書籍

頭頸部の臨床画像診断学改訂第4版

: 尾尻博也
ISBN : 978-4-524-22661-0
発行年月 : 2021年4月
判型 : B5
ページ数 : 1384

在庫あり

定価19,800円(本体18,000円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

「頭頸部の画像診断と臨床の統合を図る」をコンセプトとした定本が,頁数・画像数40%増でより一層充実! 頭頸部の代表的病態について,臨床解剖から治療選択の判断,手術術式に至るまで,膨大な画像情報をもとに詳説.今改訂では画像所見とエビデンスを大幅に増補し,関連する癌取り扱い規約や診療ガイドライン等に合わせて内容を刷新,より実践的な実用書を目指した.画像診断医のみならず臨床医にとっても必携の一冊.

目次

1章 頸部組織間隙・筋膜および頸三角の解剖
 A 頸筋膜解剖
  1 浅頸筋膜(superficial cervical fascia)
  2 深頸筋膜(deep cervical fascia)
 B 組織間隙
  1 咽頭粘膜間隙(pharyngeal mucosal space:PMS)
  2 傍咽頭間隙(parapharyngeal space:PPS)
  3 頸動脈間隙(carotid space:CS)
  4 耳下腺間隙(parotid space:PS)
  5 咀嚼筋間隙(masticator space:MS)・頬間隙(buccal space:BS)
  6 口腔底の組織間隙:舌下間隙(sublingual space:SlS)・顎下間隙(submandibular space:SmS)
  7 臓側間隙(visceral space:VS)
  8 咽頭後間隙(retropharyngeal space:RPS)・危険間隙(danger space:DS)
  9 椎周囲間隙(perivertebral space:PeVS)・椎前間隙(prevertebral space:PrVS)
  10 後頸間隙(posterior cervical space:P C S)
 C 頸三角
  1 前頸三角
  2 後頸三角

2章 眼 窩
 A 臨床解剖
  1 骨解剖
  2 眼窩尖部
  3 外眼筋
  4 筋膜・腱膜および眼窩内組織間隙
  5 眼 球
  6 神経解剖
  7 血管解剖
  8 涙 器
 B 撮像プロトコール
  1 CT
  2 MRI
 C 疾 患
  1 炎症性疾患/ 特発性眼窩炎症
  2 腫瘍および腫瘍類似疾患
  3 その他

3章 鼻副鼻腔
 A 臨床解剖
 B 副鼻腔の発達
 C nasal cycle
 D “ normal variant”とその臨床的意義
  1 Haller cel(l infraorbital ethmoid cell)
  2 鼻中隔弯曲・骨棘形成
  3 篩骨篩板の骨化不全,低位,非対称性
  4 眼窩内側壁(篩骨紙様板)の骨壁欠損
  5 含気鈎状突起(uncinate bulla)
  6 甲介蜂巣(concha bullosa)
  7 鼻中隔内蜂巣(septal pneumatization)
  8 含気鶏冠(aerated crista galli)
  9 蝶形骨洞と頸動脈の関係:骨壁欠損(dehiscence),洞内隔壁(intrasinus septum)
  10 蝶形骨洞の含気と正円孔,翼突管との関係,前床突起の含気と視神経の関係
  11 蝶形骨洞の外側進展
  12 視神経管頸動脈裂(opticocarotid recess
  13 paradoxical turbinate
  14 眼窩上篩骨洞蜂巣(supraorbital ethmoid air cell)
  15 Onodi cel(l sphenoethmoid cell)
 E 撮像プロトコール
 F 炎症性疾患
  1 病 態
  2 合併症
 G 腫瘍および腫瘍類似疾患
  1 上顎洞性後鼻孔ポリープ(antrochoanal polyp, Killian’s polyp)
  2 若年性血管線維腫(juvenile angiofibroma)
  3 内反性乳頭腫(inverted papilloma)
  4 扁平上皮癌
  5 その他の悪性腫瘍
  6 その他の腫瘍,腫瘍類似疾患
 H 外科的療法
  1 Caldwell-Luc 手術(sublabial antrostomy)
  2 ESS(endoscopic sinus surgery)
  3 上顎切除術(maxillectomy)
  4 前頭洞手術
  5 頭蓋顔面切除術(craniofacial resection)

4章 上咽頭
 A 臨床解剖
  1 粘膜・筋層解剖
  2 周囲深部組織間隙
  3 神経・リンパ経路
 B 撮像プロトコール
 C 病 態
  1 炎症性疾患
  2 腫瘍および腫瘍類似疾患
  3 その他

5章 口腔
 A 臨床解剖
  1 頬粘膜(buccal mucosa)
  2 歯肉・歯槽(gingiva・alveolar ridge)
  3 臼後三角・臼後部(retromolar trigone)
  4 硬口蓋(hard palate)
  5 舌可動部(口腔舌;前3 分の2)(oral tongue)
  6 口腔底(floor of the mouth)
 B 画像診断・撮像プロトコール
 C 病 態
  1 炎症性疾患
  2 腫瘍および腫瘍類似疾患

6章 中咽頭
 A 臨床解剖
  1 粘膜解剖および深部組織間隙
  2 リンパ組織
 B 撮像プロトコール
 C 病 態
  1 炎症性疾患
  2 腫瘍および腫瘍類似疾患

7章 喉頭
 A 臨床解剖
  1 喉頭粘膜
  2 喉頭軟骨および靱帯,間膜
  3 喉頭筋
  4 粘膜下組織間隙
  5 亜区域分類
  6 神経支配
  7 血管支配
  8 リンパ支配
 B 画像診断・撮像プロトコール
  1 撮像プロトコール
  2 組織コントラスト
 C 喉頭癌
  1 一般的事項
  2 軟骨浸潤
  3 外科的治療
  4 内視鏡下声帯切除・経口CO2 レーザー治療
  5 声門上癌(supraglottic cancer)
  6 声門癌(glottic cancer)
  7 経声門癌(transglottic cancer)
  8 声門下癌(subglottic cancer)
  9 リンパ節転移
  10 経過観察における検査計画および局所再発の評価
 D その他
  1 喉頭瘤(laryngocele)および喉頭囊胞
  2 炎症性・感染性疾患
  3 喉頭外傷
  4 反回神経麻痺・声帯麻痺

8章 下咽頭
 A 臨床解剖
  1 亜区域
  2 咽頭筋
  3 神経支配
  4 血管支配
  5 リンパ支配
 B 画像診断・撮像プロトコール
  1 撮像プロトコール
  2 組織コントラスト
 C 下咽頭癌 568
  1 臨床的事項
  2 進展様式
  3 喉頭軟骨浸潤
  4 頸部リンパ節転移
  5 治 療
  6 画像診断と治療計画の統合
  7 治療後画像評価

9章 頸部食道
 A はじめに
 B 解 剖
  1 下咽頭輪状後部から頸部食道への移行・食道入口部
  2 食道の区分
  3 食道壁の解剖
  4 頸部食道周囲の解剖
 C 頸部食道癌
  1 臨床的事項
  2 画像診断
  3 治 療
  4 経過観察
 D 周囲悪性腫瘍の頸部食道への浸潤

10章 頸部リンパ節
 A 正常リンパ組織の解剖
 B Rouvière によるリンパ節解剖
  1 後頭リンパ節(occipital node)
  2 乳突部リンパ節(mastoid node)
  3 耳下腺リンパ節(parotid node)
  4 顎下リンパ節(submandibular/submaxillary node)
  5 顔面リンパ節(facial node)
  6 オトガイ下リンパ節(submental node)
  7 舌あるいは舌下リンパ節(lingual/sublingual node)
  8 咽頭後リンパ節(retropharyngeal node)
  9 前頸または頸部正中リンパ節(anterior cervical node)
  10 側頸リンパ節(lateral cervical node)
 C 「 レベル」システム
 D 「 頭頸部癌取扱い規約(第6版)補訂版」によるリンパ節分類 653
 E 撮像プロトコール
 F 頸部リンパ節転移
  1 病理機転 654
  2 臨床的意義
  3 原発不明癌(unknown primary cancer)
  4 頸部郭清術
  5 頸部リンパ節転移の画像診断(扁平上皮癌)
  6 頸部リンパ節転移画像診断と治療計画の統合および治療後評価
  7 甲状腺癌(乳頭癌)のリンパ節転移
 G 悪性リンパ腫リンパ節病変
 H 反応性リンパ節・感染性リンパ節病変
  1 反応性リンパ節
  2 リンパ節炎・(急性)化膿性リンパ節炎(lymphadenitis・suppurative lymphadenitis)
  3 猫ひっかき病(cat-scratch disease)
  4 結核性リンパ節炎(tuberculous lymphadenitis)
  5 その他の頸部リンパ節病変

11章 頸部囊胞性腫瘤
 A 臨床的事項
 B 先天性頸部囊胞性腫瘤
  1 甲状舌管囊胞(正中頸囊胞,thyroglossal duct cyst)
  2 鰓裂囊胞(branchial cleft cyst)
  3 囊胞性リンパ管腫・血管リンパ管奇形[cystic lymphangioma(hygroma)/vasculolymphatic malformation]
  4 皮様囊腫(dermoid cyst)
  5 Tornwaldt 囊胞
 C リンパ節性囊胞性腫瘤
  1 化膿性リンパ節炎
  2 囊胞性リンパ節転移
  3 脂肪濃度の正常リンパ門(hilar fatty metamorphosis)
 D 非リンパ節性炎症性囊胞性腫瘤
  1 頸部膿瘍
  2 ガマ腫(ranula)
  3 他の貯留囊胞
 E 臓側間隙(非炎症性)囊胞性腫瘤
  1 Zenker 憩室
  2 咽頭瘤(pharyngocele)
  3 喉頭瘤(laryngocele)
 F 血管性囊胞性腫瘤
  1 動脈瘤
  2 静脈塞栓(血栓性静脈炎)
 G その他
  1 脂肪腫

12章 側頭骨
 A 臨床解剖
  1 側頭骨
  2 外耳
  3 鼓膜
  4 中耳(鼓室)
  5 内耳
  6 内耳道(internal auditory canal)
  7 顔面神経(第Z脳神経)
  8 耳管(auditory canal,eustachian tube)
 B 耳痛(関連痛)
 C 撮像プロトコール
 D 側頭骨手術 810
  1 乳突洞削開術(mastoidectomy)
  2 鼓室形成術(tympanoplasty)/ 耳小再建術(ossiculoplasty)
  3 人工内耳(cochlear implant)
  4 側頭骨手術における重要な正常変異
 E 病 態 831
  1 先天奇形
  2 外耳疾患
  3 中耳・乳突洞疾患
  4 内耳疾患
  5 その他

13章 唾液腺
 A 生理・臨床解剖
  1 耳下腺(parotid gland)
  2 顎下腺(submandibular gland)
  3 舌下腺(sublingual gland)
  4 小唾液腺(minor salivary gland)
 B 撮像プロトコール
 C 代表的術式
  1 耳下腺浅葉切除術(parotid superficial lobectomy)
  2 耳下腺全摘出術(total parotidectomy):deep lateral lobectomy
  3 根治的耳下腺切除術(radical parotidectomy)
  4 顎下腺切除術(submandibular gland excision)
 D 病 態
  1 炎症性疾患:唾液腺炎(sialadenitis/sialoadenitis)
  2 腫瘍および腫瘍類似疾患
  3 その他

14章 頭蓋顔面・頸部外傷
 A 頭蓋顔面骨折
  1 眼窩吹き抜け骨折(blow-out fracture)
  2 鼻骨骨折(nasal bone fracture)
  3 顔面中央部骨折
  4 下顎骨骨折
 B 穿通性口腔・咽頭損傷
 C 頸部外傷
  1 頸部鈍的外傷
  2 頸部穿通性外傷

15章 神経周囲進展
 A 総論
  1 定義(神経周囲浸潤と神経周囲進展)
  2 脳神経
  3 原発部位
  4 病変の組織型
  5 進展方向
  6 臨床的事項
  7 画像診断
 B 各論
  1 三叉神経(CN5 : trigeminal nerve)
  2 顔面神経(CN7 : facial nerve)
  3 三叉神経(CN5)と顔面神経(CN7)との末梢枝の吻合(communication)
  4 その他の脳神経の神経周囲進展病変
  5 神経向性リンパ腫(neurotropic lymphoma)
  6 IgG4 関連疾患

16章 その他
  1 頭頸部癌の予後因子としての腫瘍容積
  2 頸動脈浸潤(carotid invasion)
  3 carotid blowout syndrome(頸動脈破裂)
  4 皮弁辺縁再発(flap margin recurrence)
  5 気道狭窄(airway compromise,subglottic stenosis,laryngotracheal stenosis)
  6 Eagle 症候群・茎状突起過長症(Eagle syndrome,elongated styloid process)
  7 styloidgenic jugular vein compression syndrome
  8 superior thyroid cornu syndrome
  9 顔面美容形成術後変化

付録1 画像診断レポート
 1 鼻副鼻腔
 2 上咽頭
 3 口 腔
 4 中咽頭
 5 喉 頭
 6 下咽頭
 7 側頭骨
 8 唾液腺
 9 その他

付録2 頭頸部の正常画像解剖アトラス
 A 眼窩・鼻副鼻腔(CT)
 B 上咽頭MRI (T2W1)
 C 中咽頭・口腔
 D 喉頭・下咽頭
 E 側頭骨

索引

序文

 本書『頭頸部の臨床画像診断学』は,2005 年に初版,6 年後の2011 年に改訂第2 版,さらに5 年後の2016 年に改訂第3 版が出され,今般,改訂第4 版の発刊に至った.
 初版の執筆は,恩師多田信平先生の教えを受けて米国フロリダ大学放射線科に留学,Mancuso 教授に頭頸部画像診断を師事して帰国した直後であった.その序文には本書の存在理由を“画像診断と臨床との統合”と記している.臨床の実践(治療選択,予後推定など)に必要な画像情報を得るには,臨床的視点からの画像診断アプローチが必要不可欠であり,画像診断医の画像検査に対する理解と頭頸部外科医・耳鼻咽喉科医による頭頸部疾患の臨床に対する理解との間を有機的に繋げることの重要性を強調した.第2 版の序文においても「画像診断の知識を臨床に適用し実践することが最も重要」としている.初版発刊以降,多列検出器CT の普及など画像診断の進歩に加えて,TNM分類第7 版への改訂,化学放射線療法の適応拡大など治療の変遷にも合わせたものであった.第3版は第2 版発刊以降に広く認識された新たな疾患概念(IgG4 関連疾患,HPV 陽性中咽頭癌など),分子標的薬の使用,化学放射線療法の適応拡大に伴い重要性を増した治療後画像評価について取り上げると同時に,成書での記述が少ない「頸部食道」を独立した章として追加した.また代表的疾患における私自身の画像診断報告書例(付録)を付け,臨床的な実用書として本書の内容を診断報告書にどのように反映させるかを例示させていただいた.さて第3 版発刊以降であるが,TNM 分類第8 版への改訂,頭頸部腫瘍のWHO 分類の改訂が臨床面での大きな変更として挙げられ,これらに沿って書き直すことが本改訂の最大の目的であった.さらに各領域での重要な疾患を整理し,新たに提唱された分類,歴史的事項(疾患概念の変遷など)について必要に応じて追加記述した.そして大きな変更点として「頭頸部組織間隙・筋膜および頸三角の解剖」の章を追加した.頭頸部の解剖は複雑であるが(画像診断医が敬遠する大きな理由となっている),初版から単純なアトラス的解剖の記述については最低限としてきた(実際にある程度の臨床解剖を理解していることを前提とした記述となっており,第4 版も基本的にはこれを踏襲している).ただし,頸筋膜・組織間隙の解剖学的理解は病変の進展様式の把握,鑑別診断のアプローチに必要不可欠であり,単なる知識としての解剖をこえた意味を持つことから,本書の目的にも沿ったものであり新たな章として加えることとした.
 初版から16 年の経過のなかで画像診断,頭頸部外科・耳鼻咽喉科学いずれの臨床においても継続的な進歩や変遷の歴史があった.実践的に活用いただくため,5〜6 年間隔で行われてきた改訂は必要に迫られたものであったが,本版も臨床的要素を可能なかぎり取り入れた頭頸部画像診断の実用書として受け入れられ,少しでも臨床に寄与することを願っている.最後に,再度このような機会に恵まれたことに感謝したい.そして,頭頸部画像診断の私の恩師である多田信平先生,Tony(Mancuso 教授),臨床の多くをご指導いただいた森山寛前教授,小島博己教授を始めとする東京慈恵会医科大学耳鼻咽喉科学教室の先生方,丁寧な編集作業を行っていただいた南江堂の達紙優司氏,松本岳氏,執筆や改訂の環境を提供してくれた当講座のスタッフ,家族に改めて深謝する.
2021 年3 月
尾尻 博也

 2021年4月の日本医学放射線学会総会(日医放)の直前,東京慈恵会医科大学放射線医学講座の尾尻教授から「以前に書いた本の改訂版ができたので,書評を書いていただけませんか」というメールをいただいた.尾尻教授には常日頃,多数の委員会や研究会でお世話になっており,加えて本書の旧版を非常に興味深く読ませていただき新版がとても楽しみで あったので,二つ返事で引き受けさせていただいた.しかし,数日後の日医放の書籍展示コーナーでその本がうず高く積まれているのをみて,正直,少々後悔してしまった.厚い!あまりにも厚い!それから筆者の本書との格闘が始まった.
 本書は2005年に初版(436頁)が発刊されて以来,約5年ごとに改訂されており,2011年の第2版(680頁),2016年の第3版(1,000頁)に続き,今回は第4版となる.その総頁数は1,384頁(しかも二段組)で,第3版の40%増,初版の3.17倍もの厚さになってい る.本書にはいくつもの特徴があるが,その主な点を以下に示す.
 1)大著にもかかわらず,なんと単独執筆で,記述に統一性があり読みやすく,さらに著者の好みや得意・不得意によるバラつきが目立たず,きわめて網羅的である(頭頸部全般にわたる著者の幅広い知識がうかがえる).疾患の臨床的重要性に沿って重みづけがなされた記述もわかりやすい.
 2)序文にもあるように,画像での単なる鑑別診断・確定診断にとどまらず,治療の要否,治療選択(手術術式を含む),予後・合併症の推定・診断,経過観察の方法など,臨床医にとって画像検査に必要な事項のみならず,画像診断医にとって臨床により貢献するために不可避な事項が詳細に記載されており,耳鼻科医・頭頸部外科医との間を継ぐ目的が十 二分に達成されている.
 3)今回,第1章として「頸部組織間隙・筋膜および頸三角の解剖」がカラーで加わり,頭頸部全体の解剖の把握がより容易になっている(旧版は初学者には少々敷居が高く,まず頭頸部解剖の知識が必須であったが,この章と付録2の正常画像解剖アトラスのおかげで理解が容易となる).また各章での病変の進展形式の理解にも有用である.
 4)画像が鮮明で,表やシェーマも豊富で要点が理解しやすいのに加え,文献は古くてもepoch‒making であったものから2020年の最新のものまで,著者の厳しいフィルターを通った重要なものが網羅されている.第3版以降に改訂された癌取扱い規約,WHO分類,診療ガイドラインなども余すところなく述べられている.
 本書のような偉業が達成できたのはまさしく,尾尻教授の日々のたゆまぬ努力(彼は朝型人間で,毎日少しずつ原稿を書き溜めていると聞く)と,臨床各科との協力・緊密な連携の賜物であると思われる.本書は,分子遺伝学の診断への応用,分子標的治療薬の進歩,光免疫療法の発展などの頭頸部臨床の進歩とともに今後も改版がなされていくものと思われるが,いずれは同門の先生やお弟子さんが引き継いで永く版を重ねてくださることを期待する.同時に,初学者のために本書の要点を300頁くらいまでにまとめた入門編,もしくは症例検討形式の書なども出版していただけるとありがたい.
 本書を読み通すにはある種の気合いを必要とするが,いったん読み始めると非常にわかりやすく知識が増えるのが楽しくなる(記憶に残るかどうかは別だが)ので,ぜひ第1章を読み終えた後は興味のある章から読み進めていただきたい.本書を,頭頸部の臨床に携わる画像診断医・放射線治療医のみならず,耳鼻科医・頭頸部外科医・口腔外科医・歯科医・脳外科医・形成外科医・総合内科医,そして放射線技師など,多くの方々に心から推薦するとともに,各臨床教室や医学図書館などの常備本として用意しておくべき本と強く考える次第である.

臨床雑誌内科129巻2号(2022年2月号)より転載
評者●筑波大学 名誉教授(放射線医学) 南 学

9784524226610