PICOから始める健康ガイドラインの作りかた
| 共著 | : 小島原典子/河合富士美/森實敏夫 |
|---|---|
| ISBN | : 978-4-524-21196-8 |
| 発行年月 | : 2026年2月 |
| 判型 | : B5判 |
| ページ数 | : 176 |
在庫
定価3,850円(本体3,500円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評

特定の疾患を対象とした「診療ガイドライン」および予防・介護等を含む広範な「健康ガイドライン」について,作成・活用法を詳細に解説.作成組織の整備,スコープ作成,PICO形式でのクエスチョン設定,エビデンスの収集と評価,推奨決定までの過程に加え,公開後の普及や改訂も含め各工程で有用なツールやフォーマットを紹介.作成・統括委員およびSRチームなどガイドラインを作る人,またそれを活用する医療者や患者・家族にも有益な手引き書.
●本書の使い方
●疫学入門─ガイドライン作成に必要な前提知識
1.一般向け情報
2.SR担当者向け情報
T 総論
A ガイドライントピックの優先順位の決定
1.診療ガイドラインと健康ガイドライン
2.ガイドラインとガイダンス
3.コンセンサスステートメント
4.信頼されるガイドライン
5.トピックの優先順位の決定
B 健康ガイドライン作成手順の概要
1.本書の位置付け
2.責任学会とトピックの優先順位の決定
3.健康ガイドライン作成の実施手順
4.健康ガイドライン作成・普及・改訂と役割
C ADOLOPMENT
1.ADOLOPMENTとは
2.既存のシステマティックレビューの評価
U 体制
A 組織とトレーニング
1.ガイドライン作成組織の編成
2.必要な教育・トレーニング
3.事務局の設置
B ガイドライン作成プロセスの確立
1.責任主体の決定と関連団体の選定
2.資金と予算計画
3.ガイドライン作成プロジェクトのスケジュール
C 利益相反(COI)
1.利益相反の定義
2.ガイドライン参画のための利益相反の管理の実際
D collaboration
1.患者・市民参画
2.関連団体との契約
V ガイドラインの計画
A スコープの作成
1.analytic framework(分析的枠組み)の作成
2.スコープの作成:ガイドラインがカバーする視点
B クエスチョンの設定
1.重要健康課題からPICOの成分で疑問を定型化
2.アウトカムの重要度
3.クエスチョンの分類
W エビデンスの収集
A エビデンスの収集
1.スコーピングサーチとシステマティックレビュープロトコル
2.系統的文献検索
3.網羅的文献検索
4.検索方法
5.モニタリングのための検索
B 文献集合の確定
1.スクリーニング
2.採用論文の一覧表
3.スクリーニングツール
X エビデンスの評価
A エビデンスの評価
1.システマティックレビュー
2.介入の効果の大きさと確実性
3.バイアスリスク評価
4.非直接性の評価
B エビデンス総体の確実性の評価
1.文献集合の確定
2.エビデンス総体の確実性
3.定量的統合・メタアナリシス
4.エビデンス総体の評価
Y 推奨作成
A 推奨の作成ならびに推奨の強さの決定
1.EtDフレームワークの検討
2.推奨作成のポイント
3.推奨の結論
B 正味の益と患者の価値観
1.絶対効果またはスコア
2.定量的な益と害の評価法
Z 評価と公開
A ガイドライン等草案作成
1.推奨と解説の執筆
2.ガイドライン草案の作成
B 評価
1.AGREE reporting checklist
2.外部評価
[ 公開後の活動
A 公開と試行
1.ガイドラインの公開
2.ガイドラインの試行と公開後評価
B 普及と実装
1.普及活動の計画
2.患者意思決定支援ツール
C 改訂の準備
1.ガイドライン改訂のためのモニタリング
2.改訂
3.GRADE-ADOLOPMENT
4.living systematic review(LSR)
\ ICTツールの概要
1.ガイドライン全般
2.システマティックレビューのICTツール
3.注目されるAIツールとその利用
X 用語集
付録 様式一覧および構成案・記入例
●Column
1 エビデンスとは?
2 ヘルスケアと健康ガイドライン
3 プライマリヘルスケア(WHO)
4 共有意思決定(SDM)
5 健康ガイドライン:診療ガイドラインと比べた4つの特徴
6 システマティックレビュープロトコルの登録
7 AI技術を用いた文献検索
8 文献の管理
9 スクリーニングツールの実例:Rayyan
10 文脈化とエビデンスの確実性
11 RoB 2
12 ROBINS-I
13 診断精度研究のメタアナリシス
14 ネットワークメタアナリシス
15 質的研究の統合
16 MCDA
17 アウトカムの重要度
●索引
このたび,日本医療機能評価機構Minds において診療ガイドラインの作成と活用を推進されてきた小島原典子先生,河合富士美先生,森實敏夫先生による『PICO から始める健康ガイドラインの作りかた』が刊行されましたことを,心より嬉しく思います.長年にわたるお三方のご尽力に深く敬意を表し,本書の刊行に心から祝意を申し上げます.
エビデンスに基づく医療(EBM)は,1991 年にカナダの臨床疫学者Guyatt が発表した一編の論文から生まれました.これは,臨床上のより良い意思決定を目指し,医療行為を科学的に再評価しようとする提案でした.診療ガイドラインは,EBM の前身である臨床疫学の手法をもとに1970 年代の北米で発展し,EBM の誕生後は英国のNICE(National Institute for Clinical Excellence,現National Institute for Health and Care Excellence)やGRADE ワーキンググループがその推進役を担っています.
日本では1999 年に厚生科学審議会が,EBM などを新たな医療変革の柱として位置付け,臨床疫学研究や医療技術の有効性・有用性評価の推進を決定しました.これを受けて厚生省(当時)はEBM の手法を活用した診療ガイドラインの作成に着手し,2002 年からはMinds がその中核として,作成・評価・活用の促進に取り組んでいます.
診療ガイドラインについては,1990 年に米国IOM(Institute of Medicine)が「臨床家と患者の判断を支援する,特定の臨床状況における適切な医療のための系統的文書」と定義しました.2010 年には,「エビデンスの系統的レビューおよび複数の治療選択肢に関する益と害の評価に基づいて作成され,患者ケアの最適化を目的とする推奨を含む文書」へと定義が改められました.
日本でも2001 年に「診療ガイドラインの作成の手順」が示され,「特定の臨床状況において,適切な判断や決断を支援する体系的文書」と定義されましたが,IOM が明示していた「臨床家と患者」という記述はありませんでした.これを踏まえ,Minds では次のように定義を改定しました.
診療上の重要度の高い医療行為について,エビデンスのシステマティックレビューとその総体評価,益と害のバランスなどを考慮し,最善の患者アウトカムを目指した推奨を提示することで,患者と医療者の意思決定を支援する文書.
さらに,2021 年3 月に公表された「Minds 診療ガイドライン作成マニュアル2020 ver.3.0」では,以下のように再定義されています.
健康に関する重要な課題について,医療利用者と提供者の意思決定を支援するために,システマティックレビューによりエビデンスの総体を評価し,益と害のバランスを勘案して,最適と考えられる推奨を提示する文書.
ここでは,「診療」に代わって「健康」,「患者」に代わって「医療利用者」という言葉が用いられ,視野の広がりが明確に示されました.このMinds の新たな定義は,日本医療研究開発機構(AMED)が2022 年度より開始した「予防・健康づくりの社会実装に向けた研究開発基盤整備事業(ヘルスケア社会実装基盤整備事業)」の出発点の一つにもなっています.
本書を手に取られた読者の方々は,「健康」というより大きな視点から,ガイドラインの可能性がさらに広がっていくことをきっと実感されることでしょう.本書が新たな考え方や方法論,そして未来への議論を生み出す手がかりとなることを確信し,巻頭の辞とさせていただきます.
2026 年1 月
京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻 健康情報学分野
厚生労働省 厚生科学審議会会長
AMED ヘルスケア社会実装基盤整備事業 プログラムスーパーバイザー
日本医療機能評価機構 Minds 運営委員長
中山健夫
臨床医療に携わるすべての人に読んでいただきたい一冊
医師であれば,Mindsのサイトに一度は訪れたことがあるのではないだろうか.本書はそのMindsの運営に携わる三氏による,いわば「ガイドラインのためのガイドライン」である.
なぜ“健康”ガイドラインなのか.看護,リハビリテーションなどのヘルスケア領域や,予防・健康増進分野において,健康に関するガイドラインのニーズは年々増加傾向である.しかし,その作成方法は従来の診療ガイドラインを単に踏襲するだけでは十分とはいえず,質の担保が重要な課題となっている.こうした現状に応えるべく企画されたのが本書である.健康ガイドラインの定義から出発し,作成プロセスを体系的かつ丁寧に示している.
本書の大きな特徴は,200頁に満たないコンパクトな構成でありながら,内容の充実を両立していることである.ガイドライン作成グループを主な読者ターゲットとして,具体的な様式や記入例を示しながら進み,実用的なツールも多数紹介している.各メンバーの役割ごとに,参照すべき範囲が明示されており,細やかな配慮もうかがえる.
全十章のなかで,とりわけ印象に残ったものはY章と[章である.
Y章は,推奨作成方法を扱う本書の中核ともいえる章である.推奨の強さや益と害のバランスといった判断は曖昧になりやすく,作成者の経験や主観に依存しがちな領域でもある.本章では,信頼性の高い推奨を導くための系統的手法が明確に示されている.益と害のバランスを定量的に評価し,それを視覚化するピクトグラムツールを独自に開発している点は特筆に値する.
[章では,ガイドライン公開後の活動,とりわけ普及戦略について論じられている.診療ガイドライン作成以上に普及の重要性が強調されており,その意義は本書全体を通じて繰り返し示されている.普及計画は作成過程と並行して立案すべきであるという指摘は,当然のようでいて十分に実践されてきたとはいいがたい.実際の臨床現場でガイドラインを検索する際,そこで初めてその存在を知ることも少なくない.作成しただけで役割を終えたとするのは,いまだ道半ばであることを実感する.循環器病ガイドラインの優れたアクセス性は,他領域にとっても大いに参考となるであろう.
章立てとは別に,冒頭には患者・一般市民向けの入門編が設けられ,巻末に様式一覧が収載されている.様式一覧はダウンロード可能であり,普及と実装を重視する姿勢が具体的に示されている点も評価したい.
予防医療の重要性が高まる現代において,健康ガイドラインに触れる機会は一層増えていくであろう.ガイドラインの作り方を知ることは,その読み方や活用法を深める一歩である.健康ガイドラインの作成に関わる方はもちろん,日常診療で活用する立場の読者にもぜひ手に取っていただきたい一冊である.
加えて,近年はガイドラインに留まらず,二次資料やAIを介した情報収集方法が急速に広がっている.こうした新たな情報源との向き合い方についても,今後さらなる議論が展開されることを期待する.著者らの次なる挑戦にも大いに注目したい.
臨床雑誌内科137巻6号(2026年6月号)より転載
評者●小西宏太(東京医科大学茨城医療センター総合診療科)
小林大輝(東京医科大学茨城医療センター総合診療科 教授)
近年,医療・公衆衛生・介護・予防など多様な領域で,エビデンスに基づいたガイドラインの重要性が増している.胸部外科領域においても,肺癌・縦隔腫瘍・膿胸をはじめとする疾患の診療ガイドライン策定・改訂に関与する機会は増えており,その作成プロセスを体系的に理解することの重要性が高まっている.しかし,その「作りかた」を系統立てて学ぶ機会はいまだ限られており,ガイドライン作成委員や研究者の多くが手探りで作業をすすめているのが実情であろう.そうした現状において,本書は大きな助けとなる.
本書は,PICO(population/patient・intervention・comparator/control・outcome)という臨床疑問の構造化フレームワークを出発点として,健康ガイドライン全体の作成プロセスを網羅的に解説している.著者らは日本医療機能評価機構Mindsにおいてガイドラインの作成と活用を推進してきた実績があり,その豊富な経験と知見が随所に反映されている.
対象とするガイドラインは狭義の診療ガイドラインにとどまらず,予防・介護・健康増進を含む「広義の健康ガイドライン」全体を射程に収めている.これにより,胸部外科医のみならず,地域保健・産業保健・介護分野の専門家にとっても有用な参考書となっている.構成はきわめて実践的である.作成組織の整備,スコープの策定,PICO形式によるクリニカルクエスチョン(CQ)の設定,エビデンスの検索と評価,推奨の作成と強さの設定,そして公開後の普及・改訂にいたるまで,各工程が論理的な流れに沿って丁寧に解説されている.特に利益相反(COI)管理の重要性やGRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)システムによるエビデンスの確実性評価については,最新の国際基準に基づく詳細な記述がなされており,国際的に通用するガイドライン作成を志向する読者に有益であろう.
付録として43種類の実用的な様式・テンプレートが収録されている点も大きな特長である.スコープ,CQ設定,文献検索,PRISMA(Preferred Reporting Items for Systematic reviews and Meta-Analyses)フローチャート,SoF(summary of finding)表,EtD(evidence to decision)フレームワーク,GIN(Guidelines International Network)チェックリストなど,作業現場ですぐに活用できる書式が揃っており,「Minds診療ガイドライン作成マニュアル2020」との整合性も図られており,国内標準との連続性に配慮されている.また,AIを活用した文献検索への言及もあり,急速に変化する情報環境への対応も示唆されている.
評者が特に注目したいのは,バイアスリスクの評価(RoB 2,ROBINS-I V2),メタアナリシスの手順,ガイドラインの国際連携(Collaboration MOUの様式)まで,最新の方法論的ツールを積極的に取り入れている点である.ガイドライン作成にあたり学会の枠を超えた国際的協働を求められる現代において,本書はその現実をふまえた内容となっている.
本書は専門的でありながら読者にとって理解しやすく,各項目の解説とテンプレートの対応関係も明快で,はじめてガイドライン作成に参加する胸部外科医にとっても読みやすい構成である.ガイドライン作成委員会に参画する機会を得た際に,プロセス全体を俯瞰しながら担当工程を具体化できる一冊として,ぜひ手元においておきたい.チェックリストと様式が「次に何をすべきか」を示し,委員会内での共通言語づくりにも資するであろう.
ガイドラインの質向上が医療の標準化と患者アウトカムの改善に直結する以上,その作成方法を体系的に学べる本書の意義は大きい.PICOという明快な出発点から推奨の作成・普及・改訂にいたる一連のプロセスを豊富なツールとともに示した本書は,日本のガイドライン文化の底上げに貢献するものと考える.
胸部外科79巻6号(2026年6月号)より転載
評者●大塚 崇(東京慈恵会医科大学呼吸器外科教授)

