書籍

そうだったのか!腰痛診療

エキスパートの診かた・考えかた・治しかた

: 松平浩/竹下克志
ISBN : 978-4-524-25837-6
発行年月 : 2017年11月
判型 : B5
ページ数 : 204

在庫あり

定価5,184円(本体4,800円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

原因、メカニズムから症状、診断、治療、予防まであらゆる角度から腰痛を解説したテキスト。2名の著者が最新の知見を徹底的に調べ、診療のためのアイディアやヒントを豊富に盛り込んだオリジナリティあふれる仕立てとなっている。原因の特定できない非特異的腰痛にも多くの紙幅を割いており、医師のみならず、ワンランク上をめざす看護師や理学療法士にとっても必読書。

序文
I.腰痛とは
 A.腰痛の実態
  1 プロローグ
  2 非特異的腰痛が意味すること
  3 グローバルな疫学的知見と趨勢
  4 最重視されている危険因子
  5 今後のキーワード「層化システム」の重要性
  6 遷延化の主犯「FAウイルス感染」
 B.腰痛の定義
  1 痛みの定義−歴史と臨床的意義を踏まえて
  2 疫学的研究をするうえでの定義 023
 C.腰痛診療ガイドライン
  1 なぜガイドラインが必要か?
  2 海外の腰痛診療ガイドライン
  3 日本の腰痛診療ガイドライン
  4 ガイドラインの限界
II.腰痛の原因とメカニズム(とらえ方)
 A.特異的腰痛
  1 特異的腰痛とは?
  2 内臓器由来の特異的腰痛
  3 脊椎由来の特異的腰痛
  4 神経症状(神経圧迫)が主因の腰痛
 B.腰痛出現のメカニズム
  1 痛みの感覚的体験の基本的メカニズム−侵害受容性疼痛
  2 代表的な腰椎由来の侵害受容性疼痛
  3 神経障害性疼痛
  4 心因性疼痛
 C.内因性鎮痛機構
  1 脳と痛み
  2 下行性疼痛制御(調節)系
  3 形態学的異常でなく機能的異常を主軸とした腰痛のとらえ方
III.プライマリケアでの対応
 A.プライマリケアでの診察・検査
  1 問診,診察のポイント
  2 非特異的腰痛であることの暫定的な判断基準
  3 フォローアップ方針
  4 専門医相談のタイミング
  5 診察の実際
  6 知っておきたい画像検査の意義と知識
  7 血液(尿)検査
 B.プライマリケアでの特異的腰痛に対する治療
  1 脊椎由来の特異的腰痛
  2 神経症状が主因の腰痛3分離(すべり)症(主に若年者について)
 C.プライマリケアでの非特異的腰痛に対する治療
  1 非特異的な範疇の急性腰痛に対する初期治療
  2 慢性腰痛の主要な管理手段
IV.知っておきたい知識
 近年の手術の趨勢
V.付録
 付録1 日本語版SSS-8(身体症状スケール)
 付録2 Keele STarT Backスクリーニングツール
 付録3 【日本語暫定版】筋骨格痛スクリーニング質問票(短縮版)[OMPSQ-SF-J]
 付録4 破局的思考尺度(Pain Catastrophizing Scale:PCS)
 付録5 日本語版FABQ(Fear-Avoidance Beliefs Questionnaire,Japanese version:FABQ-J)
 付録6 日本語版TSK(Tampa Scale for Kinesiophobia)[TSK-J]
 付録7 Pain Self-Efficacy Questionnaire日本語版
 付録8 Roland-Morris Disability Questionnaire(RDQ)日本語版.腰痛による生活能力障害の評価
 付録9 オズウェストリー腰痛障害質問票日本語版(Oswestry Disability Index:ODI)
 付録10 日本語版COMI(Core Outcome Measures Index)
 付録11 チューリヒ跛行質問票(ZCQ)
あとがき
索引

序文

 Stratified approach(層化アプローチ)、多くの方にとって聞きなれない用語であろう。腰痛診療における今の時代のkey wordである。仮説であろうとも、理にかなった「評価」と「見極め」があってこそ、それに対応する介入法が存在する。以前の私がそうであったように、専門医ほど解剖学を基盤とした局所に限定した「評価」と「見極め」になりがちである。短い診療時間であることも相まって、“木を見て森を見ず”についつい陥ってしまう。評価も含めた対応の主役はブロック治療であり、その延長上に手術治療が満を持して控えているものの、多くの専門家はこの戦略に限界があることを知っている。
 一方、近年のプライマリケアにおける腰痛を含む筋骨格系疼痛治療ピラミッドの1st line treatmentには、薬物治療もブロック治療もエントリーされていない(Roos EM,Juhl CB.Osteoarthritis Cartilage 201,2012/Hartvigsen J et al.Best Pract Res Clin Rheumatol 27,2013)。「教育」「エクササイズ」「ウエイトコントロール」、そして「心理社会的サポート」である。この4項目に関し自信を持ってソリューションを提供できる医療者はどれくらいいるだろうか……。「体重を減らしましょう」と言うだけでは不十分である。「まずは数ヵ月、“早歩きをする”“できるだけ階段を使う”といった汗ばむ程度の中強度運動を1日15〜20分実行する習慣がつかないと、食事療法だけではリバウンドしてダイエットは失敗することがわかっているんですよ」くらいは、プロとして説明しなければならない。
 さてここで、プライマリケア医および理学療法士をはじめとするセラピストの立場に立って、難治化した慢性非特異的腰痛を思わせる患者さんと対面した場合、私が短時間でどう“stratify”するかを述べておこう(もちろん、以下の用語などの詳細については本書に記載されている)。
(1)近年、プライマリケアの段階での活用が世界的に推奨されているKeele STarT Backスクリーニングツールの領域得点、あるいはOMPSQ短縮版の得点が高く、予後に強く影響するfear-avoidance(FA)モデルに陥っていそうか?
(2)身体症状症のスクリーニングツールであるSSS-8の得点が高く、心理的ストレスによる機能的身体症状が多彩な可能性があるか?
(3)動作・姿勢に依存する痛みが明確か?そして、痛みのない楽なポジションが必ずあるか?つまりメカニカルストレスに関連する痛みの要素があるか?ある場合、前屈・後屈・側屈の制限や痛みの誘発はあるか?
(4)侵害受容性疼痛の範疇か?あるいは神経障害性疼痛の範疇か?炎症性疼痛の要素を伴っている可能性があるか?
(5)圧痛・動作時痛を含む痛みが、過敏あるいは広範囲か?つまり中枢性感作の状態が疑われるか?
(6)骨盤後傾の不良姿勢で肩甲帯や背部の緊張が強いか?逆に、骨盤前傾・腰椎前弯が強いか?
(7)ハムストリングあるいは腸腰筋のタイトネスが顕著で、その左右差はないか?
(8)立位X線像でのアライメント不良や脊椎不安定性を示唆する所見はないか?
(9)「痛み行動」が顕著か?疾病利得はないか?家族の過保護的態度はないか?
 (1)(2)は、自記式調査票による“stratify”なので、工夫すれば診察室で対面する前に評価を済ますこともでき、初期の段階からFAモデルへの対応やストレスマネジメントが必要そうかを教えてくれる。
 (3)は、運動器疼痛の評価が治療に直結するMechanical Diagnosis and Therapy(MDT)を基盤とし、適切な姿勢・運動指導の提供につながる。
 (4)(5)は、エクササイズの種類と、それをアシストする薬物治療の選定に欠かせない。
 (6)〜(8)は、症状改善に直結しうる姿勢矯正法、ストレッチの種類、コアエクササイズの必要性を判断するのに役立つ。
 (9)は、心理学的観点での“stratify”であり、認知行動療法の中でもオペラント行動療法の必要性を示唆してくれる。
 今や、痛みの診療において、脳機能異常を意識して、患者の“不快な情動”“痛み行動”を把握することが必須となりつつある。ただし、転移性脊椎腫瘍の可及的早期の発見、あるいは打腱器を伝家の宝刀としつつ椎間孔狭窄に伴う神経根障害を見逃さないセンスも不可欠である。さらに私たちは、団塊世代が後期高齢者となり介護の担い手が37.7万人も不足すると見込まれている2025年問題に危機感を持ち、“健康寿命の延伸”に向けた具体的なソリューションを社会に提供せねばならない。2011年のNature誌に、“Prevention:Activity is the best medicine”という記事が掲載されたが、複数のエビデンスを勘案した結果、私の考えるbest medicineは、“良姿勢”と“早歩き”である。トボトボ歩いている猫背の人は、将来の転倒リスク、あるいは認知症やがんになるリスクが高まるため、腰痛があろうがなかろうが、これを放置するわけにはいかない。
 本書は、特に腰痛診療の最前線で活躍されておられる整形外科、ペインクリニック科、リハビリテーション科の医師の方々、理学療法士をはじめとする様々な臨床現場のセラピストの方々、さらには慢性痛診療に関わられている看護師や心理士の方々に、世界標準となりつつある腰痛マネジメントに必要な知識、および具体的な介入法への理解を深めていただくため、心を込めて執筆した。私が最も尊敬する同門の先輩である竹下克志教授と共著で、社会貢献につながりうる本書を発刊できたことはこの上ない喜びである。最後に、根気強く執筆原稿を待っていただき、校正作業にも尽力くださった南江堂スタッフの方々に深謝申し上げたい。

謝辞:本書作成に際し、情報提供いただいた安達友紀先生(滋賀医科大学)、尾市健先生(東京大学)、粕谷大智先生(東京大学)、勝平純司先生(新潟医療福祉大学)、金子達也先生(国際医療福祉大学)、佐藤友則先生(東北労災病院)、篠田裕介先生(東京大学)、住谷昌彦先生(東京大学)、田中一成先生(箕面市立病院)、唐司寿一先生(関東労災病院)、穂積高弘先生(都立駒込病院)、山口重樹先生(獨協医科大学)、山田恵子先生(大阪大学)、吉本隆彦先生(昭和大学)[以上、五十音順]、株式会社CLINICAL STUDY SUPPORTのスタッフの皆様、また、本書内にお名前を記載させていただきましたが、画像・図を快く提供くださった諸先生方、そして執筆協力者としてご指導いただいた笠原諭先生(東京大学)および編集・校閲作業に尽力してくれた私の講座の岡敬之先生、藤井朋子先生に対し、心より感謝申し上げます。

2017年10月
松平浩

 腰痛治療にユニークな視点を投げかけ続けている松平浩先生がまた一冊の本を出した。多作の松平先生であるが、これまでどちらかといえば、患者向けの腰痛コントロールの指南書が多かった。しかし、本書はこれまでと違って、たいへん本格的な教科書である。装丁は比較的軽い感じになっているものの、中身は非常に濃い。松平先生の東京大学整形外科におけるメンターである自治医科大・竹下克志教授との共著であるが、副題として「エキスパートの診かた・考えかた・治しかた」とあるように、基本的に腰痛に対する病態の理解と保存的治療を扱った書籍である。
 著者らが長年独自に研究をしてきた疫学的な見地から、腰痛が慢性化する実態はfear-avoidanceにあると説くところから話が始まる。画像上の異常所見の強調など医療者の何気ない不適切な発言が、恐怖回避思考・行動を助長し、安易な安静指示も回復に悪影響を与えるとして、患者の腰痛に対するネガティブな思考の一部は医原性であると指摘している。さらに腰痛診療を海外のガイドラインを交えて評価するとともに、松平先生が得意とするさまざまな評価方法についても詳細に解説し、自らが行ってきた日本語訳を巻末に付録としてつけて、後発の研究者の便を図った。
 腰痛の原因の項も面白い順番で書かれている。普通、腰痛の原因に関する記述をする場合、椎間板、椎間関節から始まって馬尾や神経根など局所解剖学的に話をすすめていく。しかし、著者らは内臓由来の特異的腰痛として、大動脈解離から始めて消化器系や泌尿器系、婦人科系の腰痛を扱ったうえで、ようやく整形外科的な話になる。こうした内臓疾患は教科書的には腰痛の鑑別として項目記載で終わることが多いが、子宮筋腫の種類が図示され、妊娠関連骨盤痛が長いコラムとして扱われるなど、読者の弱点を知り尽くした構成になっている。つまり、通常の脊椎外科的知識はすでに十分に備えた専門医に対して、おそらく不確実な知識はここでしょうといわんばかりの内容となっているのである。
 とはいっても、後半はプライマリケアでの対応として、神経学的診察におけるtipsや腰痛患者への基本的な姿勢指導、運動療法が多くの図表とともに記載されていて、きわめて実践的な内容になっている。特に著者らは「これだけ体操」として、手軽に腰痛ケアを行う手法を提唱している。さらに、過去の腰痛研究の文献がきわめて豊富に引用されているのが際立つ特徴である。腰痛の病態や保存的治療をこれから学ぼうとする医師のみならず、理学療法士、トレーナーたちにとっては、たいへん有意義な文献集となっている。
 昨今、腰痛には心理社会的因子が大きく関与していることがわかってきているが、その中でのキーワードはマインドフルネスである。それを認知行動療法の軸としてとらえる著者らの腰痛治療は、一般ではなかなか真似ができない点でもあるが、少なくとも考え方の一端を知り、腰痛の重症化・慢性化を防ぐ方法論を知ることは大切であろう。非医師による医療類似行為を批判することは容易であるが、その隆盛は患者が求める腰痛治療は何なのかを考えるヒントになる。単にX線像を撮影し、物理治療をオーダーして、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を処方することが腰痛診療ではないことは明らかである。本書は、専門医に求められる腰痛診療に関するスペクトラムが実に広範囲にわたっていることを改めて教えてくれる。ここ10年で、手術方法は低侵襲固定術や内視鏡を含めて長足の進歩を遂げてきたが、病態の解釈や保存的治療の方法論もその影で確実に進歩してきたことを実感できる書であり、腰痛診療に携わる医師は一度通読すべき教科書である。

臨床雑誌整形外科69巻4号(2018年4月号)より転載
評者●東京医科歯科大学整形外科教授 大川淳