書籍

抗酸菌検査ガイド2016

編集 : 日本結核病学会 抗酸菌検査法検討委員会
ISBN : 978-4-524-25779-9
発行年月 : 2016年4月
判型 : A4
ページ数 : 122

在庫あり

定価3,456円(本体3,200円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

抗酸菌検査に関わる医師・スタッフのためのガイド。結核菌に加えて、近年患者が増加傾向にある非結核性抗酸菌の検査を実践的に解説。進歩が著しい遺伝子検査、近年ますます重要度を増しているバイオリスク管理など、最新の検査に関する情報についての記述も充実。“抗酸菌検査のいま”を実践的かつコンパクトにまとめた一冊。

【内容目次】
1章.抗酸菌検査概要
2章.用語の定義・略称
3章.抗酸菌検査関連法規
4章.抗酸菌検査のバイオセーフティ(検体収集〜輸送〜検査〜保管〜滅菌・廃棄)
5章.検査材料
6章.抗酸菌塗抹検査
7章.抗酸菌分離培養
8章.抗酸菌の同定
9章.抗酸菌の遺伝子検査
10章.抗酸菌の遺伝子型別解析
11章.薬剤感受性試験
 (1)結核菌
 (2)非結核性抗酸菌
12章.精度保証
索引

序文

 細菌学的検査は結核診療上必須の情報を提供する。その指導書としての「結核菌検査指針」の初版刊行は1950年であり、その後改訂が繰り返されている。2000年には「新結核菌検査指針」が刊行され、液体培養への対応と精度の改善のためNALC-NaOH前処理による集菌法が導入され、それまで標準薬剤感受性試験法であった絶対濃度法が比率法に変更された。2007年には「結核菌検査指針2007」に改訂され、迅速検査体制の構築を念頭にした液体培養の推奨や、精度保証体制の強化のための記述の追加・改訂が行われた。「結核菌検査指針」は検査技術とその裏にある学理、そして臨床との関係を解説する「結核菌検査の基準書」としての役割を長く果たしてきたと考える。
 結核の統計2015によると、日本の新規結核患者は2015年に19,615名が登録されており、罹患率としては15.4(万人対)で、相変わらず中蔓延状態である。1962年の罹患率が403.2であったことを考えれば劇的改善であるが、漸減傾向が続いているものの、最近の減少率は年に2.3%であり、いわゆる低蔓延状態(罹患率10以下)を2020年までに迎えるのは至難の状況である。また罹患状況は地域によって大きく異なり、最も高い大阪府の24.5と最低の長野県の8.1との間には大きな差があり、一般的に大都市ほど罹患率が高い傾向である。過去においては「国民病」として一般に蔓延していた結核も、患者の主体は高齢者あるいは超高齢者にシフトし、同時に若年層では外国人の結核が増加し、輸入感染症的な側面も示されている。国際的な短期標準化学療法の拡大は同時に海外での耐性菌の増加も引き起こしており、外国人結核の問題は無視できない状況となっている。
 結核が減少する一方、非結核性抗酸菌症は増加しているといわれており、その罹患率はすでに結核に匹敵(推定14.7/10万人)するものと考えられている。非結核性抗酸菌は認められているだけでも170種以上存在し、また基本的に環境菌であるため培養分離と病原性が同義でなく、診療に必要な情報も必ずしも揃っていない。限定的な検査情報で臨床対応しなければならないのが現実である。
 近年では塗抹、培養、菌種同定あるいは薬剤感受性の検査領域で様々な進歩が認められる。特に遺伝子を利用した検査法は抗酸菌検査の迅速化や高感度化に寄与するところが大きい。ゲノム情報が比較的簡単に解析可能となった現代では、増加する遺伝子情報を効果的に診療に利用することがさらに重要となっている。さらに現在は過去のいずれの時期にも増してバイオリスク(バイオセーフティおよびバイオセキュリティ)管理が重要となっており、特に生物学的危険度の高い結核菌の取り扱いについては慎重さが求められている。国際的な基準・標準への対応も重要である。
 今回このような背景のもと、従来の「結核菌検査指針」を改訂することとした。目的は旧来の検査技術に関する変更あるいは改良点の更新、新しい検査技術と臨床上の有用性に関する情報の追加、新たな法的環境への対応などである。また、様々な体外診断薬が次々と臨床に導入されつつある過渡期的背景を考慮し、個別の方法の解説よりも基本技術の意味とその臨床的解釈の方向性を示すことに主眼を置き、非結核性抗酸菌も含めた抗酸菌感染症の視点から検査技術と臨床との関係性を解説するものとして従来の「結核菌検査指針」の名を敢えて変更し、書名を「抗酸菌検査ガイド2016」とした。今まで無意識に「結核菌」中心となっていた内容・思考を「抗酸菌」として刷新したつもりである。
 本書の作成にあたっては多くの多忙な先生方にご協力、ご執筆いただいた。ここに深甚なる感謝を申し上げたい。特に2015年5月に他界された斎藤肇先生には生化学同定に関する記述を前版からそのまま使用させていただいた。これは抗酸菌検査の基礎であり、抗酸菌を理解するうえで今後に残していくべきものと考える。別して感謝の意を表したい。今後はますます増加すると思われる技術や情報に対応し、従来よりも短い間隔で定期的に改訂されること、より多くの臨床家や検査技師、研究者の参加によりきめの細かい対応が可能となること、さらにほかの組織・学会との連携によるより広範な(CLSIにも匹敵する)ガイドラインが作成されることを切に希望する。

2016年3月
一般社団法人日本結核病学会抗酸菌検査法検討委員会委員長
御手洗聡

 このたび、待望のわが国の抗酸菌検査の指針である『抗酸菌検査ガイド2016』が内容を一新し、サイズもA4サイズに変更され発刊された。前版以後9年間の抗酸菌検査の進歩が詰まっているが、次々と新技術が開発され、そのため改訂のタイミングを捉えることが難しかったと拝察される。各章とも、新たな知見も多く、日本結核病学会 抗酸菌検査法検討委員会のそれぞれの分野のエキスパートにより執筆されており大変充実した、わかりやすい内容になっている。
 昨今の拡散増幅法の技術革新は著しく、前処理、拡散抽出、増幅、判定まで全自動で操作される機器も登場してきた。一方、塗抹鏡検、培養法などの古典的な検査法にもその検出力を向上させるための技術革新が続けられており、実臨床に最新の知見をup-to-dateすることは重要である。また、感染経路を含む疫学的な検討に欠かせない遺伝子型別解析法の進歩は著しいが、その点についてもわかりやすく解説されている。さらに検査を担当する技師が身を守るために必要な感染対策に関する実践的な知識や個人防護具についての具体的な解説や、バイオセーフティー関連の法規、検査の質を担保するために重要な精度管理についても丁寧に解説されている。また、かつては非定型抗酸菌と呼ばれ、染色性では同じ抗酸菌に分類されながら、人から人への感染性がなく、病原性も低くあまり重要視されなかった非結核性抗酸菌についても多くの頁が割かれている。わが国では呼吸器感染症を中心に症例数が増加しており、罹患率は排菌陽性の結核を凌駕している可能性が示唆されている。昨今の日常臨床では結核菌群より非結核性抗酸菌に遭遇する機会のほうが増え、また新種の発見も相次いでおり、抗酸菌検査においては、結核菌に加えて、非結核性抗酸菌の検査の重要性がますます高まることが予想される。一方、現時点では臨床的には意義のある亜種の同定や薬剤感受性試験など、患者の診断治療に欠かせない技術が一般検査室では実施不可能であること、などわが国の抗酸菌検査の限界も理解される。本書が、本当に臨床に必要な検査の開発の端緒になることを期待したい。
 現在、研究段階の技術がさまざま報告されている。実際にわが国で使用可能な抗酸菌検査法を網羅した本書は微生物検査技師にとっては必携であるが、エキスパートを目指す臨床医や看護師だけでなく、抗酸菌診療に関わる医療者にとっても貴重な解説書である。しかし、いかに検査方法が進歩しても検査の出発点は検体の採取である。本書でも強調されているが、本書を抗酸菌症の臨床や公衆衛生・疫学などに最大限に活かすためには良質な検体の採取が必須であることを忘れないようにしたい。そのためには、医師、臨床検査技師に加えて看護師など、とくに感染症の診療にあたる医療者の理解とますますの連携が重要である。

臨床雑誌内科118巻5号(2016年11月号)より転載
評者●慶應義塾大学病院感染制御センター教授 長谷川直樹