書籍

造血幹細胞移植診療実践マニュアル改訂第2版

データと経験を凝集した医療スタッフのための道標

: 神田善伸
ISBN : 978-4-524-23174-4
発行年月 : 2022年7月
判型 : A5
ページ数 : 408

在庫あり

定価5,500円(本体5,000円 + 税)


正誤表

  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

造血幹細胞移植診療全体をカバーした決定版マニュアル,待望の改訂版.本領域のエキスパートである著者が,事前準備・移植の実際・移植後の合併症管理・各疾患別の診療の実際に加え,本領域の論文の読み方と統計のポイントを,膨大なエビデンスと自らの豊富な経験に基づいて丁寧に解説.新規薬剤の導入,HLA半合致ドナーやHLA1抗原不適合ドナーによる移植,移植に伴う合併症の考え方などを含めて最新のエビデンスを多数反映したほか,造血幹細胞移植関連の論文の読み方と統計の内容も大幅にアップデート.造血幹細胞移植に携わる全スタッフ必携の一冊.

略語一覧

第T章 移植実施の決定
 A. 造血幹細胞移植の原理と流れ
 B. 自家移植と同種移植の比較
 C. 造血幹細胞移植の流れと合併症
 D. 移植適応の考え方
 E. HLA 検査
 F. 同種造血幹細胞移植のドナーの選択
 G. 骨髄移植と末梢血幹細胞移植の比較

第U章 移植の準備(移植計画の決定〜幹細胞輸注)
 A. 移植の準備と移植コーディネーター
 B. 医療費
 C. ドナーの準備
 D. 患者の準備
 E. 移植前処置の決定
 F. 妊孕性の温存
 G. 急性GVHD 予防法の決定
 H. 無菌管理・移植後早期感染症予防法の決定
 I. 輸血対策の決定
 J. 栄養管理の決定
 K. 心理的サポート
 L. リハビリテーション

第V章 移植後合併症の管理
 A. 前処置関連毒性(RRT)の評価と対応
 B. 肝中心静脈閉塞症(VOD)/ 類洞閉塞症候群(SOS)
 C. 移植後の疼痛管理
 D. 移植後早期の細菌・真菌感染症対策
 E. 生着不全
 F. キメリズム解析
 G. 生着症候群,生着前免疫反応
 H. 急性GVHD の診断と治療
 I. 移植関連血栓性微小血管症(TA-TMA)
 J. 移植後中後期の感染症対策
 K. 慢性GVHD の診断と治療
 L. 非感染性肺合併症
 M. 晩期合併症対策
 N. 移植後再発の予防と治療

第W章 各血液疾患に対する造血幹細胞移植
1 急性骨髄性白血病(AML)[急性前骨髄球性白血病(AML M3)を除く]
 A. 予後予測因子
 B. 標準化学療法
 C. 第一寛解期における造血幹細胞移植の適応
 D. 第一寛解期AML における薬物療法と造血幹細胞移植を比較した臨床決断分析
 E. 第一寛解期AML に対する自家造血幹細胞移植
 F. 再発後の治療
 G. 高齢者AML に対する同種造血幹細胞移植
 H. 急性前骨髄球性白血病(APL)
2 急性リンパ性白血病(ALL)
 A. 予後予測因子
 B. 標準化学療法 258M. 幹細胞輸注
 C. 第一寛解期Ph 染色体陰性ALL に対する造血幹細胞移植の適応
 D. 第一寛解期ALL における薬物療法と造血幹細胞移植を比較した臨床決断分析
 E. 第一寛解期ALL に対する自家造血幹細胞移植
 F. 再発後の治療
 G. ミニ移植
 H. 第一寛解期Ph 染色体陽性ALL に対する造血幹細胞移植
 I. Ph 染色体陽性ALL に対するミニ移植
 J. Ph 染色体陽性ALL に対する同種移植後のチロシンキナーゼ阻害薬
3 骨髄異形成症候群(MDS)
 A. 予後予測因子
 B. 移植以外の治療
 C. 同種造血幹細胞移植の適応
 D. 造血幹細胞移植前の芽球減少治療の妥当性
 E. 自家移植
 F. ミニ移植
4 慢性骨髄性白血病(CML)
 A. 予後予測因子
 B. 薬物療法
 C. 造血幹細胞移植の適応
 D. ミニ移植
5 悪性リンパ腫(ML)
5-1. びまん性大細胞型B 細胞リンパ腫(DLBCL)
 A. 予後予測因子
 B. 薬物療法
 C. 自家移植の適応
 D. 自家移植におけるBMT とPBSCT の比較
 E. 同種移植の適応
 F. ミニ移植
5-2. 濾胞性リンパ腫(FL)
 A. 予後予測因子
 B. 化学療法
 C. 自家移植の適応
 D. 同種移植の適応
 E. ミニ移植
5-3. Hodgkin リンパ腫(HL)
 A. 予後予測因子
 B. 自家移植の適応
 C. 同種移植の適応
 D. ミニ移植
5-4. 末梢性T 細胞リンパ腫(PTCL)
5-5. マントル細胞リンパ腫(MCL)
5-6. 成人T 細胞白血病/ リンパ腫(ATLL)
5-7. そのほかのリンパ腫
6 多発性骨髄腫
 A. 予後予測因子
 B. 薬物療法
 C. 自家移植
 D. 多発性骨髄腫患者からの自家末梢血幹細胞採取
 E. 多発性骨髄腫に対する同種移植とgraft-versus-myeloma(GVM)効果
 F. ミニ移植
7 再生不良性貧血
 A. 重症度分類
 B. 薬物療法
 C. 同種造血幹細胞移植
 D. 免疫抑制療法と同種造血幹細胞移植の比較

第X章 造血幹細胞移植関連の論文の読み方と統計
 A. 造血幹細胞移植領域の統計解析の特殊性
 B. 生存解析の定義
 C. 競合イベント
 D. 時間依存性変数
 E. 臨床決断分析
 F. リスク分類
 G. 交 絡
 H. 多変量解析
 I. 傾向スコア解析
 J. 交互作用
 K. 実際の統計解析の流れ

巻末付録
 1.ドナーチェックリスト
 2.移植患者チェックリスト(一般的な検査項目を除く)
 3.症状,身体所見,検査所見などに基づく鑑別診断リスト(頻度の高いもの)
 4.日本人における体表面積表
 5.抗微生物薬の腎障害時の減量基準

第2版序文

 2015年3月に本書の初版を発刊してから4回の増刷を経て6年弱経った2021年1月18日,もうすぐ在庫が切れるので再度増刷するか,それとも改訂するか,という問い合わせをいただきました.移植以外の血液領域における分子標的治療薬導入による変化の速度と比較すると,造血幹細胞移植領域の変化はやや緩徐のようにも思えますが,それでもいくつかの新規薬剤の導入,開発が進み,また,特に日本国内では日本造血・免疫細胞療法学会(旧 日本造血細胞移植学会)のワーキンググループの解析による数多くの日本発のエビデンスが積み上げられてきました.6年経過したマニュアルを放置しておくことは好ましくはありません.そして,出版社からのメールをよく読み返してみると,単なる増刷よりも改訂のほうが売り上げが伸びるという意図も行間から感じられます.You got two choices,yes or yes.改訂第2版に向かう作業が始まりました.
 相変わらずの単独執筆です.PCに蓄積している大量の文献PDF,PubMed,各種ガイドライン等を紐解きながら,地道に初版のWordファイルに変更履歴で書き込んでいきました.引用文献の総数は約1000編.執筆時,54歳.あと,この作業を何度行うことができるのだろう,と考えながらもWordの画面は少しずつ朱に染まっていき,2021年10月11日に全てのファイルを出版社に送信しました.出版社の想定を超えた大幅改訂となり,作図等にかかる時間も予定を上回った結果,第2版の発刊時期はややずれこみましたが,無事,刊行を迎えることができました.このような血と汗と涙の改訂作業の末に完成したマニュアル.その過程は私の頭の中での情報の整理とともに,診療現場での経験を振り返るきっかけとなり,今後の臨床決断のための大きな宝となりました.
 前版と同様に,エビデンスだけに依存することのできない移植診療において,絶対的な正解はあり得ないという前提の元に,私の個人的な感覚を重視して記述した部分も多く含まれています.「マニュアル」という名称にはなっていますが,本書に書かれている通りの診療を進めるのではなく,(真のEBMが目指しているように)1人1人の患者さんやご家族の人生観や背景,診療環境,エビデンスを総合的に考えて,移植診療に役立てていただければと思います.
 元々,重かった初版から,さらに分厚さを増した第2版となりました.しかし,「血液病レジデントマニュアル」(医学書院)も改訂毎に重量を増しているので,左右のポケットのバランスが大きく崩れることはないのだろうと思います.もし,調整が必要でしたら,EZR関連の書籍をご活用ください(A+C≒B+D).なお,本書は2022年4月の時点で最新の情報を元に記載したつもりですが,あらゆる分野において完全を期すことは難しく,ご自身でも文献,薬剤添付文書などを必ずご確認いただきますようお願い申し上げます.また,日本国内で承認されている適応と異なる記載が含まれていることをご了承ください.

令和4年5月
自治医科大学附属病院・附属さいたま医療センター血液科
神田 善伸

造血幹細胞移植診療のすべてが集約された待望の改訂版

 『造血幹細胞移植診療実践マニュアル』の改訂版が発刊された.初版は2015年に発刊され,造血幹細胞移植に携わる多くの医師が手元に置き,日々の診療のなかで参照してきた.造血幹細胞移植の進歩は著しく,新しい治療法・治療薬の導入により,治療成績や合併症の頻度・重症度が改善されてきている.また,それに伴い国内外のレジストリーデータを用いた解析においても,従来のものとは大きく異なる新しい結果が発表されている.そのため,目の前の患者に適応可能なエビデンス・治療法は最新のデータに基づく必要があり,その意味で本書は造血幹細胞移植に携わる者がもつべき待望の一冊といえる.
 著者である神田善伸先生(自治医科大学附属病院/附属さいたま医療センター血液科 教授)は造血幹細胞移植領域の第一人者である.その神田先生が序文にて「血と汗と涙の改訂作業」と書かれているが,その作業は凡人である私には想像を絶するものであったに違いない.しかし,その膨大な改訂作業により,初版をさらに上回る素晴らしい内容になっている.構成は「移植実施の決定」「移植の準備(移植計画の決定〜幹細胞輸注」「移植後合併症の管理」「各血液疾患に対する造血幹細胞移植」「造血幹細胞移植関連の論文の読み方と統計」および「巻末付録」となっており,いずれも充実した内容である.著者自身や国内外の研究者が発信してきた多くのエビデンスに,著者の豊富な経験に基づき日々ベッドサイドで実践されていることが加わって,より実用的な内容となっている.造血幹細胞移植では単純なエビデンスの適応では判断ができない場面はしばしばあり,大変参考になる.まさに本書のサブタイトルのとおり「データと経験を凝集した医療スタッフのための道標」となるであろう.とくに造血幹細胞移植診療においてピットフォールの多い「移植後合併症の管理」に多くのページが割かれており,そこにはわれわれが喉から手が出るほど知りたい“匠の技”が多く書かれている.これらはガイドラインなどには書くことが難しいものもあり,ぜひ参考にしていただきたい.
 このように本書は日々のclinical questionの答えを探し求める際に活用できるものである.また,造血幹細胞移植に携わるうえで知っておかねばならない内容を網羅しているため,本書を使った診療科内の勉強会を企画することをお勧めしたい.テーマによっては看護師,造血細胞移植コーディネーター,薬剤師にも参加していただき,知識を共有して意見交換をすることで,移植チームのレベルアップにつながると確信する.本書によりわが国の造血幹細胞移植医療の質がさらに向上し,一人でも多くの患者が病気を克服して,社会復帰されることを期待する.

臨床雑誌内科131巻2号(2023年2月号)より転載
評者●森 毅彦(東京医科歯科大学医学部血液内科 教授)

9784524231744