書籍

一歩進んだ緩和医療のアプローチ

その難しい症状,どう緩和する?

編著 : 大坂巌/佐藤哲観/新槇剛/角田貴代美
ISBN : 978-4-524-23126-3
発行年月 : 2022年7月
判型 : B5
ページ数 : 240

在庫あり

定価5,280円(本体4,800円 + 税)


正誤表

  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

薬物療法のほか,従来のガイドラインやテキストではあまり記載されてこなかった神経ブロックや放射線治療,IVRなどの非薬物療法まで,一歩進んだ緩和ケアのアプローチを包括的に紹介.フローチャート化された症状別の治療戦略,難治例におけるチャンピオンケースを読み進めることで,“標準治療でうまくいかない場合の次の一手”が身につく.各専門科のエキスパートによる実践知と工夫を結集し,緩和医療の可能性を広げるヒントとなる一冊.

第1章 難しい症状の緩和に役立つ治療法
 1.薬物療法
 2.神経ブロック
 3.放射線治療
 4.IVR(画像下治療)
 
第2章 その難しい症状,どう緩和する?
A.痛み
 1.頭蓋底骨浸潤による痛み
 2.三叉神経領域の腫瘍による痛み
 3.胸壁浸潤による痛み
 4.腕神経叢浸潤による痛み
 5.骨盤内・骨盤底の病変による痛み
 6.がん誘発性骨痛
 7.悪性腸腰筋症候群
 8.筋筋膜性疼痛
 9.化学療法誘発性末梢神経障害
B.痛み以外の症状
 1.消化管閉塞
 2.腹水貯留
 3.オピオイドによる消化器症状(悪心・嘔吐,便秘)
 4.呼吸器症状(呼吸困難・咳嗽)
 5.浮腫
 6.出血
 7.皮膚・軟部組織の病変
 8.不眠
 
第3章 こんな難治例,エキスパートはどう対処する?
 Case 1.やっぱりメサドン
 Case 2.μオピオイド+dual action analgesicの併用療法で鎮痛の質を高める
 Case 3.「座ると痛い!」に仙骨硬膜外エタノール注入法
 Case 4.食事による痛みに内臓神経ブロック
 Case 5.痛みはとってほしいけど,自動車の運転はしたい!
 Case 6.なかなかとれない背部痛に腰内臓神経ブロック
 Case 7.腹部の緊満感に胸部持続硬膜外ブロック
 Case Ex.直腸テネスムス
 Case 8.この激痛をどうにかしてほしい!─持続くも膜下鎮痛法
 Case 9.小児の難治性疼痛には
 Case 10.心臓腫瘍への放射線治療で症状緩和
 Case 11.全肝照射で上腹部痛がなくなり食欲も改善
 Case 12.全脳全脊髄照射で髄膜播種を治療しPS改善
 Case 13.放射線治療で鼻出血を止血,腫瘍も縮小
 Case 14.乳癌の出血を放射線治療で止血
 Case 15.胃出血を放射線治療で止血
 Case 16.進行性乳癌に動注化学療法で局所を制御
 Case 17.卵巣癌腹膜播種による痛みにRFA実施
 Case 18.指への転移による接触時の痛みにTAE実施
 Case 19.ステント留置で上肢の浮腫が速やかに改善
 Case 20.CIPNに円皮鍼で自己効力感アップ
 
COLUMN
 1.あきらめない緩和照射〜医師にも知ってほしいこと〜
 2.IVRによるルートの取り方
 3.放射線治療の緩和効果は骨転移だけ?
 4.鍼灸治療
 5.アロマセラピー
 6.認知行動療法
 7.μオピオイド注射薬とトラマドール注射薬の併用
 
付録
 1.緩和医療で実施されるIVR手技
 2.略語一覧

 がん患者には様々な症状が出現する可能性があるが,薬物療法だけですべての症状を緩和することはできない.痛みに関して言えば,国内で利用可能なオピオイド鎮痛薬や鎮痛補助薬は増え,一般的な治療は広く普及してきているかもしれない.しかし,通常の薬物療法ではどうしても解決できない症状が現存しているのも事実である.
 本邦における緩和医療関連の成書やガイドラインは薬物療法中心であり,難治性症状に対するアプローチが明確になっていないのではないか.非薬物療法による症状緩和の指南書があっても良いのではないか.2020年に南江堂編集者の高橋有紀さんとこのようなやりとりをしたことが,本書を編纂する契機となった.せっかく書籍にするのであれば後世に残るようなものにしたいと考え,臨床の第一線で活躍しておられる先生方にもご協力いただくこととした.これまで各領域の専門書以外に詳細な記載が少なく,緩和医療従事者の認知度が低いが故にまだまだ活用される余地がある神経ブロック,放射線治療,IVRに多くの紙面を割いた.
 本書は,読者の理解を助け,実臨床の醍醐味を味わっていただくために3部構成とした.第T章は総論として,薬物療法,神経ブロック,放射線治療,IVRの4つの治療を概観する.薬物療法に関しては,既刊書に記載されているような基本的な内容は割愛し,いわゆるエビデンスでは論じられない内容を中心に解説した.第U章はよく遭遇する症候群や症状について,病態,治療戦略,実際の治療方法をまとめた.さらに,鍼灸治療やアロマセラピーなどの治療も取り上げた.第V章では,筆者らが経験した実際の症例を呈示し,それぞれの治療がどのように用いられているのかをわかりやすく解説している.治療の難易度やアクセスのしやすさについてランク付けしているので,参考にしていただきたい.
 症状の発生メカニズムに関する詳細な評価と薬物療法の最適化なくして安易に難治性と判断することは厳に慎むべきであり,一般的な治療法について知悉しておくことは重要である.その上で,薬物療法と非薬物療法を包括的に用いることにより,難治性症状への治療のみならず,より質の高い症状緩和を提供することが期待できる.
 紹介した症例はいずれも,経験豊富な臨床家がなんとかしたいとチャレンジした貴重なものである.記述されている文面からのみでも,患者・家族の満面の笑みが思い浮かぶのではないだろうか.こうした治療はいつでもどこでもできるものではないかもしれないが,難しいケースに遭遇した際には本書を紐解いていただければと思う.きっと何らかのヒントが見つかるはずである.本書を機に,より優れた治療が適切な時期に提供されることになれば望外の喜びである.

2022年6月
編集者一同

IVR医を含むエキスパートが緩和医療における難治例への対処法を詳細に解説!

 がん緩和医療においては,症状緩和をすることが困難な症例にしばしば遭遇する.緩和医療は,緩和ケア医だけがするものではなく,がん治療医,放射線治療医,精神腫瘍医などのエキスパートが総合的にチーム医療として行うことが望ましい.また,IVR(画像下治療)が緩和医療の領域で果たす役割は大きい.本書では,エキスパートであるIVR医が編集・執筆陣に加わっており,その点で,読み応えのある教科書であるといえる.
 とくに難治例への対処法については,エキスパートによる治療例として,実際の症例をあげて記載されており,現場で困った際に大変参考になる.難治性疼痛に対するくも膜下鎮痛法や,放射線治療としての,全肝照射や全脳全脊髄照射,心臓腫瘍に対する照射,指転移に対する経カテーテル動脈塞栓療法(transcatheter arterial embolization:TAE)などは,エキスパートでないと施行できないが,このようなアプローチがあることを知っておくことも大切である.一方で,このようなアプローチは,症例ベースになりがちで,エビデンスが確立されていないものが多いため,欲を言えば,個々の症例に対しては,一つの方法だけではなく,さまざまなアプローチが求められ,なかでもチーム医療によるアプローチが必要となることを強調してほしかった.また,エビデンスが不足している点を,どのように患者に伝え,患者に納得していただくかといった点を含めて紹介してほしかった.これらは,本書の今後に期待したい.
 本書は,難治症状に対するエキスパートのアプローチとして,さまざまな処置について詳細に記載しており,現場で非常に役に立つ書であるといえる.緩和医療において,現場で問題になることは,強い症状を患者が訴えているにもかかわらず,適切なアプローチがなされぬまま放置されてしまうことであると思われる.本書によって,さらに進んだ薬物療法,放射線治療やIVRによるアプローチがあることを知っていただくことで,一歩進んだ緩和医療が広がり,より多くのがん患者の苦痛軽減につながることを切に願う.

臨床雑誌内科131巻4号(2023年4月号)より転載
評者●日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科 教授 勝俣範之

9784524231263