書籍

リクツがわからずに診療していませんか?臨床力をアップさせる循環器のギモン31

: 古川哲史
ISBN : 978-4-524-25444-6
発行年月 : 2016年10月
判型 : A5
ページ数 : 204

在庫あり

定価3,996円(本体3,700円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

臨床医から基礎医学の研究に転じた著者により、循環器領域の最新の診療に関する31個の疑問を基礎の視点から紐解いた一冊。各疑問に対して結論や根拠、臨床での捉え方・活かし方まで丁寧に解説されており、「なるほど!」とリクツを理解でき、かつ臨床力アップの手助けとなる内容となっている。循環器医はもちろん、一般内科医や研修医にもオススメである。

1 新しいカテーテルアブレーション技術−心筋細胞だけを選択的に死滅させる!?
2 孔にヒミツが.−心不全で肺水腫が起こる本当のメカニズム
3 いったい何か?カルペリチドの心保護作用
4 意味はあるの?−減塩食の隠し味!
5 HDLコレステロールはすべてが善玉というわけではない
6 HDLが機能不全となる理由
7 MI beget MI−心筋梗塞が心筋梗塞を引き起こす
8 思いがけないお酒と心筋梗塞の関係
9 QT延長症候群が特定の状況で発作を起こしやすい理由
10 着るだけで心電図が取れるTシャツ
11 血液型が血栓症(心筋梗塞,脳梗塞など)のリスク!
12 血管内皮でつくられたNOの輸送を制御するヘモグロビン
13 血小板血栓とフィブリン血栓
14 コレステロール合成の脇道がもたらすスタチンの抗酸化作用と横紋筋融解症
15 高齢出産に伴う先天性心疾患リスクを減少させる女性のエクササイズ
16 再生しないと思われていた心筋細胞も一定の割合で再生する
17 循環器医の必需品ループ利尿薬がダウン症候群の認知障害に有効
18 CRTが有効な理由
19 CRTを利用した心疾患の「脱感作療法」
20 心不全のβブロッカーはなぜカルベジロール?
21 心房細動は脊椎動物が陸上化することで生じた不整脈
22 スタチンの次のブロックバスター候補,PCSK9介入薬
23 ストレスと心筋梗塞の興味深い関係−ICU勤務・W杯観戦も心筋梗塞発症リスク
24 大規模臨床試験・EBMの草分けCASTスタディ−心筋梗塞後の心室期外収縮
25 トルバプタンが低ナトリウム血症を起こさない理由
26 内因性血栓除去機構「angiophagy」−加齢で血栓症が増加する基盤
27 肉食と心血管病リスクの関係は腸内細菌が鍵!
28 妊娠中の過度のダイエットは「NO!」
29 「不整脈を起こす薬」イソプロテレノールがブルガダ症候群で抗不整脈作用を示す理由
30 まだ見ぬわが子のために新郎は食事に注意!
31 ワルファリン服用者は納豆が食べられないのはなぜ?
索引

序文

 人にはすごく物覚えのいい人とそうでない人がいます。学生時代、女子学生の電話番号をあっという間に覚えてしまった、なんていう猛者もいましたが、きっとphotographic memoryがすごかったのでしょう。筆者はというと、学生時代、試験前は覚えられなくてヒーヒーいっていた口で、最近ではコンピューターのセットアップのときにIP アドレスなどをいちいち見ないといけないので、つくづく記憶力のなさを痛感しています。ただ無抵抗に試験に落ちるわけにもいかないので、記憶しなくてはならないときは何か関係するものと結び付けたり、どうしてそうなるのかを理解したり、必死の悪あがきをして覚えていました。最近知ったのですが、脳科学ではこれは右脳を使って記憶しているということになり、理にかなった記憶方法らしいです。
 循環器の臨床でも、やっぱり記憶はダメですぐに忘れてしまいます。学生時代の成功(非失敗)体験に基づいて、また何かと結び付けたり、そのメカニズムを理解して記憶するようにしています。すると、「なるほどそうなっているのか」と無味乾燥になりがちな臨床が興味深く、楽しく、カラフルになります。そうはいっても、最近の基礎研究の進歩は目を見張るものがあり、多忙な臨床の先生方にはなかなかこれらをフォローする時間をとることが困難かもしれません。そこで、このようなワクワクした気持ちを皆さんにも共有していただきたいとの思いから、特に面白く、また知っておくと臨床にも役に立つと思われる循環器基礎研究の話題を集めて一冊の本にしました。日常臨床にすぐに役に立つことはないかもしれません。でも、きっと患者さまや病気を今までとは違った視点から眺めることができるようになるのではないでしょうか?本書が皆様の臨床を豊かなものにする一助となれば、この上ない望外の喜びです。

2016年10月
古川哲史

 循環器の日常臨床を行ううえで、理由はよくわからないけれども何となく常識とされているものが多々存在する。なぜだろうと思うことはあっても、面倒くさかったり、調べる方法がわからなかったり、多くの人がそれを認めているからきっと正しいのだろうと思って、そのままにしていることがほとんどではないだろうか。
 たとえば、LDL-コレステロールは悪玉、HDL-コレステロールは善玉とされている。確かにこれまでの多くの臨床研究でLDL-コレステロールを低下させると心血管イベントは劇的に減少した。一方、善玉とされるHDL-コレステロールのほうは、本当にこれは善玉なのだろうか? これまではHDL-コレステロールを効果的に上昇させる薬剤はなかったが、最近CETP(cholesterol ester transfer protein)阻害薬という薬剤が開発され、HDL-コレステロールを大幅に増加させることができるようになった。これを用いると臨床的に心血管イベントが減少することが予測されたわけだが、結果はその逆で心血管イベントを結果的に増加させてしまった。このような現象が報告されて初めて従来信じられてきた循環器の常識が本当は必ずしも真実ではないことが明らかになるわけである。また、こうした日常臨床での疑問をそのままにしていると、浅い理解のままで患者さんたちを治療することになり、上述のような問題が生じたり、解決できない問題が起こってきたときにも対処のしようがないのが現実であろう。
 著者の古川哲史教授は東京医科歯科大学で循環器内科の臨床を十分行った後に、臨床不整脈や心筋細胞のイオンチャネルの電気生理学的解析、分子生物学的解析の領域で世界の最先端の研究を展開されてこられた第一人者の先生である。こうしたことから、循環器の日常臨床を熟知したうえで、その背景にあるさまざまな現象を分子の目で観察することができる素晴らしい先生である。古川先生は世界の最先端の研究を進める傍ら、若手医師たち向けの心電図の教科書や臨床に役立つ不整脈、循環薬理学、分子生物学の書籍を数多く出版されてこられた。本書はこの一連の流れの書籍の一つであり、臨床力をアップさせるための循環器領域の日常臨床のなかの疑問を詳細に解説してくれたものである。この書籍を読むと「ああ、そうだったのか」とか「へえ、こういう風に理解するとよくわかるね」というものばかりである。本書を読み終えたときには循環器の臨床をより深く知ることができるであろう。筆者は古川教授の古くからの友人であり、先生を知るものの1人としてこの書のもつ意味、先生ならではの発想をよく理解している。循環器を専門としている方々、あるいはこれから循環器を勉強しようと思っている方々にぜひこの書をお読みいただき、より一層臨床力をアップしていただきたいと祈念している。

臨床雑誌内科119巻4号(2017年4月増大号)より転載
評者●慶應義塾大学循環器内科教授 福田恵一