アーチファクト

●サイドローブ

 プローブを動かしたときに,サイドローブがどのように変化するかを動画で見てほしい[SL coumadine].左心耳と左上肺静脈の間にある空気が超音波を強く反射して,そこから横にサイドローブが現れている.トランスデューサを中心とした円弧であることが分かる.また,空気が走査面からはずれそうになるとサイドローブが消えてしまうことも分かる.このような構造物はあり得ないことから,アーチファクトであると論理的に判断できる.きちんと理屈で説明する癖を付けておくことで,誤った判断をしなくてすむようになる.

 サイドローブは,走査面の外にまで延びることがある[SL LA mass].体外循環離脱時に左房内にmassの陰影が現れた.柔らかい血栓のように見えるため,再度心停止して左房を開けたが何も見つからなかったという経験を時に聞く.初めほぼ90°の走査面で描出しているが,走査面を0°に近づけていくとその先にあったのは左房内の貯留型空気だった.せめて,開ける前にいろんな方向から見るくらいのことはするべきだろう.そうすれば,答はそこに見つかるはずである.

●多重反射

 多重反射を理解するために,水中に入れた採血管のエコー画像を見てほしい[REV tube].短軸像,次いで長軸像である.トランスデューサ側と反対側の壁の間で超音波が反射していくつもの陰影がガラス管の実像の下に並んでいる.ガラス管のトランスデューサからの距離(深さ)を変えると,下の陰影もいっしょに動く.途中からは,等間隔に並ぶ陰影の間に別の陰影が現れる.これらがなぜ現れたかを,解説の図を見ながら理解してほしい.大切なことは,すべての陰影にはそれが現れる理由があるということである.長軸でも,深さを変えると同様に多重反射の陰影がいくつも現れる.

 では,実例を見ていこう.まず,上行大動脈の長軸像で,内腔に線状陰影が見えている[REV AAO XP].ガラス管のような線状の多重反射である.これを解離によるフラップと読んではいけない.これは,大動脈後壁とトランスデューサとの間での多重反射である.xPlaneに切り替えると短軸像の中には見えないが,トラックボールでカーソルを多重反射陰影まで動かすと,短軸像内にも現れる.

 しかし,多重反射はこのような線状の陰影とはかぎらない.下行大動脈内に現れた多重反射を見てみよう[REV DAO].大動脈の12時方向に腔内に突出するような陰影があり,何か隆起性病変があるかのように思えるが,プローブを動かすと陰影は形が変わっていく.4時方向にある隆起性病変と異なり,辺縁が不明瞭である.これは,トランスデューサと下行大動脈壁との間の組織にある高輝度陰影どうしで多重反射が起こってできたもので,それらが合わさった結果,massのように見える陰影となったのである.このような陰影を読み解くことがなぜ大切なのかと思う人がいるかもしれない.

 その理由を,右肺動脈内の陰影で説明しよう.まずは,多重反射である[REV in RPA].右肺動脈の後壁側に壁に接して新鮮血栓のように見えるのは,多重反射である.肺動脈とトランスデューサの間の組織で生じた多重反射でエコー輝度を生じているが,プローブを動かしていくとその高さが変化する.短軸像でも長軸像でも,トランスデューサと肺動脈壁との間の距離に応じて変化していることがわかる.

 では,本物の血栓の画像を示す[REV RPA TH].内腔の上側(後壁側)は多重反射で,下側(前壁側)は血栓である.心周期における動きを見ると,前者はトランスデューサと肺動脈壁の距離に合わせて動くが,後者は前壁と呼応して動き,その厚みは変わらない.また,カラードプラモードで血流シグナルが前者の領域に入っており,またカテーテルを用いて血栓を破砕しようとしている画面ではカテーテルが前者の領域に入り込んでいる.亜急性の肺塞栓の症例の画像である.

◇mirroring

 mirroringは,「多重」反射ではなく単一の反射による鏡面像である.まず機序について理解するため,ex-vivoのモデルで見ておこう[mirroring B CATH].この画像は,水の中に入れたバルンカテーテルの先端を描出したもので,容器の底が鏡の役割をして容器の外に当たる部位に鏡面像が見えている.カテーテルと容器との間で一往復した超音波が戻ってきたシグナルが,画像ではこのように見えている.これと同じ原理で現れた陰影が,次の画像で見られる [mirroring B SVC].上大静脈内に右内頚静脈からガイドワイヤが入ってきたのをとらえた画像だが,上大静脈に接している肺の表面が反射板となり,肺実質内は肺表面で超音波がブロックされて音響陰影となっているところに鏡面像が見えている.

 これと同じ画像は,体表エコーでも見られる[mirroring liver].肋間走査で肝を描出した何の変哲もない画像だが,肝上面の横隔膜の上にある肺の表面が鏡面となり肺があるべき位置に肝実質内の脈管構造が鏡面像として映し出されている.

 次に,カラードプラモードでのmirroringを見ていこう.まずは,ex-vivoモデルである[mirroring C syringe].容器内のシリンジから水を吹き出しながらエコーで描出している.シリンジから出る水流はトランスデューサから遠ざかるため青い血流シグナルとして表示されているが,mirroringイメージではシリンジが下方にあり,水流はトランスデューサに向かう方向となるため赤い血流シグナルとなっている.

 このような陰影は,臨床上の判断を誤らせる可能性がある.下行大動脈解離の長軸像で偽腔内は血栓化しているが,そこに血流シグナルがときどき現れる[mirroring C DAO DIS].内膜フラップに一部石灰化があって後方に音響陰影を引き,大動脈内の血流のmirroring陰影がその中に現れたものである.これが本物の血流でないことは,2つの点で明らかである.一つは,ここは音響陰影で超音波が届いてはいないはずなので,真の血流シグナルではないことである.もう一つは,ここに血流があるなら,流入・流出する経路があるはずだが,この周囲には血栓化した偽腔が取り巻いているので,そのはずはない.

 同様な所見は,解離以外でも見られる[mirroring DAO].下行大動脈に接する肺の表面が鏡面となって肺実質内に下行大動脈のmirroring陰影が見え,血流シグナルも見えている.もう一例は,下行大動脈に接している肺膿瘍内のmirroringである[mirroring C abscess].大動脈壁の石灰化の部分が鏡面となって,膿瘍内に血流シグナルが見えている.

 弓部分枝を描出するときに,mirroringに悩まされることがある[mirroring C LSCA].左鎖骨下動脈の描出時に,まるで動脈が2本あるかのように見える.下に現れているのはmirroringで,実像と同期した拍動性血流が見えている.アーチファクトである動脈の中にパルスドプラモードでサンプルボリュームを置いたらどうなるかを,次の動画で供覧する[mirroring PW LSCA]

 ここまでいろいろなアーチファクトをお見せしたが,総まとめとなるような応用問題を出してみよう[mirroring LA air].体外循環から離脱するときに,左房内に見られた貯留型空気である.広範な音響陰影が見え,ぷるぷると揺れている.空気の表面の高輝度陰影とそこから延びるサイドローブは見えたり見えなかったりするが,その空気の表面が鏡面となって,その下の音響陰影の中にmirroring陰影が現れている.左房の中にチラチラと見え始めるのは,左室ベントである.その鏡面像が音響陰影の中に見える.カラードプラモードでは,この音響陰影の中に線状のカラーシグナルが見え始めた.別の場所を見ていくと,左室ベント内に吸引される血液の流れが見えている.音響陰影の中に見えたのは,このベントカニューレ内の血流の鏡面像だった.

 アーチファクトは,頭脳勝負である.誤った方針で余計な負担をかけないようにしないと.

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