50年にわたりThe CIBA Collection of Medical Illustrationsとして広く世界に知られて来たNetter博士の図解医学書は,疾患の病態,診断,治療における基本的事項を図によって表現したものとして,世界各国で医学に関わる人々に受け容れられ,医療の向上・進歩に多大な貢献をしてきました.外科医であったNetter博士が診療により一人一人の病める人々を救う道から,天賦の才能により医学知識の視覚化というユニークな方法を通じて世界中の医学・医療を志す者を教え,ひいては世界中の病める人々を救う道を選ばれた事は,我々にとって誠に幸いであったと申せます.
Atlas of Human Anatomy原書初版は,このThe CIBA Collection of Medical Illustrationsの中から人体構造に関する図をNetter博士自らが選び,レイアウトされたものです.画を描く作業よりも計画と研究と思索を重んじた博士は,臨床医学を強く意識した構図と表現法を兼ね備えた図譜を創り上げ,情景をありのままに写した写真や図では与えられない強い力をもって人体の構造を読者に教えようとしています.そしてNetter博士の没後も,博士の遺志を受け継いだ新たな編者達の手により同書は版を重ね,米国のみならず世界の各国において強く支持されて今日に至っております.
我が国でも2001年に本書の前身であるAtlas of Human Anatomy,2nd Editionの邦訳を出版して以来,Netter博士の解剖アトラスが多くの方々に広く受け容れられました.これは翻訳を担当した者として望外の喜びでありましたが,同時に,人体構造を学ぶための適切な教材としての本書の役割の重さを改めて認識するものでありました.今回,原著の版権を得た米国Elsevier社は,全般にわたって広汎な見直しを行い臨床医学に関連する図譜と画像を追加し一層の充実を図ったAtlas of Human Anatomy,4th Editionを出版しました.これに伴い,同版の邦訳については,編集・制作をエルゼビア・ジャパン株式会社が,発売を株式会社南江堂が担当することになり,翻訳については引き続き私がお引き受けすることとなりました.
本書の翻訳にあたっては,これまでの経験を十分に生かして,用語の検討や引き出し線の位置の確認と修正を行うことにより,一層の正確を期しております.特に用語につきましては日本解剖学会監修「解剖学用語」改訂13版とTerminologia Anatomica(1998)を参照しながら,原著の用語と和名の適切性を再検討しておりますが,もともと原著の用語に臨床での慣用が尊重されていることもあり,かつ診療分野により用語に異同があって,解剖学用語として完全に統一する事が困難であったことを読者・利用者の方々に御理解いただきたいと願っております.
2007年6月
相磯貞和
(一部改変)