書籍

胸腔鏡拡大視でみる縦隔解剖と剥離手技

食道癌手術を安全に行うために

: 大杉治司
ISBN : 978-4-524-25495-8
発行年月 : 2016年7月
判型 : B5
ページ数 : 114

在庫品切れ・重版未定

定価9,900円(本体9,000円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

著者がこれまで30年以上にわたり行ってきた胸腔鏡手術と食道外科医の経験をとおして修得した、より安全な食道癌根治術を行うために必要な縦隔の微細解剖を網羅。発生学に基づく解剖と機能から、解剖亜型の対処法について、さらに各部位別にリンパ節門の方向からみた新しい郭清理論と効率的な手順を解説。食道外科医のみでなく呼吸器外科医も必読の手術書。

I 微細解剖を確認するためのアプローチ
 1.適応
 2.患者体位と術者位置
 3.ポート位置とカメラ
 4.モニタの設定
II 微細解剖確認を目的とした手術器具と工夫
 1.手術器具の工夫
 2.エネルギーデバイス
 3.その他の操作
III 手術手順と剥離の注意点
 1.手術手順
 2.術野展開,牽引と剥離の注意点とコツ
 3.手技における禁忌
IV 縦隔解剖の総論
 1.縦隔の層と食道の固定
 2.郭清におけるリンパ節解剖に関する考察
V 手術手技と縦隔解剖
 1.右反回神経周囲リンパ節郭清
  A.縦隔胸膜の切開
  B.右反回神経の同定
  C.右鎖骨下動脈の露出
  D.気管右側軟骨部の露出
  E.右反回神経食道枝の切離
  F.右反回神経周囲リンパ節郭清時の注意点
  G.右反回神経周囲リンパ節の門の方向
 2.上部食道の背側・左側からの剥離
  A.縦隔胸膜の切開
  B.左側胸部交感神経幹の枝の切離と左胸膜の露出
 3.奇静脈弓切離
  A.奇静脈の露出,切離
  B.奇静脈弓切離の注意点
 4.中下部食道の背側からの剥離
  A.下行大動脈の露出
  B.横隔食道靱帯の切離
 5.右気管支動脈切離と大動脈弓部右側の剥離
  A.胸管の切除
  B.右気管支動脈切離
  C.大動脈弓部右側の剥離
  D.大動脈弓内側の剥離
 6.中下部食道の腹側からの剥離
  A.心外膜,左縦隔胸膜からの剥離
  B.右肺間膜の切離と食道腹側・左側の剥離
  C.下大静脈左側の郭清と横隔食道靱帯の完全切離
  D.中下縦隔食道左側のリンパ節の門の方向
  E.食道縦走筋の縦隔固定に関する考察
 7.上部食道の気管からの剥離
  A.右迷走神経食道枝の切離
  B.右食道気管筋束(線維束)の切離
  C.気管膜様部と食道間の切離
 8.左反回神経周囲リンパ節郭清
  A.気管の圧排と気管左側の展開
  B.気管左側の剥離と左反回神経気管前枝の切離
  C.左反回神経の全周剥離と遊離
  D.左迷走神経切離と食道左側の剥離
  E.左反回神経周囲リンパ節の門の方向
 9.気管分岐部リンパ節郭清
  A.右肺門における剥離
  B.リンパ節腹側の剥離
  C.右主気管支左側縁に沿った剥離
  D.気管分岐部直下,左主気管に沿った剥離
  E.気管分岐部リンパ節郭清における注意点
 10.大動脈弓下の郭清
  A.左主気管支左側の露出
  B.大動脈弓下からの剥離
  C.気管分岐部リンパ節,大動脈弓下リンパ節郭清の手順
  D.気管分岐部リンパ節,大動脈弓下リンパ節郭清の門の方向
 11.手術終了前の確認
 12.これまでの解剖の理解により術前に確認しておくべき解剖
附 胸管,乳びに関する考察



 食道癌根治術は最も侵襲の大きな消化器手術である。本邦の食道癌外科治療は世界に冠たる成績で他の追随を許さないが、依然術後在院死亡率は4%近い。この手術を胸腔鏡で行うには高い技術はさることながら、深い解剖の理解が必要である。一方、胸腔鏡手術は、通常開胸ではできなかった方向からの観察が可能で、カメラ近接による拡大視によりこれまで確認できなかった微細解剖を明らかにすることが可能となった。著者は1995年より胸腔鏡食道癌根治術を開始し、当初は侵襲軽減にこだわったが、手技の習熟とともに縦隔の微細解剖が明らかとなり、この解剖に沿った郭清こそが組織破壊の軽減による侵襲低下と郭清効率の向上につながることを提唱してきた。一方、胸腔鏡手術で得られた知見はフィードバックされ、通常開胸手術の質の向上にもつながっている。ロボット支援手術は現時点でまだ普及には至っていないが、現在の鏡視下手術の欠点を補うシステムができれば、近い将来に主流となると思われる。しかし、いずれにせよ手術をコントロールする外科医の解剖理解があってこそ安全で確実な手技が可能となる。
 本書では著者がこれまで約600例の胸腔鏡手術と30数年の食道外科医の経験をとおして修得した、より安全な手術を行うために必要な縦隔の微細解剖、注意を要する解剖亜型とその対策、さらにリンパ節門の向きを考慮した新しい郭清理論を網羅した。本書で述べるところは食道外科医のみならず呼吸器外科医など胸部手術に携わる胸部外科医に資すると思われる。
 安全、確実で論理的な胸部手術を願って本書の執筆にあたった。

東京女子医科大学消化器病センター外科(前大阪市立大学第2外科・心臓血管外科)
大杉治司

 本邦の外科医は食道癌に対して、頸・胸・腹部の3領域リンパ節郭清による根治度の追求と、肺炎、反回神経麻痺をはじめとするさまざまな合併症の克服をめざして努力を積み重ねてきた。食道癌手術の縦隔操作は重要な手技であり、なかでもリンパ節転移の頻度が高く、再発率の高い左右反回神経周囲リンパ節郭清は難易度が高い。従来は開胸のもと、この部位の郭清を慎重に行ってきた。胸腔鏡が導入されて拡大視が可能となり、手術手技が安定してくると、開胸操作と比べて遜色なく、あるいはそれ以上に安全かつ確実に剥離・郭清操作が施行できるようになってきた。
 本邦の食道癌手術にいち早く胸腔鏡を導入し、発展させた第一人者が著者の大杉治司先生である。先生は30年以上食道外科医として手術を行ってこられた。本書は先生の約20年にわたる600例以上の胸腔鏡下食道癌手術の経験に基づいた、縦隔解剖と剥離操作の集大成といえる。まず表紙の胸腔鏡の鮮明な写真が目に飛び込んでくる。思わず次の写真を早くみてみたいという衝動に駆られる。本書の内容は、「I。微細解剖を確認するためのアプローチ」、「II。微細解剖確認を目的とした手術器具と工夫」、「III。手術手順と剥離の注意点」、「IV。縦隔解剖の総論」と、まず食道癌に対して胸腔鏡手術を行う際の全体像がわかりやすく解説してある。引き続いて、「V。手術手技と縦隔解剖」が記載してあるが、各操作の部分に関する解説がポイントを押さえて詳細に記載してあり、その操作に相当する手術写真が矢印を入れた解剖とともに解説されているので、非常に理解しやすい。先生は若手教育にも情熱をもっておられるが、解説文の随所に先生の温かい心遣いを垣間みることができる。写真をみながら解説を読むと、大杉先生が要点を強調する生の声(大杉節)が聞こえてくるかのようである。
 筆者は学会で拝見する大杉先生の手術ビデオで拡大視される縦隔解剖が、芸術のように思えていた。大杉先生の学会発表や講演の際に、強調されていたことをメモしていたが、本書の中にメモ以上のことがたくさん記載され、先生が伝授したいことが、この一冊に凝縮されている。大杉先生曰く、「リンパ節郭清は本のページを捲る操作と同じである。High quality dissectionが重要である」はリンパ節郭清に際して、基本的であると同時に崇高な心構えである。本書は静止画でありながら、ページを捲るとまるでリンパ節郭清を動画でみている感覚になるくらい丁寧に、かつ詳細に述べられている。
 本書は食道癌に対する胸腔鏡手術を極めようとする外科医には必読の書であり、手術のシミュレーションを行う際に毎回手にとって、縦隔解剖と剥離手技を確認することに役立ててほしい書として推薦させていただきたい。

臨床雑誌外科78巻10号(2016年10月号)より転載
評者●鹿児島大学消化器・乳腺甲状腺外科教授 夏越次

 本書は、左側臥位で行う胸腔鏡下食道癌手術の詳細を、多くの術中写真とイラストを用いて解説したものである。解剖学の教科書を読んでもなかなか理解できない詳細が、本書では手にとるように理解できる。これは胸腔鏡拡大視ではじめて確認できる縦隔解剖を、左側臥位という手術体位でどのようにみえるかを、ステップバイステップに解説しているからである。これほど繊細な術中写真を用いた手術書はほかにないであろう。特に著者の大杉先生はリンパ節郭清をきれいに行うことで有名である。そのための術野展開の方法、牽引や剥離のノウハウ、その手順が詳細に記載されている。さらに、リンパ節の門がどちらを向いているかを郭清時に考慮するという新しい理論を導入しているのが興味深い。
 本書は食道外科医に役に立つのはもちろんであるが、呼吸器外科医にとっても必読である。気管分岐下のリンパ節郭清は、食道癌でも肺癌でも基本的に同じである。左反回神経周囲リンパ節や大動脈弓下のリンパ節郭清は、食道癌では右胸腔から行われる。一方、肺癌では左胸腔から行うので、まったく逆である。しかしながら、呼吸器外科医にとって、反対側にはどのような解剖が存在するかを詳細に知っていることはきわめて有用と思われる。
 大杉先生の手術は緻密であるが、きわめてシンプルでもある。その秘訣の一つは、すべての剥離操作をほとんど電気メスで行っていることであろう。エネルギーデバイスは挾んで切離する操作が必要であるが、電気メスを用いると剥離と切離をより繊細に行うことができる。この電気メスの極意が、拡大視された縦隔解剖にうってつけなのであろう。大杉先生は、電気メスのフットスイッチを使って、ほとんどの時間は片足で体を支えながら手術をすすめていると聞いた。こればかりは、なかなか真似ができそうにない。

胸部外科70巻3号(2017年3月号)より転載
評者●京都大学呼吸器外科教授 伊達洋至

9784524254958