書籍

臨床食道学

編集 : 小澤壯治/木下芳一
ISBN : 978-4-524-25775-1
発行年月 : 2015年7月
判型 : B5
ページ数 : 356

在庫あり

定価12,960円(本体12,000円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

食道疾患診療全体を包括した臨床テキスト。疫学や解剖をはじめとした基礎知識から、診断法、治療方針、内科的治療、手術療法など臨床で求められる実践的な知識まで、最新の内容を各分野のエキスパートが執筆。第一線で活躍する専門医にも役立つ内容となっている。食道疾患診療に携わる消化器外科医、消化器内科医、研修医必携の一冊。

A.食道疾患診断・治療の歴史
B.食道疾患の疫学
 1.良性疾患
 2.癌
C.食道の解剖・組織・発生
D.診断法
 1.食道造影検査
 2.内視鏡検査
 3.超音波内視鏡検査
 4.CT,MRI,PET検査
 5.腫瘍マーカー
 6.食道内圧検査,インピーダンスpH検査
E.各論
 (1)良性疾患
  1.胃食道逆流症(GERD)
   a.診断・治療方針
   b.内科的治療
   c.手術
  2.巨大食道裂孔ヘルニア
  3.食道アカラシア
   a.取扱い規約
   b.手術
   c.POEM
   d.拡張術
  4.食道損傷
  5.食道憩室症
  6.好酸球性食道炎
  7.腐食性食道炎
  8.食道異物
  9.全身疾患に伴う食道病変
 (2)食道癌
  1.病理
  2.リスク因子
  3.治療方針
  4.内視鏡的治療
  5.根治手術
   a.頸部食道癌
   b.胸部食道癌
    (1)開胸
    (2)胸腔鏡
     a)側臥位
     b)腹臥位
    (3)縦隔鏡
   c.食道再建術
    (1)胃
    (2)小腸
    (3)結腸
  6.サルベージ手術
  7.食道バイパス術
  8.食道拡張術,ステント挿入術
  9.術前術後補助化学療法
  10.化学療法
  11.放射線治療
  12.化学放射線療法
  13.チーム医療による食道癌治療
  14.周術期管理と合併症対策
   a.栄養管理
   b.呼吸器合併症
   c.縫合不全・吻合部狭窄
   d.反回神経麻痺
   e.乳び胸
  15.国内外の多施設共同研究の動向
  16.食道がん検診の現状
 (3)食道胃接合部癌
  1.定義,疫学,診断
  2.治療
 (4)Barrett食道,Barrett食道癌
  1.定義,成因
  2.病理
  3.診断法
  4.サーベイランス
  5.治療
   a.内視鏡的治療
   b.手術
 (5)非上皮性腫瘍,特殊型食道癌
F.将来展望
 1.日本の食道学の方向性
 2.「食道癌取扱い規約」改訂に向けて
 3.センチネルノードナビゲーション手術
 4.ロボット支援食道手術
索引

序文

 食道は下咽頭から心、大血管、肺、気管・気管支などの生命維持に重要な臓器のなかを貫通して胃に連続する消化管であり、解剖学的特徴を理解して食道疾患の診療を行う必要があります。一方で、食道疾患は胃食道逆流症を除くと他の消化器疾患に比べて罹患率は低く、実臨床では接する機会が多くありません。悪性と良性を問わず食道疾患の診断法や治療法は日進月歩であり、よりよい診療のためには診療科の枠を超えて幅広い知識と多くの技術が求められます。食道癌、食道アカラシアについては取扱い規約が、食道癌、胃食道逆流症には診断や治療のガイドラインが出版され利用可能ですが、食道疾患の診療について最新の内容を包括的に学べる書籍はありませんでした。そこで、食道疾患診療に関して実践的に学べる成書として「臨床食道学」の企画と編集を担当させていただき、ここに発刊となりました。
 消化器外科医、消化器内科医、研修医を対象として、食道疾患診断・治療の歴史、食道疾患の疫学、食道の解剖・組織・発生、診断法、各論として良性疾患、食道癌、食道胃接合部癌、Barrett食道・Barrett食道癌、非上皮性腫瘍・特殊型食道癌、最後に将来展望の各項目について、それぞれの領域の専門家に執筆をお願いいたしました。特に、診断法では食道内圧検査やインピーダンスpH検査などの新しい検査法、悪性良性疾患を問わず内視鏡的治療法や低侵襲手術を含めた外科的治療法、悪性疾患の集学的治療法など、そして食道胃接合部に関連する重要項目について詳しく解説していただきました。図や表を多用して視覚的に理解しやすい紙面構成にも配慮いたしましたので、本書が日常臨床のお役に立てると期待しております。さらに、食道疾患関連の専門医試験対策や将来の食道学研究の方向性を検討する一助となれば幸いです。

2015年6月
小澤壯治
木下芳一

 わが国の食道学は、食道がんに対する研究を中心として発展してきたといっても過言ではない。国際的にみても卓抜したわが国の食道がんの外科手術成績は、難易度のもっとも高い食道がん手術に心血を注いで挑んできた優秀な消化器外科医の努力の賜物であり、それが内視鏡早期診断ならびに治療や食道がんの分子腫瘍学を育んできたのである。一方欧米では、食道がんの手術の治療成績が芳しくないために、むしろ放射線治療や化学療法が選択されることが多く、食道疾患の研究としては、主に消化器内科医により逆流性食道炎や運動機能障害など良性疾患の病態生理や治療法を中心とした研究が進められ、食道外科は内科治療では対応できない難治例に対する救済治療が主体であった。このような彼我の食道学の伝統の違いが本書にも反映されており、通常型食道がんの治療については、内視鏡治療から始まり、各種外科治療術式、放射線治療、化学療法、術後の合併症にいたるまでもっとも充実した記載がなされている。最近ではむしろ手術件数としては外科手術を凌ぐほどになっている内視鏡治療も、外科を中心とする早期診断・治療の流れのなかで生み出され、外科手術とともに国際的にわが国が最先端に位置している。欲をいえば、明確なリスクファクターである喫煙と飲酒の危険性を一般社会に認知させ、禁煙推進活動など社会全体としての予防指針を示していただきたかった。なぜなら、肝がんや胃がんは一次予防の推進によって死亡者が着実に減少してきており、リスクファクターが明らかにされている食道がんについても、一次予防が疾患を減少させるうえでもっとも有効かつ重要であると考えるからである。
 一方、胃食道接合部がんとBarrett食道がんは、通常型食道がんとは別個に記載されており、前者は部位による定義、後者は食道下端部のBarrett上皮から発生する腺がんとして取り扱われている。しかし、疾患としては重複する場合が多いので、より整理した記載が望ましいように思われる。これらの境界領域のがんを考える基本となるのは、食道胃接合部の定義であり、わが国の食道学者が提唱する柵状血管の下端とするという定義が、国際的にはまだコンセンサスを得るにいたっていないのは残念なことである。本書の食道の解剖・組織・発生の章は教えられる点が多かったが、食道・胃接合部についての記述は少なく、臨床的に論議の多いこの問題について解剖学的見地からの論考を充実させていただければありがたい。また、「Barrett上皮食道・胃接合部から1cm以上の場合に認知する」というのが欧米のガイドラインの一般的な考え方であるが、それより短い、いわゆるultrashort segment Barrett(USSB)からのがん発生の問題が、いわばNicheとして取り残されてしまう。わが国でも増加しつつあるこの領域のがんについての掘り下げた記載が望まれるゆえんである。
 食道良性疾患−とくに胃食道逆流症(GERD)−については欧米では上部消化管疾患のなかでもっとも多く、医療に関わる社会的負担も大きいことから精力的に研究が行われている。わが国でも最近増加傾向にあることから、日本消化器病学会もガイドラインを発刊しているが、まだ欧米の研究には追い付いていない。たとえば欧米ですでに主流となっている高解像度の内圧−インピーダンスとPHモニタリングの複合解析は本書で図示されていない。この方法により、いわゆる“acid pocket”の動態や、upper esophageal sphincterの異常と食道外症状との関連性が明らかにされていることから、検査法の意義などについて深化した解説がほしいところである。
 また、欧米で注目され、わが国でも実態調査が進められている好酸球性食道炎についてはまとまった説明がなされている一方、日常診療でもっとも多いカンジダ食道炎が欠落しているのは残念なところである。重要な研究領域となりつつある食道のmicrobiotaとともに、次回改訂の際にはぜひ取り上げていただきたいと思う。
 このようにいくつかの課題はあるものの、本書はわが国の食道疾患の臨床の地平を包括的に記載した画期的な書物であり、消化器病専門医の必読書としてのみならず、研究者にとっても、今後一層重要性を増すと思われる食道学の研究の方向性を示唆する知的刺激に満ちている。
 本書を編集された小澤壯治、木下芳一教授の多大なご尽力と、優れた論文を寄せていただいた各執筆者の方々の労に厚く感謝するとともに、このたび上梓された本書が、今後改訂を重ね、読み続けられることを強く願うものである。

臨床雑誌内科117巻5号(2016年5月号)より転載
評者●自治医科大学 菅野健太郎

 『臨床食道学』が刊行された。食道外科学でも食道癌学でもなく、食道学である。全体の構成は「A。食道疾患診断・治療の歴史」に始まり、「B。食道疾患の疫学」、「C。食道の解剖・組織・発生」、「D。診断法」、「E。各論」にいたるまで、それぞれの章で食道疾患全体を網羅する流れとなっている。従来の類書が疾患ごとに(疫学・)診断・治療の流れで構成されるのが通常であることからも、本書のタイトルを食道学とした編者の小澤先生、木下先生の食道疾患に対する深い思い入れがうかがわれる。編者らによる序文では、「悪性と良性を問わず食道疾患の診断法や治療法は日進月歩であり、よりよい診療のためには診療科の枠を超えて幅広い知識と多くの技術が求められます」と、本書のねらいが示されている。さらには、「消化器外科医、消化器内科医、研修医」の幅広い読者を想定し、「それぞれの領域の専門家」による執筆がなされている。
 本文は食道疾患診断・治療の歴史から始まる。これまでに食道癌治療の歴史については多く語られているが、食道疾患診断の歴史や食道良性疾患の歴史を記した教科書はほとんどなく、たいへん興味深い。続く疫学の章に関しても、良性疾患の疫学にはあまりなじみがなく、貴重な知識を得ることができる。食道の解剖・組織・発生の章は、多彩なマクロ・ミクロの図でわかりやすく解説がなされている。診断法の章では良性・悪性を問わず食道疾患の診断法が網羅されている。特に食道内圧検査、インピーダンスpH検査について最新の知見が詳細に解説されており、「食道疾患関連の専門医試験対策や将来の食道学研究の方向性を検討する一助となれば」という編者の思いが伝わる。
 各論は、(1)良性疾患、(2)食道癌、(3)食道胃接合部癌、(4)Barrett食道・Barrett食道癌、(5)非上皮性腫瘍・特殊型食道癌の各項で構成される。良性疾患の項では胃食道逆流症(GERD)、巨大食道裂孔ヘルニア、アカラシア、損傷、憩室症、好酸球性食道炎、異物、全身疾患に伴う食道病変と、まさに食道良性疾患のすべてが網羅されている。一方、食道疾患の中でもっとも大きなウエイトを占めるのはもちろん食道癌であるが、食道癌の項の執筆陣にはわが国を代表する食道癌治療専門医が並んでおり、たいへん充実した内容となっている。特に目を引くのは、チーム医療や周術期管理と合併症対策に比較的多くのページが割かれていることであり、臨床現場での疑問や悩みに応える工夫がなされている。近年、その頻度が増加している食道胃接合部癌やBarrett食道癌についての内容も充実している。さらに、まれな疾患である非上皮性腫瘍や特殊型食道癌については、画像と病理像を対比する構成となっており、印象に残りやすくかつわかりやすい。
 最後の章は「F。将来展望」で締めくくられている。日本の食道学の方向性について、日本食道学会前理事長の安藤暢敏先生からのメッセージが示されており、また現理事長の松原久裕先生からは、2015年10月に改訂版が出版された『食道癌取扱い規約(第11版)』における改訂のポイントと今後の改訂の方向性が示されている。一方、最新の技術であるセンチネルノードナビゲーション手術とロボット支援食道手術について、その現状と将来展望が述べられている。
 全体をとおして、図表や典型的な症例の写真が多く盛り込まれており、たいへんわかりやすい記載がなされている。食道外科医、食道疾患を専門とする消化器内科医にとどまらず、これから専門医をめざす若手医師、一般外科医、消化器内視鏡医、腫瘍内科医など、幅広い層の先生方にぜひ読んでいただきたい良書である。

胸部外科69巻2号(2016年2月号)より転載
評者●がん研有明病院消化器外科食道外科部長 渡邊雅之