Pathology
Survival Guides
執筆者からのメッセージ
シリーズVol.6 執筆者
大島 喜世子先生
ジョンズホプキンス大学 医学校病理学 准教授
肝臓診断病理部 主任
アメリカの新学期、7月1日は、医学校を6月に卒業したピカピカのドクター1年生が研修医として多数病院に登場します。目の輝く、意欲溢れる若いドクターを迎え活気にあふれる時でもあるとともに、前途有望な新人をきちんと指導しなければいけないと責任の重さを感じる時でもあります。私は東京慈恵会医科大学を1983年に卒業、外科医局に8年勤務しました。その後、研究目的で渡米して30年経ちます。シカゴのイリノイ大学で病理研修を修了し、1997年ジョンズホプキンス大学病理学の肝臓病理診断部の主任に就任しました。今までアメリカの5つの医学校で病理の研修医の指導をしてきましたが、アメリカのトップ校であるジョンズホプキンス大学病理部にマッチングした研修医達はさすがに皆さん優秀です。Ph.D.(基礎系大学院博士号)をすでに取得している人も多く、臨床の基礎知識のみならず学術面に対する積極性や能力に優れ、見ていて羨ましい限りです。しかしどんなに優秀であっても、やはり医学校新卒の研修医の指導は、時間と労力を要するもので、教官のみならず先輩の研修医達が大きな指導の役割を担っています。アメリカの病理研修期間は3~4年で、研修修了後、専門医の試験に合格して、初めて独り立ちして病理診断することが許されます。
このジョンズホプキンス大学病理部の研修医4年であったDr. Diana Molaviは、実践的な病理診断の知識がゼロである新卒を出発点に、模索の中臓器ごとに基本重要事項をノートにまとめ、さらに先輩研修医として新卒を指導した実績をまとめ、病理診断学を初めて学ぶ人向けに書いた教科書、“The Practice of Surgical Pathology: A Beginner’s Guide to the Diagnostic Process”を2008年に出版、実践的で有用であると大好評を博しました。当時、ジョンズホプキンス大学病理学教授、消化器病理部主任で、米軍病理研究所(Armed Forces Institute of Pathology:AFIP)アトラスシリーズの編集者であったDr. Elizabeth Montgomeryもこの教科書に感銘を受け、情報量を選択した初心者に親しみやすい教科書が今までなかったことに着目し、このPathology Survival Guides Seriesが誕生したのです。Dr. Montgomeryの専門分野である消化管、軟部組織からシリーズが始まり、皮膚、内分泌、前立腺病理が出版され、今回私が依頼を受けました肝臓生検が出版されました。
新しい分野を学ぶ際には、基本点を中心に全体の概要をまず把握することが、個々の細かな知識を漫然と得るよりも大切であると思います。分厚い詳細な教科書を長時間かけて1回読破するより、このシリーズのように、基本的なことについて多くのイメージを使い、わかり易く書いてある本を繰り返し読み理解することが、初心者にとって効率のよい習得法でしょう。
日本人にとって、英語習得は決して容易ではなく、平易な英語で書かれたこのシリーズを読破することは、英語力の向上につながると確信しています。また、アメリカの医療は様々な人種の患者を診療するため、日本に比して疾病の種類が多岐にわたり、日本では稀な疾患も日常的に診断されることもあり、日米の医療事情には大きな違いがあります。これらを学ぶうえでは、すでにその分野で経験のある日本の病理医にも役立つシリーズだと思います。
一人でも多くの日本の病理医の方に、このシリーズを手にとっていただけることを願っております。