書籍

ようこそ緩和ケアの森

オピオイドの使い方

シリーズ監修 : 森田達也
シリーズ編集 : 柏木秀行
: 中山隆弘/名越康晴/平塚裕介
ISBN : 978-4-524-23275-8
発行年月 : 2023年7月
判型 : A5
ページ数 : 192

在庫あり

定価2,750円(本体2,500円 + 税)


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ようこそ緩和ケアの森 出版記念対談

著者からのメッセージ

  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

緩和ケアという森にはさまざまな木(テーマ)が生えている.そんな森に足を踏み入れようとしているあなたに,初心者時代の記憶新しい著者らが記す,<緩和ケアの“超入門書”シリーズ>!!
本巻ではオピオイドの基本から使い方を嚙み砕いて解説.使用の手順・考え方,副作用マネジメント,困ったときの対応,他職種との連携を軸に記し,一見とっつきにくいオピオイドがより身近に感じられる.

第1章 オピオイド,まずこれだけは
 1. 概要と使い分け
 
第2章 実際に使ってみよう
 1. オピオイドを始めるとき
 2. 内服できなくなったとき
 3. オピオイドスイッチング
 4. どうする? 突出痛
 
第3章 どうする? 副作用
 1. 眠気・せん妄への対応
 2. 悪心・嘔吐への対応
 3. がんこな便秘への対応
 4. マイナーなオピオイドの副作用対策
 
第4章 こんなとき,どうする?
 1. 救急室・初療室でのとりあえずの対応
 2. 痛みが治まらないとき
 
第5章 心強い連携
 1. こんなときは薬剤師に相談しよう!
 2. 看護師と一緒に取り組むべきこと

シリーズ監修にあたって
〜緩和ケアの森をのぞいてみませんか?〜


 「緩和ケア」という森にはいろんな木が生えている.すでに大木となったケヤキは「痛み」とか「オピオイド」だろうか─どこからどのように話を聞いていっても,知らない幹,知らない枝が目の前に展開されていく.一方で,カエデやツバキのように,大木というわけではないが,季節や時間によって見える姿を変える木々もある─緩和ケアでは呼吸困難や消化器症状であろうか.働いている環境や経験年数によって,見える木々の種類も違ってくる.
 森全体を見て,ああ照葉樹林だね,里山って感じだね〜〜,この辺は針葉樹だねえ,神秘的だねえ…そのような見方もいいが,一本一本の木をもっとよく見たいという人も多いに違いない.本シリーズは,最近にしては珍しく緩和ケアの森まとめて1冊ではなく,領域ごとに木の1つひとつを見ることのできるようにデザインされた著作群である.教科書やマニュアルでは,他の領域との兼ね合いでそれほど分量を割くことのできない1つひとつの話題を丁寧に追っていくことで,緩和ケアという森に生えている「いま気になっている木」「いつも気になっている木」から分け入っていくことができる.
 本シリーズにはいくつかの特徴がある.
 1つめは,対象疾患をがんに限らないようにしたことである.本シリーズの読者対象を,がん緩和をどっぷりやっている臨床家よりは,比較的経験の少ない─つまりはいろいろな患者層を診る日常を送っている臨床家としたためである.がん患者だけを診るわけではない臨床を想定して,がん/非がんの区別なく使用できる緩和ケアの本を目指した.
 2つめは,執筆陣を若手中心に揃えたことである. 編集の柏木秀行先生が中心となり,さらに若手の医師たちが執筆の中心を担った.これによって,ベテランになったら「そんなこと悩んでたかな?」ということ─しかし最初に目の当たりにしたときには「あれ,これどうするんだろう??!!」とたしかに立ち止まったところを,現実感をもって記述できていると思う.
 3つめは,症状緩和のみならず,治療に伴う患者・家族とのコミュニケーション,多職種とのコミュニケーションに比較的多くのページが割かれていることである.これは,「するべき治療はわかっても,それをリアルにどう展開するかで悩む」若手医師を念頭に置いた結果である.同じ趣旨で,多くのパートで「ちょっとつまずいたこと」「ひやっとしたこと」も生々しく記載されている.臨床経験が多いと10年したら「あ〜〜それ,あるある」ということであっても,経験初期であらかじめ知っておくことで,落ちなくていい落とし穴にはまらずに済むことができる.
 つまり本シリーズは,@がんだけでなく非がんも,A若手中心の執筆陣により,B治療の選択だけでなく周辺の対応のしかたを含めて,緩和ケア全体ではなく1つひとつのトピックで展開してみた著作群ということになる.監修だけしていても面白くないので,各巻で,筆者もところどころに「合いの手」を入れさせてもらっている.ちょっとしたスパイスに,箸休めに楽しく読んでもらえればと思う.
 本シリーズが,緩和ケアという森に足を踏み入れる読者のささやかな道案内役になれば幸いである.

 2023年6月
 森田 達也

シリーズ編集にあたって
〜緩和ケアの森の歩き方〜


 巷に増えてきた緩和ケアの本とは,一線を画すユニークな企画にしたい! この想いをぎゅっと込めて,気心の知れた仲間たちと作ったのがこの「〈ようこそ 緩和ケアの森〉シリーズ」です.あまり整備されていない森を歩いてみると,まっすぐに進むことの難しさがわかります.まっすぐ進もうにも,足元に気をつけながら,木枝を避けて進んでいる間に方向感覚も失ってしまいます.本当にこちらに進んでいって大丈夫なのだろうか? そのような状況には恐怖すら覚えますよね.
 今や世の中の多くの方が,人工知能を中心としたテクノロジーの凄まじさを体感する時代です.診療の多くはフローチャートやアルゴリズムに落とし込まれ,緩和ケア領域においても勉強しやすく,特に初学者にとっては良い環境になりました.一方,緩和ケアのリアルワールドでは,必ずしもそれだけでは太刀打ちできないこともしばしば生じます.やはり「知っている」と「できる」にはそれなりの差があるのだと思います.「できる」までの過程は,森の中を手探りで進む感覚にも近く,進んでいることすらわからなくなってしまいます.
 では,「知っている」と「できる」の間にあるギャップを埋めるためには何が必要なのでしょう? 一言で言うと, 経験なのかもしれません.経験を積み重ねればいつか「できる」ようになるよというアドバイス….まあ,長く臨床を経験すれば,できることは増えていくのでしょうけど.この経験,もうちょっと言語化してみようと思います.
 経験=投入時間×試行回数×気づき効率
 これが臨床家としてしばしば言われる「経験」を,私なりに言語化したものとなります.「これだから最近の若者は…」なんて言葉も聞こえてきそうですけど,Z世代とは程遠い私だってコスパは大事です.そうなると,試行回数と,そこから学ぶ(気づく)効率をいかに最大化できるかが大切になります.
 この観点で言うと,本シリーズは初学者から一歩足を踏み出そうとしている方にとって,この試行と気づきを最大化させる本なのです.先輩方がまさしく同じように「脱・初心者!」ともがいていたあの頃,いろいろ試行し,時に失敗し,学んできたエッセンスを惜しみなく披露してくれています.そしてそこに,森田達也先生の監修が加わり,森で迷っているときに出会った,木漏れ日のようなコメントが心を癒してくれます.ぜひ,緩和ケアの森で遭難することなく,執筆陣の過去の遠回りを脇目に楽しみながら,あなたにしかできない緩和ケアを実践していってください.

 2023年6月
 柏木 秀行

はじめに

 「オピオイドの使い方」については,緩和ケア領域に限らず,多くの本が出版されています.そこで本書は,オピオイドをどの疾患に対しても使えるように,なるべく平易に,若手目線でまとめてみました.筆者3名はそれぞれバックグラウンドが異なることから,バランスのとれた内容となり,ほんの数年前まで後期研修医だったことからも,若手の「困った」に則した内容になっていると思います.
 全国の多くの医師が受講することとなる,PEACEプロジェクトの緩和ケア研修会よりは深く学べる内容にしつつも,決して難しすぎず,緩和ケアの専門家の「考え方」をまとめてあります.また,私たち緩和ケア医が大切にしている多職種との連携・コミュニケーションの部分も記載に盛り込みました.オピオイドを通して,緩和ケア医がどのように多職種チームと関わっているかの一端が覗けるかと思います.
 本書を刊行するまでにご助力いただいた方々,とくに制作過程でご意見をくださった,少し先輩の柏木秀行先生,大先輩の森田達也先生,また筆者らを粘り強く支えてくれた南江堂の方々に心より感謝申し上げます.
 最後に,緩和ケアに携わる多くの医療者に本書を手に取っていただき,患者さんとご家族が苦痛から解放される一助として,本書が役立てば大変うれしく思います.

 2023年6月
 執筆者一同

オピオイドの使い方に「慣れていない方」にも「ちょっと自信がある方」にもお勧めの一冊

 オピオイドはさまざまな臨床現場でよく使用されている薬剤である.しかし,どのオピオイドをどのように使えばよいかよくわからない方,副作用のマネジメントに不安を感じながら使用している方,患者さんやご家族への説明がうまくできないと感じている方,よく使用しているもののオピオイドの知識が曖昧だと感じている方,も多いであろう.本書は,このような方々には紛れもなくお勧めの一冊である.そして,オピオイドの使用には少し自信があるものの,実はきちんと勉強したことがない方にとっても,実践で役立つ知識が散りばめられている一冊であり,ぜひとも読んでいただきたい.
 本書では,オピオイドの使い方に関連した内容に特化して解説されている.オピオイドの概要や使い分けなどの「これだけは」という基本的な知識から始まり,実際に使用するにあたっての具体的な方法や注意点,副作用への対策,迷ったときの対応法,多職種連携,といった内容で構成されている.オピオイドを使用する際に重要なことについて,抜けがなく,またわかりやすく,臨床現場での実践に即して記載されており,本書を一通り読み終えると,オピオイドの使い方がよくわかり,読者の実践に直結するであろう.初心者のつまづきやすいポイントが各項の初めにまとめて記載されており,まずはどういったことが重要なのかをしっかりと意識することができる.また,著者らの経験に基づいた実臨床での考え方や工夫,そして失敗談が本文の内容を補うように記載されており,小生も経験したような事例も紹介されている.こうした実臨床におけるちょっとした考え方や工夫は成書ではなかなか学びにくいことであるし,実際の失敗談は成功談以上に役立つものである.本書は,読者を飽きさせない構成で,かつ全体的に簡潔にまとまったわかりやすい解説がなされており,さらっと通読できる.また,疑問や不安が生じたときに,気になる箇所をあらためて確認することにも適している.
 また,シリーズ監修の森田達也先生による“合いの手”には,昔のことや豆知識,注意点が記載されており,若手と自称(?)する著者らの記載内容をうまく補完する形で絶妙なバランスとなっている.一度通読した後は,この合いの手を拾い読みしていくのもおもしろいかもしれない.そして,紙面に登場するウサギ,フクロウなどの動物たちにも癒されながら,その表情やしぐさに注目するのも楽しみ方の一つだと思う(個人的には,リスかウサギか迷うイラストがあり,どちらなのか気になっている……).
 本書は,可愛らしいカバーデザインと動物たちの姿,丁寧な言葉づかいについ油断しそうになるが,「オピオイドがこわくなくなる」内容が詰まった良書である.

臨床雑誌内科133巻4号(2024年4月号)より転載
評者●松本禎久(がん研究会有明病院緩和治療科 部長)

9784524232758