書籍

ようこそ緩和ケアの森

がん・非がん患者の呼吸器症状を診る

シリーズ監修 : 森田達也
シリーズ編集 : 柏木秀行
: 官澤洋平/松田能宣/吉松由貴
ISBN : 978-4-524-23274-1
発行年月 : 2023年7月
判型 : A5
ページ数 : 160

在庫あり

定価2,750円(本体2,500円 + 税)


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ようこそ緩和ケアの森 出版記念対談

著者からのメッセージ

  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

緩和ケアという森にはさまざまな木(テーマ)が生えている.そんな森に足を踏み入れようとしているあなたに,初心者時代の記憶新しい著者らが記す,<緩和ケアの“超入門書”シリーズ>!!
本巻では呼吸困難への対応を主軸に,各呼吸器疾患の症状緩和までを取り上げた.専門の異なる執筆陣により多角的アプローチを図り,呼吸器症状マネジメントの最適解についてプラクティカルな内容満載で伝える.

第1章 呼吸困難総論
 1.呼吸困難の疫学と機序
 2.呼吸困難の評価
 
第2章 治療モダリティを理解する
A.呼吸管理
 1.酸素療法・NPPV・HFNC
B.薬物療法
 1.オピオイド
 2.ベンゾジアゼピン系薬
 3.ステロイド
C.非薬物療法
 1.リハビリテーション
 2.心理療法
 3.その他の非薬物療法と日常の工夫
D.胸水に対する治療
 1.胸水穿刺・胸膜癒着術
  
第3章 病態に応じた症状緩和
 1.がん患者の呼吸器症状
 2.心不全の呼吸器症状
 3.COPDの呼吸器症状
 4.間質性肺疾患の呼吸器症状
 5.誤嚥性肺炎を繰り返す高齢者の症状緩和

シリーズ監修にあたって
〜緩和ケアの森をのぞいてみませんか?〜


 「緩和ケア」という森にはいろんな木が生えている.すでに大木となったケヤキは「痛み」とか「オピオイド」だろうか─どこからどのように話を聞いていっても,知らない幹,知らない枝が目の前に展開されていく.一方で,カエデやツバキのように,大木というわけではないが,季節や時間によって見える姿を変える木々もある─緩和ケアでは呼吸困難や消化器症状であろうか.働いている環境や経験年数によって,見える木々の種類も違ってくる.
 森全体を見て,ああ照葉樹林だね,里山って感じだね〜〜,この辺は針葉樹だねえ,神秘的だねえ…そのような見方もいいが,一本一本の木をもっとよく見たいという人も多いに違いない.本シリーズは,最近にしては珍しく緩和ケアの森まとめて1冊ではなく,領域ごとに木の1つひとつを見ることのできるようにデザインされた著作群である.教科書やマニュアルでは,他の領域との兼ね合いでそれほど分量を割くことのできない1つひとつの話題を丁寧に追っていくことで,緩和ケアという森に生えている「いま気になっている木」「いつも気になっている木」から分け入っていくことができる.
 本シリーズにはいくつかの特徴がある.
 1つめは,対象疾患をがんに限らないようにしたことである.本シリーズの読者対象を,がん緩和をどっぷりやっている臨床家よりは,比較的経験の少ない─つまりはいろいろな患者層を診る日常を送っている臨床家としたためである.がん患者だけを診るわけではない臨床を想定して,がん/非がんの区別なく使用できる緩和ケアの本を目指した.
 2つめは,執筆陣を若手中心に揃えたことである. 編集の柏木秀行先生が中心となり,さらに若手の医師たちが執筆の中心を担った.これによって,ベテランになったら「そんなこと悩んでたかな?」ということ─しかし最初に目の当たりにしたときには「あれ,これどうするんだろう??!!」とたしかに立ち止まったところを,現実感をもって記述できていると思う.
 3つめは,症状緩和のみならず,治療に伴う患者・家族とのコミュニケーション,多職種とのコミュニケーションに比較的多くのページが割かれていることである.これは,「するべき治療はわかっても,それをリアルにどう展開するかで悩む」若手医師を念頭に置いた結果である.同じ趣旨で,多くのパートで「ちょっとつまずいたこと」「ひやっとしたこと」も生々しく記載されている.臨床経験が多いと10年したら「あ〜〜それ,あるある」ということであっても,経験初期であらかじめ知っておくことで,落ちなくていい落とし穴にはまらずに済むことができる.
 つまり本シリーズは,@がんだけでなく非がんも,A若手中心の執筆陣により,B治療の選択だけでなく周辺の対応のしかたを含めて,緩和ケア全体ではなく1つひとつのトピックで展開してみた著作群ということになる.監修だけしていても面白くないので,各巻で,筆者もところどころに「合いの手」を入れさせてもらっている.ちょっとしたスパイスに,箸休めに楽しく読んでもらえればと思う.
 本シリーズが,緩和ケアという森に足を踏み入れる読者のささやかな道案内役になれば幸いである.

 2023年6月
 森田 達也

シリーズ編集にあたって
〜緩和ケアの森の歩き方〜


 巷に増えてきた緩和ケアの本とは,一線を画すユニークな企画にしたい! この想いをぎゅっと込めて,気心の知れた仲間たちと作ったのがこの「〈ようこそ 緩和ケアの森〉シリーズ」です.あまり整備されていない森を歩いてみると,まっすぐに進むことの難しさがわかります.まっすぐ進もうにも,足元に気をつけながら,木枝を避けて進んでいる間に方向感覚も失ってしまいます.本当にこちらに進んでいって大丈夫なのだろうか? そのような状況には恐怖すら覚えますよね.
 今や世の中の多くの方が,人工知能を中心としたテクノロジーの凄まじさを体感する時代です.診療の多くはフローチャートやアルゴリズムに落とし込まれ,緩和ケア領域においても勉強しやすく,特に初学者にとっては良い環境になりました.一方,緩和ケアのリアルワールドでは,必ずしもそれだけでは太刀打ちできないこともしばしば生じます.やはり「知っている」と「できる」にはそれなりの差があるのだと思います.「できる」までの過程は,森の中を手探りで進む感覚にも近く,進んでいることすらわからなくなってしまいます.
 では,「知っている」と「できる」の間にあるギャップを埋めるためには何が必要なのでしょう? 一言で言うと, 経験なのかもしれません.経験を積み重ねればいつか「できる」ようになるよというアドバイス….まあ,長く臨床を経験すれば,できることは増えていくのでしょうけど.この経験,もうちょっと言語化してみようと思います.
 経験=投入時間×試行回数×気づき効率
 これが臨床家としてしばしば言われる「経験」を,私なりに言語化したものとなります.「これだから最近の若者は…」なんて言葉も聞こえてきそうですけど,Z世代とは程遠い私だってコスパは大事です.そうなると,試行回数と,そこから学ぶ(気づく)効率をいかに最大化できるかが大切になります.
 この観点で言うと,本シリーズは初学者から一歩足を踏み出そうとしている方にとって,この試行と気づきを最大化させる本なのです.先輩方がまさしく同じように「脱・初心者!」ともがいていたあの頃,いろいろ試行し,時に失敗し,学んできたエッセンスを惜しみなく披露してくれています.そしてそこに,森田達也先生の監修が加わり,森で迷っているときに出会った,木漏れ日のようなコメントが心を癒してくれます.ぜひ,緩和ケアの森で遭難することなく,執筆陣の過去の遠回りを脇目に楽しみながら,あなたにしかできない緩和ケアを実践していってください.

 2023年6月
 柏木 秀行

はじめに

 〈ようこそ緩和ケアの森〉シリーズの一冊である本書を手にとっていただき,ありがとうございます.本書は呼吸器症状の緩和をテーマに,得意分野の異なる3人の医師で執筆いたしました.
 呼吸困難,咳嗽などの呼吸器症状は緩和が難しく,筆者ら自身も対応に悩まされてきた症状の1つです.また患者さんはもちろん,ご家族を含めたケアに当たる方々にとっても,つらい症状の代表格でしょう.
 本書ではそんな呼吸器症状について,呼吸困難の疫学や機序などの総論から,NPPVなどの呼吸管理・オピオイドなどの薬物療法・心理療法などの非薬物療法も含めた各種治療モダリティ,心不全や誤嚥性肺炎などの非がん疾患への対応まで幅広く取り上げ解説しました.
 加えて,筆者らが実際に臨床の場で経験したエピソードを,失敗談も含め各種コラムとして多数盛り込みました.さらに,その経験を通じて学んだことや現場で行っている工夫・コツなども,具体例をあげて種々掲載しています.どれも実体験に基づいており,初学者の方にもイメージしやすい内容かと思いますので,疑似体験をしながら読み進めていただけると嬉しいです.
 原稿作成においてシリーズ監修の森田達也先生,同編集の柏木秀行先生からいただいたご意見は大変参考になり,筆者ら自身も今回の執筆を通じ,呼吸器症状の緩和ケアについて学び直す良い機会を得られたと思います.この場を借りて深謝申し上げます.
 また,執筆を支えてくださった南江堂 橋有紀さん,鎌田裕実さん,矢ア純子さん,素敵な一冊にしていただきありがとうございました.
 本書が読者の皆さんにとって,目の前の患者さんの呼吸器症状と向き合う一助となれば幸いです.

 2023年6月
 執筆者一同

森の精霊の声に耳を傾ければ,医者ガチャの沼へ落ちずに済むであろう

 緩和ケアに関心をもつ若手に向けた“超入門書”シリーズと銘打った「ようこそ緩和ケアの森」の一書目として,本書ではがん・非がんを問わず終末期の患者で高頻度に認められる「呼吸器症状」という“木”についての学びを深めることができる.
 呼吸困難を生じる病態の概説や各種評価ツールの活用法,オピオイドやステロイドなどの代表的な治療薬の使用法について,重すぎず,軽すぎず,わかりやすい形でまとめられている.各項目の最後にある文献にも,文献ごとに1行でその概要を示してくれているあたりに,シリーズ監修者・編集者らの緩和ケア医らしい気配りが感じられる.本書で徹底されているのは「実際の医療現場で役立つノウハウを惜しみなく与える」という姿勢である.世の中には呼吸不全に関する医学的エビデンスを概説したガイドラインや手引きは数多あれど,「酸素投与は当然」と考えられる患者への対処において,酸素療法に伴う苦痛や非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)の外し方にまで考察を深めた指南書があったであろうか? 酸素療法の重要性は認めつつも,(とくに終末期の)患者に対して穏やかな療養生活を提供するために,メリットとデメリットを吟味すれば,時には酸素以上に優先すべきことがあると教えてくれる.
 当シリーズの価値を上げている要素として,随所に散りばめられた秀逸なコラムがあげられる.古くから森を護ってきた柏“木”先生ら精霊のささやきが,「私のプラクティス」「私の失敗談」「さらにレベルアップしたい人のために」などの形で綴られており,きわめて実用的なノウハウを労せずして学ぶことができる(シリーズ監修を務める聖隷(聖霊?)三方原病院の“森”田先生からの老婆心「Dr森田より」もありがたい).さらに若手の読者にとっては,チーム医療の一員として成長するために「これをやったらこの職種に叱られる!」「初心者の処世術」も必読である.とかくベテランになると自身の医療スキルに慢心しがちで,評者が緩和ケアチームで相談を受けた際などにも「誰のための医療なのか」わからない状況に出くわすことがある.その多くに共通するのは,患者優先で考えるスタッフの意見に耳を貸さない独りよがりな主治医の存在であり,今風にいえば“医者ガチャ”の外れで周囲が苦労している.
 呼吸器内科医歴30年弱の評者にも新たな気づきをいくつも与えてくれた本書は,質の高い緩和ケアの実践を志す若手はもちろんのこと,すでに“医者ガチャ”の沼にハマリ込んでしまったベテランにも救いの手を差し伸べるであろう.若手もベテランも本書を手に携えつつ,“緩和ケアの森”を存分に探索していただきたい.

臨床雑誌内科133巻4号(2024年4月号)より転載
評者●井上 彰(東北大学大学院医学系研究科緩和医療学分野 教授)

9784524232741