コンサルテーションスキルVer.2
使えるトイレであれ! イラストレーターかげ
プロフィール

目次

岩田 健太郎 × 市原 真
チーム医療とコンサルテーション・スキル、そしてその未来

  • 1.コンサルテーション・スキルとは何か?
  • 2.コンサルタントに必要なプロフェッショナリズム
  • 3.わかって欲しいくせにわかってたまるかという人々
  • 4.呼ばれるタイミング
  • 5.ニーズ、ワンツ、ホープスの把握
  • 6.ペーシングは役に立つ
  • 7.言いがかりをつける人々
  • 8.コンサルタントの十戒 21世紀に生きる医師として
  • 9.コンサルテーションの具体例 複合的に
  • 10.「正しい」コメントとは何か
  • 11.ときには攻めに出て
  • 12.判断の根拠はどこにおくか
  • 13.レアケースの扱い方 そして部下への態度
  • 14.知らないことを知ること
  • 15.縄張りとルサンチマンを越えて
  • 16.オレオレ医療にさようなら
  • 17.組織やシステムの改善を図る
  • 18.お呼びがかかっていないときに
  • 19.「お役所」タイプとのネゴシエーション
  • 20.サボタージュを許容しないために
  • 21.勇気、そしてリーダーシップについて
  • 22.リーダーシップをもうすこし考える
  • 23.教育は不平等である、という話
  • 24.研修医の採用はいかにあるべきか
  • 25.知識がないのが、問題なんじゃない
  • 26.ことば、時間、そして空気
  • 27.休養のすすめ
  • 28.評価のコストを考える
  • 29.わかっていないことを①
  • 30.わかっていないことを②
  • 31.プレゼンテーションの準備の仕方
  • 32.プレゼンテーションの実践
  • 33.ピットフォール集 失敗から学ぶ実践編
  • 34.コンサルトノートの書き方
  • 35.空気が読めないふり
  • 36.雄弁ではなく、対話を

はじめに

コンサルテーション・スキル。それは、古くて新しいコンセプト。従来から、「対診」というシステムは存在していました。患者さんは他科医師に紹介したり紹介されたりする。医者は他の医者に相談したり相談されたりする。しかし、そんなところに「スキル」が必要なんでしょうか。

コンサルテーション・スキルは、隠れた需要(hidden needs)です。

たとえば、医師が内視鏡を行うスキルは、顕かな需要(apparent needs)です。誰の目にも明白な、医療において必要なスキルです。一方、コンサルテーション・スキルは顕かではない、隠れたスキルです。一見すると必要かどうかは明白ではないけれども、活用すると実は大いに役に立つ。そういったスキルです。前者のスキルを固定電話に、後者をiPhone のような音楽を聴くツールや携帯電話にたとえてもよいかもしれません。それがなくても誰も困っていなかった。けれども、実際あるととても便利。その便利さに慣れてしまうと、もうなければやっていられない。携帯電話がない時代には誰も携帯電話がないことに不平を言ったりしなかったのですが、いま急に携帯が使えなくなったりしたら、大変な騒ぎになるでしょう。

コンサルテーション・スキルも同様です。活用すれば、きっとあなたの診療レベルは上がり、診療の幅は広がり、あなたを見る他の医師の視線が変わってくるでしょう。そして、これに慣れてしまうと、コンサルテーション・スキルなしの診療なんて考えられなくなっていきます。

さらなるレベルアップのために、コンサルテーション・スキルは「使える」技術です。そして、未来においてはそれは医師にとっての「必須のスキル」となるでしょう。20年前はパソコンが使えることは医師にとって必須のスキルではありませんでした。いまやパソコンなしで医師が仕事をするのはとても困難です。超音波も現在は医師すべてが習得している技術ではありませんが、将来は聴診器並みに当たり前のスキルになるかもしれません(たぶん、なるでしょう)。医師に必要なスキルは時間とともに変わっていくのです。

コンサルテーション・スキルは、おおざっぱに言うとコミュニケーションのスキルです。人間関係をさらに豊かにするスキルです。それでいて、単なる「人当たりのよさ」だけを目的にしたスキルではありません。短期的、長期的に他科の医師との人間関係を保ちつつも、あなたが発するメッセージを実行し、相手を説得し、あなたに得心するようにし向けるスキルです。単に「ナイスな人」として振る舞う技術ではなく、あなたの目指すゴールに確実に向かうよう根回しする、戦略的なスキルです。医療環境をよりエキサイティングなものにし、お互いのレベルアップに役立ち、病院が退屈なルーチンワークの場ではなく、毎日ときめくような新しい知的環境になることを目論んだ、勇気を与えるスキルです。困っている医師や困難に立ち向かっている医師に救いをもたらす、安寧を提供するスキルです。

さあ、ひと味違う専門医を目指して、あなたも明日から役に立つコンサルテーション・スキルをマスターしてみませんか。

2020年7月
岩田 健太郎

対談(抜粋)

チーム医療と
コンサルテーション・スキル、
そしてその未来

写真:岩田 健太郎

岩田 健太郎

写真:市原 真

札幌厚生病院病理診断科市原 真

田中竜馬先生が結んだ不思議な縁

岩田

今日の対談ですが、まず『コンサルテーション・スキル』を改訂しようという話を僕が持ち出しました。これは「内科」という雑誌にずっと連載していたコンテンツで、今読み直すと結構分量が多いのですが、当時としては分量が足りないねという話になって、今、国立国際医療研究センターにいらっしゃる、当時静岡にいらした大曲(貴夫)先生
QRコードとの対談(注:下記のQRコードから閲覧できます)を加えて本にしたのが約10年前です。今回、新版をつくろう、もう一回対談しますかというときに、企画会議でアイデアを出させていただいたのが市原先生でした。
QRコード

市原

なぜ僕なのかと最初は思ってしまいました。

岩田

ひらめきです(笑) 。そのときは、特にこれだという理論はないのですが、それが一番おもしろいのではないかと。多分、同業種の話よりは異業種のほうがおもしろくなるのではないかと思いました。それに田中竜馬先生(米国 Intermountain LDS Hospital 呼吸器内科・集中治療科)が絶賛している先生なので。

市原

実は田中先生ともお会いしたことはないんですけどね。

岩田

めちゃくちゃべた褒めしていますよね。

市原

SNSを通じてお付き合いできて光栄です。

岩田

あいつとはすごくつき合いが長くて、沖縄県立中部病院で同じ研修医でした。その後、アメリカの研修病院も一緒で、亀田総合病院でも、彼が集中治療のレジデントで、僕が感染症でした。3か所も同じで、ほとんど憑りつかれているのではないかと思うほど職場が一緒のことが多くて、腐れ縁なのです(笑)。あの男は、ああ見えて人を見る目はあるので、あの人が絶賛しているならそうなのだろうなということで、印象に残っていました。

本を書くようになったきっかけ

市原

今いただいたお話を受けるようですが、田中先生が僕に反応してくださったのは、もしかすると岩田先生の本がきっかけかもしれません。岩田先生が神戸大学の講義を本にされた『神戸大学感染症内科版TBL』(金原出版、2013)と、HEATAPP!(ヒートアップ!)』(金原出版、2018)の感想をTwitterでつぶやいた同じ頃に、田中先生の『Dr・竜馬の病態で考える人工呼吸管理』(羊土社、2014)を「おもしろかった」とツイートしたところ、それを見つけた田中先生がコンタクトを取ってくださったのです。「岩田先生はよく知っている」みたいなことを語ってくださって。僕からすると教科書の中の人である2人なので、こんなところでつながりができるとは、と驚きますし、うれしい限りです。

岩田

でも、先生ももう何冊も本を出していらっしゃるでしょう。

市原

単著も書いてはいますが、実際には、消化器内科医などから頼まれて、病理の部分を担当してくれという仕事の方が多いです。臨床医が所見をとって、「この病変はこのような組織型で、これくらいの深達度だろう」とアセスメントをした後に、病理医が〝答え〟を提示せよというニュアンスです。本来は、病理は〝答え〟ではなくて、あくまで形態学的な一側面を示すだけであり、真の答えは臨床と病理それぞれの視点が交わった先にあると思っていますが、臨床医たちは「病理がゴールドスタンダードだ」と言って譲らない。なので病理医側の解釈をお答えすると、その本が売れて、おかげで僕まで少し有名になるという感じです。ありがたいことですし、僕はもともと単著で本を出せるような人間ではないのです(笑)。

岩田

そんなことないと思いますけど。単著で十分本ができているなと思いました。

市原

ありがとうございます。

書籍『コンサルテーション・スキル』
について

岩田

一般業界では、先生はTwitterで一番有名だと思います。ただ、Twitterの話をしだすと切りがなくなってくるので、今日は本の企画なので本の話をしましょう。病理の先生は自分が主治医にならないので、基本的にコンサルタントです。今回、『コンサルテーション・スキルVer.2』のゲラをお送りさせていただいて、読んでいただきました。これは一般診療のコンサルタントなので若干違うと思いますが、読んでみて率直な忌憚のないコメントをいただけたらなと思います。

市原

初版は完読ずみでしたが、今回対談のお話をいただいたので、すぐにもう一度読み返していました。そうしたら新版のゲラを送っていただいたので、初版を読んだばかりですぐに新版を読む、みたいな濃厚な読書体験をさせていただきました(笑)。

「最後の目標は患者の幸せ」という
スタンスが熱い

市原

初版時の感想としまして、まず、コンサルテーションの目的が「主治医の満足感の先にある患者の幸福のためである」と明確に記されている本を、これまであまり読んだことがなく新鮮でした。世の中に、専門医として求められる医学的なスキルに特化した本はすごく多いです。「われわれが給料をもらうためには、こういうところで尖れ」というような本です。そんな中、「主治医とコンサルテーションの関係がどうなろうと、最後の目標は患者の幸せですよね」という台詞が出てくる本は、熱くてすごく好きです。それが第一印象です。
今回細かく読み直して改めて気づかされたのは「I(私)メッセージ」の重要性です。最初に読んだときはあまり気づかなかったのですが、ちょっと年を重ねてから読むと、まったくおっしゃるとおりだし、これはなかなか難しいなと思って自らを省みました。確かに僕がこれまで思い浮かべていたコンサルタントの方々は、Iメッセージをあまり使っていなくて、「ハーバードでは」みたいな「ではトーク」をずっとやっている。「どこの権威が言っているから」みたいな話ばかりする。そんな人があちこちにいるということに改めて気づいて、かつて読んだときとは別種の感動がありました。
あと、先生のご指摘の通り、良質なスーパーローテーションはすごくいいと思う一方で、SNSを念頭に置いた話をしますと、今は「良質ではないスーパーローテーションの時代」だと思っています。氾濫した情報を一瞬で検索できるので、検索結果の上位の順番からさらって表面だけなぞっておしまいにしてしまう。これは日常の生活に潜んでいる罠ですが、医療者も気をつけないといけない。研鑽を積む医師たちが、日常の情報検索をあたかも質の低いスーパーローテーションのようにサーッとすませている。そんな今だからこそ、いざというときに頼れるコンサルタントの存在感が相対的に増し、『コンサルテーション・スキル』の文脈が納得しやすいということもあります。
ほかにも、雑駁な感想が実は30個ぐらいあります(笑)。

改訂で消えた
「負け試合を大事にすること」の意味

市原

対談に向かう飛行機に乗っている間、今回の新版では最後の「負け試合を大事にすること」のくだりが消されていることに気づきました。あそこは残されないのですか?

岩田

どう思いましたか。

市原

もともと、勝ち負けの話が載っているのは岩田先生っぽくないなと思っていたのです。それがなくなったので、むしろ統一感は出たな、という目で見てしまいました。

岩田

僕は勝ち負けというのは実はすごく大事だと思っています。ただ、「勝ち負け」という言葉を使うとみんな嫌がるのです。それは多分、僕の中にある「勝ち負け」というものの思いと、みんなの「勝ち負け」が、全然噛み合っていないのです。だから伝わらないなという思いがありました。
一般的な「勝ち負け」は他人に勝つということです。他人を打ち負かすとか、そういう文脈でみんな「勝ち負け」を考えています。僕の想像だと、医療従事者、特に医者は、受験において「勝ち負け」という文脈でずっとやってきた。受験というのは他人との比較で、それがもう骨の髄までビルトインされているので、それ以外の文脈で一切考えられない。だから、「勝ち負け」と言うとカチンときてしまうのです。すぐ「勝ち負けで考えていいのか」みたいな言い方をされてしまうことがよくあって、伝わらないなと思ったのです。
でも、僕にとっての「勝ち負け」は、自分の中で課したミッションがちゃんとできているかどうかなのです。「それが己の課題」みたいなところで目標達成ができていない場合は自分の敗北だと思っています。
日本の医療現場でしばしば起きているのは、たとえば患者のケアとかでこういうふうにしようと思ったときに、それがうまくいかなくても、「でも、みんないろいろ頑張ったよね」みたいな話で、さらっと流してしまって反省しないということ。「患者さんは亡くなってしまったけれども、人生は別に生きるか死ぬかだけじゃないし、医療は勝ち負けじゃないし」とか言ってお茶を濁してしまう。
それは最初から亡くなるという文脈の中でサポートをやりましたとか、緩和ケアをしましたとかならわかるけれども、本来だったら完治させようと思っていたのをさらっと忘れてしまって、結局「いろいろ頑張ったよね」みたいな話にするというのは、すごくアンプロフェッショナルだと僕は思っています。それを“いい話”とかにしてしまって、すごく納得がいかなかったのです。

市原

そうか、文脈の問題ですね。「文脈」とか「コンテクスト」という言葉は、この本にも5~6回出てきますよね。最初に読んだときは気づきませんでしたが、このたびゲラを見て、先生がいかに「コンテンツをコンテクストに乗せるか」ということに日ごろ腐心されているのかということに目が啓く思いがしました。同じ言葉でも、コンテクストが違う人に投げると違う意味になります。そして、「目に見えやすい比較とか結果とかを医療に求めてはダメだよね」みたいなコンテクストがいかに大事かというメッセージが、本書の中にはすごくたくさんあるように思います。
まだ考え始めたばかりのことを言いますが、何かを伝えようと思ったときに、いかに相手に「文脈」を作れるか、こちらの文脈と相手の文脈を沿わせられるかみたいなことを、今まであまり考えていなかったなと反省しています。コンサルテーションの現場で相手が求めている答えを出すときに、科学やエビデンスみたいなコンテンツをどう嚙み砕くかばかり考えてきましたが、相手の文脈まで考慮してどう届けるべきかと考えなければダメなんだなと気づかされました。これは複数回読んだからですね。多分、1回では気づけなかったと思います。

未来を見据えて今を考える 
この10年で変わったもの

市原

今回、本文の中にイニエスタが入っているのを見ると、「初版から10年たったんだな」と感じます。

岩田

イニエスタが日本に来るというのは、10年前だと「何言ってんの」という感じでした。タイムマシンか何かで10年前に帰って言ったら「バカじゃないの」と言われそうです。

市原

あと、結構おもしろかったのは、SMAPが何回か出てきました。

岩田

そうです。SMAPはなくなってしまいました。

市原

この10年でまさかというのが2つも。

岩田

SMAPがなくなるというのは、ちょっと予想外でしたよね。普遍的なものというのはわりとなくて。逆に言うと、多分また10年たつと、今の僕らが想像していないことが起きるに違いないのです。未来を見据えるというのはいつも大事だと思っています。もちろん予想は当たりませんが、少なくとも今の世界観とは違う世界観というのは、10年後には出てくるはずだというのは間違いないと思います。

続きは書籍でご覧ください。

コンサルテーション・スキル Ver.2「選択肢」から「必然」のチーム医療へ

臨床雑誌『内科』の連載を書籍化した好評書が約10年ぶりに改訂!初版で好評だった,著者ならではの絶妙な筆さばきと多面的な切り口によるレクチャーはそのままに,アップデートされた知見を随所に書き下ろし.さらにDr.ヤンデルこと市原真先生との対談,看護師イラストレーター・かげさんのイラストや漫画を加え,ビジュアルを大幅に刷新.さらに充実の内容となった.

著 岩田健太郎
四六判・528頁
2020.7.発売予定
ISBN978-4-524-22751-8
定価3,520円(本体3,200円+税)

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