書籍

腹腔鏡下鼠径部ヘルニア修復術

施設導入から技術認定取得まで[Web動画付]

編集 : 諏訪勝仁
ISBN : 978-4-524-22606-1
発行年月 : 2020年4月
判型 : A4
ページ数 : 128

在庫あり

定価8,250円(本体7,500円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

腹腔鏡下鼠径部ヘルニア手術(ラパヘル)を始める、あるいは始めたばかりでまだ自信を持てない導入段階にある医師や、日本内視鏡外科学会技術認定取得を目指す外科医のための、安全に手術を完遂するための勘どころをコンパクトにまとめた入門書。技術認定取得のための望ましい手技をアプローチごとに豊富なWeb動画とともに解説。合併症やトラブルシューティングも取り上げた実践的内容である。

I 腹腔鏡下鼠径部ヘルニア修復術(ラパヘル)の歴史とエビデンス
 歴史
 エビデンス
 技術認定制度の現状
II 施設導入にあたってなすべきこと
 ラパヘル台頭の背景と現状
 ラパヘルが直面する術式としての課題
III セットアップ
 術前準備
 必要手術機器
 術中体位
 ポート留置(オープン法,オプティカル法)
 配線・チューブのまとめ方
IV 私の手術手技
 A.Transabdominal preperitoneal approach(TAPP)
  1.膀胱前腔開放を先行させるアプローチ:内側アプローチ
   動画1 外鼠径ヘルニアに対する腹膜切開・腹膜前剥離による修復術
  2.層構造を捉えた剥離操作とself-grippingメッシュによるTAPP
   動画2 初発I型右鼠径ヘルニア(男性例)に対する修復術
  3.ヘルニア門右側からの環状切開による外鼠径ヘルニアに対するTAPPおよびde novo型・大腿ヘルニアへの応用
   動画3 ヘルニア門の観察と全周切開−右外鼠径ヘルニア
   動画4 ヘルニア門の観察と全周切開−左外鼠径ヘルニア
   動画5 腹膜剥離
   動画6 精管の熱損傷
   動画7 メッシュ挿入と固定
   動画8 メッシュ固定時のたわみ
   動画9 腹膜縫合閉鎖
   動画10 大腿ヘルニア
   動画11 右de novo型外鼠径ヘルニア
   動画12 ガーゼによる鈍的剥離
   動画13 左巨大de novo型外鼠径ヘルニア
  4.女性に対するTAPP
 B.Totally extra-peritoneal approach(TEP)
  1.単孔式手術デバイスを用いた手術手技
   動画14 皮膚切開からデバイス装着まで
   動画15 腹膜外腔のスペースの剥離(内側の層の剥離)からメッシュ展開まで
  2.層の乗り換えを意識した広範囲剥離とself-grippingメッシュによるTEP
   動画16 剥離開始から「ついたての膜」の露出,膀胱前腔剥離
   動画17 「ついたての膜」の切開と腹膜縁同定
   動画18 「ついたての膜」のバリエーション
   動画19 「ついたての膜」切開時の腹膜損傷
   動画20 ヘルニアsac外側剥離と精巣動静脈温存
   動画21 ヘルニアsac剥離時の精巣動静脈誤認
   動画22 ヘルニアsac内側剥離と精管温存,sac処理
   動画23 ヘルニアsac内側剥離時の鋭的切開追加
   動画24 背側と外側の追加剥離
   動画25 メッシュの選択・挿入・展開・固定
   動画26 腹腔内観察
V メッシュ留置後再発に対する腹腔鏡下手術
 動画27 術前CT
 動画28 解剖の確認(大網癒着剥離後)
 動画29 腹膜切開後の剥離操作
 動画30 メッシュ固定
VI 術中トラブルシューティングと術後合併症への対応
 術中合併症とその対策
 術後合併症とその対策
  動画31 トロッカー挿入時の腸間膜被膜損傷例
  動画32 オプティカル法による安全なトロッカー挿入
  動画33 トロッカー抜去後の出血例
  動画34 剥離過程における精管損傷への対応
  動画35 精索脂肪腫の検索と切除
  動画36 メッシュ固定時の静脈損傷例
  動画37 メッシュ固定場所の変更例(タッカーの摘出法)
  動画38 腹膜縫合部からの腸管嵌入例
  動画39 内側臍ヒダを利用した腹膜の小欠損および脆弱部への対応
  動画40 止血操作で右大腿外側領域の感覚鈍麻をきたした右鼠径ヘルニア症例
索引

はじめに

 1982年に初めて腹腔鏡下鼠径部ヘルニア修復術(ラパヘル)が行われてから現在に至るまで、その手技は大きく変貌を遂げ、当初と現在では腹腔鏡を用いていること以外はまったく別の術式であると言っても過言ではない。実際、手技の変遷に伴い手術成績も飛躍的に向上しており、多くの先人らの努力が実を結びつつある。近年のガイドラインにも示されるように、ラパヘルは鼠径部切開法に比べ慢性疼痛が少ないという最大の利点を有する。一方、外科医の経験に依存し、手術時間の延長や鼠径部切開法にはみられないような合併症の発生といった欠点もあるが、腹腔鏡下手術が外科医を虜にするのは時代の趨勢であり、その欠点はないがしろにされている部分もある。
 日本内視鏡外科学会(JSES)では、こういったバイアスを減らし腹腔鏡下手術の健全な普及と進歩を目的として、技術認定制度を制定した。ラパヘルはこの中に含まれ、技術認定取得は狭き門であるがゆえに若手外科医の羨望の的である。
 こういった若手外科医、あるいは私自身のようなラパヘル駆け出し外科医への、施設導入から技術認定取得までの一助となるようこの書物は考案された。修行中の私は総論のみを執筆したが、施設導入に当たって、TAPP・TEPの実際、再発ヘルニアや合併症対策までを執筆された先生方は名実ともに日本のトップラパヘル外科医である。
 本書ではWeb動画が用いられているため、実際の手技をスマートフォンやタブレット端末でも観ることができ、ポイントの確認が容易である。私自身、この書をいつも携えラパヘルに当たりたい、そんな思いを込めて完成させたつもりである。
 余談であるが、私は29年前に外科医になり、多くの手術に挑戦してきた。無論、腹腔鏡下手術の虜の一人である。その私が鼠径部ヘルニアだけは腹腔鏡下手術を行わなかった理由はただ一つである。10分ちょっとでできて、その日に帰れる手術をなぜわざわざ腹腔鏡で行うのか、という疑問を持ち続けていたからである。私にとって鼠径部ヘルニア手術は“牛丼”である。すなわち、“早い”、“うまい”、“安い”である。鼠径部ヘルニアが最もありふれた疾患であるがゆえに、その手術は“牛丼”でなければならない。ただ昨今、牛丼のキャッチフレーズに“ヘルシー”が加わるようになった。これはまさに“より痛みの少ない”という意味なのか、と苦笑する次第である。外科医のエゴではなく患者ファーストな治療選択、鼠径部ヘルニア手術はまさにその基本である。
 企画、出版に尽力いただき、多くのわがままを聞いてくださった南江堂の枳穀智哉、千田麻由両氏をはじめ、担当者の皆様に心より感謝の意を表します。

令和2年4月
諏訪勝仁

 外科学の黎明期から今日までにかわることのない大原則は、正確な解剖の理解と手術手技の確立と伝承である。われわれ外科医師が安全で質の高い手術を行うためには、正しい解剖を認識したうえで手術手技を完成させ、それを伝えなければならない。従来認識できなかった鼠径部筋膜構造が、現在では鮮明な腹腔鏡画像により次第に解明されている。内視鏡外科手術の導入により、鼠径部ヘルニアの手術手技は多様化しながら今も変化している。鼠径部ヘルニアは個々の症例ごとに解剖の状況が異なり、完全に定型化した手術が行えないことが多々ある。基本的な腹壁解剖と筋膜構造を十分に熟知したうえで、個々の症例に見合った手術を完遂させ、患者にとって短期的にも長期的にも高い生活の質(QOL)を維持できる手術を提供する必要がある。
 腹腔鏡下鼠径部ヘルニア修復術が1990年代に開始された当時は、画質のわるい不鮮明な暗い二次元画像による手術であった。現在では鮮明な高解像度画像や三次元画像での手術が可能となり、ロボット支援下手術も米国では爆発的に増加している。これまで認識できなかった微細な膜構造や神経・血管走行を認識しながら、エキスパートの手術手技を動画で学習できる時代になった。鼠径部ヘルニアに対する手術手技は、この20年以上の歴史の中で大きな変遷がみられるが、まだまだ質の高い手術手技や定型化した手術が普及しているとはいえない。若い外科医師は、今後ますます進化していく鼠径部ヘルニアの手術手技の修練とさらなる学習が必要となる。
 本書には、多数のエキスパートによる手術の解説と動画が掲載されている。各執筆者により鼠径部の解剖が詳細に記述され、各ポイントでのわかりやすい動画がクリップとして掲載されている。これから手術を始める施設に向けたセットアップやトラブルシューティング、合併症への対応の動画も含まれている。日本内視鏡外科学会の技術認定審査における注意点なども記載されている。基礎から難症例にいたるまでを動画で解説した重要なバイブル的教科書といえる。これから腹腔鏡下鼠径部ヘルニア修復術を学ぶ若い外科医師は、本書のような教科書を熟読し、過去から引き継がれて発展してきた手術手技や解剖を十分理解し、現在解明されつつある新しい知見を得ながら、今後の新たな時代をさらに開拓していただきたい。

臨床雑誌外科83巻2号(2021年2月号)より転載
評者●刈谷豊田総合病院副院長/腹腔鏡ヘルニアセンター長 早川哲史

9784524226061