱腱鞘炎(ばね指)―小児を含む
 5 リウマチ手関節
 6 Heberden結節
 7 母指CM関節症
 8 TFCC損傷
 9 手根不安定症
 10 Kienbock病
 11 結晶沈着性関節炎・腱周囲炎
 12 Guyon管症候群

索引

腰痛、肩こり、そして関節痛など、運動器の痛みは国民に多い愁訴のオンパレードである。この傾向は高齢化の進展とともにますます顕著になっていくものと予想される。
 運動器の痛みは、支持と運動という相反する機能を持つがゆえの過重な負担の結果であることが少なくない。それだけに、その診療にあたる医療従事者は生体力学的知識を持つことが求められる。それに加えて運動器の痛みには、従来我われが認識していた以上に早期から、心理・社会的因子が深く関与していることも明らかになってきた。当然、適切な診療を行うためにはこれらの知識も必要である。このような知見の集積から、近年は腰痛を代表とする運動器の痛みを、単なる「解剖学的異常」から「生物・心理・社会的疼痛症候群」として捉えようという動きが始まっている。つまり、運動器の痛みを「local pain」としてではなく「total pain」として捉えて診療にあたるということである。
 疼痛には、器質的、そして機能的な因子が複雑に絡み合っていることがわかってきた。運動器の疼痛、特に患者さんの多い慢性疼痛の診療には、それに応じた診療体系が求められる、それはまず、「cure」だけでなく「care」という視点の導入である。次に、多面的、集学的アプローチの導入である。わが国の医療システムや患者の立場を考えると、1人の運動器の疼痛診療従事者が中心となって診療を進めていくのが妥当といえる。そのためには、自分の専門領域の知識、技術、そしてknow−howのみならず、学際領域でのそれらの習得も必要になってくる。これにより、「何を治療するか」ではなくて、「誰を治療するか」という視点を持った診療が可能になる。
 運動器の痛みのプライマリケアを部位別に取り上げていくというのがこのシリーズの構成になっている。しかし、運動器の痛みのプライマリケアにあたっては、部位に関係なく患者と医療従事者の信頼関係の確立が死活的に重要である。何故ならば、EBM(evidence−based medicine)が教えてくれたのは、皮肉にもNBM(narrative−based medicine)の重要性だからである。医療従事者と患者との信頼関係の確立により、患者の診療に対する満足度はもとより、治療成績も向上することはよく知られている。また、信頼関係があればこそ、長期にわたるcareも可能になる。
 本シリーズは、近年の運動器の痛みを診療するうえで必要な新知見を総論に、各論には部位別にみた最前線の診療の提示という構成にした。執筆者には、第一線の診療現場で活躍している先生方に、know−howを含めた実践的診療の記載をお願いした。第一弾としての本巻は、診療現場で遭遇することの最も多い「腰背部の痛み」を取り上げている。このシリーズが、運動器の痛みのプライマリケアの向上に役立ち、結果的に、運動器の痛みの診療に従事している人々に対する国民の信頼が高まることを期待している。
2011年5月
菊地臣一

主として整形外科を受診する運動器疾患の問題を抱える患者の多くは「痛み」が主訴である。本書の真骨頂はタイトルのとおり、整形外科、殊に肘と手の痛みに関して真正面から取り扱い、必要不可欠なことが論理的に説明され、さらには具体的な臨床的手順とその注意点を列記してあることである。そして、現行の臨床が陥りがちなピットフォールに警鐘を鳴らしている点である。本書では、上肢の痛みに関することにとどまらず、上肢の運動機能の維持に必要な機能解剖学と生理学から診断学にいたるまでを、研修医から上級医、専門医レベルにまでわかりやすく簡潔に、そして最新のポイントまで広く論述されている。執筆者は臨床経験と教育経験の豊かなベテランばかりであり、研修医や専門医をめざす医師の目線に立ったわかりやすい文章で解説してある。
 本書の構成はまず、運動器のプライマリケア、特に「careを重視した全人的アプローチの新たな流れ」、narrative-based medicine(NBM)というアートとevidence-based medicine(EBM)との両立・統合という治療方針の基本から始まる。運動器の疼痛をどうとらえるか、主観的は症状である痛みをどう科学するか、生活に与える影響と重症度を含めた評価の仕方、診察手順とポイントというふうに話がすすんでいく。疾患別には近年トピックスとなっている運動器不安定症や手根不安定症から日常遭遇することの多いテニス肘、Heberden結節や関節リウマチ手・手関節、腱鞘炎、母指手根中手(CM)関節症などにまで細かく論述してある。痛みに対する治療法の基本が薬物療法であることに異論はないが、手・肘に関しては脊椎・下肢と比較し機能が優先されることが多い。本書では薬物療法にとどまらず運動療法をはじめとしたリハビリテーションや理学療法、ペインクリニックのアプローチ、東洋医学的アプローチ、徒手療法にまで論説してある。
 肘と手の科学の進歩は著しい。しかし、肘と手の痛みの治療は従来の科学では扱いきれない部分をもっている。たとえば手には人間の顔と同じように表情と個性があり、人間の歴史と生活が刻まれている。Penfieldが示しているが、手は脳の広い範囲を占める。歴史的にも類人猿からヒトへの進化の過程で二足歩行を獲得し、これにより手が自由となった。ヒトは脳の進化と平行して手・肘が自由に使えるようになった。このように手の進化が脳、殊に大脳皮質の一次体性感覚野の進化に先行したことは明らかである。脳と手には密接な関係がある。手を扱う医師は高度な精神活動を表現する脳を理解すべきであり、脳を上手に使える手をつくるような感性と創造性豊かなアーティストとしての工夫も求められる。近代社会はコンピュータの進化とともにヒトが抱える理解しがたい肘・手の痛み、こころの痛みが増えていることも事実である。
 本書を契機に、日本でも運動器の痛みに関するcareと肘・手の痛みへのよりよい医療が積み重ねられていくことを切望している。
評者● 稲垣克記
臨床雑誌整形外科63巻3号(2012年3月号)より転載