書籍

ヘルニアの外科

  • 新刊

監修 : 柵P信太郎
責任編集 : 諏訪勝仁
編集 : 早川哲史/嶋田元/松原猛人
ISBN : 978-4-524-25958-8
発行年月 : 2017年12月
判型 : A4
ページ数 : 456

在庫あり

定価19,440円(本体18,000円 + 税)

  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文

「鼠径ヘルニアの手術をみれば、その外科医の能力を推察できる」。多様なヘルニアの病態・生理、複雑な局所解剖とその意義、さまざまな術式の整復理論と手技の実際、合併症対策までを、800点以上の写真・イラストを交えて体系的に著した、わが国におけるヘルニア診療のバイブルが登場。研修医からエキスパートまで、あらゆるステージの外科医にとって必携の一冊。

第I部 成人のヘルニア
 A 鼠径部ヘルニア
  序章 鼠径部ヘルニアの歴史,解剖,分類と用語
   1.鼠径部ヘルニア手術の歴史
   2.鼠径部の局所解剖
   3.分類
   4.用語
  第1章 鼠径部ヘルニアにおける基礎医学
   1.疫学
   2.生理学・生化学
   3.人工膜の歴史と進化
  第2章 鼠径部ヘルニアの診断
   1.基本的な診断法:問診と身体所見
   2.画像診断
   3.sporstman’s groin(groin disruption,sports hernia,Gilmore’s groin)
   4.注意すべき鑑別疾患
  第3章 鼠径部ヘルニア(鼠径・大腿ヘルニア)手術
   1.手術適応
   2.鼠径部切開法
    a.組織縫合法
    b.Lichtenstein法
    c.メッシュプラグ法
    d.Kugel法
    e.Bilayer patch法
    f.ダイレクトクーゲル法(TIPP)
    g.前方到達法および腹膜前到達法による腹膜前修復法
    h.女性鼠径部ヘルニアに対する手術
    i.そのほかの新しい術式
   3.腹腔鏡下手術
    a.反対側鞘状突起開存,不顕性ヘルニアの定義と手術適応
    b.腹腔鏡下手術のための解剖
    c.TAPP法
    d.TEP法
   4.術後合併症
    a.鼠径部切開法の術後合併症
    b.腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術の術後合併症
  第4章 嵌頓ヘルニア
  第5章 慢性術後鼠径部痛
   1.病因,症状,診断,治療
   2.ペインクリニック的アプローチ
   3.脊髄刺激療法
 B 腹壁瘢痕ヘルニア
  第1章 腹壁瘢痕ヘルニアの原因・疫学
  第2章 腹壁瘢痕ヘルニアの生理学
  第3章 腹壁瘢痕ヘルニアの手術
   1.手術適応
   2.切開法
    a.組織縫合法
    b-1.component separation法:開腹
    b-2.component separation法:内視鏡下
    c-1.Rives-Stoppa原法
    c-2.posterior component separation法
    d.腹腔内留置メッシュ(IPOM)法
    e.形成外科的再建
   3.腹腔鏡下手術
    a.standard intraperitoneal onlay mesh(sIPOM)法
    b.ヘルニア門閉鎖およびメッシュ補強(IPOM-Plus)法
    c.endoscopic Rives-Stoppa(eRives)法
   4.特殊な部位の瘢痕ヘルニア
   5.術中・術後合併症
 C そのほかの腹壁ヘルニア
  第1章 臍ヘルニア・上腹ヘルニア
   1.臍ヘルニア
   2.上腹壁ヘルニア(白線ヘルニア)
   3.腹直筋離開
  第2章 Spigelianヘルニア(半月線ヘルニア)
  第3章 ストーマ傍ヘルニア
 D 閉鎖孔ヘルニア
 E 食道裂孔ヘルニア・横隔膜ヘルニア
   1.食道裂孔ヘルニア
   2.そのほかの横隔膜ヘルニア
 F そのほかのヘルニア
  第1章 会陰ヘルニア
  第2章 子宮広間膜ヘルニア・Douglas窩腹膜欠損ヘルニア
  第3章 腰ヘルニア
  第4章 傍十二指腸ヘルニア
  第5章 特殊な内ヘルニア
第II部 小児のヘルニア
 A 鼠径ヘルニア
  第1章 鼠径部切開法
  第2章 腹腔鏡下鼠径ヘルニア根治術(LPEC法)
 B 鼠径ヘルニア以外の小児ヘルニア
  第1章 臍ヘルニア
  第2章 臍帯ヘルニア
第III部 ヘルニア診療・研究のトピックス
 A ヘルニア診療のトピックス
  第1章 日帰り手術
  第2章 ヘルニア診療の質と改善
 B ヘルニア研究のトピックス
  第1章 ヘルニア研究のための臨床疫学・統計学
索引

序文

 私が大学を卒業し、外科医として聖路加国際病院に入職してから、早いもので41年が過ぎた。レジデント時代、多忙な職務に追われる中、手技習得のためにいつも上司の手術を盗み見ていた。日本のがん手術の黎明期を目の当たりにし、複雑で難しい手術をこなせてこそ誇り高き外科医になれると信じていた。しかし、一人の上司との出会いが私の外科医人生を変えてしまった。牧野永城先生である。
 当時、日本では鼠径ヘルニアを学問としてとらえ、手術を緻密に分析して伝承しようとする外科医は少なかった。私はその一人と出会ったのである。牧野先生はアメリカでMcVay先生の弟子から直接手術の指導を受け、日本に“横筋筋膜を用いた鼠径ヘルニア修復の重要性”、“McVay法”、“iliopubic tract repair、preperitoneal approach”を伝えた第一人者であり、鼠径ヘルニア手術のみならず、すべての外科手術に心血を注いでいた。ある日、牧野先生は私に一冊の本を差し出し、読みなさいと言った。Nyhus、Condon共著の『Hernia』である。HarrisonやSabistonは読破したものの、ヘルニアと分厚いハードカバーが不釣り合いな気がして、しばらくは放置していた。とあるヘルニア手術中に理解できなかった鼠径管内の構造を調べるために、その本を初めて開いた。気のないページめくりで読み飛ばしていたが、次第に手に力が入っていた。その本には、これまで気に留めていなかった筋膜や筋肉がどんな意味を持ち、機能を果たしているかが詳細に記されていた。また、Bassini原法やMcVay法での一つ一つの縫合の意味が詳らかにされていたのである。まさに青天の霹靂であった。その後も時間を見つけては朝も夜も読みふけった記憶がある。ここから私と鼠径ヘルニア手術の長いつきあいが始まったのである。
 今回、南江堂から声がけされ制作に当たった本書『ヘルニアの外科』は、まさに私の外科医としての集大成であり、2002年以降改訂されなかった『Hernia』のわが国における後書(高書)ととらえている。鼠径部ヘルニアのみならず、近年注目を浴びている腹壁ヘルニア、横隔膜ヘルニア、食道裂孔ヘルニア、まれなヘルニアまですべての腹部のヘルニアを対象とし、ヘルニアを学ぶすべての医師のために余すことなく網羅するためには想像以上の多くの労力を要した。慣例に従い、歴史、解剖から始まっているが、ヘルニアの生理学、生化学までにも言及し、日本のヘルニア学の将来を見据えた研究の手法、医療の質の評価に終わっている。執筆いただいた先生方は各部門のエキスパートであり、自らの知識や技術を思う存分書き留めていただいたと実感し、心から感謝している。
 執筆者の一人であった内藤稔先生は自らのパートを脱稿いただいた後、他界された。先生は2018年度日本ヘルニア学会学術集会を主宰する立場であった。その無念を悼み、哀悼の意を表したい。
 かつて、ヘルニア手術をsecond-class operationと呼んだ者がいる。ヘルニア手術は決してsecond-class operationではない。外科医の誰もが通る道ではあるが、決して安易な道ではなく、もし軽んずるものならその外科医は大成しないと、私は個人的に感じる。最後に牧野先生が私にくださった言葉を記す。
 柵P君……アメリカの著名な外科医に、「鼠径ヘルニアの手術を見れば、その外科医の能力が推察できる」と言った人がいるんだ。鼠径ヘルニア手術は一般にとかく簡単なものとして受け取られやすいが、決してそんなものではないよ。今日なおアメリカでは、鼠径ヘルニアが学会でよく取り上げられているのだけれど、鼠径部の解剖についてさえ未だに学者間の意見が一致しない問題があり論争を続けているんだよ。先輩から簡単に教わって、内腹斜筋に糸をかけてこれを鼠径靱帯に縫い付けるといった“鼠径管後壁の補強”を漫然と反復して、鼠径ヘルニア手術に習熟したなどと思ったら大間違いだよ。いわゆる大手術をこなすようになった時、外科医ができ上がるのだという考えがもしあったらそれは間違いではないかと思う。外科医として立つからには、ヘルニアや痔など従来とかく簡単に取り扱われがちだった疾患にもかなり深い造詣を持つべきだと思うよ。

 私が若輩の時分受けた感銘が一人でも多くの外科医に伝わればこれ以上の喜びはない。

平成29年10月
柵P信太郎