書籍

ようこそ緩和ケアの森

がん・非がん患者の消化器症状を診る

シリーズ監修 : 森田達也
シリーズ編集 : 柏木秀行
: 橋本法修/結束貴臣/鳥崎哲平/柏木秀行
ISBN : 978-4-524-23273-4
発行年月 : 2023年7月
判型 : A5
ページ数 : 168

在庫あり

定価2,750円(本体2,500円 + 税)


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ようこそ緩和ケアの森 出版記念対談

著者からのメッセージ

正誤表

  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

緩和ケアという森にはさまざまな木(テーマ)が生えている.そんな森に足を踏み入れようとしているあなたに,初心者時代の記憶新しい著者らが記す,<緩和ケアの“超入門書”シリーズ>!!
本巻では消化器症状の緩和ケアをがん/非がん問わず解説.悪心・嘔吐や腹水,消化管閉塞への対応を知り,食欲不振,便秘など「“食べる”から“出す”まで」にまつわる諸問題に対して患者と家族に寄り添い,支えるための一冊.

1-a. がんに限らない悪心・嘔吐
1-b. がん患者の悪心・嘔吐
2. 便秘
3. 下痢
4. 腹部膨満・腹水
 Column 腹水を自宅でコントロールしたい場合のデンバーシャント造設術
 ex. 肝腫大をきたすときにはすでに! 神経内分泌腫瘍の怖さ!
5. 消化管閉塞(イレウス)
 ex. ストーマに坐薬は入れちゃダメ? ストーマのある患者への対応
 Column あなたは慢性偽性腸閉塞(chronic intestinal pseudoobstruction:CIPO)を知っていますか?
6-a. 食事摂取量低下
6-b. 悪液質による食欲不振
7. 終末期の患者への輸液と栄養

シリーズ監修にあたって
〜緩和ケアの森をのぞいてみませんか?〜


 「緩和ケア」という森にはいろんな木が生えている.すでに大木となったケヤキは「痛み」とか「オピオイド」だろうか─どこからどのように話を聞いていっても,知らない幹,知らない枝が目の前に展開されていく.一方で,カエデやツバキのように,大木というわけではないが,季節や時間によって見える姿を変える木々もある─緩和ケアでは呼吸困難や消化器症状であろうか.働いている環境や経験年数によって,見える木々の種類も違ってくる.
 森全体を見て,ああ照葉樹林だね,里山って感じだね〜〜,この辺は針葉樹だねえ,神秘的だねえ…そのような見方もいいが,一本一本の木をもっとよく見たいという人も多いに違いない.本シリーズは,最近にしては珍しく緩和ケアの森まとめて1冊ではなく,領域ごとに木の1つひとつを見ることのできるようにデザインされた著作群である.教科書やマニュアルでは,他の領域との兼ね合いでそれほど分量を割くことのできない1つひとつの話題を丁寧に追っていくことで,緩和ケアという森に生えている「いま気になっている木」「いつも気になっている木」から分け入っていくことができる.
 本シリーズにはいくつかの特徴がある.
 1つめは,対象疾患をがんに限らないようにしたことである.本シリーズの読者対象を,がん緩和をどっぷりやっている臨床家よりは,比較的経験の少ない─つまりはいろいろな患者層を診る日常を送っている臨床家としたためである.がん患者だけを診るわけではない臨床を想定して,がん/非がんの区別なく使用できる緩和ケアの本を目指した.
 2つめは,執筆陣を若手中心に揃えたことである. 編集の柏木秀行先生が中心となり,さらに若手の医師たちが執筆の中心を担った.これによって,ベテランになったら「そんなこと悩んでたかな?」ということ─しかし最初に目の当たりにしたときには「あれ,これどうするんだろう??!!」とたしかに立ち止まったところを,現実感をもって記述できていると思う.
 3つめは,症状緩和のみならず,治療に伴う患者・家族とのコミュニケーション,多職種とのコミュニケーションに比較的多くのページが割かれていることである.これは,「するべき治療はわかっても,それをリアルにどう展開するかで悩む」若手医師を念頭に置いた結果である.同じ趣旨で,多くのパートで「ちょっとつまずいたこと」「ひやっとしたこと」も生々しく記載されている.臨床経験が多いと10年したら「あ〜〜それ,あるある」ということであっても,経験初期であらかじめ知っておくことで,落ちなくていい落とし穴にはまらずに済むことができる.
 つまり本シリーズは,@がんだけでなく非がんも,A若手中心の執筆陣により,B治療の選択だけでなく周辺の対応のしかたを含めて,緩和ケア全体ではなく1つひとつのトピックで展開してみた著作群ということになる.監修だけしていても面白くないので,各巻で,筆者もところどころに「合いの手」を入れさせてもらっている.ちょっとしたスパイスに,箸休めに楽しく読んでもらえればと思う.
 本シリーズが,緩和ケアという森に足を踏み入れる読者のささやかな道案内役になれば幸いである.

 2023年6月
 森田 達也

シリーズ編集にあたって
〜緩和ケアの森の歩き方〜


 巷に増えてきた緩和ケアの本とは,一線を画すユニークな企画にしたい! この想いをぎゅっと込めて,気心の知れた仲間たちと作ったのがこの「〈ようこそ 緩和ケアの森〉シリーズ」です.あまり整備されていない森を歩いてみると,まっすぐに進むことの難しさがわかります.まっすぐ進もうにも,足元に気をつけながら,木枝を避けて進んでいる間に方向感覚も失ってしまいます.本当にこちらに進んでいって大丈夫なのだろうか? そのような状況には恐怖すら覚えますよね.
 今や世の中の多くの方が,人工知能を中心としたテクノロジーの凄まじさを体感する時代です.診療の多くはフローチャートやアルゴリズムに落とし込まれ,緩和ケア領域においても勉強しやすく,特に初学者にとっては良い環境になりました.一方,緩和ケアのリアルワールドでは,必ずしもそれだけでは太刀打ちできないこともしばしば生じます.やはり「知っている」と「できる」にはそれなりの差があるのだと思います.「できる」までの過程は,森の中を手探りで進む感覚にも近く,進んでいることすらわからなくなってしまいます.
 では,「知っている」と「できる」の間にあるギャップを埋めるためには何が必要なのでしょう? 一言で言うと, 経験なのかもしれません.経験を積み重ねればいつか「できる」ようになるよというアドバイス….まあ,長く臨床を経験すれば,できることは増えていくのでしょうけど.この経験,もうちょっと言語化してみようと思います.
 経験=投入時間×試行回数×気づき効率
 これが臨床家としてしばしば言われる「経験」を,私なりに言語化したものとなります.「これだから最近の若者は…」なんて言葉も聞こえてきそうですけど,Z世代とは程遠い私だってコスパは大事です.そうなると,試行回数と,そこから学ぶ(気づく)効率をいかに最大化できるかが大切になります.
 この観点で言うと,本シリーズは初学者から一歩足を踏み出そうとしている方にとって,この試行と気づきを最大化させる本なのです.先輩方がまさしく同じように「脱・初心者!」ともがいていたあの頃,いろいろ試行し,時に失敗し,学んできたエッセンスを惜しみなく披露してくれています.そしてそこに,森田達也先生の監修が加わり,森で迷っているときに出会った,木漏れ日のようなコメントが心を癒してくれます.ぜひ,緩和ケアの森で遭難することなく,執筆陣の過去の遠回りを脇目に楽しみながら,あなたにしかできない緩和ケアを実践していってください.

 2023年6月
 柏木 秀行

はじめに

 緩和ケアは,がん・非がん診療問わず,すべての医療の基盤と思っています.医療における医師の役割は,治療すること(患者を治すこと)に目が行きがちですが,患者に寄り添い,一人一人のハッピーな生活や人生を考えることも重要で,緩和ケアの原点ともいえます.本書では,消化器領域に詳しい筆者たちの歩んできた道を若手緩和ケア医や緩和ケアに興味がある方に共有できたらなと思います.
 消化器領域というと,日々の臨床でよく悩むのは悪心・嘔吐や便秘,下痢,腹部膨満,食事摂取量低下,輸液や栄養かと思います.特に下剤,制吐薬,輸液などは研修医でも処方を任されることが多く,緩和ケア初学者にも馴染みのあるテーマではないかと思います.各項目で,最低限必要な医学的知識,筆者らの経験談や失敗談,怒られポイントなどを盛り込んでいます.またColumnでは,驚きや笑いを含みながら気軽にみてもらえたらと思って筆者みなが心を込めて書きました.
 みなさん,消化器症状の緩和ケアをいっしょに学びましょう! そして,消化器症状の緩和ケアを盛り上げていきましょう! Let’ go!

 2023年6月
 執筆者一同

それとなくナースステーションに置いておきましょう

 本書をナースステーションに置いておいたところ,表紙の可愛いクマのイラストが人目を引いて,「この本何ですか?」と若い看護師さんたちが食いついてきた.その時点でこれまでの緩和ケアの本とは一線を画しているのだが,さらにたたみかけるように,カバーには「大事なことはおなかの中。」,便秘のスクリーニングの項では「うんこするときに困ってる?」などの印象的なフレーズがある.以下に述べるような本書のおもしろい点を伝えると,興味をもって読み進めていただくことができて,緩和ケアの深い森に誘うことに成功するのである.
 カバーの印象からは,緩和ケアの森に初めて足を踏み入れる初学者を対象としているように思われるかもしれない.しかしながらその内容は秀逸であり,消化器症状の緩和ケアを専門としてきた立場からみても,勉強になる内容となっている.今まさに臨床現場で悩み,試行錯誤しながら患者さんと向き合っている若手ドクターたちが執筆陣となり,最新のガイドラインや論文,新規薬剤やデバイスなどを武器に,食事や排泄という患者さんの尊厳に関わる問題に真剣に取り組んでいる様子が臨場感をもって伝わってくる.
 著者たちの叱られた話や失敗談などが惜しげもなく要所に盛り込まれているのもまたおもしろい.オピオイドの副作用による悪心だと思っていたら脳転移であった話,腹部診察をせず消化管穿孔を見逃した話,看護師さんからの患者さんの便秘に関する報告を聞き流していたら上司に苦情がいった話など,読者は同じ目線で「こんなことあるよね」と膝を打ちながら読み進めることができる(実際に,私自身も同じようなことがあった).著者たちの失敗をもとにわがふりを直すことができるのは大変有難いことである.
 また,本書のところどころで入る森田達也先生(シリーズ監修者)の“合いの手”がおもしろい.たとえば,森田先生が悪心・嘔吐の評価について「医者の目からみると,悪心よりも嘔吐のほうがはっきりしていて目につくのですが,患者さん目線では,『(1日に1〜2回)吐くのはつらくないけど,悪心がずっと続くのがつらい』ということが多いです」と書かれているが,私が10年以上前に森田先生から研究計画書の書き方を指導していただいたときに,「悪心は持続時間も評価するように」とのご指摘をいただいたことを思い出した.森田先生も,臨床も,研究も,大事なことは変わらないのだなと感じた.
 以上,本書のおもしろい点の一部をお示ししたが,興味をもったあなた,緩和ケアの森に誰かを誘いたいあなたにぜひご一読いただきたい.

臨床雑誌内科132巻6号(2023年12月号)より転載
評者●久永貴之(筑波メディカルセンター病院緩和医療科 診療科長/緩和ケアセンター長)

9784524232734